2014_07
24
(Thu)00:00

忘れない1

【設定 本誌ネタバレ捏造SS】

《忘れない》


眼下に広がる王都には、たくさんの人が住まい。
そこからさらに広がる、国土には、さらにたくさんの人々がいる。

私は、王だ。
守るべきは、この国の民。
全てを持つ王は、それらを人々に分ち与える存在で。
決して、欲してはならない。

『忘れてしまえ』

あの言葉は、儚い夢と知りながら君との日々に縋り付く自分へのもので。

『そんなにも私はここにいちゃダメですか』

側にいてくれようとする君を、僕から引き離すためのものでもあった。


君は、どこにいても味方でいてくれる。
それで十分だ。

触れ合った唇の温もり。
それで十分。

君がくれた笑顔。
それで、もう。

君がくれた幸せ。
それで僕は、もう。

君を想い続けていられるから。

君を傷つける前に、君を失う前に。
______手放そう。

どれ程離れていても、君は僕の味方。

夕鈴。

君だけが、僕の花嫁。





ほんの少し前の自分に戻った。
貴女を知らずに生きていた下町の私に戻った。
少しだけ前の、私は。
貴方を知らずに生きていた。
それで生きられていた。

でも。

「もう、無理なの。」

見慣れた台所で。
馴染んだ我が家で。

ふとした瞬間に浮かぶ貴方の想い出。

少し困ったような笑顔。
戸惑う紅い瞳。
綺麗な唇。
懐かしい香り。
忘れえぬ、温もり。

王都の何処にいても見ることのできる王宮の甍は。
すごく、遠くて。

胸を抉る。

_______でも。

私は、私だから。

下町の『悪女』は、こんな事じゃへこたれない。
狼陛下に捨てられて枯れた『後宮の悪女』とは違う。

私は、私よ。

貴方を独りにはさせない。

大切な愛しい貴方を。
独りにはさせない。

たとえ貴方がそれを望まずとも。
そばにいるって。
味方でいるって、決めたから。

前を向く。


『貴方が好き』

変わることなき想いは、私を苛み。
強き想いは、私を生かす。

「・・・王都を離れて頂きます。汀夕鈴殿。」

下町娘を護るために宰相を動かした優しい王様。
独りになんて、させない。





君を護るために手放してから、もう数年。
私の花嫁は東の地で僕を見守ってくれている。

毎月やってくる、壬州長官・荷からの定期報告。
それを持参する使者は、周の隠密。

「_____東の者一同、特に変わりはございません。」

口上の最後に必ず付け加えられる彼女の無事を知らせる言葉に心から安堵する。


夕鈴の事だ。
昔の私のように荷を慌てさせながら、明るく過ごしているのだろう。

狼陛下の悪口をいう輩に食ってかかったり。
食事の支度をするといって荷に止められたり。
それを強行突破して、僕が好んだ料理を作ったり。
僕と歩いた街並みを辿ってみたり。
まだ王弟だった頃の僕の話を荷にせがんだり。

『お妃ちゃん、すっかり長官に気に入られてさ。あのおじさん、お妃ちゃんを養女にしたいって言ってるよ。』

浩大からの報告。
荷め。
人の良さそうな顔をして先手を打つか。

だが、残念だな。

私はそのままの彼女が欲しいのだ。

冷酷非情と呼ばれた狼陛下の、正妃は。
心優しい兎にしか務まらないのだから。

もうすぐだ。
あと少しで君に会える。





陛下を想い日を送る私を東へ連れて行ってくれたのは、浩大。
手配してくれたのは周宰相で。
喜んで迎え入れてくれたのは、荷長官様。

陛下を良く知る長官様の側で暮らすうちに、あの人の孤独がどれほど深いものか知った。

父王の深い寵愛ゆえ北に赴かねばならなかった陛下のお母様。
文武に秀でていたが故、兄王の取り巻きに疎まれ辺境軍に遣わされた王弟時代。
生まれ落ちた後宮では命を狙われ続け。
北の地では厄介者扱いされ。
いつも独りだった、陛下。

陛下、陛下。
今は独りじゃないでしょう?
私がいるから。

遥か西の空を、王都の方角を見つめ。
私は、笑う。

いつか、必ず。
直接伝える。

「どこにいても、私は。愛するあなたの味方です。」

必ず、伝える。


いつになるか分からないと思っていた、その日は。

「_______夕鈴。」

もしかすると。

「こちらを向いてくれないか。」

案外すぐにやってくるのかもしれない。

「ただいま、夕鈴。」

ほら、こんな風に。

「____おかえりなさい、陛下。」

ほら。

「夕鈴。」
「陛下。」

こんな、風に。
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