2014_05
11
(Sun)21:30

またもや、没。

こんばんは。
あさ、です。
せっかく頂いたコメントへのお返事もせず、申し訳のしようもございません。

またもや、失敗です。

うー。

やたらと長くて時系列もバラバラ。
そして完結しておりません。

ガラケーでは表示しきれないかもしれません。
その際は、お教え下さいませ。
分割いたします。



オリキャラがでます。
もう、皆様の広くて深いお心を信じております。

「あー・・・またダメだったんだ。」と、思ってやって下さい。

ブログにUPしないと、無理矢理これを使いそうでしたので、自制のためにUPします。



ご注意ください。
オリキャラが出るうえ、未完です。
タイトルすらつけられませんでした。

がっかり。

さあ、明日からまた頑張ります!!








「タイトルなし」


《前夜》


 前王の悪政により衰退した白陽国。
佞臣の言を鵜呑みにし、酒色に耽った、愚昧な王。
――――このままでは、国が滅ぶ。
そう危惧した頭の回る臣下は、新たな王を立てるべく画策し。
北の辺境に追いやられていた皇子を担ぎ出した。

 身分の低い舞姫を母に持つ不遇の皇子。何の後ろ盾も持たぬ、取るに足りない皇子。
彼を王に据え、国を建て直し。後宮に縁者を差出して皇子を産ませれば。次の王の外戚として自家に繁栄を齎すことも可能だ。
新たな王のもとで白陽国は持ち直し、甘い汁は尽きることなく彼らを潤し続ける。

全ては彼らの思惑通りだった。

『狼』と呼ばれる不遇の皇子・珀黎翔。兄王を弑して玉座に付いた彼が。

「妃は要らぬ」

そう言い出すまで、は。

――――そして。

どこの馬の骨とも知れぬ娘を『妃』に据えるまで、は。




「お帰りなさいませ陛下!」

白陽国・後宮。
殆ど使われていない広大なその敷地内で、唯一温かな明りが灯る部屋。

「妃よ、今戻った。」
「まあ、こんなに冷え切ってしまわれて・・・すぐにお茶をお淹れしますね。」
「つれないな。」
「え?」
「茶ではなく、君に温めて欲しいのだが?」
「っ!・・・へっ・・・陛下がお望みでしたら・・・」

 長身の国王が身を屈め。華奢な妃の肩をその手で抱き、二人の距離が縮まる。


その、寸前で。

「下がれ。呼ぶまで近付くな。」

 妃にだけ見せる甘い笑みを頬に乗せた国王と、恥じらいに耳まで桜色に染めた愛らしい妃の様子に見入っていた侍女たちは、すげなく追い払われた。


季節は、冬。
冷たい木枯らしが木々を揺らし、ざわざわと音を立て。冷たい石敷きの回廊は、侍女たちの声をよく通す。

「お妃様の愛らしさといったら!」
「ええ!陛下の睦言に頬をそめるお姿がもう・・・!」

 北風に追い立てられる彼女らは、王と妃の仲睦まじさを讃えつつ足早に回廊を渡り。
 
その足音が控えの房に吸い込まれていくのを屋根の上の影は蹲ったまま確認する。

「ったく、『君に温めて欲しい』ってさあ・・・お妃ちゃんも返しが大変だよなー・・・。ううっ、それにしても、寒っ!」

 漸く輝きを増した、青白い月。透明な光が浩大を、後宮を照らし。

「あー、夕鈴はあったかいなぁ。」
「もういい加減に演技はいいですから離して下さい、陛下っ!」

 耳まで真っ赤な夕鈴を膝に乗せる黎翔。

夕鈴は恥じらいながらも己の手が仮の夫の袖をしっかりと掴んでいることに気づいておらず。
黎翔は仮の妃を見つめる己が幸せそうに微笑んでいることに気付かない。

国王陛下と臨時花嫁。演技夫婦の夜が更ける。


いつも通りの。

――――最後の、夜。

 そして二人は、それを知らない。






《初日》


「おはようございます、お妃様・・・お妃様?」

異変は突然だった。
妃が忽然と消えたのだ。

「お妃様はどちらに?!」
「王宮へ使いを・・・!」

 後宮から王宮へ、異常を知らせる使者が走った。



「ご無礼申し上げますっ!」

 王宮・国王の自室。
顔色を失った夕鈴付きの女官が駈け込んで来た、刹那。

「妃に何かあったのか?!」

 異変を察した黎翔の椅子がガタンと倒れた。

「お妃様が、何処にもいらっしゃいません!」
「何だと?!」
「どういうことですか?」

 王と側近の声が重なり。
 使いの女官は震えながら語り出した。


 昨夜遅くに陛下がお帰りになられたのち、お妃様にご就寝のご挨拶を申し上げました。
 いつも通りの優しいお声で、「おやすみなさい」と仰って下さって、私共も不寝番を残してやすみました。
 いつもと違ったことと言えば、少々夜風が強かった事くらいでございます。
 
陛下、お妃様は、いったい・・・!


 涙を浮かべる女官を宥め、李順は彼女を後宮に戻し。入れ替わりに老師を呼び出す。
 
その到着を待つ間。

「陛下・・・借金の件ですが。」

 少しの沈黙ののち、李順は静かに語りだした。

「もう、ほとんど完済に近い状況です。そして。」
「何が言いたい。」
「そろそろ、止め時だったのではないでしょうか。『臨時花嫁』、の。」
「・・・李順。」

 ふぅ、とため息をついて李順は主を見つめ。険しい色を帯びる紅の瞳に身を晒す。

「夕鈴殿の失踪は好都合と言えましょう。これをうまく使い、王宮の掃除もできる、一石二鳥です。」
「夕鈴が消えたのだぞ?何を言っている!」

 明確な怒気を表わす黎翔にも、李順は怯まない。

「彼女は捨て駒では?」
「っ!」
「いつでも切り捨てる事の出来る、ただの『バイト』。・・・そうですね?」

 黎翔の指先が掌に食い込む。

「・・・確かに、そうだ。―――だが!!」
「そのようにバイト一人に思い入れを持たれては、後々困ることになる、と、申し上げたはずです。」
「李順!」
「ここで大っぴらに彼女を探索すれば、彼女の素性がばれる事もありえます。」
「・・・『見捨てよ。探索はせぬ』、と?」
「はい―――」

 だんっ、と肉がぶつかる音がした。
李順の背が壁を打ち、眼鏡が宙を舞う。ガラスの割れる音がして。

「―――妃を見捨てよ、と?」

 明確な怒りを帯びた瞳が紅玉のごとき輝きを放つ。

「彼女を無事に・・・あるべき場所へ、帰す。それに否やはない・・・が。」
「・・・ぐっ・・・陛、下。」

 肺から空気が押し出され咳き込む李順。

「お前は、夕鈴を・・・『見殺しにせよ』と?」

 ぎりっ、と襟を締め上げられながらも。

「さ・・・いご、まで・・・聞いて下さいっ!!」

 浮き上がりかけた足を踏み止まらせ、黎翔の手首を逆手に掴み上げて。

「人の話は最後まで聞くものですっ!」

 加減なく捻りあげる。

「っ・・・痛っ!」
「分かりましたか?」
「うるさいっ!手を離せ!」

 まるで冷静さを欠いた黎翔。
 普段の黎翔ならば、こんな振る舞いはせぬだろうし、自分に反撃の隙など与えるはずもない。

『妃を見殺しにする』。

その言葉が狼の逆鱗なら。
妃を攫った者たちの目論見は正しいのだ。
王の、唯一の花。この上なく分かりやすい標的。
都合の良い囮であったはずのそれが、今や王の足元を掬おうとしている。

王に唯一を与えてはならなかったのだ。失えないほど大切な存在がこの世にあることを教えてはいけなかったのだ。

愛しい者を失う恐怖。
それを主に与えた己の罪深さに李順の胸は痛む。

「三日・・・いえ、五日。五日間です、陛下。」

 腕の力を緩めた。

「五日です、陛下。夕鈴殿の不在を誤魔化せるのは、せいぜい五日。私は王宮を探り、敵の尻尾を掴みます。陛下は夕鈴殿の痕跡を辿って下さい。」
「・・・李順。」
「どうせ、行かれるのでしょう?」

 壊れた眼鏡を労わるように拾い上げる。

「実行犯は口を利ける状態でお持ち帰りを。」
「・・・ああ。心がける。」
「お願い致します。行ってらっしゃいませ。」

 李順はゆっくりと礼を取った。



(―――っ、痛てえ。)

目覚めて最初に思ったのは、それ。
痛みの所在は明らかではないが、全身がぎしぎしと軋む。

(ここは、どこだ。)

徐々に頭が動き出し、目を瞑ったまま眠ったふりを続ける。

 両手の感覚はないが、肩が歪んでいる気がして。己が吊るされていることに気付く。
 かろうじて残った脚の感覚。膝に力は入らず、ぎりぎりで床に触れる爪先から伝わるのは、石床の冷たさ。

(俺は、どうしたんだ?)

 だらりと頭を下げたまま、浩大は記憶を辿った。


 昨夜、は・・・


「お、帰るの?へーか。」
「ああ。夕鈴も眠そうだしな。」
「そっかー。」

 天井裏から覗き見た妃が眠そうに目をこすっていた様子を思い出し、思わず笑ってしまう。

「何がおかしい。」
「いや、お妃ちゃんてほんっと警戒心無いなあって。」

 狼の眼前で居眠りする兎の姿が脳裏に浮かび。さらに笑いがこみ上げ、浩大はくすくすと静かに声を立てた。

「警戒心、か・・・」

 ふと足を止めた黎翔のつぶやきに、浩大の声が止んだ。

 誰にでも親切な偽妃。人を疑うことが普通の世界で唯ひとりの無垢な存在。その希少さをよく知る二人は、しばし無言で立ち尽くして。

「警護を怠るなよ。」
「はいよっ。」


 ――――そう。特に変わりなく、陛下を見送ったんだ。
・・・そして、


「浩大、いる?」
「どうしたの?」

 茶器を片付けていた夕鈴が、菓子皿を差出した。

「ひとつ余ったの。食べる?」
「ありがとー。」

 躊躇いもせずぱくりと一口で菓子を頬張った浩大に、夕鈴は茶を淹れようと手を動かした。

「あ、お茶はいいから、水くれる?」
「え?お水でいいの?」
「今日は花茶だろ?花の香りの隠密なんて洒落になんないからさー。」
「ふふ、それもそうね。」

 寝台脇の水差しを傾けて、杯に注いで・・・俺はそれを飲んだ。

その後の記憶は、ない。
 
少し甘すぎた、菓子。水の味は・・・分からなかったかも、しれない。

――――水、か。

『警護を怠るなよ』黎翔の言葉が蘇って。

(あー・・・やば。俺。死んだかも。)

浩大は心底がっくりと項垂れ脱力した。

(お妃ちゃんは・・・どこだ?)

 暗闇の中、唯一人。
 水底にいる様な地下室の闇が、浩大を包み込む。





「ん・・・」

 眩しい。眩しくて、目が開けられない。
夕鈴はむずかる子どものように掛布を頭まで引き上げ身体を丸めた。

「お目覚めですか?お妃様。」

いつもの侍女さんじゃない、声。
誰かしら。

「・・・え?」

 身を起こすと、自分が全く知らない部屋にいることに気付いた。
 
「・・・?」

 美しく組まれた天井の格子。王宮のそれとは違うが、重厚で艶がある柱。落ち着いた色合いの磨き抜かれた石の床。

「お召し物を替えさせていただきます。」

 にっこりと微笑んだ美しい女性。
優雅に弧を描く柔らかな栗色の髪と切れ長の眼を持つその人に、少し見覚えがあるような気がして。

「えっと、何処かでお会いしたような・・・?」

 ことん、と小首を傾げて思案する夕鈴に、その女性は笑みを返した。

「・・・そうですわね、『何処か』でお会いしているのかもしれませんわ。」

 するすると帯を解かれ、襟が寛げられて。湯に浸した布で手早く首筋から背、上半身の全てを拭われてしまう。

「あ、あのっ?!」
「少し汗ばんでいらしたご様子でしたから。」

 狼狽える夕鈴。
穏やかな笑みを絶やさぬ女性。

「申し遅れました。私、玲華と申します。」

 ―――『玲華』と名乗ったその女性の優雅な辞儀に、再度既視感に襲われ。

「やっぱり、何処かでお会いしていますよね?!」

 問うたが、やはり。返されたのは覚えのある微笑みだけだった。















《二日目》 



 夕鈴失踪から、二日目の朝。

「・・・ちょっと、勘弁してよ・・・・」

 再び目覚めた浩大は、見慣れた天井と。
己を見つめる黎翔の視線に。

「楽に死なせて・・・は、くれないよね?」

 人生最高の寝覚めを体験していた。


「死に急ぐか、浩大。」

 ん?と鮮やかに微笑むのは、狼陛下が獲物をいたぶる時の表情。
 何度も間近で見たそれが、自分に向けられる日が来ようとは。
 
「イイエ、シニタクアリマセン。」

 もう、諦めるしかない、だろう。

「話せ。」
「はいっ!」

 浩大は、黎翔を満足させられるとは到底思えぬ己の情報を細大漏らさず報告した。

 窓か、それとも天井か。
いや、いっその事、一か八かで正面突破か。

口は報告に。頭は逃走経路の探索に忙しく動くが、残念なことに報告事項はそれほど多くはなく。
 
相手は、狼陛下だ。

「――――寝て起きたら王宮だった。そう言うことだな?」

 妖艶な笑みの黎翔。

「・・・『優秀な隠密』が・・・無様だな、浩大。」


(陛下が女だったらすげえ美人だよなー。)


 浩大の脳が現実逃避をはじめた頃。

「李順様。お邸から使いの方がお越しです。」
 

 事態は漸く動き始めていた。





「失礼いたします、旦那様。」

 女官に案内されて入室してきたのは、見慣れぬ『邸の使い』。
 どこにでもいそうな小間使い姿の女は、綺麗に封がなされた手紙を差し出す。

「お目をお通しください。」

 有無を言わさぬ口調。
李順は表情を変えずに封を切り、文字を追い始めた。

『お妃様はご無事です。』

 見覚えがありすぎるほどある、この筆跡。

「――――母上。」

李順の口から漏れる絶望的な呟き。
慌てて先を読む。

『陛下の唯一の花を狙う動きがありましたので、先手を打ちました。』

 短すぎる説明。

『臨時花嫁、などと・・・態の良い囮ではありませんか。何も知らぬ娘に酷い役を押し付けたものですね。』

 ああ、やはり。

『馬鹿な息子のしでかした事の後始末は』

 ばれたか。

『母がせねばなりません。』

続く言葉で、妃役の娘を保護することを告げ、臨時花嫁などで敵をおびき寄せずにさっさと王宮の掃除を済ませろと叱咤される。

『こんな事ではいつまでたっても陛下の御子にお目にかかれないではないですか!』

 だいぶ焦れていますね、母上。

李順は深々とため息をつき、遠い北の空を見上げた。

「・・・すぐに、返事を書きますから、ここでお待ちなさい。」

 頭を下げたままの使いにそう言い置いて。
李順は隠密を訊問している主のもとへと向かった。


 李玲華。
李順の母にして、黎翔の乳母。
黎翔と李順を叱ることのできる唯一の存在であった。







 
 目が覚めて、身体を拭われた時はびっくりしたけど。怖い感じはしなかった。
 お妃衣装ほどではないが、本来の自分には過分な衣装を渡され。着替えを手伝おうとする玲華さんを全力で遠慮した。

「夕鈴さま?」

 玲華様は、私が『汀夕鈴』だとご存じで。
それでも私への扱いはとっても丁寧で優しい。

 『お妃様』と呼んで頂くのだけは必死にお願いしてやめて頂いた。

――――仮にも陛下のお妃様でいらっしゃるのに。

 玲華様は驚いたようだったけど。
 だって、私は・・・偽物だから。


「この邸にはあまり人手がございませんの。もし宜しければ、お手伝い頂けますか?」
 
 もちろん夕鈴に否やはなく。二人は並んで食事の支度を始めた。


 しんとした、広い厨。
格子戸から入り込む光が拭き清められた台所を明るく照らす。
大きな竈に大きな鍋。
無駄なものは一切ない。

「すごい・・・きっちりした性格なんだわ、ここの奥様。」
「そうですか?」

 不思議そうに自分を見つめる玲華に、夕鈴は笑顔を向けた。

「台所って使う人の性格が出るじゃないですか。だから、すごいなぁ、って。」
「え?」

 目の前の棚に置かれた鍋に手を伸ばし。

「こんなに広いのに、綺麗に掃き清められていて・・・鍋だって、ぴかぴか!」

 俎板を準備して、包丁を選び。
 うきうきと食材を選び出す。

「玲華様、何をお作りしましょう?」

 豊富な食材に目を輝かせた夕鈴。

「夕鈴様の、お好きなものを。」

 玲華は小さく笑う。

(――――素直な、良い子。こんな娘さんに『囮』をさせたのね・・・私の『子どもたち』は。)

 心の声は、おくびにも出さず。

 手塩にかけた『子どもたち』への怒りを押し隠す。






王宮。
尋問室。

 一夜にして帰ってきた浩大。真っ暗な牢。
そう遠い場所に監禁されていたわけではなさそうだ。

「・・・浩大。報告は以上か?」

 微笑んで。逃走経路を探索中の浩大の退路を断つ。

 気を抜いて眠らされ。下手を打った―――自称『優秀な隠密』だったな。

「・・・『優秀』が聞いて呆れる。」

我ながら驚くほどに低い声と、込み上げる怒り。

「夕鈴と共に連れ去られ、何も得るものなく戻った。そういうことだな?」

 浩大の足先が半歩引かれ、焦げ茶の瞳に本気が宿る。
逃げる気か、浩大。逃げられるとでも?

「覚悟は良いな。」
「っ!」

長身が滑るように間合いを詰め退路を塞ぐと同時に風を巻いて細身の剣が抜き払われる。
小柄な身体が毬のように前方に弾み空気を裂く様に鞭が撓る。

「ちょ、ちょっと待って陛下!」
「今更何を待てと?」

 ギンッ、と物騒な音が遠慮なく響き。

――――やられる。

浩大の背筋がざわめく。

「夕鈴はどこだ?浩大。」
「わからねえっ!」
「手がかりは。」
「ねえっ!」

 八つ当たりだと分かっている。だが怒りは収まらぬ。

 妃を殺すより連れ去る方がはるかに難しい。それをあっさりとしてのけた敵の腕は相当なものだ。
浩大の油断を計算に入れたとしても、侮れない。

 妃を攫って、どうする気だ。

 それを思うと腹の底から焼け付くように黒い感情が湧き上がる。

 唯一の妃。
連れ去り、無事に帰すはずもない。
きっと、口では言い表せぬ屈辱を受ける。

 夕鈴。

もっと早く逃がすべきだった。

あと少しだけ、少しだけ、と。君を引きとめ続けた結果がこれか。

私の愚かさが君を・・・壊すのか。
 

黎翔の剣先が浩大の喉に狙いをつけた時。

「お待ち下さい、陛下!」

書簡を手にした李順が息を切らして現れた。




「どういう、事だ・・・?」

見慣れた筆跡は、夕鈴は無事だ、と。唯一の花を狙う動きを察知した故先回りをしたのだと言う。

――――玲華。

『仮とは申せ、お妃様であられます。丁重におもてなし致しますのでご安心を。お心安らかに政務に・・・』

ふざけるな。

「すぐに迎えに行く。北・・・ではないな。玲華はどこにいる。」

睨みつける黎翔に、李順は諦めたように笑い。

「我が邸に。」

簡単に答えて、こめかみに指先を当てる。

「浩大は邸の地下牢に監禁されたのでしょう。夕鈴殿は母が丁重に扱う事と。」
「いかに玲華とは申せ、夕鈴を無断で連れ去るとは・・・!」
「彼女がバイトであることも、もうばれております。」
「っ。」
「何も知らぬ善良な民である夕鈴殿を騙し、囮に仕立て上げた事が母の怒りを買ったようです。」
「・・・。」
「陛下。彼女は無事です。もう借金も殆ど残っておりませんし、やはり、このまま・・・」
「帰すのが、上策。なの、か――――。」

 静まり返った部屋に、重苦しい沈黙が満ちる。


 『バイト一人に思い入れをもたれては、後々困ることに・・・』

そうだ。その通りだ。

ここは、王宮。人が人を喰らう場所。
何もない、空虚な世界。
唯一の妃を愛でる国王など、絵空事だ。


夕鈴、夕鈴。

 脳裏に舞う、君の顔。
怒った顔や、困った顔に、泣き顔。

 そして。
花が咲くような笑顔。

不意に運ばれた、僕の春。


 嘘で固めた王宮にやってきた無垢な君は、僕の『幸せ』そのものだった。
 永遠に得る事のない、望むべくもない、『幸せ』。
知ってはならないそれを、僕は知った。

私は、知ったのだ。
幸せを。

そう。
例え、真似事でも、仮でも。
君は僕の――――

「妃だ。」

 口をついて出た言葉。

「夕鈴が、妃だ。」

 心を覆っていた霧が晴れ、世界が広がる。

 ――――そう。どこにいても、何をしていても。

「私の妃は・・・夕鈴唯一人。」

 晴れやかに笑い、剣を鞘に納めた黎翔の。

「迎えに行く。」

 朗らかな声。

浩大は、ここぞとばかりに姿を眩ました。







 黎翔はすぐ自室に戻り、周宰相を呼び出し。

「私は数日『病』になる。今日のうちに済ませられるだけの案件をすべて持ってこい。」
「・・・」 

有無を言わさぬ勢いで命じる。
じっと国王を見つめた宰相は、深く理由を問いもせず。

「夜半には終わる程度の量で宜しいでしょうか。」
「ああ。」

 李順に指示を出し、山を築いて退出する。

「李順、これ・・・夜半に終わる、のか?」
「すべては陛下次第でございます。」

 容赦のない紙の山。積み上げられた書簡。
さすがにうんざりとした表情を浮かべた黎翔に。

「陛下!手を動かして下さいっ!」

 側近の叱咤激励が飛ぶ。


「・・・・いってらっしゃい、ませ、陛下・・・」

 息も絶え絶えな李順に見送られた黎翔が王宮を出たのは、夜半を少し過ぎた頃だった。

「仕事をせずに迎えに来たと知られれば・・・追い返されますからね。夕鈴殿と、母上に。」

 小さく呟いて、李順は後宮へ向かう。

目立ちすぎるほど目立つ、後宮の唯一の妃。
その不在を誤魔化せるのは、今日を入れてあと・・・三日。
 


 三日のうちに、夕鈴を正妃として連れ帰る。


 可能か、不可能か。

全ては・・・夕鈴。

「君次第だ。」

 黎翔の長い三日間が幕を開けた。

《三日目》


 「ここ、だな。」

 なるべく静かに馬を急がせた。衣装の汚れもないし、靴も綺麗に拭った。嘶く愛馬の首を優しく撫でて労い、厩舎に繋いで周囲を見渡す。

 「李順らしい邸だな。」

 驚くべきことに、菜園がある。貴族の邸に堂々と。

『庭の手入れに費用をかけるより、余程生産的です。何か問題でも?』

 李順の顔が浮かぶ様だ。

 まだ頼りない朝日が柔らかく差し込んで、冬の朝が明ける。
きん、と冷え切った空気は好ましく頬を嬲り、全く温度を感じさせない風は身体を目覚めさせる。
 
ふわりと香る、梅。
仄かに甘い、少し爽やかなその香りは心を落ち着かせ。一睡もせぬ頭を尋常に戻す。


 花を散らす風が舞う。

あの日と同じ、風。

『あれで、お給料マイナスになっちゃったみたいなんだよね。』

 思い付きの、嘘。

『あ、夕鈴!臨時花嫁また募集してるんだけど!』

 もう少しだけ、君に側にいて欲しかった。

芽吹いた想いは季節と共に育ち。心に深く根を張った。


 王とは孤独。存在の全てがこの国のもの。言動は終日記録され、閨だろうが何だろうが全てが他人の目に晒され、一挙一動が意味を持つ。

 そんな僕が、誰かを欲するなど。
あってはならないのかも、しれない。

 
だが、私は―――。

夕鈴。

君と、共に、居たい。







意地悪で、焼きもち妬きで、わがままで。
私の話なんて、ひとつも聞いてくれない。

いつも遊ばれて、翻弄されて。
どんなに頑張っても、敵わなくて。

けど。

どうしようもないほど、陛下が好き。

好き、っていう気持ちは隠せるんだって思ってた。
貴方に向ける妃の笑顔に紛れさせて、隠せるんだ、って。

でも、一日貴方と離れただけで。

想いが、溢れる。


野菜を刻みながら。
お饅頭の皮を捏ねながら。
蒸籠から上がる湯気の向こうを透かし見ながら。

『美味しいね、夕鈴!』

浮かぶのは、陛下の事ばかり。


知らなければよかった。

偽妃を抱く優しい腕や広い胸。
誰もいない後宮で続けられる演技の、甘さ。

苦しいほどのこの想いの行き先は、何処にもないのに。



しん、と静まった気配が私を現実に引き戻す。


立派なお邸の、清潔そのものの、台所。
そこで食事の支度をする私。

それすら場違いなのに。

こんな私が、妃?

――――王宮を離れて、頭が冷えた。


私の想いは、不敬。
想うことすら、罪。

「・・・」

忙しく動いていた手が止まる。

「夕鈴様?」

不審げな、玲華。

「玲華さま・・・私を、」

夕鈴の言葉は。

「―――妃を返してもらおうか、乳母殿。」

 静かに扉を開けた黎翔によって遮られた。






 静まり返った李順の邸。無数の目が自分を見つめているのを感じつつ、足を運ぶ。

 楽しそうな声。厨か。

 ふわりと湯気が流れてきて、夕鈴の声が近づく。
面倒な気配も混ざっているのが、少々気に障る。

 不意に途切れた会話。不審げな玲華の声。
何かあったのか。

扉を開けると、夕鈴が驚いた顔で振り向いた。

「――――妃を返してもらおうか、乳母殿。」

低い声で威嚇するが、玲華相手に通じぬ事は先刻承知だ。

びくっ、と夕鈴の肩が跳ねて申し訳なさでいっぱいになる。

「夕鈴、こちらへ。」

 狼のままで、手を差し伸べ。できる限り優しく微笑む。

だが、夕鈴は。

「・・・。」

無言で頭を振った。

「―――え?」

一瞬、玲華の存在を忘れ、小犬に戻る。

「夕鈴、一緒に帰ろう?」

「ごめんなさい、陛下。」

予想外の言葉に血の気が引く。

「私・・・・戻れません。」

夕鈴の顔が苦しげに歪んだ。

「借金は、几鍔に頼んででも返済します。急に辞めてご迷惑でしょうから、その分も借金に加算して下さい。」

辛そうに、だが、きっぱりと。

「ご迷惑おかけして、申し訳ございません・・・陛下。」

夕鈴が僕を、拒絶する。

 頭に血が上った。

「玲華。」
「はい。」

憎らしいほど冷静な声。

「・・・夕鈴に、何を吹き込んだ。」
「何も。」

簡潔な返答と、微塵も動揺せぬ声と。

「嫌われて当然ではございませんか、陛下。」

突き刺さる言葉。

「何も知らぬ夕鈴様を騙し、囮に仕立て上げて。都合が悪くなれば消すおつもりだったのでしょう?」
「違う!」
「違いません。臨時花嫁は、都合の良い駒。使い捨ての、いくらでも代わりの利く・・・」
「黙れっ!」

すらりと鞘を離れた剣が玲華に突き付けられても、彼女は怯まない。

「どのような手を使ってでも、生き延びよ。目の前で人が死のうが、呪われようが。生き残ったものの勝ち。―――そうお教えしたのは私です。・・・ですが。」

鋼の鈍い反射が玲華の頬に映り。

「相手が同類の場合に限る、と、お教えしたはずです‼」

髪と同じ色の瞳が、黎翔を睨み据え。

「堕ちてはなりません、陛下!」


夕鈴は、初めて。

青褪めた狼陛下をを見た。





「陛下、朝餉もまだでございましょう?お座り下さいませ。」

剣を構えたまま石のように固まった黎翔を気遣うそぶりも見せず、玲華は当たり前のように言った。

「夕鈴様、驚かせて申し訳ございません。さ、お手伝い致しますわ。」
「は、はい。」

 ふわりと笑んで。
玲華は手際よく料理を完成させていく。

無駄のないその動きと手つきに、再び覚える既視感。

「・・・あの、やはり何処かでお会いしてますよね?」

自分をじっと見つめる茶色の瞳があまりに真剣で。玲華は思わず声を立てて笑い。

「息子と似ているのではないでしょうか?」
「え?」

蒸しあがった饅頭を皿に移しながら、素性をばらす。

「私、李順の母です。」
「っ!李順さんの、お母様?」
「内緒にして下さいませね?少し事情がございますの。」

呆気にとられて自分を見つめる夕鈴が、あまりに可愛らしくて。

「ちょ、え?玲華様?!」
「なんて可愛らしいのかしらっ!」

正面から夕鈴に抱き付いた玲華の、すぐ後ろで。

「・・・ごめんね、夕鈴。玲華、可愛いものに目がなくて。僕も幼い頃はやたらと抱き締められたなぁ。」

 しょんぼりと尻尾を垂らした黎翔が、ぼそぼそと呟いた。



「乳母、ですか?」

三人で朝食を囲みながら、夕鈴は玲華の話に夢中になっていた。
 まだ幼かった黎翔が北にやってきた時の事。乳母となった自分に懐かず、苦労した事。遊び相手の李順が黎翔に振り回された話。
 重い雰囲気にならぬよう、他愛のない昔話に花が咲き。皿は空になっていく。

「ごちそうさまでした。」

カタンと箸を置いて、夕鈴は正面に座る黎翔を見つめた。

「王様とお食事する、なんて。しかも、私がそれをお作りするだなんて。これは・・・夢なんですよね、きっと。」
「夕鈴、」
「陛下。私は、夢を見たんです。覚めない夢を。本当の私は下町にいて、一生陛下にお目にかかる機会なんてなくて。」
「夕鈴っ!」
「でも、それでも・・・私、陛下の、こと。」

 哀しげに微笑む夕鈴の頬を涙が伝い。膝の上で握りしめられた拳が震える。

「・・・お世話に、なりました。」

玲華は、深々と頭を下げる夕鈴の肩を、優しく撫でながら。

「それは、こちらの台詞ですわ。辛い役を押し付けてしまって申し訳ございませんでした。」

 夕鈴の傍らに膝をつき、首を垂れる。

「囮などと・・・酷い役。さぞかし恐ろしい思いをなさったでしょう。ごめんなさい。」

 深い静かな声。その言葉は、夕鈴だけでなく黎翔にも向けられたもので。二人は言葉もなく俯く。

 わずかな沈黙の後。
 
「少しでも、陛下のお役に立てたなら・・・嬉しいです。」

 夕鈴は囁くようにそう言って。

「陛下・・・どこにいても、味方です。」

 花のような笑顔を残して、邸を後にした。



《四日目》



王宮、黎翔の自室。
帳の下ろされた寝台の上にはいつくもの酒瓶が転がり、昨日の衣装のままで片膝を立てて座り込む黎翔は、ぐらぐらと揺れ。赤みを増した紅の瞳は、血の色のようだ。
はだけた胸元は濡れていて。右手は休みなく酒瓶を口に運ぶ。
「・・・ゆうり、ん。」

 嫌われて当然の、自分。
騙して囮をさせて、借金で縛った。
新しい遊びを始めた大臣たち。
玲華が夕鈴を連れ出さなければ、遠からず彼女に害が及んだこと
だろう。

ここにいて欲しい、などと。

願うだけで、罪だったのだ。

想うことすら、許されぬのだ。


『夕鈴を本物の妃に』などと、浮かれていた自分。

分を弁えろ、黎翔。

お前が棲むのは、何もない王宮で。
彼女が棲むのは、明るい下町。

お前に必要なのは、役に立つ道具で。
彼女に必要なのは、優しい伴侶だ。

諦めろ。

己に言い聞かすたびに、焼かれる様な痛みと握り潰される様な不快感が胸に広がる。

夕鈴が、欲しい。

正直な自分を持て余す。今すぐにでも彼女の元に向かいそうになる自分が御しきれない。
己を止めるために黎翔は酒を煽り続け。

「・・・もう、空か。」

ゆらりと立ち上がり、広い卓に並べられた新たな酒瓶に伸ばすその手が遮られた。

「―――もう、およしなさい。」
「・・・これで満足か?」

食えない微笑を浮かべる玲華に微笑みかける。

「夕鈴が、消えて・・・分かったのだ。どれほど彼女が必要なのか。彼女が私の何なのか。」
「夕鈴様は、貴方様の『何』なのですか?」
「・・・『幸せ』そのものだ。」
「なら、なぜ引き留めなかったのです?」
「その資格が僕にあると思う?玲華。こんなに汚れた手で夕鈴に触れられないよ・・・。」

 迷子の小犬の様な紅い瞳。
玲華は深々とため息をつき、水差しを傾け杯を満たしつつ冷たく言い放つ。

「幼い頃ならいざ知らず、今の黎翔様に甘えられても可愛くございません。」

差し出された盃を受け取り冷水を煽った黎翔の瞳から光が失せ始めた。

「玲、華・・・何を、のませた。」

大量の酒と、眠り薬。さすがの黎翔も敵わず。

「ゆっくりとお休みなさい。私の可愛い皇子。」

心地よい声に見送られ、深い眠りに落ちていった。




「・・・やり過ぎですよ、母上。」

だらりと力の抜けた黎翔を寝台に引きずり上げながら、李順は玲華を見やる。

「そうかしら?これでも抑えたつもりですよ。」

散らばる酒瓶を拾い集める玲華は無表情だ。

「お前がぐずぐずしているからいつまで経っても黎翔様は妃をお迎えにならないのです。蓉州の晏流公を取り巻く動きもあるというのに、世継ぎがおられなければ、陛下のお立場が弱くなります。」

厳しい声音に、李順の顔が曇る。

「私は、黎翔様をこの国の王にすべくお育て申し上げました。狼と呼ばれようが、どれほど恐れられようが、黎翔様は王の器です。」
「母上。」
「狼陛下無くして白陽国は成り立たない。・・・そうではありませんか?」

やや乱暴に酒瓶を並べながら、玲華は息子を睨み付け。

「何をしているのですっ。夕鈴様に護衛くらいつけてるのでしょう?陛下を幸せにできるのはあの方だけなのですよ?そんなところでぼうっと突っ立ってないで、動きなさい!」
「・・・お二人を引き離したのはご自分でしょう、母上。」
「引き離さねば、陛下のお心が決まらなかったでしょう?!」
「だからそれが、やり過ぎ」
「お黙りっ!口よりも手を動かしなさいっ!」
「・・・。」

 こうなった母には何を言っても無駄だと骨の髄から知っている息子は、足早に廊下を渡る。

「浩大に、連絡を。」
「はっ。」

 ふう、と息を吐く。

 冷酷非情の狼陛下。誰もが畏怖するその御方が望む、妃は。

意地っ張りで、泣き虫で、芯が強く。
お人好しで、明るく笑う、優しい兎。

狼陛下自体が型破りなのだから。正妃もそれで、構うまい。

吹っ切れた笑顔の李順を、命を受けた隠密が気味悪げに見つめた。



《最終日》


 「夕鈴、王宮バイトから帰ったばかりですまないが・・・」

和やかに進む汀家の夕食。あらかた皿が空になったところで、岩圭は口ごもりながら言い出した。

「なあに?父さん。」
「いや、実は・・・その。上司がバイト先を紹介してくれてだな。」
「有難い話じゃない!どんなバイト?」
「いや、それが・・・」

 どうにも歯切れの悪い岩圭。
夕鈴は眉根を寄せて父を見つめる。

「父さん?」
「いや、その・・・『割のいい短期バイト』なんだが。」
「・・・・ふぅん。」

 胡散臭い。

 父と娘が顔を見合わせた時。

コンコン、と扉を叩く音がした。

「あ、僕が出るよ。」

 ぱっと立ち上がる青慎を目の端に入れながら、岩圭は続ける。

「なんだ、その・・・王宮バイトの時と同じ売り文句だろう?」
「確かに、そうね・・・・。」

ぼそぼそと話す岩圭の様子からすると、上司の手前この話を断るのは難しそうだ。

「うーん・・・まあ、面接には行ってみるわ!」
「そうか、すまないな。」

 お茶を口に運ぶ夕鈴の優雅なしぐさに、岩圭は目を細めた。

娘は何も言わないが、王宮ではきっと大変な思いをしたのだろうと察しが付く。掃除婦バイトだったと言ってはいるが、それだけでは説明できない程に娘の所作は洗練され、言葉遣いも優しくなり、何より、綺麗になった。

(・・・母さんにそっくりだ。)

 ふとした仕草や横顔が、はっとするほど美しくなって。もう嫁ぐことを考えてやらねばならない年頃になったのだと否応なく認識する。

母親を早くに亡くし、苦労を重ねた娘。少しでも良い相手を見つけてやりたい。

そう思って相談した上司の答えが。

『実は、君のお嬢さんに行ってもらいたい邸が・・・』

 バイトの斡旋。
 正直がっかりしたが、断れるはずもなく。

「本当にすまないな、夕鈴。」

 くるくると働く娘の背にこっそりと手を合わせた岩圭の背後に、影。

「邪魔するぞ。」
「何したのよ、几鍔っ‼」

 ビリビリと髪を逆立てる夕鈴を通り越して、几鍔は岩圭に向かい合う。

「岩圭さん。」

 いつもと違う几鍔の様子に、岩圭も背筋を伸ばし。

「一体、何だい?」

 背筋を伸ばし、穏やかに几鍔の隻眼を覗き込む。

「・・・っ。」

 ほんの少し、躊躇う風を見せた几鍔は、しっかりと前を見て。

「夕鈴、さん、を・・・俺に、下さいっ!」

 見事に言い切った。


音を失った汀家の屋根の上。

「陛下・・・先、越されたよ?」

 浩大の危機は続く。




 もう、夜だ。

「くそっ。」

 黎翔は玲華の策にまんまと嵌った自分を呪いつつ、汀家へ急ぐ。


 深酒と眠り薬による二日酔いにより、黎翔は日中全く使い物にならず。

「だから、やり過ぎだと・・・」

 意味不明の小言を繰り返す李順をやり過ごすので精一杯だった。

「とりあえず夕鈴殿の父上の方に手を回しました。」

痛む頭に染みる、端的な李順の説明。分かり易くて何よりだ。

「汀岩圭殿―――夕鈴殿のお父上ですが―――は、娘の嫁ぎ先を探しているようです。」

 なんだそれは。初耳だぞ。

「幼い頃から苦労を重ねた愛娘に、少しでも良い嫁ぎ先を、とお考えのようです。良いお父上ですね。」

 ・・・最悪の婿でもお許しいただけるだろうか。

「夕鈴殿の帰宅を知った几商店が動き出しました。孫の嫁が帰ってきたと、女主人は大喜びだそうですよ。」

 なんだそれは。聞き捨てならないな。

「孫息子も、重い腰を上げたようです・・・陛下。いつまで寝ているおつもりですか?」

 玲華の息子だろう、お前。母を止めるのも息子の務めだろうが。私だって今すぐ起き上がりたいんだ。

「起き上らせろ・・・」

 呻いた黎翔に、李順は嫌々手を差し出し。

「老師から、二日酔いの特効薬です。苦いですが。」

 苦しげな主の鼻先に、散薬を押し付ける。

「早く迎えに行かないと幼馴染に掻っ攫われますよ、陛下!」
「寄越せっ!」

 黎翔は、李順の手から薬包を奪い取り、一気に飲み下した。

C.O.M.M.E.N.T

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2014/05/12 (Mon) 05:47 | # | | 編集 | 返信

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2014/05/12 (Mon) 06:07 | # | | 編集 | 返信

T様へ

面白いとのお言葉、ありがとうございます。
几鍔、思い切りましたね。
二日酔い陛下はどうするんでしょうか。
浩大、八つ当たりされなきゃいいんですが。
続き、浮かぶといいなぁ。

2014/05/12 (Mon) 15:01 | あさ #- | URL | 編集 | 返信

水無瀬りん様へ

やはり、動作が重くなってしまいましたか。
申し訳ございません。
分割いたしましたので、そちらからお楽しみ頂けると嬉しいです。
こんだけの文字数を一気にUPするとか、迷惑でしたね。
申し訳ございませんでした。

2014/05/12 (Mon) 15:03 | あさ #- | URL | 編集 | 返信

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2014/05/13 (Tue) 05:59 | # | | 編集 | 返信

水無瀬りん様へ

ごめんなさい、結局読んで頂けなかったのですね・・・。
もう少し細かく分割すればいいのでしょうか。
申し訳ないです。
ほんと、ごめんなさい。

2014/05/14 (Wed) 11:31 | あさ #- | URL | 編集 | 返信

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