2014_02
04
(Tue)12:04

何処へ 5

《何処へ 5》



「・・・李順。出迎え、ご苦労。」

雪で足元が悪いからと、恥ずかしがる夕鈴を無理矢理抱かかえた黎翔は。
馬車の横で控える側近を見据え、足を止めた。

跪き、礼をとった李順は、静かに口を開き。

「陛下。そして、正妃様。」

僅かに頭を上げ。

「ここからが、本番ですよ?」

凄みのある笑顔を二人に向けた。



百官勢揃いした、大広間。
その光景は荘厳ですらあり。
静まり返った空間には、息遣いさえ響いてしまうようで。
誰もが姿勢を正し、緊張に耐える。
そして。
彼らの視線は、ただ一点に集中していた。

一段高いところに据えられた、玉座と。
______正妃の椅子。


彼らを睥睨すべく。
また、彼らに見極められるべく据えられた、玉座と。
その傍らの、正妃の椅子が。

異様な緊張を煽る。


唯一の妃が後宮を出た。
それは一夜のうちに主だった者たちの知るところとなり。
火消しをするでもなく、噂が流れるに任せる、王宮側の対応は。
それが事実であることを暗に示すものとして受け止められていた。

そして、今日の召集と。
正妃の椅子。

最前列に並ぶ、宰相と。
並び立つ、柳と氾。

「・・・」

痛いほどの沈黙。
季節は冬だというのに、汗ばみ、息が上がる。

彼らの緊張が限界を迎えそうになったとき。
ようやく、空気が動いた。


カツン。
磨き抜かれた床から響く、静かな音。
ばさり、と裾を捌き。
ゆっくりと歩を進める狼。
その威厳は、常と変らず。

「______ご苦労。」

低く冷たい声音が、響き。

「今日は皆に申し伝える事がある。」

声にならぬどよめきが、場を満たし。
一歩進み出た宰相が、恭しく拝礼し、口を開いた。

「・・・陛下。恐れながら。」
「なんだ。」

「本日この場にて我らにお伝え下さる事とは・・・傍らにございます『椅子』の件にございましょうか?」

凍りつく空気をものともせず、宰相は視線を上げ。

「もしそうならば。今少しお待ち頂きたく。」

真っ直ぐに黎翔を見つめる。

宰相の後ろに控えた柳と氾が、頭を垂れて跪まずき。
他もそれに習った。
そして。

宰相の言葉に、一斉に膝を折った臣下を見つめた黎翔は。

「____そう、焦るな。」

朗らかに、笑った。








「それじゃ、陛下は」
「今頃、三年の猶予を臣下に乞われていらっしゃる事でしょう。」

強請りに近いでしょうがね、と李順は付け足す。

ちちち、と鳥のさえずりが和やかに過ぎて。
夕鈴は、ぐらりと揺れそうになる足に力を入れた。

「夕鈴殿。」
「は、い。」

青褪めつつもしっかりと返事をした夕鈴を微笑みながら見つめて。
李順はゆっくりと話を進める。

「白陽国は、狼陛下が現れねば滅びておりました。」

破綻した財政。
弱りきった軍。
内乱に次ぐ内乱。
腐敗した王宮。
国政を省みぬ国王。
虎視眈々と白陽国を狙う、周辺諸国。

「陛下は、国のために冷酷非情を貫かれるお覚悟でいらした。」

荒療治を行えば、反発は必至。
だが、やらねば国は滅ぶ。

そして。
改革によって生まれる憎しみや、反感は。

「・・・『狼陛下』の治世は長くて十年。その後はしかるべき王族に王位を譲る。」

_____『狼陛下』がすべて持って逝く。

「長く生きるおつもりなど、陛下にはございませんでした。」

静かに。
李順は懐かしいものを見るように、空を見上げ。

「_______貴女に、出会うまでは。」

言葉を紡ぐ。

「・・・三年。陛下が皆に貴女を認めさせる為の時間です。」

白陽国にかつてない繁栄を。
三年でもたらしてみせる。
そして、それが成らぬ時は。

「・・・成らぬ時は。」

言い澱んだ李順に、笑いかけて。

「大人しく出て行きますよ、私!」

夕鈴は元気に言い切って。

「そうなれば、陛下も付いて行かれますよ?」

李順は苦笑し。

「______まあ、そんな事にはさせませんが、ね。」

低く、低く。
呟いた。
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2014/02/04 (Tue) 20:30 | # | | 編集 | 返信

澪さまへ

ありがとうございますっ。
そう仰って頂けて、嬉しいです。

2014/02/05 (Wed) 13:43 | あさ #- | URL | 編集 | 返信

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