2013_12
17
(Tue)12:40

縋る 後編

こんにちは。
あさ、です。

少々、無理矢理な感が否めませんが。
「縋る」を終わらせてみました。

すいません、ほぼ一発書きです。
お心を広くお願い致しますっ。




【設定・バイト終了】

《縋る 後編》




夕鈴が後宮を去って、半年が過ぎ。
突然消えた唯一の妃を探る動きも止み、後宮はこれ以上なく静まり返っていた。

ただ一室を除いて。

「・・・掃除娘。」

張元は今朝も一輪花を摘み、小さな卓に飾る。



掃除娘。

おぬしが居らぬようになって、陛下は壊れてしまわれた。
『珀黎翔』は消えうせ、『狼陛下』だけが残っておられる。

夕餉に混ぜ込む眠りを誘う薬。
恐らく、陛下は気付いておられよう。
だが、召し上がる。

眠る為に。



掃除娘。
おぬしが、居らねば。

陛下は、死ぬぞ。

心が死んだ人間は、そう永くは生きられぬ。

「そろそろ、限度じゃぞ。」

張元の声を受け、屋根の上の隠密はしっかりと頷いた。






「また、入ってる・・・」

もうすっかり習慣になってしまった、深夜のお茶。
葛篭の蓋をとり、夕鈴は小さく呟いた。

もう、半年も経つのに。
茶葉がなくなりそうになると、知らないうちに新しいものが届いている。

きっと、浩大だろう。

いつまでも陛下を忘れられない私には。
浩大がくれる優しさは、少し痛いけれど。

この痛みすら、手放せない。

ふわりと漂う湯気の向こうに、今日も陛下の面影を追う。

『夕鈴』

忘れられない笑顔と、声。

「・・・お帰りなさい、陛下。」

そう言って、茶杯を置いた夕鈴の背後に。

「_________直接、言ってやってよ。」

困ったような笑いを浮かべた浩大が立っていた。



「こちらです、夕鈴殿。」

浩大に連れて行かれたのは、見たこともない門。

「質問は後で。声を立てずに、ついてらして下さい。」

半年ぶりに会う李順さんは、驚くほど痩せていて。
何があったのか問おうとした私は、口をつぐんだ。

古めかしい扉をいくつも潜り、方向感覚を失う。
徐々に届き始めた覚えのある香に、ここが後宮である事だけは分かった。

小さく明かりの灯った部屋に通されて、着替えを渡される。

「お早く。」

李順さんは相変わらず厳しい顔で。
着付けを終えた私の衣装のあちこちを直して、手早く髪を結い直してくれた。

「宜しいですか、夕鈴殿。」
「っ!」

バイト時代と変らぬ上司の口調に、背筋が伸びる。

何があったのだろう。
何故今更呼び出されるのか。
まさか、茶葉の代金を請求されるの?

混乱する夕鈴を、李順は少し困ったように見つめて。

「________陛下を、お願いします。」

ゆっくりと、頭を下げた。


「・・・え?」

戸惑う夕鈴の背後から、老師が。

「頼む、掃除娘。陛下はもう限界じゃ。」

真剣な顔で現れ。

「・・・老師。いったい・・・」

問う夕鈴の頭上から。

「お妃ちゃん、陛下にお茶、淹れてやってよ。」

浩大の明るい声が降る。

「・・・浩大。」


動きを止めた夕鈴に、李順は一歩近付き。
再度、頭を下げ。

「_______お妃様。陛下の御許へ。」

跪いた。






浩大の指示通り歩いて、陛下の部屋に向う。

『お妃ちゃん、びっくりしないでね?』

お部屋の扉を潜り抜けた私に、浩大はそう言い置いて下がった。


_______陛下のお部屋。

大きな卓に、立派な長椅子。
綺麗に揃った茶器。
衝立の向こうの寝台では、陛下が眠ってらっしゃる。

どうしたらいいのか、分からなくて。

私は、お茶の仕度を始めた。





かちゃ、と音がして。
意識が浮上する。
鉛のように重い身体を引きずり起こして、帳の向こうを透かし見る。

見覚えのある、小さな人影。

また、幻か。

かちゃ。
再度音がして。

ふわり。
香る。

夕鈴。

この幸せな幻を見ながら。
終わりにしても、いいだろうか。

「・・・夕鈴、僕、頑張ったんだ。」

黎翔の頬に、笑みが浮かび。
涙が伝い。

「________もう、いい、よね。」

震える手が、枕元の剣を掴んだ。




「・・・夕鈴・・・」

名を呼ばれた気がして、顔を上げた。

帳が揺れている。

「僕、頑張ったんだ。」

陛下の声がして、目を凝らす。

でも。

暗さに慣れた私の目に映った、陛下は。
私の記憶にある陛下じゃ、なかった。

「っ!!」

陛下の手が剣を掴むのが見えて。
涼やかな音がして、鞘が払われたのが分かる。

「_________もう、いい、よね。」

そう言いながら、切っ先を自らに向けた陛下の胸に。

「だめーっ!!」

私は飛び込んだ。





夕鈴が、そこにいて。

僕にお茶を淹れてくれている。

この幸せな幻を見ながら、逝こうとしたのに。

「だめーっ!!」

誰かが、邪魔をした。

「どう、して、」

胸に飛び込んできた温もりが、震えている。

「いったい、どうして!」

泣きながら、震えている。

「・・・だって、君が、いないから。」

正直な思いが口をつき。

「もう、耐え切れないんだ。」

零れ落ちる。

「君がいない。」
「陛下。」

「もう二度と会えない。」
「へ、い」

「怖いんだ。この先ずっと、君に会えないのかと思うと。」
「か・・・」

「耐え切れない_____もう、終わらせたい。」


腕の中の兎が、びくっと震えた。




「もう、終わらせたい。」

そう言った、陛下の。

宙を見つめる紅い瞳は、何も映しておらず。
大きく広かった胸は、頼りなく。
美しい頬は、痩せていて。
腕も肩も、別人のようで。

でも、陛下で。

私は、その胸に縋りついた。


嬉しい。


こんな時なのに、嬉しい。


これほどに求められる、嬉しさと。
思いが通じた喜びが、心を満たし、溢れる。


分かってる。

私じゃ、陛下の役に立たない事なんて、そんなの始めから知ってる。
刺客だらけの後宮で、私が無事でいられる保障なんてないって事も。
どんなに陛下が私を庇っても、庇いきれないって事も。

そんなの、どうでもいい。



縋りつくように私を抱き締める、陛下の温もりが。

私に力をくれた。






視界が開け、腕の中の兎が、笑う。


「ここに、います。」

にっこりと、明るく。

「ずっと、お側にいます。」

泣きながら、僕に縋る。


分かっている。

護りきれない事なんて、最初から分かっている。
ここは君の居場所じゃないって事も。
僕は君に相応しくないって事も。

全部、分かっている。


だが。

僕の胸に縋る、君の笑顔が。

僕に覚悟をくれた。



「夕鈴。」
「陛下。」


縋るように寄り添う二人の重なる吐息が、柔らかく闇に溶け。



「・・・明日から、正妃教育ですよ。」
「厳しいね、李順さん。」
「小僧、警備にぬかりはないか?」
「じいちゃんこそ、大臣抑えた?」
「当たり前じゃ。」
「お二人とも、声が高いです。」

疲れ切った顔に、笑みを浮かべて。

三人は顔を見合わせた。

C.O.M.M.E.N.T

うう(つд`)

泣いていいですか。
すごく幸せ。
血の通った陛下の痛みに引きずり込まれました。
幸せになってほしいな。

2013/12/17 (Tue) 13:24 | 羽梨 #- | URL | 編集 | 返信

Re

羽梨さま
ただ、互いに縋る二人が書きたかったの。
陛下しか縋ってない気がするのは、気のせいですよ?
幸せになれるといいな。
ふふ、書いたの、私でした。

2013/12/17 (Tue) 22:21 | あさ #- | URL | 編集 | 返信

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2013/12/22 (Sun) 19:11 | # | | 編集 | 返信

澪さまへ

ありがとうございます。
ハッピーエンドって、いいですよね。
哀しい終わり方が書けない体質だと、再認識したSSです。

2013/12/23 (Mon) 10:27 | あさ #- | URL | 編集 | 返信

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