2013_12
05
(Thu)22:32

夢の終わり

このSSは、10月30日に白陽国SNS地区にUPしたものです。

再読の方、申し訳ございません。











【設定・バイト終了】



《夢のおわり》



いつか来る、終りの日。

その日は自分で決められるのだと思っていた。


もうとっくに終わっているはずの、借金。

減り始めた、刺客。


もう、お終い。

バイトは、要らない。


_____________終わろう。


そう思いながらも、日は過ぎてゆく。

貴方の温もりと笑顔を手放せぬまま、日を送る。



そんな、ある日。


ふいに突きつけられた、現実。




父さんが倒れた。


急いで実家に戻ると、そこにいたのは、やつれ果てた父の姿と。

途方にくれる、弟。



私の、バカ。

地面がぐらりと揺らぐ。


男手一つで私達を育ててくれた、父さん。

やっとお酒を飲むゆとりが出来て。

私が嫁ぐ日を心待ちにして。

青慎が官吏になる日を夢見て。


借金を作ってくれたりも、したけど。

色々面倒ごとを持ち込んでくれたりも、したけど。


私の大切な、父さん。



ごめんなさい。



涙が零れた。



「・・・・あと少し遅ければ、手遅れだったって。」


しばらくぶりに会う青慎は、背丈もずい分伸びていて。


「_________姉さん、帰ってきて?」


声まで、少し低くなっていた。



もう、お終い。

夢は、お終い。


心の中が整理されてゆく。


夢を、見たの。

楽しくて、苦しくて、愛しい、夢を。



「・・・・やっと目ぇ醒めたか。バカが。」


くしゃ、と几鍔の大きな手が私の頭を撫でて。


「戻って来い。・・・・ここに。」


私を、攫う。


身体が、勝手に動いて。


___________頷いていた。





陛下。

陛下。


___________ありがとう、ございました。




私の夢が、終わった。







「__________ってな事になってんだけどさ、どうする?」

「・・・・浩大、もういらっしゃいません。」

「そうだよねー。あははっ!」



王宮の黎翔の自室に響くのは、隠密の明るい笑い声と、側近のため息。

李順は、飛び出していった黒い影を目で追いながら。

今しがた黎翔が倒していった椅子を元に戻し、笑みを零す。




『お妃ちゃん、帰ってこないよ。』



浩大の報告を聞いた、陛下は。

飛び出してしまわれた。

剣すら、持たずに。


「初めて、ですね。浩大。」

「うん。初めて、だ。」


側近と隠密は、顔を見合わせ。

楽しげに、笑う。


「__________剣をお忘れとは。」

「あの、『冷酷非情の狼陛下』が、ね!」


浩大は、長身の黎翔にあわせて作られた長刀を手に。

王宮を飛び出した。








終わる日が、来るなどと。

________誰が、決めた?


夕鈴。

終わらせなど、せぬ。



君を、手放す事など。

__________絶対に、出来ぬ。






病気の父上を驚かせぬよう、息を整えて汀家の門を潜り。

そっと、扉を叩き。


「___________父上の見舞いに伺った。」


驚く青慎君に、笑顔を向けて。

びくっと震える夕鈴の手を取り。


「・・・妃の父は、我が父でもある。なぜ、言わぬ?」


少し怒りを混ぜた口調で、問い正す。


「妃?!」


一言だけ発した、青慎君は。

王宮での衣装を纏った私を見つめ。

すぐに、納得した顔になった。


__________聡いな。腹も据わっている。


この子なら、大丈夫だろう。



「黙っていて、すまなかった。」


目を見つめ、頭を下げると。


「______いいえ。姉さんを、宜しくお願いします。国王陛下。」


思った以上に強い声音が返って来て。


「・・・『こちら』で、待っているぞ。汀青慎。」

「はい!」


物怖じせぬ、薄茶の瞳が。

私を真っ直ぐに見つめてくれた。



「・・・へい、か?」


我に返った夕鈴が、ようやく口を開き。


「わたし・・・もう・・・・」


後退る。


_________逃がさないよ?


退路を塞ぐように、身を乗り出して。

細い手首を、しっかりと掴んだ。


「________さて。夕鈴。」

「・・・は、い。」

「お父さんの具合、どうなの?」

「え?」

「『え?』じゃないよ。僕のお父さんでもあるんだよ?心配だよー。」

「『僕の』って、な、何を仰ってるんですかっ!」

「お嫁さんのお父さんは、僕のお父さんでしょ?」

「そ、それはそうですがっ!私は陛下のお嫁さんじゃ」

「_______お嫁さん、だよ?」


握る手に、力を込めて。

空いた手を、夕鈴の頬に沿わせる。


戸惑う、茶色の瞳に。

自分だけを映させた、黎翔は。

願う。


「___________君が、僕の妃だ。」


他は、要らぬ。

君だけが、欲しいと。

居てくれるだけでいいのだ、と。


願う。


しばしの沈黙の後。

口を開いたのは、黎翔。


「・・・妃よ。返事は?」


笑みを浮かべたその顔は、まぎれもなく『狼陛下』なのに。

どこか優しい声音で。


「だいすき」


堪えきれぬ自分の想いが、声になったのを。

夕鈴は、信じられぬ思いで、聴いた。






「________分かったって、言ってんだろっ?!」

「怒らなくてもいいでしょう?!」

「なんだと?!それが人に物を頼む態度かよ?!」

「・・・・くっ。・・・お、怒らないで、下さい・・・。」

「・・・よし。」

「__________金貸し君。・・・近い。」

「うるせえ、李翔っ!!」




夕鈴が王宮に戻る日の、朝。

回復した岩圭と、青慎は。

信じられぬ思いで自宅の居間を見つめていた。



「なあ、青慎。」

「なに?父さん。」


呆然とする岩圭に、青慎はにっこり微笑み。


「・・・・これは、夢、か?」


国王陛下が我が家にいるという現実を信じられず。

頬を抓ろうとする父の手を、そっと押さえた。


「違うよ。『夢が終わるんだ』って。姉さんが言ってた。」





『どんな夢にも、終わりがあるのよ。』


幸せそうに微笑みながらそう言った、姉の顔を。


少し悔しい様な、嬉しいような。

複雑な気持ちで、青慎は思い出して。


姉を見送り。


黄金色に煌く甍が連なる王宮を、見つめる。



_________そう遠くない、未来。


僕も、そこに行くから。



数ヵ月後。


「じゃあ、行って参ります!」

「青慎!帰りがけに、うちに寄れよっ!」

「はいっ、几鍔さん!」


学問所に向う道すがら、行き交う人々が口々に言い合う声が耳に入る。


『狼陛下が正妃を迎えるってさ。』

『慎み深くて優しい方だそうだ。』

『めでたいねぇ。』

『ああ、一安心だ!』


誇らしいような、くすぐったい様な気持ちが胸を満たす。


「__________頑張らなきゃ!」


今日も美しく輝く甍に向って、笑みを投げ。


「行って参ります!姉さん!」


青慎は、走り出した。

C.O.M.M.E.N.T

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