2013_10
11
(Fri)17:08

いつか 5

【設定・臨時花嫁】


《いつか 5》




沈み行く舟を、遠巻きに囲み。

刺客たちは、狼陛下の到着を待っていた。


唯一の妃。


これ以上分かりやすい的はなく。

これ以上の囮はない。


どちらでも、いいのだ。

このまま妃が溺れ死のうが。

狼がおびき寄せられようが。


___________自分達が、死のうが。


仕えるべき主は、既になく。

求めるものも、何もない。

あるのは。


珀黎翔に、一矢報いる。


それだけ。

それだけが、彼らの願いであり、目的で。

そこに夕鈴の生死は、無関係だ。


ただ静かに沈み行く、小舟を。

彼らは何の感情も浮かばぬ目で見つめていた。









走り去る黎翔を見送り、笑みを浮かべ。

浩大は桂花の香りを辿る。


香り袋だ。


湖畔へ向う小道の、脇。

低木に引っかかっていたそれを、手に取る。

地面には荒らされた形跡はなく、きちんと訓練された者の仕業と知る。

周囲には、池しかなく。

妃を殺すには、ちょうど良い場所だ。


ただ、沈めるだけでいいのだから。

その骸を、池に浮かべるだけでよいのだから。



「っ!どこだ?!」


澄んだ水面に、不審なものはなく。

ただよう空気に、違和感が混ざる。


おかしい。


静か過ぎる。



研ぎ澄まされた隠密の感覚が、危険を告げ。

遅れて現れた黎翔の姿に、びりびりと肌に刺さるような気配が集中した。


「_________陛下、罠だ!!」


声を上げるや否や、矢が飛んでくる。

無数の苦無が突き刺さる。


飛んでくる、方向は___________

どこだ。



目だけを動かした、浩大は。

彼らの中心を探る。

そこにいるはずの、妃を探す。



俺は、見つけてやらなきゃならない。

例えそれが、骸だろうが。


いつか来る、その日から。

目を背け続けた、あの人に。

わからせてやらなきゃならない。


あの娘が、どんな思いで今日までを過ごしてきたのか。

どれほどの覚悟で、ここに居続けてくれたのか。


俺は。

わからせて__________


「っ!!」


水面が揺れ、浩大の目が鋭さを増し。

蓮の中に隠された、小舟を見つける。

不自然に揺れ続けるそれは、半分沈みかけていて。

薄い茶色の髪が、微かに見える。


「浩大っ!!こちらに構うなっ!!!」

それと気付いた黎翔の声が響き。

「了解っ!!」


浩大は黎翔に背を向け、小舟に向かい走り出した。






_________これで、いい。


夥しい数の刺客に囲まれ、黎翔は笑みを浮かべた。

夕鈴を助けに向った浩大を追うものは、誰もおらず。

狙いが自分だった事に、安堵する。



烏の不吉な羽音がする。

見慣れた血飛沫と、嗅ぎなれた生臭い匂いと。

聞きなれた断末魔の悲鳴が、する。



これで、いい。


『なに怯えてんだよ』


浩大の声が甦る。


知られたくなかった。

見られたくなかった。


ただ、優しく護りたかった。



「陛下っ!!」


浩大の声で、夕鈴の無事を知る。



___________これで、いい。


鮮やかに笑んだ、黎翔は、

群がる影を、無造作に斬り続けた。




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