2013_08
23
(Fri)10:22

処暑

【設定・原作沿い】


《処暑》




冷たく寂しい冬が、終わりを向え。

ようやく春めいてきた頃。

君は僕の前に現れ。

冷え切った僕の心に、柔らかな温もりを与えた。


温もりはやがて、身を焦がす熱となり。

いつか手放さねばならぬ君への想いは、僕を焼く。



____________処暑。



暑さの、終わり。


・・・・頃合い、なのだろうか。












「お帰りなさいませ、陛下。」

「妃よ、今帰った。」


妃の微笑と国王の甘い言葉で、いつもの夜が始まり。


「・・・・そろそろ、温かいお茶が美味しい季節ですね。」


柔らかい色合いの茶杯を黎翔に渡しつつ、夕鈴は何気なく口にした。

ぴくっ、と、黎翔の指が跳ねるように動き。

長椅子に座ったまま、少し俯く。


「・・・陛下?」


茶杯を受け取ろうとしない黎翔に、夕鈴は首を傾げ。

その顔を見ようとするが、俯いてしまった黎翔の表情は、前髪に隠れて殆ど読めず。


「・・・・私、何か変なこと言いましたか?それとも、お茶が・・・?」


慌てだした夕鈴を安心させるように、黎翔はにっこりと小犬の笑顔を作り。

問いかけた。


「___________正直に、答えてほしい。」

「はい、何でしょうか?」

「夕鈴。・・・・帰りたい、か?」


顔を上げ、真っ直ぐに自分を見つめる黎翔の紅い瞳に宿る、「何か」に。


夕鈴の本能が、警鐘を鳴らした。












もうそろそろ、頃合い。

一度そう思ってしまった気持ちは、坂を転げるようで。


「___________どうしたいのだ、私は。」


後宮へと続く回廊を、常に無くゆっくりと歩きながら。

黎翔は、自問し続けた。


__________逃がしてやりたい。

__________逃がしたくない。


二つの気持ちがせめぎあい、胸を掻き乱す。


秋の気配を感じさせる、夜風は。

黎翔の髪を優しく撫でるように、すり抜け。

さらり、と心地よい音を立てる。


・・・・あの時も、風が吹いていたな。


『私はどこにいても、きっと陛下の味方だから・・・』

『覚えといて下さいね』


衝立の修繕代を口実に君を引き留めた、あの日。

温かい風が、花びらを散らし。

君の笑顔を彩った、あの日。


向けられた、翳りの無い笑顔と、心からの言葉に。

折れそうで折れない、しなやかな強さに。

柔らかい薄茶の髪に。

きらきらと輝く茶色の瞳に。

弧を描く艶やかな唇に。

すぐに染まる頬に。


_____________そう。あの日から。


君の全てに、僕は捕らわれた。


回廊の向こうに、温かな光が見える。

夕鈴の部屋の、灯り。

転がり続けた気持ちの、行き着く先。



守れる、だろうか。

父のように。

・・・何が、あろうと。



君は、側に居てくれるだろうか。

・・・何が、あっても。



「・・・・頃合い、か。」


もう一度、小さく呟き。

黎翔は妃の部屋に渡った。















「夕鈴。・・・・帰りたい、か?」


そう問いかけた陛下のお顔は、笑っているのに、笑っていなくて。

綺麗な紅い瞳の中に、陛下の本気を感じた。



__________逃げなきゃ。

__________逃げたくない。


二つの心がせめぎあい、胸が苦しくて息が止まりそうになる。


誤魔化しちゃいけない。

そう思って。


私は、陛下の前に跪いた。



「・・・・・わからないんです。陛下。」

「え?」

「陛下のお側にいて、お力になりたいと思う、気持ちと。『臨時花嫁』なんて早く用済みになった方がいい、っていう、気持ちと。どっちが本当の私の気持ち、なのか。」

「夕鈴。」

「だ、だって!優しい陛下が安心して『王様』できるようになって欲しい、って思うけど、陛下のお側にいたいな、って思う気持ちもあって!でも、私が陛下のお側にいるって事は、陛下が安心出来ない証拠って言うか・・・えっと、だから・・・・ここにいたいけど、いちゃいけないっていうか、いてもいいのかな?って思ったりとか、早く帰らなきゃ、って思ったりとか、でも陛下に会えなくなると思うと寂しいって言うか、え、と・・・・」


ぐちゃぐちゃな思考のまま、嘘だけはつかないように、しゃべり続けた、私は。

もう、混乱の極みにいたのだろう。


「・・・・青慎のことも心配だけど、陛下のことは、もっと心配で。きっと私の知らないところでたくさん危ない目に遭われているんだろうと思うと、胸が痛んで苦しくて。早くお妃様をお迎えになって、優しい陛下のままでいられるように、って思っても、なんだか胸がズキンってなるし、ただの庶民が陛下の事を心配するなんて、身の程知らずにも程があるって言うか、分を弁えなきゃって思うんですけど、でも、やっぱりいつも陛下のことが」


「___________夕鈴。夕鈴。」


気付いたら、陛下は立ち上がっていらして。

私は、茶杯を持ったまましゃべり続けていた自分に、やっと気付いた。


「っ!わ、私ったら、なにをぺらぺらと・・・・ごめんなさ」

「何を謝る?」


頭上から降り注ぐ陛下の声は、なんだかとても嬉しそうで。

私の手の中から、茶杯が消え。

ことり、と卓に置かれた音がして。

___________息をする事も出来ないほど、抱き締められた。




どれほど、そうしていたろうか。


「・・・・頃合い、だな。」


嬉しげに呟いた黎翔は、腕の中の妃を見つめ。


「・・・・側に、いてね?」


囁き。


抱き締められたままの、夕鈴は。


「・・・・陛下が、お許しくださる限りは。」


小さく答えた。


その言葉に、黎翔はさらに腕に力を込め。


「____________では、永久に・・・」

「っ?!」


目をぐるぐると回す、愛しい兎に口付けを贈りながら。


優しく優しく、微笑んだ。
辟易   
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捕獲!

すみません。
陛下の声が脳内に届いたような…。
「捕まえた」
…なんか、変な電波受信しちゃったんでしょうか(汗)
陛下、せめて順序はつけて、一つずつ、にしましょう。
一気に往っちゃいけませんよ!(←何がだvv)

2013/08/23 (Fri) 11:33 | twomoon #- | URL | 編集 | 返信

NoTitle

すっ飛ばしましたね?
同意を得る前にとりあえず口づけ。
ほんっと、待てが出来ませんね陛下。
最後の笑みは、それこそ「捕まえた」なんじゃないでしょうか…(-_-;)

2013/08/23 (Fri) 12:23 | さき #- | URL | 編集 | 返信

なんて(*´д`*)

なんてしっとりとしたお話ですか!
この続きの春部屋をねだるのが恥ずかしくなるような、
完璧のガード・・・、いえっ!完璧なお話!
もう、このお話が本家の最終話でもいいくらい。
純粋で、エロっ気がなくて、ララに載せれます!
凄く好きです。
でも、やっぱりもう秋モードですよね。
今から海のSSを書こうとしてる、季節感のない私(笑)

2013/08/23 (Fri) 12:24 | 羽梨 #- | URL | 編集 | 返信

Re

twomoomさまへ
陛下の心の声が届いたものと思われます。
順序・・・順序って。笑
脳内の陛下がきょとんとしたお顔でtwomoonさまを見つめておられます。
「そんな、いきなりなんてしないよー。」
って仰ってますが。
根本的に何かが擦れ違ってますか?笑

2013/08/23 (Fri) 15:07 | あさ #- | URL | 編集 | 返信

さき様へ

ふふ。
すっ飛ばしましたか?失礼致しました。
うちの陛下にしては、頑張ったんですよ?
春先から処暑まで、「待て」しました。笑

2013/08/23 (Fri) 15:08 | あさ #- | URL | 編集 | 返信

Re

海ですか?
海のSSですか??読みたいっ!!
・・・・お、おじさまは出ていらっしゃるのでしょうか?←こっそり聞いてみた
今朝ニュース観てたら、気象予報士のお姉さんが「処暑」と書いたパネルを持ってまして。
書いてみようかな、と書き始めたらこのようなことに。
珍しく、完全に表Ver.のSSが書けました!!やればできるっ!!←いつもやれ

2013/08/23 (Fri) 15:11 | あさ #- | URL | 編集 | 返信

NoTitle

捕まえた!
ほんとに。
そろそろ 頃合いですよね?
夕鈴もぎゅーっと抱きしめられて、
もっともっと幸せになってください^^
Go! Go! 陛下!

2013/08/24 (Sat) 06:56 | おりざ #iPUlC.7. | URL | 編集 | 返信

おりざ様へ

本当に、そろそろ頑張れ!陛下!!←
ようやく、本誌を読めました。
いやー・・・眼福です。幸せー。

2013/08/24 (Sat) 23:46 | あさ #- | URL | 編集 | 返信

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