2013_08
18
(Sun)13:42

刻花 3

【設定・臨時花嫁】



《刻花 3》





黎翔が賊に襲われる、数日前。

李順は、黎翔に夕鈴の借金を終らせる旨を報告した。



「__________善良な彼女を、いつまでも借金を理由に縛り付けるわけには参りません。」

「・・・そう、だな・・・」

「内政も安定して参りましたし、陛下もしかるべき家柄の正妃様を・・・・」

「・・・・」

「陛下。」

「・・・・・」

「陛下。」

「うるさい、聞こえている。」

「夕鈴殿も、いい加減に帰して差し上げなくては________」

「うるさいっ!!」

「陛下っ!」

「・・・・わかっている。__________それくらい、わかっている。」

「でしたら・・・」

「__________ほんの少しで、よい。数日だけ、時間をくれぬか。」

「・・・数日、でしたら。」




____________あの日から、陛下は遠乗りに出かけられるようになり・・・


襲われ、傷を負い。

意識の混濁。

目を背けたい現実。


その、結果が。


「これ、と言う訳ですか。」


李順は、庭園の四阿でくつろぐ王と妃を見やった。






「ささやかな現実逃避、ですよ。」


ことり、と卓に茶杯を置き、李順はため息をついた。


「現実逃避、のう・・・あの陛下が、か?」


疑わしげな老師に、李順は続ける。


「_________数日の猶予を、お望みでした。彼女を帰す前に、ほんの数日の猶予が欲しい、と。」

「帰す?!妃を帰す、じゃと?!」

「バイト、です。内政も安定し、彼女の役目は・・・・もう、終わりました。」

「じゃが!あの娘以外の誰が、陛下のお心を癒せると・・・・!!」

「全て承知の上、ですっ!!」


ガタン、と、荒々しく立ち上がった李順の手は、白くなるほどに握りこまれ。


「陛下の大切な御方を、不幸にしろ、と?!」

「っ!」

「後ろ盾も身分もない、あの方を・・・この『後宮』にいつまでも留めおくことが、どれほど残酷な事か!!」

「言葉を慎め!」

「黙りませんっ!老師が一番良くお分かりでしょう?!」

「・・・・わかっておる!そんなことは、わしが一番・・・・」


黙り込んでしまった張元と。

何かを耐えるように、歯を食い縛った李順は。


美しい花々が咲き乱れる庭園で、穏やかに微笑み合う王と妃を、いつまでも見つめていた。










「__________以上が本日の政務でございます。」

「ああ、わかった。」


記憶を失ったとは言え、黎翔の仕事振りに支障は無く。

記憶が戻るきっかけも掴めぬままに、三日が過ぎていった。


宰相との政務も、大臣達とのやり合いも。

常の黎翔と何の変わりもなく、こなしてゆく。


「・・・・陛下。本当に、記憶が?」


人払いをした執務室で、李順は黎翔に問いかけた。


「恐れながら、怪我をなさる前と後の陛下には、特にお変わりがないように見受けられるのですが?」


正面から黎翔を見つめ、その瞳を探る李順を。

黎翔は、真っ直ぐに見つめる。


「・・・悪いが、記憶を失った振りをするほど、悪趣味ではない。部屋の造作や迷路のような回廊。右も左も分からず、困っているのだぞ?・・・まあ、体が勝手に動いてくれるからどうにかなってはいるが、な。」


手元の筆を持ち上げ、くるりと回し。


「・・・この筆一つを取っても。見覚えはないのに、指に馴染んでいるのは良く分かる。・・・奇妙なものだ。」


短くため息をつき。


「ただ、『妃』だけは・・・・難しいものだな。」


苦笑した。




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