2013_08
13
(Tue)07:43

始まりの日

SNSの我が家にて30000人目のお客様となられれたHさまのリクエストです!



【設定・未来夫婦】
【オリキャラ出ます。長男清翔君の生まれた日のお話しです。】
【出産シーンがちょっとだけあります。直接的な表現はありませんが、苦手な方はご無理なさらず。】
【青慎は官吏になっております。色々と、未来設定です。】



《始まりの日》




ありとあらゆる、毒。

考えうる限り全ての、手段で。

昼だろうが、夜だろうが、送り込まれる、刺客。



笑顔に凄みが生まれるほど憔悴しきった、浩大。

張元の顔色も、青黒く変り。

衣装から覗く李順の手首は、驚くほどに細くなり。

黎翔の眼光は、日々鋭さを増す。



もうすぐ、産み月。



正妃の部屋にいるのは、大きなお腹を抱え、寝台に横たわる夕鈴の『身代わり』で。

それを悟らせぬために、黎翔たちは必死にその『身代わり』を守り続けていた。



そんな、ある日。



「__________陛下。お耳に入れたいことが。」


朝議場から執務室へと足を運ぶ黎翔に、方淵が近づいてきた。


「何だ。」


努めて平静に、黎翔は問い返し。

だが、異変を察知した背には、冷たい汗が伝う。


「・・・・几から、使いが参りました。」

「っ!」


一瞬も足を止めず、顔色も変えず。

黎翔は、「そうか」とだけ呟くと、自室へ向った。


「着替える」とだけ、言い残して。






その、半刻後。


下町。

几商店の、奥の間。




「おいっ!産婆はまだかっ?!」

「鍔、うろたえるんじゃないよ、みっともない。初産は時間がかかると相場が決まってるんだ。産婆はまだ来ないよ。」

「・・・っ!『あいつ』は、まだ来ねえのかっ?!」

「・・・・来ちゃ・・・だ、め・・・・」

「何言ってんだ!!!てめえの子が産まれるってのに!」

「へいか・・・・と、やくそく・・・・ひとりで、がんばる、って・・・」

「っ!!」

「・・・いい覚悟だ。やっぱり、うちの嫁にしたかったよ。」



珠のような汗を浮かべ、寄せ来る痛みの波を堪える夕鈴の手を。

おばば様は、しっかりと握る。


「大丈夫だ。必ず無事に産ませてみせる。あたしを信じな。」

「は、い!」


据わった目の二人を見つめながら。


「_________女って、すげえな・・・・」


几鍔は成す術もなく、立ち尽くした。







「はやっ!!」


浩大の遥か前方を風の様に走る黎翔の姿には、鬼気迫るものがあり。

ここ数ヶ月まともに睡眠を取っていない浩大の足では、とても敵う物ではなかった。

足を早めようとした途端、ぐにゃ、と視界が歪み。


「あー・・・ごめん、ちょっと速度落とさせて?」


浩大は嘆息した。



________ここで倒れるわけには、いかねえからさ。俺。


これから、だ。

本番は。


赤子の命を奪うなんて朝飯前のやつらばかりの、王宮。

でも。

それでも。


俺は、決めたんだ。


陛下とお妃ちゃんの子を、『守る』って。


この身が失せようが、守りきってみせる、って。


俺の大切なものは、陛下とお妃ちゃんだけ、だからさ。


二人が幸せそうに笑ってる姿を見るのが、俺の『幸せ』だから、さ。



___________大丈夫だ。


ここに不穏な気配は、ない。


今頃はお妃ちゃんの身代わりが、産気づいた振りをしているはずだ。

李順さんが必死に手を回して。

じいちゃんが全力で護衛して。

全ての客を、招き寄せている、はず、だから。



お妃ちゃん。

安心していいんだぜ?


もうすぐだから。

もうすぐ、陛下が行くから、さ。



「あー・・・・ちょっと、しんどい、か、な・・・・」


足がもつれる。

視界が真っ白に染まる。


やばい。


そう思った時。


「浩大さんっ!!」


青慎の腕が、浩大を支え。


「柳方淵殿が、知らせてくれて!王都の視察に出して下さったんです!!」

「あ・・・弟君、か。」

「大丈夫ですか?!背負いますよ?!」

「いや、それだけは勘弁して。俺、一応隠密だし。」

「では、歩けますか?」

「・・・・ああ、もう大丈夫。」


心配顔の青慎に、浩大は明るく笑いかけ。


額に浮かぶ冷や汗を拭い。


「行くか!!」


元気よく、歩き出した。














「夕鈴っ!!!」

「落ち着けっ!!扉が壊れるっ!!!」


外套を翻して几商店に飛び込んできた黎翔は、奥の間に走りこもうとして_________おばば様に道を塞がれた。


「男の出る幕じゃないっ!!!」

「っ!」


_________ばあさん、狼陛下を相手に気迫で勝ちやがった。


青ざめる几鍔と、整わぬ息のまま、おばば様と相対する、黎翔。

しばしの沈黙の、後。


ぱたん、と産室の扉が開き、初老の産婆が顔を覗かせた。


「・・・あんたが、父親かい?」

「はい。」

「奥さんが呼んでるよ。入って。」

「・・・はい!!」


ぎくしゃくと、黎翔は夕鈴が横たわる寝台に近づき。

信じられないほど汗をかき、顔を歪めて痛みを耐える妻の手を、そっと握る。


「・・・・ゆう、りん。」

「れいしょ、さま・・・・来て、下さったの・・・?」


視点の合わない夕鈴の瞳は、どこか空ろで。

青白い顔と、細くなった腕に、不安で押し潰されそうになりながら。

黎翔は、必死に笑顔を作る。


「_________もう、大丈夫だ。安心していい。君と子に害をなす者は、もういないから・・・」

「れいしょうさまも、だいじょう、ぶ?」

「っ!」



___________君は、こんな時にも私を案じるのか。



我知らず、黎翔の瞳から雫が伝った時。


「産まれるよっ!!!」


産婆の嬉しげな声が部屋に響き。


「きゃぁぁぁぁぁっ!!!!」


夕鈴の甲高い悲鳴が、上がる。


「_______________っ!!!!」


一瞬、時が止まった。

そんな気がした、次の瞬間。


「ふぎゃぁぁぁっ!」


赤子の鳴き声が響き渡った。


「良く頑張ったね、男の子だよ!ほら、抱っこしてておくれ、お父さん!」


赤子を布に包み、手早く臍の緒の処置を終え。

額の汗を拭いながら、産婆は柔らかくて温かい宝を、黎翔に渡した。


「お母さんはまだ後産があるからね、ちょっと待ってておくれ。」


てきぱきと母体の処置を始めた産婆を呆然と見詰め。

黎翔は、腕の中の我が子を見やり。

ぐったりと横たわる、夕鈴の頬を撫でる。


「・・・・黎翔さま・・・」

「・・・・夕、鈴。ありがとう。綺麗な男の子だ。」

「ふふ、よかった・・・。」


ほう、と息を吐く夕鈴に、産婆の叱咤が飛んだ。


「まだ寝ちゃだめだよ!ちょっと出血が多いから我慢しておくれ。」

「え?我慢?・・・・って!い、いたたたたっ!!痛い!!」

「これを何とかしないと血止めが出来ないんだよ、我慢して。」

「ええええ?!__________っ!!いっ!いい、痛っ!!!!」

「はい、終わったよ・・・お疲れさん!ゆっくりお休み。」

「・・・・終わった・・・・・よ、よかった・・・・」


目を白黒させる夕鈴の額に、そっと口付けを落としながら。

黎翔は、赤子の顔を夕鈴に見せてやった。


「綺麗な、黒髪・・・・あ、瞳が・・・・」

「僕とお揃い、だね。」

「はい!嬉しい!」


にっこりと笑う二人の間で、ふにゃふにゃと赤子が声をあげ。


その声音の清らかさに、笑みを深めた黎翔が。


「__________清翔」


呟く。


「え?」

「清翔。いい名前だと思わない?」

「せいしょう・・・・清翔。ええ、いい名前です!」


幸せそうな笑い声が、産室を満たし。


外で控えていた、几鍔や青慎。

浩大にも、安堵の笑みが広がる。


「未来の王様がうちで産まれるとはなー・・・・」

「姉さん・・・・無事で、よかった・・・・」

「・・・・やっと、本番だ・・・・」


気が抜けたように呟いた三人に、おばば様の叱責が飛んだ。


「ほら!祝いの仕度だよっ!!鍔!青慎!それから・・・・アンタも!とっとと買出しにいっとくれ!!」


「「「はいっ!!!」」」


慌てて飛び出した三人を見送ったおばば様は、そっと産室の扉を開け。

安らかに眠る母子を抱きかかえる父親に、微笑みかける。


「めでたいねぇ。___________今日だけは、ゆっくりしておくれ。・・・大変なのは、これから、だろ?」


母子を起こさぬよう、そっと囁いて。

できるだけそうっと、扉を閉めた。


これから始まる、本当の『始まり』に。

_________思いを馳せながら。
守珠   
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2013/08/14 (Wed) 02:43 | # | | 編集 | 返信

お名前なし様へ

8月14日にコメントくださった、お名前なしの方へ
未来設定をお気に召して頂き、ありがとうございます。
「始まりの日」の続きは、「毒の功罪」(未来設定SS)になります。
前段階は、「隠密の独り言」シリーズ(続き物SS)です。
基本的に、未来設定は、ぐるぐると回りながらも(笑)、全部繫がっております。
お気に召していただければ、幸いです。
あ、青慎くんがらみでしたら、「青慎の一日」と「続」がございます。(未来設定SS)
これからもまだまだ増えるかもしれませんが、どうぞ宜しくお願いいたします♪

2013/08/16 (Fri) 23:48 | あさ #- | URL | 編集 | 返信

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