2013_08
06
(Tue)14:48

恋文

【設定・未来夫婦・お子さまなし】
【捏造がいっぱいです】




《恋文》





こんなはずじゃ、なかったのに。


こんなはずでは、なかったのに。








主に国王のわがままにより、正妃と国王の部屋は、同室だ。

当初二つ並べられていた寝台は、いつまで経っても片方しか使われないので、かなり大きな寝台が一つだけ設置される事になり。

「正妃の姿を常に目に映したい」と譲らぬ国王のため、仕切りも少なく、広々とした空間が広がっている。



ここ数日。


そのやたらと広い部屋に、夕鈴は一人で住んでいた。


「今日も、遅くなるのよ、ね・・・」


夕餉も湯殿も済ませ、侍女たちを下がらせ。

しん、と静まり返った広い部屋に、夕鈴は一人きりになる。


「はー・・・・・落ち着かない・・・・」


とことこと部屋中を歩き回り、目に付いた書物を手に取り。

温かい花茶を淹れ、長椅子に運び。


「陛下、早く帰ってこないかな・・・・」


書物を繰りながら、ぼそりと呟いた。


しばらくすると、コンコン、と天井から音がして。


「・・・・お邪魔しますー・・・」


浩大が顔を覗かせ。


「あ、浩大!お茶でもどう?」


話し相手が出来たと喜ぶ夕鈴に、申し訳なさそうな顔の浩大が、


「ごめんよー、ちょっと陛下に仕事頼まれちゃってさー・・・」


悪いね、と言って、陛下からの伝言を伝えた。





「・・・・そっか・・・・陛下、今日も遅くなるのかぁ・・・・」


しょんぼりとした夕鈴の肩は、がっくりと落ち。


読みかけの書物への興味も失せてしまい、ぱたりと寝台にうつぶせた。


「もう夜も遅いし・・・・侍女さんに相手をしてもらうのも申し訳ないわよね・・・・」


正妃の公務と、ぎっしり詰め込まれた老師の講義や稽古事。

日のあるうちは、夕鈴の予定はぎっしりと詰まっており、息を抜く暇もなく。

唯一の楽しみだった、黎翔とのお茶の時間も持てない。

夕鈴が忙しいと言う事は、侍女達も同様に忙しいと言う事で。


「もう、寝よ。」


諦めたように、夕鈴は目を閉じた。















_______________おかしい。


眉間に皴を寄せ、官吏を威嚇しながら。

黎翔は胸の内で呟く。



おかしい。

こんなはずではなかったのに。



いつも夕鈴を見て、いつも夕鈴に触れて。

夕鈴の淹れたお茶だけを飲んで、夕鈴の香りを近くに感じ・・・・られる、はず、だったのに。

夕鈴そっくりの笑顔を見せてくれる、青慎君まで、いない。


「・・・・なんだ、この状況は。」


我知らず、底冷えのするような声が唇から零れ。

ぴきん、と空気が凍る。


誰もが感じている、王の「限界」。

だが、それを表立って口にするものは、誰もおらず。

日々凶悪さを増してゆく国王に、誰もが怯えた。


「おい・・・汀青慎はまだ戻らないのかっ?!」

「北方へ視察に出て、もう一週間だぞ?!」

「二ヶ月は戻らないはずだが・・・・」

「正妃様以外でこの状況を何とかできる、唯一の人材が・・・・っ!!」

「誰だよ、汀青慎を視察に出したやつはっ!!」

「・・・李順殿、だったよな、確か。」


はぁぁ、と、諦めの深いため息が官吏たちから漏れた。




「陛下、次の書簡を。」


飄々とした表情で、李順はどさりと山を積み上げ。


「大至急です。」


容赦なく押し付ける。


心底嫌そうな顔をした黎翔は、李順を睨み付けた。


「____________李順、一体いつ」

「これが終われば帰れます。」


黎翔の言葉を封じ、書簡を整えると見せかけて、李順はさりげなく紙片を置く。


『兎が、寂しいってさ』


ほんの僅かにだが、黎翔の頬が染まるのを李順は目の端で認め。


生き返ったように書簡を捌く国王に、少しだけ笑顔を向けると。


「__________さあ、あと少しです。間違いなどないよう、気を引き締めてかかって下さい。」


身を縮こまらせていた官吏たちに、明るく声をかけた。











「______________だめだ。眠れない・・・・」


身体は疲れているのに、眠りは訪れず。

夕鈴は諦めて身を起こした。


「花茶を飲んだのが悪かったのかしら・・・・」


ふぅ、とため息をついて、寝台から降り。


「なにをしようかな・・・」


少し考えると、いい事を思いついた。


「そうよ、青慎に手紙を書けばいいのよ!」


いそいそと墨をすり、手ごろな料紙を広げ。

今頃は李家に守られて北方を視察しているはずの、最愛の弟へ。

さらさらと手紙を書き始めた。








「__________終わったぞ。」


最後の書簡を李順に渡し。

黎翔はガタンと椅子から立ち上がった。


「明日は休みだ。」


しっかりと言い捨てて、足早に後宮へ向う王の背後には。

累々と積み重なる、官吏の屍。


「・・・・李順殿・・・もうだめです・・・・」


机に突っ伏す者。


「もう、なにがなんだか・・・・」


呆然と宙を見つめるもの。


「何を軟弱なっ!」


叱咤する方淵の声も、掠れていて。

足元がふらふらと揺れている。


「・・・おや、終わったようだね。」


どこからともなく現れた水月がさらりと呟いた。


「貴様っ!どこへ行っていた!!貴様の分はとってあるからな?!」

「・・・おや、月に呼ばれているような・・・・」

「月は喋らんっ!!!」



やりあう方淵と水月の背後から、李順の明るい声が響く。



「・・・・・まだまだ、元気がおありになるようですね?お二方。」

「「っ!!!」」


涼やかな微笑を浮かべた、李順から。

二人の机上に、心を込めた贈り物の山が届いた。



「早く帰ってこないかな・・・」

「ああ・・・・北方は遠いな・・・」



・・・手伝って欲しい。

方淵と水月は、深々とため息をついた。












「___________あ、陛下っ?!」


寝ているであろう夕鈴を起こすまいと、そうっと入室した黎翔に、夕鈴は花のような笑顔を向けた。


「お帰りなさいっ!!」


ぴょこんと跳ね上がるように、椅子から立ち上がり。

小走りに黎翔へと向う。


「え?夕鈴起きてたの?」

「ええ!青慎に手紙を書いていたんです。」


何気なく机を見やると、綺麗に封をかけられた文箱と。

その文箱で隠すように、小さな結び文が、ひとつ。


「・・・・これは?」


すいっ、と結び文を手に取った黎翔の手を慌てて押さえ。


「こ、これは・・・・っ!これはダメ、ですっ!!失敗作ですから!!」


頬を真っ赤に染めて慌てふためく妻の姿に、邪念が湧く。


「___________ほう。隠し事、か?」


夕鈴に限ってそんなことはない、と信じてはいるが・・・・

まさか、几鍔へ、とか?!

方淵?!いや、それはないか。

水月?いや、それもないだろう。


夕鈴が好んで纏う、桃色の衣装と同じ色の紙の、丁寧に結ばれた文。


「だ、だめですっ!返してっ!」


青ざめる夕鈴の姿に、黒い感情が湧き出した。


「さて・・・・どうするか・・・・」


とりあえずは、不届き者が誰かを確かめねば。


結び目を解き、細かく折られた紙を開き。


「み、見ないでっ!読まないでーーー!!!」


必死に飛び上がって手紙を取ろうとする夕鈴を無視して、読み進め。



『寂しいです。少しだけでいいから、陛下のお顔が、見たい。』



黎翔の体が固まった。



「__________だ、だからっ!!見ないでって!恥ずかしいから見ないでって、い、言ったのに・・・・」


へなへなと床に崩れ落ちる夕鈴と、文を見上げた格好で固まった黎翔。


「か、書くだけで満足、し、したから・・・・みせ、みせなくて、よ、よかったの、に・・・」


泣き出した夕鈴の身体が、宙に浮き。


「・・・・ごめんね・・・・・」


柔らかく包まれ、ゆっくりと、寝所に運ばれる。




黎翔は、彼女を疑った自分を恥じた。


「人の手紙を勝手に見ちゃ、だめだったよね・・・・ごめんね、夕鈴。」


君からの秘めやかな、恋文。

あのままにしておけば、気を利かせた侍女なり浩大なりが、自分の元へ届けただろうに。


_____________もったいない事をした。


どうすればもう一度夕鈴に恋文を書いてもらえるのかを、考えながら。

黎翔は、腕の中の兎に溺れていった。

C.O.M.M.E.N.T

堪え性が無いのも…。

折角の可愛らしい恋文も、台無しね~♪
自業自得です、陛下v (ぷぷvvv)
でもしっかり兎を堪能することは忘れない陛下(笑)
流石です~。
うん。リベンジしようとあれこれ考えて、お仕事疎かになって、側近からまた心をこめた書簡が山と来るんだ、きっとvvv
あ、そしたら寂しくなった兎さんから、恋文貰えるかもねvvv(うぷぷ)
結局、美味しい思いをする前に、しんどい目に合わなきゃいけない不憫陛下、万歳!!(^0^)/

2013/08/06 (Tue) 15:40 | twomoon #- | URL | 編集 | 返信

Re

素敵なスパイラルがここに。笑
折角、可愛らしい恋文が手に入るところだったのに。
陛下ったら、もう。
次はいつ書いてもらえるのでしょうか。ふふ。

2013/08/06 (Tue) 17:40 | あさ #- | URL | 編集 | 返信

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2013/08/06 (Tue) 19:13 | # | | 編集 | 返信

ちび様へ

陛下もイチコロです。
一文で落とす夕鈴。さすがです!
陛下も青慎にだけは、優しいようで。
「陛下、こちらの書簡ですが、少々問題が・・・」
(おおっ!陛下に相談事を持ち込んだぞ?!さすが汀青慎!)
「・・・・ああ、なるほど。気付かなかった。この件に関しては水月に。李順への報告も忘れるなよ?」
(うわっ!陛下が微笑まれたぞ?!さすが汀青慎っ!!)
こんな具合です。笑
あれ?陛下?
どうして御腰の物にお手を?
おや?
あれ?え?ちょっと待って?私?ちび様でなく、私っ?!
ええっ?!まだ何にもしてないのにっ!!!
たすけてー!!!

2013/08/06 (Tue) 19:36 | あさ #- | URL | 編集 | 返信

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2013/08/06 (Tue) 22:22 | # | | 編集 | 返信

おりざ様へ

陛下も、ずきゅんっ!!
と、やられました。
さすが夕鈴です。ふふ。←

2013/08/07 (Wed) 07:03 | あさ #- | URL | 編集 | 返信

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