2013_08
03
(Sat)12:34

最優先

【設定・臨時花嫁】


《最優先》



「ねえ、夕鈴。今日は暑いね・・・・」

どんな時も涼やかに笑んでいらっしゃる陛下が零した、小さな弱音。



「李順。暑いぞ。」

いつもの我儘だ、と聞き流してしまった、陛下の呟き。



「・・・・ああ、浩大か・・・・」

少し反応が鈍いな、って思ったのに。




「私のせいです・・・・」

「私としたことが・・・・」

「あー・・・・。」


高熱にうなされる黎翔の傍らで。

三人は、がっくりと肩を落とした。












たちの悪い風邪を引き、黎翔が寝込んでしまってから、今日で五日。

こまめに水分をとらせ、体を冷やし。

少しでもいいから、と粥を食べさせ、無理やり薬湯を飲ませ。

夕鈴の必死の看病と李順の叱責のおかげで、黎翔はどうにか寝台に起き上がれるまでに回復した。



「・・・また、薬?」


夕鈴お手製の粥を平らげた黎翔は、潤んだ瞳で夕鈴を見上げ。


「・・・飲まなきゃ、だめ?」


悲しげに首を傾げる。


「う・・・・・」


言葉に詰まった夕鈴の背後に立つ李順は、「ダメですっ!!」と、ばっさり切り捨て、ずいっと薬湯を差し出した。


「薬湯がお嫌なら、丸薬に致しましょうか?それとも散薬?」

「・・・・毒の判別がしにくくなるから、このままでいい・・・」


少々物騒な会話を交わし、嫌そうに椀に口をつけた黎翔を見やり、口直しの蜂蜜をお出ししようと、夕鈴は一度退席した。


廊下へ出て、侍女を呼ぶ。


「あの、誰かいませんか?」


いつも控えているはずの侍女が、いない。


おかしい。

そう思ったときには、すでに遅く。


「!!」


背後から飛び降りた影が、夕鈴の口を塞ぎ、小刀を首筋に当てた。


「・・・・このまま、厨房へ。」


賊は、滑るような動作で夕鈴の足を誘導し、廊下を進ませ。

誰もいない回廊を渡り、国王専用の厨房へと到着した。

厨房の一角には、目隠しをされ手足を縛られた、侍女や侍官たちが転がされ。

料理人たちも同様に一纏めに縛られていた。




「ぅぐ!!」


振り返り、ぎっ、と賊を睨みつける夕鈴に、覆面から無機質な目だけを覗かせ。


「大人しく従え。こいつらを殺す事など、造作も無い。」


賊は、気軽に言い放つ。


「いいか。国王に出すものを作れ。今すぐ。」


騒げば皆を殺すと、いい置き。

賊は夕鈴を解放した。


「・・・・早くしろ。」


乱暴に突き放され、一瞬よろめいた夕鈴は、賊を睨みつけた。


「私に、何をさせる気?陛下に毒でも盛るつもり?」

「断ってもいいぞ?お前もこいつらも死ぬだけだからな。」

「殺すなら私だけにして。」

「そうは行かない。任務を完遂できない場合は俺が殺されるからな。道連れは多いほうがいい。」

「っ・・・・」


ぎゅっと唇を噛んだ夕鈴は、のろのろと湯を沸かし。


____________毒の判別がしにくくなるから・・・


黎翔の言葉を思い起こしつつ、蜂蜜を溶かし、檸檬の果汁を加える。


ふわりと甘酸っぱい香りが漂い、その香りに喜色を浮かべた、賊は。


「・・・いい香りだ。人生の最後に口にするものがこれなら、それはそれで幸せだな。」


くすくすと笑い、懐から取り出した散薬を蜂蜜色の液体に溶かし入れた。


「・・・・安心しろ。すぐには死なない。効き目が出るのは、明日だ。」

「っ!」

「明日までに後宮から逃げ出せば、お前も命だけは助かるさ。」


「・・・・だれが、逃げるものですか。」


賊は、怒りに震える夕鈴をじっと見つめ。


「_________見上げた覚悟だな。ほら、さっさと行くぞ。」


黒い衣装を脱ぎ捨て、侍官の衣装を纏い。

一番近くに転がされていた女官の縄を解き、その背に小刀を当てる。


「少しでも変な動きをしたら、すぐにこいつを殺すからな?」


事務的に言い捨てて、「行け」と顎をしゃくった。




来たときと同様、誰もいない回廊を進み。


__________浩大は、どこ?!


夕鈴は、なるべく怪しまれないように、さりげなく周囲を見渡す。



「・・・お妃様。『誰』をお探しですか?」


小馬鹿にしたような声が、後方から届く。


「っ・・・」

「護衛のものでしたら、今頃仲間が足止めしておりますよ。期待しても無駄です。」

「・・・くっ!」

「ほら、冷めない内に、陛下へ。」


小さな悲鳴が、女官から上がり。


「・・・・わかったわ。」


夕鈴は成す術もなく、室内へと入っていった。


「失礼致します、陛下。」


夕鈴に付き随う形で、女官と侍官姿の賊も入室し。

賊の鋭い目が、夕鈴を見張る。


衝立の向こう、帳の下ろされた寝台には、黎翔。

自分の後ろには、女官を質に取った、刺客。


手の内にある、毒薬入りの蜂蜜湯をじっと見つめ。


夕鈴は、覚悟を決めた。


くるりと振り返り、女官を見て。

「ごめんなさい」と言おうとした瞬間、夕鈴の口を塞いだのは・・・その女官の、手。


「お妃様・・・・せっかくの蜂蜜湯が冷めてしまいますわ。早く陛下にお出ししないと・・・」


皆、死にますよ?

自分の口を押さえながら静かに囁く女官の目は、鋭く。

傍らに立つ侍官が、薄暗い微笑を浮かべる。


「お妃様・・・お早く。」


女官姿の刺客は、夕鈴を押しやるように寝台へと向わせ。


「失礼致します」と帳を開き。


「さ、お妃様・・・・」


夕鈴を促した。



熱で朦朧とした黎翔の目が、薄っすらと開き。

ゆっくりと、蜂蜜湯に手が伸び。


「ああ、すまないな・・・」


椀を手に取る。

が。

「・・・・お毒見を、させて頂きますわ。陛下。」


悲しげな微笑を浮かべた夕鈴は、黎翔の手から椀を取り上げ。


「陛下、逃げてっ!!」


椀を刺客に投げつけた。






「いやー・・・遅くなってごめんね、お妃ちゃん。」


刺客を縛り上げながら、浩大は決まり悪げに笑う。


「ほら、先に厨房の方を片付けてたからさ・・・・お客さん、結構大勢だったから・・・・」


「ああ、よかった・・・・みんな無事なのね・・・・・」


ほっとした夕鈴の膝から力が抜け、へたり込む。




「・・・それにしても、陛下。」

「なんだ、李順。」

「夕鈴殿が止めなければ、そのまま飲むつもりでしたね?!」

「えー・・・だって、僕が飲まなきゃ夕鈴が殺されちゃうかな、って。」

「あの程度の賊に手向かい出来ぬほど弱ってらっしゃるのに!毒なんて飲んだら、いくら陛下でも!!」

「大丈夫だよ。」

「何を根拠に!」

「うるさいな・・・・もう、眠る。」



黎翔がぐったりと寝台に沈み込むのを見届け、帳をおろし。

李順は居間でへたり込んだままの夕鈴に近寄った。


「・・・・よくやりました、夕鈴殿。」


膝を折り、にっこりと笑い。

李順は黎翔を起こさぬよう、声を潜めて話した。


「貴女が短気を起こさず時間を稼いでくれたおかげで、誰一人命も落とす事も無く、無事刺客を捕らえることができました。」

「・・・は、い。」

「特別手当をお付けいたしましょう。」

「ほ、本当ですか?!」

「声が大きい。」

「・・・っ!あ、ありがとうございますっ!!」


額を付き合わせて話し込む二人を、黒い影が覆い。


「・・・・李順。近いぞ・・・・」


冷え切った声が、降り注ぐ。


「陛下?!起きられるのですか?!」

「陛下、無理しちゃダメですっ!」


ふらふらと揺れながらも、じろりと李順を睨みつけた黎翔は。


「夕鈴、こちらへ・・・」


夕鈴に手を伸ばし、引き寄せ。

凭れ掛かるように、崩れ落ちた。


「陛下?!」
「陛下!!」


慌てて黎翔を寝台に移動させながら、李順の頭は激しく痛む。


「刺客に対応できないほど弱ってらっしゃるのに!夕鈴殿のこととなると・・・」


まったくもう、と、愚痴が零れた。




それにしても。

夕鈴殿。

侍女や侍官、ご自分よりも。

陛下のお命を優先なさいましたか・・・・



夕鈴殿のお命を優先なさった陛下と。

陛下のお命を優先なさった夕鈴殿と。




「・・・・まったく。」


くったりと寝台に倒れ伏す黎翔を見下ろしながら。


諦めたような微笑が、李順の頬に浮かんだ。

C.O.M.M.E.N.T

NoTitle

夕鈴、必死で耐えて
ほんとうに頑張りましたね…
さすがに伊達に何度も資格に襲われていない
プロ妃の経験値の高さでしょうか
(そんな経験値、いらない、ですね)。
よわってる陛下に胸キュン…。

2013/08/03 (Sat) 15:28 | おりざ #iPUlC.7. | URL | 編集 | 返信

おりざ様へ

夕鈴、刺客慣れしてます。笑
陛下が弱るとお客様が増えて、大ちゃん大忙しです。
早くお熱を下げてください、陛下。

2013/08/03 (Sat) 15:32 | あさ #- | URL | 編集 | 返信

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2013/08/03 (Sat) 17:44 | # | | 編集 | 返信

慎さまへ

こんばんは!コメントありがとうございます♪
陛下、高熱出してる場合じゃないですよね。
早く治してあげなくては、と思いながらも、弱ってる陛下が面白くて続きを書きそうになっています。

2013/08/03 (Sat) 18:18 | あさ #- | URL | 編集 | 返信

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