2013_08
02
(Fri)21:06

毬香炉

【設定・未来】
【夕鈴正妃です・おこさまありなしどちらでも】
【名前だけですが、オリキャラでます。芙蓉さんです。】


《毬香炉》




まだ朝露が残る花に鋏を入れようとした侍女に、階から正妃の澄んだ声が届く。


「あの、お花がかわいそうですから、一輪で充分です。」

「畏まりました。・・・こちらの花で宜しゅうございますか?」

「はい、宜しくお願いしますね。」


にっこりと微笑む夕鈴に、侍女たちからも笑みが零れ。

一輪だけ切り取られた花を大切に捧げもち、正妃一行は部屋へ戻った



「・・・花を摘んでいたのか?」

「陛下、お越しでしたの?」


待ちかねた黎翔が夕鈴を出迎え。

片腕でひょいと抱き上げる。


「・・・私も花を摘みたいのだが。」

「え?陛下が、お花を?」

「ああ。愛らしく咲き誇る花を今すぐに・・・」

「え?ええ?ちょ、ちょっと待って、陛下?!」

「・・・まずはこの芳しい頬から・・・」

「あ、朝から何をっ!!」


くすくすと楽しげに笑う国王と、真っ赤になって恥らう正妃の姿は、本当に幸せそうで。

侍女たちの頬も、ほんのりと染まった。






「・・・で、どうして一輪だけなの?」


朝餉を摂りながら、黎翔は思い出したように尋ねた。


「え?お花のことですか?」

「うん。せっかく花を摘むのなら、もっとたくさん摘めばいいのに。」

「だって、もったいないじゃないですかっ!」


夕鈴はぐっと拳を握り、力説する。


「毎日お花を替えるのに、毎日たくさん摘んでたら・・・お花が無くなっちゃいます!」


そんなもったいない事はできません、と語る夕鈴は、この国の正妃で。


__________倹約は良い事だけど、少しは我儘言ってくれてもいいのに。


妻を甘やかしたい国王は、困ったように微笑んだ。







「老師。夕鈴に贈り物をしたいのだが、何が良い?」


昼過ぎ。

自室に張元を呼び出し、黎翔は単刀直入に尋ねた。


「うーむ・・・正妃様への贈り物となると・・・・うーむ・・・」

「最近欲しがっているものとか、足りないものとか・・・『もったいない』と言わせずに済む物を、だな・・・」

「それは難題ですのう・・・」


考え込む老師と、真剣に悩む黎翔。

二人が頭を抱えているところに、李順がやってきた。


「陛下、こんなところにお出ででしたか。宰相がおまち」

「夕鈴が欲しいものに心当たりは?」

「・・・・は?」


怪訝な顔をした側近は、何のことかと問い返す。


「だから、夕鈴への贈り物を考えている。」

「・・・・なぜ。」

「花一輪で満足してしまう后に、何か贈り物をしたい思うのだが。」

「ですから、なぜ。」

「反物を贈れば『分不相応です』と付き返され。指輪を贈れば『たくさん持ってます』と怒られる。」

「いつの間に、そんなことを・・・・」

「思えば、夕鈴を娶ってこの方。贈り物で彼女を喜ばせた事は、一度もない。寝所では別だが。」

「・・・最後の一言は聞かなかったことに致しましょう。」

「寝所だけではないぞ?居間でも四阿でも、書庫でも・・・」

「・・・・陛下、お話が逸れていらっしゃいますが?」

「_________とにかく、夕鈴が喜ぶものは・・・・」


ふぅ、と深々とため息をついた李順は。

かすかな金属音を立てて眼鏡外し、手巾で軽く拭い。

細い指先で眼鏡の蔓を持ち上げ、ゆっくりとかけ直した。



そして。


「・・・教えて差し上げても宜しいのですが・・・・条件がございます。」


にっ、と口角を上げ。

眼鏡の奥の瞳が、勝利を確信した色に変った。







「お帰りなさいませ、陛下・・・・あの、お顔の色が・・・・・」

「今、戻った・・・・いや、少し根を詰めすぎて、な・・・・」


大切そうに包みを抱えたまま、ぐったりと長椅子に倒れ伏した黎翔に、夕鈴は慌てて駆け寄った。


「夕食は、召し上がりましたか?!」

「・・・うん、少しだけ。」

「あのっ、肉饅頭をご準備してあるんです!李順さんに言われて!」

「・・・・・李順か・・・・うん、ありがとう。」


苦笑を浮かべて起き上がった黎翔の前に、ほっこりと温かいお饅頭が並び。


「せっかくなので、餡を入れたお饅頭も作ったんですよ。こちらの紅いお花が咲いているのが餡のお饅頭で、こちらの少しつんっと尖っているのが、肉饅頭です。」


まるで夕鈴のように真っ白で滑らかな饅頭の皮に咲く、濃い桃色の花と、愛らしく尖った先端。

それらは黎翔に何かを想起させる。


_____________舐めれば甘く、食めばじゅわっと蜜が溢れる・・・極上の・・・・



「陛下、お茶をどうぞ?」


夕鈴の声に、正気に返った。


__________まずい、今大事なのは、それじゃない。


「うん、ありがとう、夕鈴。」


邪念を振り払った黎翔は、目の前の食べ物に集中し。

本当に美味しかったから、あっというまに平らげてしまった。


「お粗末さまでした。」


嬉しそうに皿を下げながら、夕鈴は微笑み。

笑みを返し、長椅子に凭れ掛かった黎翔の手に、包みが触れた。


「・・・あのさ、夕鈴・・・これ。」

「え?私に、ですか?」


何かしら、と呟きながら包みを開いた夕鈴から、歓声が上がった。


「・・・・・っ!うわぁっ!!毬香炉?!」


球状のそれは、全体に透かし彫りが施され。

球の中心は香が焚けるようになっていて、球が転がっても火が落ちる事が無いように工夫が施されている。

夢中で毬香炉を転がす夕鈴は、まるで子猫のようで。


「嬉しいっ!これ、欲しかったんです!ありがとうございます、陛下っ!」


頬を紅潮させて無邪気に笑顔を見せる夕鈴に、黎翔の笑みが深まった。





『・・・・以前、芙蓉が持っていた袖香炉の形状に、正妃様が関心を寄せられたようでして。』

『ほう。どのようなものだ?』

『毬香炉の小型のものです。正妃様の香炉は、置物ばかりですからね。お珍しかったのでしょう。』

『毬香炉、か・・・・』

『確か、陛下のお母上が愛用されていらっしゃいましたの。』

『ああ。転がる香炉を追いかける私を見て、よく笑って・・・』

『___________その毬香炉でよろしければ、すぐさまご準備いたしましょう。』

『母の香炉が、まだこの後宮にあるのか?』

『はい。陛下のお母上にまつわるお品は、陛下の父王様のご命令により、全てこの後宮管理人が保管を。』

『・・・そう、か。』

『・・・陛下・・・』

『_________それで、よい。・・・・いや、それが、よい。すぐに準備せよ。』

『畏まりました。』






「よかった、喜んでくれて。それは、僕の母の使い古しだから、気にせず使ってね?」

「えええっ!?」


くるくると香炉を弄繰り回していた夕鈴の手が、ぴたりと止まった。


「そ、そんな大切なもの、もったいなくて使えませんっ!」

「ええっ?!どうして?!」

「だ、だって!」

「僕、その毬香炉大好きだったんだ。良く転がるし、香炉だから当たり前だけど、いい香りがして。」

「・・・・」

「僕がその香炉を追いかけると、母は楽しそうに笑ってくれて・・・・」

「陛下・・・・」

「だから、さ。君がその香炉を追いかけると、僕が楽しい気持ちになるんだ。」

「・・・・・は、い。では、遠慮なく使わせて頂きますね。」


ふわりと僕を抱き締める夕鈴の膝から、香炉が転がり落ち。

毬は、カラカラと懐かしい音を立てながら、古い記憶を呼び起こす。






____________黎翔、早く追いかけないと香炉が逃げてしまいますよ?


もつれる足を必死に動かす僕に降り注ぐ、母の優しい笑い声。


____________必ず、我が手に取り戻す。

____________だから、その日まで・・・待っていてくれ。母を頼むぞ、黎翔。


僕の手から香炉を受け取った父の、大きな手。






じっと自分の手を見つめる僕の頬に。

遠慮がちに、だが、しっかりと、夕鈴の手が触れる。


「香炉・・・・大切に使わせて頂きますね。」


深く澄んだ温かい香りが、僕を包んだ。

C.O.M.M.E.N.T

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2013/08/02 (Fri) 21:36 | # | | 編集 | 返信

小犬だけに?

転がる毬香炉にじゃれつくチビ陛下(笑)
可愛いやんと思いましたが、脳内映像を取り出せないのが残念です
いいなぁ毬香炉。私も欲しいです〜。そして、部屋から部屋へと転がすんだ

2013/08/02 (Fri) 21:58 | twomoon #- | URL | 編集 | 返信

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2013/08/02 (Fri) 22:21 | # | | 編集 | 返信

からあげ様へ

ありがとうございます。
気付けばこのようなお話しが出来上がっておりました。
陛下への突っ込み、是非お願いします。

2013/08/02 (Fri) 22:38 | あさ #- | URL | 編集 | 返信

twomoonさまへ

本当に!
毬香炉と戯れるちび陛下。
「ままー、こわれたー」とか言いそう。
そのちび陛下じゃないですね。はい。
子犬陛下が無邪気に遊ぶ様は、かわいすぎて妄想するだけで誘拐しそうになります。
私も欲しいです毬香炉。綺麗ですよね・・・。

2013/08/02 (Fri) 22:41 | あさ #- | URL | 編集 | 返信

おりざ様へ

「よろこばせている」のをこっそり主張する陛下でございます。
漢字変換出来ません。笑
夕鈴と母上の香りを宿す、毬香炉。
陛下の大切な品になることでしょう。

2013/08/02 (Fri) 22:44 | あさ #- | URL | 編集 | 返信

感涙っ!!

なんて、てんこ盛りな濃いSSですかっ(*´д`*)
花を一輪、実は節約!可愛い夕鈴。
いちゃつく黎翔。
ニヤニヤしながら読んでたら、李順さんが陛下を掌で転がし、ニヤニヤ。
一生懸命な陛下にニヤニヤ。
毬香炉で喜ぶ夕鈴にニヤニヤ。
陛下のパパ・ママできゅんきゅん。
ちび陛下にずきゅーん。
ママの形見できゅーん。
私、ホントに書き手なのか?と首を傾げたくなる感想でごめんなさい。
素晴らしかったです。
今日の疲れが吹き飛びました。
お姉ちゃん大丈夫ですか?

2013/08/02 (Fri) 23:18 | 羽梨 #- | URL | 編集 | 返信

Re

長女、「治った!!」そうです。…何にせよ、良かった…
もう、疲れを取るために好きなこと書いてたら、こんなことに。
李順さんの眼鏡を描写するのってむずかしいっ!!
楽しく書けました♫

2013/08/02 (Fri) 23:39 | あさ #- | URL | 編集 | 返信

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