2013_07
31
(Wed)15:02

自負心

ダリ子さまキラキラ夕鈴

ダリ子さまの素敵イラストです♪




【設定・未来・夕鈴正妃です・お子様ありなしどちらでも】


《自負心》




矢で射抜かれたくらいでは、表情を変えない自信がある。

必要とあらば、顔色も変えずに毒をあおぐ自信もある。

どれほど驚いても平然としていられるし。

どれほど悲しくても笑みを浮かべる事が出来る。



__________自分は、我慢強い方だ、と。


思っていたのに。












夏の衣は薄くて軽い。

正妃の衣装は、羽のように軽く繊細な織を施された絹を幾重にも重ねて纏う。

華美を嫌う正妃のため、それと気付かせないようなものを選ばねばならないのが、侍女たちの密かな悩みで。


・・・・正妃様ほど飾り甲斐のある方は早々いらっしゃいませんのに。


毎朝の衣装替えの度、侍女たちは不満を募らせていた。



そんなある朝。

侍女たちの房では。


「・・・・今朝も惨敗でしたわ。」

「まぁ!今回は・・・?」

「淡い水色に、桃色の刺繍。少々の金糸をあしらった、程よく華やかで程よく涼やかな、素晴らしいご衣装でしたのに。」

「そのご衣装をお召しになった正妃様の艶やかなお姿が、目に浮かぶようですわ・・・・」


うっとりをした表情を浮かべる女官に、正妃付きの侍女は深く頷く。


「そうなんですの。これ以上なくお似合いになるはずですのに・・・ご自分には華やか過ぎる、と仰せで・・・結局いつもどおり、刺繍や織の目立たぬご衣装を。」


小さくため息をついた侍女は、悲しげに眉をひそめ。


「ああ・・・・本当に悲しゅうございますわ・・・。」


がっくりと肩を落とした。


「元気をお出しになって?」

「明日はきっと、正妃様もそのご衣装を纏って下さいますわ。」

「冷茶でもいかが?そのように悲しげなお顔では、正妃様がご心配なさいますわ。」


女官達は侍女を取り囲み。

口々に励ました。







「・・・・・そんな訳でさ、お妃ちゃん。」


茶菓子を頬張りながら、浩大は夕鈴に房での出来事を話した。


「侍女さん達、かなり困ってるみたいだよ?正妃を正妃らしく装わせるのも、あの人たちの仕事だろ?たまには職責を果たさせてやったら?」

「そんな・・・・今のままでも充分すぎるのに・・・」


なかなか首を縦に振らない夕鈴に、浩大は決定打を加える。


「・・・・『狼陛下は正妃を飾る甲斐性もないのか』って、陛下を揶揄する輩もあちこちに・・・・」

「__________浩大。今すぐ着替えるわ。陛下を馬鹿にされて、黙っていられるものですかっ!!」


急に険しい顔つきになった夕鈴が、足音も高く衣裳部屋に去ってゆくのを。


「・・・・いるかもしれない、って言おうと思ったんだけどな。」


くすくすと笑いながら、浩大は楽しげに見送った。









「こんな時間にお手数をおかけしてごめんなさい。」


衣裳部屋に現れた正妃は、申し訳なさそうに告げる。


「あ、あの・・・もう少し華やかな衣装に替えたいのですが・・・」


「「「今すぐに、大至急、ご準備いたしますわっ!!」」」


衣裳部屋に、侍女たちの歓声が上がった。









「へいかー、お仕事中?」

「当たり前だ。」


執務室で書簡に取り囲まれた黎翔は、眉間に皴を寄せて書簡を捌いていた。


「・・・・ったく、どいつもこいつも進歩の無い・・・・」


ぶつぶつと呟く黎翔の周囲の温度は、目に見えて確実に低下していく。


「機嫌悪そうだね。」

「正妃様が政務室にお出で下さらなかったものですからね。」


ふぅ、とため息をつきながら李順が答えた。


「そっか、お妃ちゃん政務室に行く暇なかったもんな。」


黎翔は、にやにやと笑う浩大に。


「・・・・何か知っているのか?」


今にも射殺しそうな視線を投げる。


「えー・・・・だって、口止めされてるからね。正妃様に!絶対陛下には言うな、恥ずかしいから!って。」

「・・・ほう。今日はやけに口が堅いな。」


だが、と呟きながら立ち上がる黎翔の手から、小刀が飛び。


「・・・・いつまでもつか、楽しみだ。」


跳ね飛ばされた浩大の頭巾が宙を舞った。









「あの・・・そろそろ、湯殿へ・・・・」


もう、夕刻。

夕鈴は、達成感溢れる微笑を浮かべる侍女達に、おそるおそる申し出た。


「だめです、陛下にお見せしなくてはっ!」

「そうですわ!是非とも陛下に!」

「ああ、お渡りまであと二刻もございます。まだまだ出来ることが・・・・」

「おみ足の爪にもお色をお付けいたしましょう。」

「そうですわね!正妃様の抜けるようなお肌には、よく合う色味の・・・!」

「では、足首にもこちらの輪飾りを。足を運ばれるたびに、涼やかな音色を奏でるよう・・・」

「あら、でしたら手首には・・・・」

「御髪の形はもう少し艶やかに・・・?」


どんどん違う方向に話しが進む。


「・・・・いえ、あの、陛下のお渡りの前に、湯殿・・・・」

「「「いいえっ!!」」」

「・・・・わかりました・・・・」





___________なぜこんな事になったのか。


陛下のために、少しだけ正妃らしく着飾りたかっただけなのに。


どこにこれほどの衣装があったのかと思うほどの衣装の山と、装飾品の数々。

嬉々として動き回る侍女達と、その指示に従い忙しく立ち働く女官達。

お互いに微笑み合いながら、水を得た魚のように生き生きと自分を飾る侍女達に。


「あの・・・・ひょっとして、皆さん・・・・楽しまれていらっしゃいますか?」


思わず言葉が零れた。

侍女達は顔を見合わせ、少し躊躇っている風だったが。

意を決したように、最古参の侍女が前に進み出て、跪き。


「畏れ多い事ながら・・・・・心から、楽しませて頂いております。」


満面の笑みで、夕鈴を見上げた。

その眩いばかりの笑顔に、夕鈴は。


「あ・・・・それはよかった、です。よろしく、お願いします・・・・」


あっけなく陥落してしまったのだった。




__________つまりは、身から出た錆、なのよね。


陛下のお渡りまで、まだ時がある。

さすがに疲れを感じ、夕鈴は長椅子に茶を運んでもらう事にした。


「正妃様。本日は誠にありがとうございます。」


先ほどの侍女が、程よく冷えた茶を夕鈴に手渡す。


「__________私どもは、正妃様のお美しさとお優しさを誇りに思っております。」

「あ、ありがとうございます。」

「正妃様の輝きを引き立てる事は、私達の喜びです。」

「・・・・そう、なのですか。」

「私どもの願いを叶えていただき、ありがとうございました。」

「・・・・え?願い?」

「はい。正妃様のお美しさを際立たせるお手伝いをさせて頂くことが、私達の願いでございます。」


にっこりと微笑み、満足気に下がっていく侍女たちを。

夕鈴は、呆然とした顔で見送った。





「ああ・・・・今日はなんとよい日なのでしょうか。」

「ええ、本当に!正妃様のあのお美しさ・・・・!」


控えめに、囁くように交わされる侍女たちの会話が、黎翔の耳に届き。


「・・・・・正妃は、部屋か?」


突如現れた国王に、侍女たちは驚きつつも礼をとる。


「________正妃に何か変りはないか?」


珍しく侍女に声をかけた黎翔に。

侍女たちは声を揃えて答えた。


「「「__________どうぞ、中へ。」」」







促されるがまま、正妃の居間へ足を踏み入れる。


「夕鈴・・・・?」


ぐるりと見回せば、長椅子でくつろぐ君の姿。

ことり、と、傍らの卓に、茶杯が置かれ。

少し首を傾げて、立ち上がった君の姿は。


「_____________っ・・・・」


咄嗟には言葉が出ないほどに、美しく。


「あ、あの、その、これはっ!!」


慌てて僕から距離を取ろうとする君の足元からは、涼やかな音色が響き。

助けを求めるように後ろを振り返った君の項の白さは、抜けるようで。

慌ててばたつかせた袖は、天女の羽衣のように君を飾る。


「ちょ、ちょっとだけ飾って下さいって、お願いしたら・・・っ」


ずいっと近寄る僕から逃げるように、夕鈴は後退さり。


「なぜだか、大事になってしまって・・・・!」


花の香りを振りまきながら、涙目で僕を煽る。





_____________我慢強い方だ、と、自負していたのだがな。


自嘲気味に笑い。


いとも容易く、柔らかな身体を腕に囲い。


「とっても、綺麗だ・・・」


心からの賞賛を贈りながら。


僕はゆっくりと、愛しい兎を抱き上げ。


その美しさを堪能できる場所へと、運んだ。






☆「待てができない陛下」をテーマに書いてみました。もう少し「待て」させたかったのですが。全然できませんでした。笑

C.O.M.M.E.N.T

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