2013_07
26
(Fri)21:00

その先 7

【設定・臨時花嫁終了】



《その先 7》




正妃を迎えるまで、あと半月あまりとなった頃。

誰の眼にも衰えが明らかとなった国王を気遣い、大臣はじめ高官達は、ひっきりなしに見舞いの品を贈り。

そのどれをも、黎翔は拒絶し続けていた。


「別に、体調は悪くない。食も進んでいるし、睡眠もとれている。」


そう言い張る黎翔の頬はこけ。

紅い瞳は澱んだように曇り。

手足も、かすかに震えていて。


________________この症状は、まさか。


久しぶりに謁見を許された張元は、黎翔のあまりの変りように言葉をなくし。

だが、冷静に記憶を手繰り寄せた。



_______________先々代が亡くなられる直前のお姿と、よく似ておられる。


身体には特に異常もなく。

食も進み、睡眠もとる。

にもかかわらず、日毎に衰え。

医官たちが手をこまねいている間に・・・・崩御なさった。


それだけは、避けねばならぬ。


___________こんなとき、小僧がおらぬのは痛いの。


もう2ヶ月以上も姿を現さぬ隠密に、張元は眉根を寄せた。


隠密が2ヶ月も連絡を寄こさぬということは、すなわち、やられたと言う事になる。


「・・・・小僧を始末するほどの手練を飼っておるとは、いったい・・・」


憔悴してゆく狼陛下と、戻らぬ隠密。


この緊迫した状況の中、正妃を迎えねばならぬとは・・・


「いったい、この老人にどうしろというのじゃ!!」


張元が一人雄叫びを上げた、その時。


「___________ただいま戻りましたー・・・・」


決まり悪げな浩大の声が、老師の頭上から降り注ぎ。


「っ!!!!」


驚いた張元の腰が、嫌な音を立てた。









「陛下。少しで宜しいのです。どうぞ横になって、眼をお瞑り下さい!!」

「うるさい、李順。眠くはない。」

「そんなはずは、ございませんっ!」

「自分の身体の事は、自分が一番よくわか」

「分かっておられません!!!!」


李順の怒声が執務室に響き。

初めて耳にする李順の怒声に、官吏たちが震え上がった。


「何をお分かりだと仰るのですか?!毎夜、毎夜、毎夜!!!!あの四阿で、一睡もせず!!!陛下は毎夜、夕鈴殿の『幻』とお過ごしなのですよ!?」


ざわり、と官吏たちに動揺が走り。

怒りの限界を超えた李順の怒声が、さらに続く。


「正妃様をお迎えせねばならぬ、この時に!!そのようにご自分を弱らせて!!このお姿を夕鈴殿がご覧になったら、一体どう思われるか!!!」

「李順・・・・」


ガタン、と椅子から立ち上がった黎翔の顔が、蒼白に変り。


「一睡も、せず・・・・?何を、言っている?私は、夢の中で夕鈴に会うことすら、許されぬのか・・・・?」


ふらり、とよろめきながら足を踏み出し。


「陛下!」

「陛下っ!!」


支えようと群がる官吏たちを、手で払いのけ。


「_______________正妃は、迎えねばならん。この国のために。私は、勤めを果たすと約束したのだ。ただ一人の、愛しい娘に。」


傾ぐ身体を、気力で支え。


「・・・・私は休憩をとる。皆、下がれ!!」


氷点下の声音で命じた。





「____________陛下。」


人払いされた執務室には、李順と黎翔の二人きりが残り。

真っ直ぐに黎翔を見据え、李順は穏やかに口を開いた。


「宜しいですか?夕鈴殿は、もう過去の方。今宵より、私が陛下の寝室で宿直をさせて頂きます。」

「・・・・子どもか、私は。」

「子どもより性質が悪いですね。眠ったつもりで、眠っておられないのですから。」


くすりと笑う李順に、黎翔は決まり悪げな表情を浮かべ。


「夢の中で会うくらいは、許されると思って・・・・毎晩、眠りに就くのが楽しみだったのだが・・・・・」

「陛下。」

「まさか、身体が勝手に動いていたとはな。さぞかし気味が悪かったろう?」


自嘲した。



その夜から。

黎翔は、寝台を抜け出すこともなく、穏やかに眠りに就き。


_______________何事もなく、正妃を迎える日がやってきた。





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