2013_02
14
(Thu)13:22

物覚え

次女は年長さん。
もうすぐ卒園でして、謝恩会では母達が寸劇を披露するんです。
その台本を覚えなきゃいけないんですが・・・・。
オボエラレナイ。

大昔は記憶力良い方だったのに。
しくしく。



《物覚え》

『覚えられないぃぃ!!!』

夕鈴の心の声が響き渡る(もちろん、心の中だけでだが)後宮の妃の居間。

夕鈴は、明日までに覚えねばならない儀式典礼の書簡を手に、青ざめていた。

ことの起こりは、今朝。

起き抜けに鬼上司に呼び出された夕鈴は、この書簡を手渡されたのだ。
上司の張り付いたような、げに恐ろしき笑顔と共に。

「_______夕鈴殿?」
「____は、い・・?」

眼鏡をいつもより光らせながら、上司は命じる。

「こちらの書簡を、今日中に覚えてください!そして、明日の午前中に所作の特訓です!!そして、明日の午後が、儀式本番です!!」

「ちょっと待って下さい!!そんな、急な!!!」

夕鈴の最もな問いに、李順もため息をつきながら答える。

「実はですね、友好国の使者が来てるんですよ。いつもの定期的な使者なので、油断してたんですが・・・。貴女に会いたいと言い出しましてね。私としても、苦肉の策なんですよ。」

「っ!!」

「明後日に小広間で催される使者殿のための宴で、陛下の過剰なまでの演技にほぼ一日耐え抜くのと、この書簡を一夜漬けで覚えるのと。____どちらが宜しいですか?」

夕鈴は、迷わず後者を選択した。


その日の晩。

「ゆーうーりん♪♪」


臣下が聞いたら、自分の耳がおかしくなったかと疑うような声で、黎翔は夕鈴に話しかける。
が、肝心の妃は、上の空だ。

茶杯を手にはしているが、目線は宙を彷徨い、ブツブツと「紅い帯の神官が鈴を鳴らしたら、一回お辞儀。黄色い帯の神官が鼓を鳴らしたら、二回拱手。階の左手に向かって一歩下がって・・・」などと、呟いている。

その横では、ぷうっっと頬を膨らませた国王が、つまらなそうな視線を妃に向ける。

「ねぇ、ゆーりんってば。そんな無駄な儀式の進行なんか覚えなくていいよ~。明日は部屋でゆっくりして、明後日の宴に、僕と一緒に出たらいいんだよ?」

その言葉に、キッとなった夕鈴は、言い返す。

「宴って、『小広間』で催されるんですよね?いつもの大広間でなくて!!」
「うん♪」

「あんな密閉空間で、陛下と一日中演技するなんて、私無理です!絶対!!!」
「ええ~。そんなに狭くないよぅ。ちょっと、お客さんとの距離が近いだけで。」
「それが問題なんです!陛下は演技上手だからいいですけど、私、きっと失敗します・・・。」

軽く凹んだ夕鈴に、狼は甘い罠を仕掛ける。

「・・・・大丈夫。私がフォローするから、君は一日中私に抱かれているだけでよい・・・」

兎の耳元に、そっと狼は囁きかける。

真っ赤に染まった兎は、腰が抜けそうになりながらも必死に自分を建て直し、

「明日の儀式、頑張ります!!!」
と、必死の形相で宣言するのだった。


翌朝。

李順の所作指導が開始された。

「歩幅はもう少し狭く・・・。そうです。あと、香炉を置く台は奥行きが狭いですから、気をつけてください。香炉を破損したら、借金追加ですよ。・・・そうです。」

「は、はいっ!・・・・右を向くときは、右足を先に下げますか?左足?・・あ、右足から・・・」

昨日必死に覚えた甲斐があり、珍しく順調に所作指導が進んだ。

李順も、安堵の表情を浮かべ、及第点を与える。

「上出来です。夕鈴殿。これならば、問題なく儀式に臨めますね!」


____その様子を、赤い瞳を光らせた狼が覗いていることに、夕鈴はもちろん、李順も気づいていなかった。


午後。

儀式用の、赤と白と金を基調とした衣装に着替えた夕鈴は、周囲の無言の賛美の目線を浴びながら、儀式を無事に済ませた。

友好国の使者も、感嘆の表情を浮かべて美しい妃を満足げに眺めており、李順も胸を撫で下ろした様子だ。

『これで宴は免れた・・・』

夕鈴は、心からホッとしていた。


が。そうは問屋・・・じゃなくて、狼が卸さない。

____翌朝。

『これで終わりのはずだったのに!!!!』

後宮に、夕鈴の心の叫びが響く。

『詐欺だーーー!!!』

朝起きたら、陛下が待ち構えていた。
そして、侍女により身包みはがされて宴用の衣装に着替えさせられ、有無を言わさず連れて行かれたのは、・・・・小広間。

「うーんとね~、昨日の夕鈴があんまり綺麗だったから、使者のやつ、もう一度夕鈴に会わせろってうるさくって♪♪・・・しかたないよねー、僕のお嫁さん、こんなに可愛いんだもん♪♪みんなに見せびらかすのも、たまにはいいかなー。あ、でも、悪い虫がつかないように、ゆーりんは僕の膝の上ね♪♪♪」

「・・・・陛下。語尾から喜びが駄々漏れです・・・(使者殿から申し入れなんてありましたか?!)」

あきれ返った顔の側近の言葉も、今の黎翔にはまるで効果がなく。

夕鈴は、自分の心臓が今日一日で止まらないよう、本気で心配するのだった。
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C.O.M.M.E.N.T

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