2013_02
14
(Thu)13:19

謝罪

ちょっと暗めのお話です。

もしもよろしければ、どうぞ~。
でも、あんまり楽しくない(いつもか)かも・・・。

お気をつけ下さい!!






《謝罪》

『___大したことありませんわよね・・・』

『そうですわよね、陛下も、どうしてあんな方をお選びになったのか___』


立ち入り禁止区域で掃除をしていて、水替えに行った井戸の近く。
新入りの女官達が数人集まって、こそこそと立ち話をしていたのを、聞いてしまった。

こんなことは、良くあることだ。
下町でも、新入りのバイトにはいじめが付き物だったし、離宮で女官達に無視されたこともある。

「・・・良くあること、よ。夕鈴。」

自分に言い聞かせ、凍りついた足を動かした。

***********

「・・・りん。ゆーりん?」
「は、はいっ!」

夕鈴は、お茶を淹れる手が止まっていることに気づいた。

「すす、すみません、ちょっとボーっとしちゃって!!」

「・・・・どうしたの?なにか、あった?」

小犬陛下が心配そうに尋ねる。

「いえ、ちょっと、今日はお掃除頑張りすぎちゃったみたいで!すいません、すぐにお茶淹れますね。いい香りの花茶なんですよ~。」

無理に話題を変え、明るく振舞う夕鈴を、黎翔はじっと見つめた。


翌日も夕鈴は立ち入り禁止区域で掃除に勤しんでいた。
そして、また、水替えに井戸に赴く。
・・・すると、また。

『・・・あなたも、ご覧になった?なんて凡庸なこと・・・』
『ええ、ほんとうに。・・・あんな方では、あっという間に寵も薄れるというものですわ・・・』
『陛下ともあろうお方が、あんな妃を・・・』


ああ、厄日だわ。
でも、良くあることよ、夕鈴。
こんな庶民がお妃様を演じているんだもの。凡庸で当然よ。
・・・陛下の悪口をいわれているのが、腹立つけど。

でも、こんなこと誰か相談したら、女官さんたちが大変な目に遭いそうだわ。
大丈夫。良くあることだもの。
このままやり過ごしていけば、大丈夫。
・・・大丈夫。

*******

それから2週間後の夜。

夕鈴はいつもの様に陛下にお茶を淹れ、卓に着いた。
最近は花茶が多かったので、今晩は緑茶にしてみた。

が、薫り高いお茶を口に含んだとたん、胃がギリッと痛んだ。

「うっ・・・!」

「ゆーりん、どうしたの?!」

「うっ・・・」

黎翔は、即座に夕鈴の茶杯を確認したが、毒は入っていない。
だが夕鈴の顔色は蒼白で、額には脂汗が浮いている。
背を摩っても、鳩尾を押さえ、苦しげに身体を丸めたままだ。

即座に侍医がよばれ、老師も李順も呼ばれた。

「お妃様におかれましては、軽度の胃炎かと思われます。しばらくは投薬と、安静が必要ですが、ほどなくご快癒なされるかと。」

侍医の言葉に、夕鈴は胸を撫で下ろす。

・・・・よかった、バイト代が減っちゃうところだったわ・・・

かいがいしく妃の世話を焼く陛下を見ながら、侍医は老師に目配せし、老師も察して廊下に出た。

「なにかおありか?侍医殿。」
「はい。老師様。・・・実は、お妃様は、胃炎とは申せ、神経性のものでございます。
___なにか、お心にかかることがおありなのではないかと・・・」

「なるほどのう・・・。わかった。」

そのまま下がった侍医を見送る老師の顔には、常にはない厳しいものがあった。

翌日。

老師の指示で、新入りの女官数名が里に帰された。


******

「・・・掃除娘。おぬし、我慢するにもほどがあるぞ。」
「___なんのことですか。」
「ふぅ。もうバレとるぞ?おぬしの悪口を言いたい放題言っておった、愚かな女官どもは、罰として髪を下ろさせ、実家に帰した。」
「っ!!髪を?!」
「驚くでない。それくらいで済んでありがたいと思わねばならぬくらいじゃ。・・・もし、これが直接陛下のお耳に入っていたら、どうなったと思う?髪では済まんぞ・・・」

「っ~・・・・ごめんなさい・・・私が、もっと早くきちんとご相談していたら、彼女達もこんな目に遭わなかったのに・・・」

どこまでもお人よしな夕鈴に、老師もあきれ返ってものが言えない。

深いため息をついたところに、李順が入ってきた。

「夕鈴殿。」
「はいっ!この度は、体調管理もできず、ご迷惑をおかけしてもうしわけありま・・・」
「謝らなくてよろしい。」
「はいっ!すいませ・・・」
「だから、謝らなくてよろしいのです!!」
「は、はいっ」

「謝らねばならないのは、私のほうです。___夕鈴殿。申し訳ございません。あなたにこんなご負担をおかけすることになるとは・・・。」

「わしもじゃ・・・。新人の女官を立ち入り禁止区域近くで教育しとったのじゃがな、その頃からお主の様子がおかしかったことには気づいておった。・・・すまんかったの。おぬしの性分は分かっておったのに・・・」

夕鈴は困惑した。

自分が凡庸であるから、女官達にバカにされたのだ。誰が悪いわけでもない。ましてや、老師や李順さんが謝る必要なんて、ない。

「・・・・どうなさったんですか?私、謝られるようなこと・・・」

再度、夕鈴が口を開いた、その時。

堪えかねた様に、李順と老師が同時に声を張り上げた。

「~っ!!夕鈴殿、お願いですからおとなしく謝罪を受けてください!!」
「掃除娘!!頼む、『許す』と一言!!!」

「はぁっ?!」



******

前日。

夕鈴が倒れた直後の、老師の自室では、真っ黒い冷え切った怒気に包まれた黎翔が、李順と老師を睨みつけていた。

「・・・ほう。では、おまえ達は、その不届き者どもを、許せ、というのか?」
「陛下っ。許すのではございません。彼女らは貴族の子女であり、後ろ盾も侮れません。髪を下ろさせ、実家に帰すのですから、命まではとらずとも宜しいのでは、と・・・」

「我が妃を侮辱し、あのように苦しめたのだぞ?ただ首をはねるだけでは飽き足らないというのに、命を助けよ、と?」

「『バイト』でしょう?!」
李順がそう言った刹那。

銀光が見えた気がした、と思ったその時には、李順の首に黎翔の愛刀が押し付けられていた。

「・・・・お前が、あやつらの罪を被るか?」

((・・・・本気だ。))李順と老師は、同時に悟った。

李順は刀を押し付けられ、息が出来ない。
老師は必死に陛下に縋る。

「陛下、あやつらは、確かに大罪を犯しましたが、そうじ・・・いや、お妃様はお優しいお方。命を奪ったと知れば、悲しまれましょう!!!」

「・・・。」

「お妃様には、我々が心から、心から謝罪申し上げます!どうぞ、此度ばかりはお見逃しを!」

「・・・・。一度だけ、だぞ。」

自分の首から冷たい物が離れたのを感じて、詰めていた息を吐き出しながら、李順は思った。

『陛下が一度とはいえお見逃しくださるとは・・・。夕鈴殿に特別手当をお付けせねば・・・』

********

黎翔は、怒っていた。
自分に。

なぜ、相談してくれなった。
なぜ、気づけなかった。

明らかに様子がおかしかったではないか。
なぜ、放っておいた。

なぜ。

バイトだから?いや違う。
甘えていたんだ。彼女に。

自分が守ってやらねばならなかったのに。
いや、守りたい、と思っているのに。

君が何も言わないのを良いことに、日常に流されて、そのままにした。

こんなことじゃ、ダメだ。
まだまだ自分に覚悟が足りない。
全て自分で抱え込んでしまう、優しい君を守る覚悟が。


「・・・・ごめんね、夕鈴・・・」

眠る君の頬にそっと触れ、謝罪を繰り返す。
何度謝っても、まだ足りない。

「僕は、君がいいんだ・・・。お願いだから、側にいて・・・。」
虫の良い願いを口にする。
まだ、君に言う事の出来ない、僕の本当の願い。

帰してあげなきゃいけないと、分かっているのに。

「ごめんね、夕鈴・・・」


君の優しさに甘える僕は、何度も何度も謝罪する____
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