2013_02
13
(Wed)19:23

過保護

2012年12月末頃に書いたSSです。

長女が初めての電車通学(塾通いです)を始めた頃。
たった二駅とはいえ、まだ小学生ですし、心配で心配で。

「着いた?大丈夫?」と携帯に電話したら、
「もう着いた!切る!!」との素っ気無く、冷たいお言葉。

子供の成長って、早い・・・。

過保護な自分をちょっと反省していたら、
こんなお話が出来ました。





《過保護》


大晦日から元旦にかけては、王宮での儀式が目白押しだ。
下っ端妃とはいえ様々な役目があり、夕鈴はその準備に忙殺されていた。

「「・・・・ふぅ」」

後宮で陛下と二人きりの、いつものお茶の時間。
同時にため息をついてしまい、思わず顔を見合わせる。

「ゆーりん、疲れてるね~。」
「陛下こそ・・・」
「僕は、毎年のことだから。もう慣れたし、体力の配分も考えてるから大丈夫なんだ。」
「そうですか?・・・ご無理はなさらないで下さいね?」

心配そうに僕を覗き込む君の愛らしさに、僕の頬はゆるみ、心もほぐれる。

一日の疲れが、夕鈴に癒され、消えていく。

「じゃぁ、もう遅いし、僕帰るね。夕鈴も温かくしてゆっくり寝てね」
「ありがとうございます。おやすみなさい・・・」
「うん、おやすみ。」

いつも通りの、後宮の夜が更けていく。


********

実際、夕鈴は疲れていた。

慣れぬ後宮生活での、積もり積もった気疲れ。
連日のお妃演技。
新年を迎える儀式その他の準備。
それに付随する、李順さんによるスパルタお妃教育。

健康が自慢の夕鈴も、自分が疲労している、と自覚できるほどだった。



____その結果。

陛下との「おやすみなさい」のご挨拶の後、温かくして寝台に入り、しばらくは大丈夫だったのだ。
が、徐々におかしくなってきた。
身体を動かすのが億劫だ。温石を抱いて寝ているのに、背筋がゾクゾクする。
視界が霞む。喉が張り付いて、声が出ない。起き上がれない_____

これはまずい、と悟るも、手遅れだった。


異変に気付いたのは、夕鈴付の侍女。
いつも自分達がご様子を伺う頃には身支度を済ませている妃が、今朝はまだ起きていない。
不審に思い、おそるおそる寝台の様子を伺うと、青白い顔で浅い呼吸を繰り返す、意識のない妃の姿が。

侍医が呼ばれ、老師も呼ばれる。老師の指示で、李順にも報せがいく。
折悪しく朝議に出ていた黎翔には、老師からではなく、李順が報せることになった。



____夕鈴殿への配慮を怠っていました・・・。
柄にもなく、李順は反省する。

日々の『臨時妃』業務に加え、陛下による不要とも思えるほど過剰な『演技』によるストレス。年末年始の儀式と行事の為の準備。さらにはその儀式のためのお妃教育。

・・・やりすぎましたね。

さすがに反省した李順は、侍医に手厚い看護を命じ、王宮へ戻った。


・・・・さて、どうしましょうか・・・。

王宮へ戻る長い廊下を歩きつつ、李順は考えを巡らす。

陛下にこの事態を伝えれば、確実に看病に付きっ切りになる。
それは困る。大変困る。
常ならばまだしも、この年末に!

「・・・・くっ。」

奥歯をかみ締めて、李順は決心した。

「陛下には、内密にしましょう・・・」

***************

張り付いた喉を潤す冷たい水に、意識が浮上する。
____頭が、痛い。

霞んだ視界が徐々にはっきりして、心配そうに覗き込む侍女を認識した。
どうやら、水を含んだ布を口に垂らしてくれたらしい。

「・・・・・ありが、とう」

こんな状態でも自分にお礼を忘れない優しい妃に、侍女の目が潤む。
傍らでは、ほっとした様子の侍医が、薬湯の指示を出し始めた。

「疲労していたところに、たちの悪い風邪を引き込んだようじゃな。」

枕元で老師が説明する。
5日もすればよくなるだろう、との話に、夕鈴は胸を撫で下ろした。
それなら、儀式には間に合う。
頑張って準備したのだ。どうせならやり遂げたい。

「まぁ、薬を飲んで、ゆっくり休むことじゃな。あとで消化のよい食事を準備してやるから、食べられるだけは、食べることじゃ。」

「・・・はい、ありがとう、ございます。老師。」

無理に笑顔を作ろうとする夕鈴をこれ以上疲労させないよう、老師は早々に退室した。

・・・自室に戻る道すがら、老師はずっと感じていた違和感について考える。

『いつもなら、陛下が血相を変えて見舞いにお出でになるはずじゃが・・・』

う~む、と唸りつつ、とりあえずは夕鈴の食事の指示をし始める老師であった。

********

夕鈴が倒れてから3日目。

夕鈴は老師の予言(?)どおり、順調に回復していた。
頭痛を伴う高熱は下がり始め、微熱程度になり、寝台に起き上がれるほどに回復していた。
食欲も出始め、あと2日もすればもう大丈夫だろう、と自分でも思うほどだ。


いつもなら、ここぞとばかりに政務をサボってお見舞いに来てくれる陛下は、今回はいない。
『陛下は政務が立て込んでおり見舞いには来られない』と李順より寝込んだ初日に説明があったのだ。

夕鈴は少しの寂しさを感じつつも、『もし陛下に伝染したら大変!』と、自分に言い聞かせていた。



その日の夜。

黎翔は今夜も書簡の山に囲まれ、嘆息していた。

夕鈴はどうしているだろうか。
なぜ、君に会えないと、こんなに君のことばかり考えるのだろう。

自分はこんなにも過保護だったろうか。

気づいたら、夕鈴を案じる自分がいる。

今までは、庇護すべき対象がいなかった。
だから、ひょっとすると、夕鈴に限るわけではなく、自分は庇護欲が強い性分なのかもしれない。

いや、やっぱり違うか。
李順を守ってやろう、という気持ちには到底ならない。
浩大に至ってはなおさらだ。むしろ、盾。
母が存命ならば、どうだったろうか____

・・・柄にもないことを。
ふっと、自嘲まじりのため息がこぼれた。


「陛下~、お邪魔していい~?」
緊張感のかけらもない声がする。

「浩大、ちょうどよかった。」
「なに?」
「私は、『過保護』か?」

いきなりきた突拍子もない問いに、浩大は思わず噴出したが、睨みつけられて居住まいを正す。

「お妃ちゃんに、ってことだよね?・・・うーん、『過保護』っていうのとは、すこーし、違うんじゃないの?」
「どう違う」
「それは、自分で気付かなきゃ!・・・睨まないでよ~」

「ふん。・・・用がないなら、もう帰れ。」
「つれないなー。お妃ちゃんの容態、教えにきたのに~。」

ガタン!!

椅子が倒れる。

「・・・・・なんだと?『容態』?」

一気に豹変した黎翔。
危険を感じ、後退し始める浩大。

が、初動で黎翔が勝った。

カツンッと、乾いた音と共に、浩大の袖が壁に縫いとめられる。

「・・・・詳しく話せ。」

絶対零度の怒気を纏った黎翔は、それはそれは鮮やかに笑んだ・・・。


**********

「あの時、覚悟はしていましたよ・・・・」

青白く、やつれた顔の李順が呟く。

夕鈴が倒れたのを、3日目にしてようやく知った黎翔は、李順の予想通りの行動に出た。

妃が倒れて今日で5日目。
夕鈴の熱はすっかり下がり、全快したにも関わらず、黎翔は後宮から出てこない。

「看病できなかった3日分の埋め合わせをするまでは気が済まない」らしい。


そして、夕鈴の不調を即刻報告しなかった側近には、「年末の政務を肩代わりする」という罰が与えられ、李順は心身ともに窮地に追い込まれたのだった。

「3日のうちに、面倒な事案は片付いていましたし、このくらいの『罰』で済んでよかった、と言うべきでしょう・・・」

隠蔽がバレた時に味わった、身も凍る恐怖を思い起こし、悪寒を感じつつも次なる書簡を開く李順であった。

********

「・・・陛下。もう風邪もすっかりよくなりましたし、どうか政務にお戻りください!!」
「え~、ヤダ。まだ看病し足りない。」

「っ!もう、元気なんです!!」
「遠慮しなくていいのに。」

まったくもう、陛下は、過保護すぎるわ。

____勘違い、しそうになるじゃない。





☆きっと李順さんも、このあと疲労&風邪でダウンしたはず・・・。
お正月   
«  HOME  »

C.O.M.M.E.N.T

コメントの投稿

非公開コメント

トラックバック