2013_06
13
(Thu)17:08

信頼

【設定・未来・おこさまあり】
【色々捏造です。夕鈴がかわいそうです】




《信頼》




__________今日こそは。


黎翔は筆を握る手に力を込める。

今日こそは、後宮に、帰る。

狼陛下の気迫に、官吏たちは怯えた。





__________今日も、かしら。


夕鈴は子ども達の相手をしながら、思う。

王宮泊まりの日々が続く夫を、思い。

正妃は、ほうっ、とため息をついた。










ただでさえ忙しい上に、臨時の政務が立て込み、致し方ないとは言え。

黎翔が王宮に籠もり切りになって、もう十日が過ぎた頃。

寂しさを堪え、夫の留守を守る夕鈴の耳に・・・・・いやな『噂』が飛び込んできた。


『・・・陛下もたまには羽を伸ばしたいのでは・・・』

『・・・・正妃に遠慮して、後宮には呼べぬが・・・あちこちから、美姫を・・・』

『・・・幾人もの子を成すのが王の務め・・・正妃にはこれ以上無理をさせられぬ、と仰ったとか・・・』

『・・・なるほど、それで王宮へ、あちらこちらから姫君を・・・』


耳を塞ぎたくなるような、あけすけで、密やかな、侍官たちの「噂話」。

最初に耳にしたときは笑ってやり過ごせた夕鈴も、ここ二日ばかりは、もう、笑う事すら出来なくなっていて。

侍女たちのみならず、三人の子どもたちまでもが、夕鈴を気遣い始めた。


「おかあさま?」


綺麗な紅い瞳を心配げに曇らせて自分を覗き込む桜花。


「どうしましたか?」


夕鈴は、努めて何気なく、答える。

ふわっと微笑む母の表情に、少しの翳りを感じ取り。


「・・・・いいえ、なんでもありませんわ。」


桜花は、はぐらかし。


「少し、兄上達と散策に。」

「皇女様、お待ちくださいませ!」


追いすがる侍女たちを尻目に、兄達がいるであろう、鍛錬場へと駆け出した。


「あ、桜花、走っては・・・」


そう言い、立ち上がりかけた夕鈴であったが、もう、桜花の姿は見えず。


「・・・・困ったものね・・・」


ふぅ、と、今日何度目になるのか分からないため息をついた。










それから、さらに十日が過ぎ。


『噂』は、最早『事実』として、半ば公然と囁かれ。

夕鈴は、一日中ぼんやりと空を眺める事が多くなっていた。



後宮へ帰れぬ黎翔からは、朝夕、文が届く。



『_________いらぬ噂など、気に病む事はない。』

『夕鈴、私を信じてくれ。』

『王宮に、顔を見せに来てはくれないか。』

『頼む、夕鈴。来てくれ。』



優しい言葉が、綴ってある。


が。


『_________数名の美姫が王宮に召されたらしいぞ。』

『すでに王に侍っているらしい。』

『それぞれに部屋を与えるよう、王命が下ったと・・・』

『漸く、後宮らしくなるな・・・めでたいことだ』


夕鈴の耳に入ってくるのは、胸が痛くなるような言葉ばかりで。

夫の優しい心遣いの言葉ですら、じくじく痛む棘のように夕鈴を苛む。





「お母様、王宮に参りましょう?お父様に、お会いしましょう?」

「母上、父上にお会いになれば、くだらぬ『噂』など気にならなくなります。さあ、ご一緒に。」

「母上、父上も寂しがっておられますよ?ご一緒に、王宮へ。」

「・・・・宜しいの、ですよ。お父様だって、望んで新しいお妃様をお迎えするわけではないのでしょうし。これくらいのことで騒いでは、お父様にご迷惑をおかけしてしまうから・・・」


夕鈴は、ずるずると、『噂』を『真実』として認識する「その日」から逃げ続けた。




そんな状態が続いていた、ある日。


「お母様、お父様に、お会いしたいです。」

気丈な桜花が、ぽろりと涙を零し、夕鈴に訴え。

その涙を見た夕鈴は、ようやく覚悟を決めた。



侍女たちに頼み、正妃らしく装ってもらう。

普段は控えめな化粧も、それらしくしっかりと施し。

質素な衣を、正妃のそれに替え。




________王宮へ。

夫に侍る、「妃」達に会う覚悟を、決めた。




「_________しっかり、しなさい。夕鈴。」


王宮と後宮を隔てる回廊で。


「・・・覚悟、していたでしょう?」


夕鈴は、足を止め、静かに、呟く。


「・・・・いつかは、って。」


ぎゅっ、と、掌を握り締め。


「___________それでも、お側に、って。ずっと、あの人の側に、って。」


___________決めて、いたじゃないの。汀夕鈴。


ぐっ、と脚に力を込め、叩き込まれた「お妃教育」の通り、優美に、堂々と、立ち。


夕鈴は、取次ぎ役の侍官に、命じた。


「___________陛下に。」

「畏まりました。」










遡る事、二十日前。

深夜、王宮の執務室。


「_______陛下。後宮で不穏な動きがございます。」


李順の奏上に、黎翔の眉がぴくりと上る。


「一部の侍官達が、新しい『妃』についての『噂』を流しております。」

「くだらぬ・・・」

「それが、そうとも言い切れません。」

「どういうことだ?」

「計画的に、組織的に『噂』が流されております。陛下の政務がお忙しく、後宮に帰れぬこの時期を狙い、極めて意図的に、効果的に、です。」

「夕鈴は。」

「まだ、正妃様のお耳には届いておりませんが、時間の問題かと。」

「すぐ、侍官どもを捕らえよ。」

「それはなりません。」

「なぜだ。」

「いったん広がりだした『噂』は容易には消せません。侍官たちを今捕らえた所で、今後もこういった事は、必ず起きます。」

「だが、夕鈴の耳にそんな噂を入れたくは・・・」

「・・・・この『噂』が流された目的は・・・・正妃様の廃位です。」

「っ!」

「この程度の『噂』で悋気を起こし、もし、家出でもなされば・・・この状況を作った者達は、こぞって正妃様の廃位を要求するでしょう。」

「な・・・」

「王を翻弄し、後ろ盾もなく、王の寵愛のみが頼りの『正妃』より。」

「李順!」

「自国に益をもたらす『正妃』は他にもいるはずだ、と。」

「黙れ!!」

「・・・・いま少し、お待ち下さい。陛下。」

「夕鈴が傷つくのを承知で、放っておけ、と?!」


ガタンッ、と音を立て、黎翔は怒りに任せて李順の襟を掴み上げた。

が、対する李順は、怯まず。


「・・・・そんなに弱く、は、ございませんよ。夕鈴殿は。」


きっ、と、黎翔を睨みつけ。


「この程度で、弱音を吐くような『正妃』に・・・・夕鈴殿をお育てした覚えはありません!」


誇らしげに、言い放つ。


「__________だが。」

「・・・・二十日間。二十日間、私に時間を。この件を収めた上、今後二度と・・・このような事が起きぬよう、対処させて頂きます。」


語気を弱めた黎翔に、李順は優しく言い切った。













後宮と王宮を隔てる回廊に立ち、夕鈴は庭園を眺めていた。


___________よく、陛下とあの四阿でお茶を・・・


懐かしさに、ふっ、と頬が緩む。


『想う事すら、罪。』

そう思っていた日々。


あの頃に、比べたら。

__________今の私は、なんて贅沢なのかしら。


あの人の「心」に嘘偽りは、ない。

私だけを、愛してくれる。

新しい「お妃様」達も。

私のように愛されているわけでは、ない。


王として、必要だから。

だから、侍らせる。

・・・ただそれだけの、事。


私とは、違う。

_______________そう。


私は、あの人を。



信じてる。



大丈夫。

そう。

もう・・・・大丈夫。



吹っ切れた夕鈴の頬には、自然と笑みが浮かび。


「_________正妃様、少し宜しいでしょうか?」


かつての上司の声に、夕鈴は優雅に振り向いた。











数刻後。

王宮、大広間。



「__________他に何かございませんか?」


李順のよく通る声が響く。


「恐れながら・・・・正妃様に申し上げます。」


進み出た大臣が、王と正妃が並んで座る玉座に相対した。


「此度、新しいお妃様方をお迎えになられるとの事、誠に喜ばしく・・・臣下一同、御祝いを申し上げます。」


「まあ・・・・わざわざ痛み入りますわ。」


ふふ、と笑みを零しながら、正妃は優雅に礼を言い。

その余裕な態度に、大臣がぎりっ、と唇を噛んだのが見て取れた。


「・・・それで、陛下?」

「どうした、正妃よ。」

「その、新しいお妃様方に私もお会いしたいのですが・・・・何処にお出でですの?ご一緒にお茶でも、と、楽しみにしておりましたの。」

「君がそんな者達と会う必要など、ない。」

「まぁ・・・それでは困りますわ。」


くすくすと、「妃」の事など意に介さぬように、夕鈴は優雅に笑い。

大臣を蔑むように見やった、その視線に。


「________正妃!」


堪らず、大臣が声を荒げた。


「なんですか?」


にっこりと、夕鈴は答える。


「・・・・そのように、嘘ばかりを!王を、後宮を独り占めし、国益も省みず!貴女がこの国の正妃である資格、など・・・・・!!」


激昂した大臣の言に、大広間がざわめいた、その時。


「__________そこまで、です。」


李順の声が、場を制し。


剣の柄に手をかけ、今にも大臣を斬る構えを見せる黎翔を、夕鈴が押さえ込む。



「この国の正妃様に対し、なんたる無礼。お二方の皇子様と、お一人の皇女様の母君であられ、国母であられる正妃様に対し奉るお言葉とは思えませんね。」


李順は、声を張り上げた。


「________不敬罪。正妃様に対する不敬罪で、貴方を拘束します。・・・異論のある方は?」



_________嵌められた。


大臣は、悟った




以後。


正妃を失脚させようとする動きも、居もしない『新しい妃』たちに関する『噂』も途絶え。





__________黎翔は、と言うと。



「ご、ごめんね、ごめんね?夕鈴!本当に、ごめんね?ね?」

「・・・知りません。」

「だ、だって!李順が!」

「言い訳しないで下さい。」

「清翔、明翔、桜花!助けてくれ!」

「「「父上が悪いです。」」」

「うっ・・・・・」

「さ、陛下。」

「は、はい。」

「もう夜も更けましたから、王宮へお戻りくださいませ。」

「ええええっ?!」

「おやすみなさいませ。」

________バタン。と扉が閉じられ。

「ちょ、ちょっと待って!僕も入れて!!入れてください!!ごめんなさい!もうしません!!!ゆるしてーーーーー!!!」

悲しげな狼の遠吠えが、響き渡ったという。
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くはっ(*´д`*)

弱くはございません。
お育てしたつもりはございません。
うぎゃあ!と転がり回りました!
李順さんの信頼、夕鈴の信頼。
素敵です!
陛下の・・・遠吠え?
いやだわ、あさ様ったら、おほほ。

2013/06/13 (Thu) 17:58 | 羽梨 #- | URL | 編集 | 返信

Re

たった今、羽梨さまのおうちにコメントをさせて貰ってました。
・・・入れ替わり。笑
李順さんは、夕鈴を信頼してると思うのですよ。
だって、自分が採用したし!
夕鈴の信頼に、陛下が応え切れてないのが、どうだか。ねぇ。(ねえって)
陛下は何日締め出されたのかしら。・・・・やっぱり、二十日間?笑

2013/06/13 (Thu) 18:05 | あさ #- | URL | 編集 | 返信

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2013/06/14 (Fri) 00:45 | # | | 編集 | 返信

高月慧ネン様♪

こちらへのコメント、ありがとうございます♪
毎度の事ながら、読み逃げててすいません・・・。
夕鈴、頑張りました!
ちゃんと、陛下を信じて頑張ったんです。
李順さんの信頼に、しっかりと応えた!(そこか)
陛下が少し可哀想かとも思いましたが(手紙でフォローしてたから)、
私の精神衛生上、八つ当たりをさせて頂きました。にやり。
リアルの方も、イラッとしたことのうち、半分は片付きました。
ご心配頂き、ありがとうございます!!

2013/06/14 (Fri) 07:57 | あさ #- | URL | 編集 | 返信

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