2013_05
18
(Sat)17:36

喪失


【設定・原作沿い】



《喪失》




________いつもと変らぬ部屋。

艶のある卓には、美しく活けた花。

どことなく香る、花の香り。


________いつもと変らぬ庭園。

さわやかな風。

咲き乱れる花々。



でも。



『お帰りなさいませ、陛下。』


君だけが、どこにもいない。












ここ数日、黎翔は政務に追われていた。


予定外の友好国との会談。

軍部からの視察要請。

大風で被害にあった地方への対応。

それらに加え、通常業務も山積みで。


十日間ほど、後宮へ帰れぬ日々が続いていた。


「・・・・李順、これで終わり、だな?」

久しぶりにすっきりと片付いた執務室をぐるりと見渡し、黎翔は軽く息を吐いた。

「はい。お疲れ様でした、陛下。」

手元の書簡をくるくると丸め始めた李順の目元にも、濃い隈が浮かんでいる。

「じゃあ、僕、夕鈴のところに行って来る!」

軽快に立ち上がった黎翔の足取りは、浮き立つようで。


「・・・・陛下・・・・・」

とうとう来てしまった『この日』。

李順は、目を瞑った。








「___________妃、は、どこだ。」

いつもと同じなのに、がらんとした部屋。

今しがたまで人がいたような様子なのに、夕鈴はどこにもおらず。


四阿。
庭園。
立ち入り禁止区域。
お気に入りの大樹。
池のほとり。

追いすがる女官達に構わず、黎翔は後宮内を走り回り、『妃』を探す。



___________僕、お仕事頑張ったんだよ?


面倒な会談にも、笑顔で臨んだし。

最初から最後まで、将軍達の話しも聞いた。

大風で苦しんだ民のために、出し渋る大臣達を説得して国庫からの支出を認めさせたし。

溜まりまくっていた書簡も、頑張って片付けたんだ。


君に、『よく頑張りましたね、陛下!』って言ってもらいたくて。

『お疲れ様でした、お茶をお淹れしますね?』って言ってもらいたくて。

花のような笑顔で、僕を迎えてもらいたくて。

鈴の鳴るような声で、笑って欲しくて。


___________いつまでも、そばにいて欲しくて。




ねえ、夕鈴。

・・・・どこ?


・・・・どこ、だ?



気付けば下町に降り立っていた。

夕鈴の実家は、もぬけの殻で。

ただ、一通の手紙だけが、食卓に置かれていた。



『・・・急に、父が地方に赴任することになりました。父や青慎が困るので、私もついていくことにしました。突然の不義理をお許し下さい。

陛下、ごめんなさい。この卓で、この家で、陛下とお食事をしたこと。たくさんの優しさを頂いたこと。忘れません。たくさんの思い出を、ありがとうございます。 夕鈴』



「___________なに、をっ!」

ぎゅっと手紙を握り、黎翔は奥歯を噛む。

「・・・・浩大。」

「気付いてたの?陛下。」

「あたりまえだ。」

屋根裏から、浩大が顔を出す。

「・・・・夕鈴は、どこだ。」

「大風の被害が酷かった地域。期間限定の赴任だけど・・・・」

「期間は。」

「・・・・二年。」


黎翔は、王宮に取って返した。







「________李順。」

「お帰りなさいませ、陛下。」

いつも通りの様子で自分を出迎える側近の姿に、黎翔の頭に血が上る。

ガツンッと大きな音を立て、李順を壁に押し付け。

容赦なく締め上げる。

「・・・・知っていたな?」

怒りに燃える目で、見下ろしながら。

「なぜ。」

と、問う。

李順は少し逡巡し、ゆっくりと口を開いた。

「__________もう、『限界』でしたので。」

「なに?」

「お分かりでしょう?陛下。彼女がここに来て、もう随分と過ぎました。・・・・もう、限界だったのですよ。」

「っ!」

「いつまでも懐妊しない『寵妃』。いつまでも正妃を娶らぬ『王』。いつまでも帰れぬ、『バイト』。いつまでも終わらぬ、『借金』。」

「・・・・・」

「・・・・本当は、おわかりでしょう?・・・陛下、もう、『臨時花嫁』は・・・・」

「___________。」


ゆっくりと、黎翔の手から力が抜け。

二歩、三歩、と、よろめくように退く。


黎翔の拘束から逃れた李順は、軽く身じまいを正し。


「______________つきましては、陛下。」


いつもの調子で、分厚い書簡を差し出した。










狼陛下唯一の妃が、後宮を去ってから、三ヵ月後。

白陽国国王、珀黎翔は正妃を迎えた。


慎み深く、艶やかで。

教養豊かで、優美で。


狼をも包み込む、柔らかく優しい微笑を絶やさぬ、正妃。


彼女の名は__________『汀夕鈴』。

彼女を正妃に立后するにあたり、李順がどのように立ち回ったか。

・・・・それは、またの機会に。
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あささま
わたしもお伝えしたい
U様
「あなたに会いたい」

2013/05/19 (Sun) 19:42 | おりざ #- | URL | 編集 | 返信

Re

おりざ様
ねぇ。ほんとに。会いたいですよ。
っていうか、会うから。絶対。
元気出てきた。狩りますw(こら)
> あささま
> わたしもお伝えしたい
> U様
> 「あなたに会いたい」

2013/05/19 (Sun) 20:15 | あさ #- | URL | 編集 | 返信

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2016/02/15 (Mon) 21:38 | # | | 編集 | 返信

SALLY♪様へ

あちこちのリンク切れ、申し訳ございません。
全部直していると、多分半年くらい更新できなくなるなぁ、と思いまして…。
現在放置してます…ほんとごめんなさい。
すいませんでしたぁっ!

2016/02/16 (Tue) 10:07 | あさ #- | URL | 編集 | 返信

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