2013_05
14
(Tue)13:36

怠慢

【設定・臨時花嫁・原作沿い】

*ご注意!夕鈴が少し(?)不快な目に遭います。

苦手な方は、どうぞご無理なさらず!!!




《怠慢》




「兎が攫われた」


王宮、昼過ぎ。

今朝から下町に帰っている夕鈴を護衛しているはずの浩大から、文が届いた。

短い一文に浩大の焦りが感じられ、黎翔はすぐさま王宮を抜け出し。

王宮門外で、待ち構えていた浩大と合流する。

「状況は。」
「・・・ごめん、陛下。」

歩みを止め、黎翔が浩大に詰め寄る。

「・・・・・どうした。」

唇を噛み締め、浩大は状況を説明し始めた。







ここのところ、王都では若い娘をかどわかす事件が相次いでいた。

多くは、夕刻から夜にかけて、突然娘が姿を消し、三日後に帰ってくる。

・・・が、その三日間の記憶は、すっぽりと抜け落ちているのだ。

身体に傷などはなく、金品を取られた形跡もない。

・・・・神隠しだ、と、もっぱらの噂であった。





________その『神隠し』に夕鈴が。

油断してた、と浩大はうなだれる。

夕鈴が姿を消したのは、白昼。

人通りも多く、人目も多い。

まさか、と思った自分を、浩大は恥じていた。


「言い訳は後で聞く。夕鈴は今どこにいる。」

なんの感情も表さぬ黎翔の顔。


________この顔をしている時が一番恐ろしい。

それを知っている隠密は、短く答えた。

「密貿易と人身売買の疑いがある、貴族の家。」









「________愛らしいな。」

ぎしっ、と寝台が沈み込む。

さらり、と髪を掬われ、弄ばれる。

低い、笑い声。

「_________まだ少女のような、初々しい『人形』だな。」

値踏みするように見おろされているのが、わかる。

「ここ最近では珍しい・・・なかなかよい『人形』だ。丁寧に扱え。・・・高値がつくやもしれん。」

くつくつと、嫌な笑い声が降り注ぐ。

「・・・いつもの『薬』を飲ませろ。抵抗されては興ざめだ。」



_________たすけて、へいか



心の声は、誰にも届かず。


薬を嗅がされ動けない夕鈴の口が、無理やり開かれる。

後頭部を支えられ、身体を引き起こされ。

甘い透明な液体が、夕鈴の口に流しこまれ、飲み込まされた。



「________くくっ。今宵は良い『人形』が手に入った・・・・遠方からの客人も、さぞお喜びになろう。」






燭台の明かりだけが灯された、窓のない部屋。

中央には真紅の寝台。

周囲には、観客席。

「__________さあ、皆様。これより特別な催しをご覧に入れましょう・・・」

寝台の中央には、肩も露な衣装を着せられた、夕鈴。

くったりと脱力し、息は荒く。

目は潤み、頬は桜色に染まっている。


________たすけ・・・へ・・・か・・・


夕鈴の頬に、涙が伝う。




「・・・それでは、この愛らしい『人形』に最初にお手を触れる幸運なお方は・・・・」



「___________誰だ、と思う?」

場を制す、怒気を隠さぬ声。

蝋燭が切って落とされ、暗闇が襲い。

ひゅん、と鞭が撓る音がして、鋭い金属音が響き・・・・静かになった。








馬上の黎翔は、夕鈴を抱きかかえ、一言も発しない。

並んで馬に乗る浩大は、沈黙に耐えかね、口を開いた。

「________あのさ、陛下。」

「・・・・・」

「ごめんなさい・・・」

馬から飛び降り、頭巾を外し。浩大は地面に跪く。

「・・・・・なんの真似だ」

無感情な黎翔の声が浩大を射抜く。

「護衛、失格だ。始末してよ・・・できれば、あんたの手で。_______陛下。」

懐から小刀を取り出し、浩大は黎翔に手渡す。

・・・隠密の血で陛下の剣を穢す訳にはいかない。

立ち上がり、顔を上げ。

「使えない道具は、捨てた方がいいよ。」

にぱっと、笑った。




「_________手入れを怠った、持ち主の怠慢・・・だな。」

しばしの沈黙の後。

「明日から道具の手入れを怠らぬようにせねば。」

呟いた黎翔は、にやりと笑い、馬の腹を蹴る。

「・・・・お前がいないと、記憶のない夕鈴が訝しむのでな。」

ぼそっと、本音を漏らしながら。






翌朝。


「おはよう!夕鈴!」

汀家の居間には、なぜか李翔の姿が。

「・・・・あれ?どうして?」

「きちゃった!」
「うきゃぁぁぁっ!!」

がばっと抱きつかれ、夕鈴は悲鳴を上げ。

おぼろげに覚えていた、昨夜見た怖い夢のことも。

怖い夢のあとの、甘くて幸せな夢も。

_______一瞬で、記憶から消えていった。



「・・・・へーか、お妃ちゃんの首、えらい事になってるけど・・・」

窓の外から覗く隠密は、くっきりと紅い華を咲かせた夕鈴の首筋を、気の毒そうに見つめるしかなかった。
«  HOME  »

C.O.M.M.E.N.T

コメントの投稿

非公開コメント

トラックバック