2013_05
12
(Sun)00:23

絆の日・おまけ

《絆の日・おまけ》


「________濡れちゃいましたね・・・」

「うん、そうだね。」

ひとしきり泣いたあと、夕鈴は照れたように頬を染めて顔を上げた。

「冷えると風邪引いちゃうから・・・・老師に湯殿の仕度、して貰おう?」

王宮は、すぐそこ。

僕と夕鈴は手を繋いで通用門を潜り抜けた。



「陛下?!・・・掃除娘まで・・・ずぶ濡れ、ですな・・・」

「老師、湯殿の仕度を急げ。」

急に現れた僕に驚きつつも、老師は機敏に動き、配下に湯殿の仕度を命じる。

「お手数おかけして、申し訳ありません、老師。」

夕鈴は濡れ鼠ならぬ、濡れ兎だ。

・・・・ああ、良い匂い。

雨でしっとりと湿った髪が体温で温められて、夕鈴の甘い香りが漂ってくる。

髪からだけではなく、首筋や、胸元からも。

ちらりと老師を見やると、そ知らぬふりをされた。

温かいお茶を飲み、身体を温めるうちに、湯殿の仕度が整う。

老師の部屋の程近くある、少し狭いが窓が高くて安全な湯殿。

お忍びで王都に出かけた際によく使う湯殿だ。


「夕鈴、先に入っておいで?」

冷え切っているであろう夕鈴を気遣うふりをする僕に、君は噛み付いた。

「だめです!陛下より先にお湯を使うなんて!!」



___________かかった。


我知らず、狼になる。

「_________奥ゆかしいことだな、我が妃は。」

「っ!な、んで狼・・・・!」

「老師。妃の着替えの仕度を。」

「・・・御意。」

ほくほく顔の老師は、足取りも軽く更衣の間へ向う。

「ごゆっくり。」

そういい残す事は忘れずに。



腕の中には、愛しい兎。

すぐそこには、温かな湯殿。

「________さて、妃よ。」

口をパクパクさせる兎を、救い上げるように抱き上げ。

「・・・共に温まろう。」

すたすたと、湯殿へ向う。

「ちょ、陛下っ!ほ、本気ですか?!」

「あたりまえだ。」

にやりと笑い、夕鈴の動きを止め。


__________服を着たまま、湯殿に浸かった。


「陛下!!衣装が!!」

慌てふためく夕鈴に、軽く笑みをくれる。

「・・・どうせ、もうびしょ濡れだったし、一緒だよ。」

「そんなっ!」

「・・・脱いでから、入りたかった?」

「っ!」

真っ赤に染まる頬に指を這わせ、そのまま耳朶に触れる。

真っ赤な耳には、薔薇の玉。

________君が、僕を忘れないように。

そんな思いを込めた、耳飾り。


我知らず、唇が耳朶を食む。

玉を舐めるように、転がしながら、食む。

「________っ!・・・・あっ!」

びくん、と夕鈴がのけぞり、ちゃぷん、と湯が波立つ。

唇で、頬をなぞり。

ちゅ、と軽く音を立てて、涙のあとが残る目尻を拭う。

湯に濡れて硬く締まった帯を解くのはもどかしくて。

掌を袷に滑り込ませようとした、その時。


「・・・・・陛下~?」

湯殿の外から、聞きなれた側近の声。

びしっと固まる、腕の中の兎。




「・・・・・・なんだ。」


ああ、あと少しだったのに・・・・


僕は、天を仰いだ。
  
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