2013_05
09
(Thu)21:37

会心

5月9日。SNSでは「後宮の日」とのことで。

後宮と言えば、老師!老師と言えば!!と、またおかしなSSが出来上がりました。



【設定・臨時花嫁】



《会心》



「_________これと、それと・・・これも、じゃ。」

ぐつぐつ、ことこと。

紫色の煙が立ち昇り、妖艶な花の香りが立ち込め。

白い布で鼻と口を覆った張元が、額に汗を滲ませ、小鍋を慎重に掻き回し。

黄金色の液体が、とろりと粘りを帯びた。

「・・・よしっ!完成じゃ!!」

後宮管理人、会心の出来。

香油と見まごう、いや、そのものにしか見えない________媚薬が完成した。







「ほれ、掃除娘。よいものをやろう。」

「はい?」

熱心に拭き掃除に勤しむ夕鈴に、老師が小さな小瓶を渡した。

透明な小瓶に入ったそれは、黄金色で、美しく。

「・・・綺麗な色ですね、老師。」

瓶を日に透かしてきらきら輝く液体を見つめる夕鈴に、老師はほくそえむ。

「そうじゃろう!それはじゃな、後宮秘伝の手荒れの薬じゃ!二滴ほどを手肌にすり込むと、水仕事で荒れた指先もつるつるじゃ!」

へぇー、といいながら、夕鈴は小瓶の蓋をきゅぽん、と外した。

「うわぁ・・・いい香り!」

爽やかな柑橘の香と、どこか甘い果実の香り。

ちょんちょん、と、手の甲に滴を落とし、丁寧に指先まですり込む。

ふわっと香る、心地よい香と、指先までするりとのびる、まろやかな液体。

老師の言うとおり、爪の先までつるつるだ。

「本当!つるつるです!いい香りですし・・・。頂いて宜しいんですか?」

「もちろんじゃ!お主の為に調合したんじゃからの!」

「・・・材料、高かったんじゃ・・・・」

「大丈夫じゃ、そろそろ始末せねばならん薬材を使っただけじゃからの。気にするでない。」

「・・・・・ありがとうございます!」

嬉しげに小瓶を胸に押し当て、ニコニコと微笑む夕鈴を見て。

張元の良心が少しだけ痛んだのは、本人しか知らない。






夜、後宮。


「おかえりなさいませ、陛下。」

「妃よ、今帰った。」


今日も始まる、演技夫婦の甘い夜。


「_________よい香がするな。」

茶を淹れる夕鈴から香る、いつもと違う香に、黎翔は敏感に反応し、夕鈴の手に触れる。

「お分かりになりますか?・・・本日、老師に頂いた香油が気に入りまして・・・・」

侍女達の手前、夕鈴は大人しく黎翔に手をとられ、自分の手を口元へ運ぶ黎翔の視線に耐えた。

「老師が、か・・・・・なかなかよい香だ。」

ちゅ、と夕鈴の指先に口付けを落とし、黎翔は人払いをする。

しゃらしゃらと衣擦れの音をさせながら、侍女たちが下がり。


「・・・・・うん、行ったかな。」

黎翔の表情がふにゃ、と崩れ。

「ゆーりーん、お茶淹れて?お茶!あとね、お茶菓子も欲しいな!」

ぱたぱたと尻尾を振りながら、お茶とお菓子をおねだりする。

夕鈴は指先に残る甘く痺れるような感触に頬を染めながらも、嬉しげに仕度をし。


「__________今日も、お疲れ様でした。陛下。」


薫り高い茶に、可愛らしい甘味と真心を添えて、お出しする。


今日一日の報告と、他愛の無いおしゃべり。

下町で有名なお菓子のこと、今日の方淵との睨み合いや、掃除の話し。

いつもと同じ、夜。



________な、はず、だったのに。


「・・・今日の茶は、格段に甘いな。」

黎翔の表情が、狼のそれに変った。

「この手が淹れた茶は、こうも甘く香るのか・・・・?」

長椅子に並んで座っている夕鈴の手を、黎翔の手が掬い上げる。

黎翔の指先が、夕鈴の手の甲をなぞり。

爪先から、掌を擽る。


「________っ?!」


びくんっ!と跳ね上がる自分に、夕鈴は驚いた。

「・・・え?・・・ご、ごめんなさい、陛下!や、やめてください!くすぐったい!!!」

触れるか触れないかの微妙な感触に、夕鈴の背筋をゾクゾクしたものが駆け抜け。

未知の感覚に、涙が滲む。




____________老師め。


夕鈴の指先にくちづけた時に香った、あの香り。

爽やかで甘い、あの香は・・・・・・

昔、父王を囲む女狐たちが纏っていた、香り。


_________余計なことを。


おせっかいな老師に、怒りが湧く。


「・・・夕鈴、この香り・・・」

夕鈴の指先に再び顔に近づけ、強張る兎と眉間にしわを寄せる狼が見つめあい。

・・・・堪えきれず、兎が悲鳴を上げた。


「ごめんなさいっ!この香り、お気に召さなかったんですね?!す、すぐ洗ってきますから!手を離してください!!」


黎翔の息がかかるだけで跳ねそうになる身体を何とか押さえ込みながら、夕鈴は身を捩って逃げようとした。


・・・やだ、わたし、なんかおかしい!!

陛下の手が自分の手に触れるだけで、身体が熱くて、涙が出る。

吐息がかかるだけで、背筋が痺れるようで。

「___________ぅふ、ぅっ」

陛下に聞こえないように、乱れる呼吸を整え。

がくがく揺れそうになる膝に、力を込めた。



数瞬の、のち。



「________ううん、いい香りだよ?心配しないでね?」

ころりと小犬に戻った黎翔は、にっこりと笑い。

「驚かせて、ごめんね?・・・・おやすみ。」

笑顔と共に、廊下へ出た。


その向う先は_______老師の庵。

だが、そこはもぬけの殻で。

整えられた卓上には、黄金色の液体が入った透明な瓶と手紙が恭しく置かれ。



『腰痛が再発いたしましたので、静養に参ります。この『香油』は、陛下の御随意に・・・』

瓶を掴み上げ、叩き割ろうとした瞬間。

黎翔の脳裏に、先ほどの夕鈴の姿が浮かんだ。


________やっぱり、もらっておこう。


たっぷりと重みのある瓶を懐に、黎翔は足取りも軽く、自室へと帰っていった。
«  HOME  »
  

C.O.M.M.E.N.T

コメントの投稿

非公開コメント

トラックバック