2013_05
02
(Thu)17:02

新茶

【設定・臨時花嫁】
【バイト開始以前の話と、バイト開始後の話です】
【前半には几鍔が出てきます】




《新茶》



____________いい香り。


新鮮な水を汲み、台所で湯を沸かし。

ゆったりとした気分で、新茶を淹れる。



「・・・毎年、ありがとう。几鍔。」

この日だけは、素直にお礼が言える。

「・・・気にすんな。余ってるから持ってきてやっただけだ。」

「ふふ。毎年余るのね。」

「・・・・いいだろ、別に。」


甘い新茶の香りが、穏やかな空気を運ぶ。


「_________好きだったよな。」

「ええ。」

卓に並ぶ、三つの茶杯。

『新茶にはお茶菓子なんていらないのよ_____ほら、こんなに甘い。』

『ふふ。まだ夕鈴には少し苦く感じるのかしら?』

『几鍔くん、いつもありがとう。』


ふわりと漂う、新茶の香り。

__________その向こうには、母の面影。





ひとしきり無言で茶を味わい、ふと几鍔が口を開いた。


「そういや、住み込みバイトに行くんだって?」

「ええ、王宮のお仕事よ。割がいいんですって。」

「大丈夫かよ?」

「大丈夫よ!__________たぶん。」

「_________嫌になったらすぐ戻って来い。」

「っ!誰が!大丈夫だってば!」









今年の新茶は、後宮で味わう。

「________どうぞ、陛下。」

心を込めて。

甘くて切ない新茶の香りが、少しでもこの人の心に残るよう。

きっと来年は、私じゃない誰かが・・・・貴方の為に淹れる、新茶。

少しでも、あなたの心に残るよう。

甘くて切ない、新茶を淹れる。





「________ありがとう、夕鈴。」

澄んだ甘い香りと、夕鈴の白い手。

桜貝のような色をした指先と、緑の茶。

あと何回、この手が淹れた茶を味わえるのだろう。

来年も。そのまた来年も。ずっと、ずっと。

「うん、美味しいね。」

にこりと笑うと、君も笑う。



「やっぱり新茶は甘いですね。」

「うん。」

「実家では、毎年几鍔が持ってきてくれて・・・・」

「・・・・なんで、金貸し君が?」

「店の分が余るから、って。」

「ふーん・・・」

「あ、おかわりいかがですか?」

「ありがとう。」


優雅に立ち上がり、茶を淹れ始める夕鈴を、黎翔はじっと見つめて、目を閉じ。


・・・・・几鍔に茶を淹れる夕鈴を想像する。

「__________やはり、帰せないな。」

そっと呟き、夕鈴を後ろから抱きしめ、肩に顔を埋め。

甘い花の香りと、新茶の香りを楽しむ。


「っ!陛下、お茶が零れます!」

「あのさ、夕鈴。」

「は、はいっ!」

「王宮にも新茶はたくさん余ってるから・・・・来年も、一緒に飲もう?」

「え?」

「ね?いいでしょ?」


にっこりと笑う黎翔に、夕鈴は頬を染め。

________小さく小さく、こくりと頷いた。

C.O.M.M.E.N.T

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