2013_05
01
(Wed)14:33

距離

【設定・臨時花嫁・原作沿い】



《距離》




______それは、陛下にとってはそれほど苦ではないのかもしれないけれど。









初夏。

涼やかな風と、少し強くなってきた陽射し。

花々は咲き乱れ、新緑の木漏れ日が気持ちのよい日陰を作り。

「___________君が淹れてくれる茶は、どうしてこうも美味いのか・・・」

黎翔はそっと夕鈴の手を握る。

「・・・・あ、ありがとうございます・・・陛下を想いながら、お淹れしているから、でしょうか・・・」

頬を染め、夕鈴はぎこちなく答える。

くすっと笑い、黎翔は夕鈴の両手に唇を寄せ。

「_________愛らしいこの手が淹れるから、ではないのか?」

ちゅっ、と音を立てて、指先に口付ける。

侍女達に背を向けている夕鈴が、『これ以上は、無理!!』と、黎翔を睨み。

「___________下がれ。しばらくは妃と二人で過ごさせよ。」

ようやく、人払いをしてくれた。






その日の夜。後宮、妃の部屋では。

「陛下・・・お願いですから、もう少し演技を・・・あの、抑えては頂けないでしょうか。」

ぐったりとした夕鈴が、長椅子で倒れていた。

「四阿での『演技』のあとの、侍女さんたちの視線がいたたまれなくて・・・・!」

「えー・・・抑えた方だよ?」

「ええっ!あれでですか?!」

「うん___________だって本気でやったら色々止まらなくなりそうだし・・・」

「え?何か仰いましたか?」

「ううん、こちらの話し。」

「?・・・・あ、そうでした。陛下に伺いたいことがあるんです。」

「なに?」

「実はですね・・・・・」


夕鈴は最近ずっと気になっていたことを話し出した。





黎翔は夕鈴の部屋で夜を明かすことはない。

侍女を下げ、『妃』との時間を過ごし。
深夜、あるいは日付が変わってから、自室へ戻る。

黎翔の後宮の自室は、王宮に程近く。
夕鈴の自室は、後宮の比較的奥深いところにある。

つまり。

「・・・・・陛下を、夜遅くに長い廊下を歩かせるなんて、申し訳なくて。」

と、いうのが、夕鈴の気がかりなのであった。


長椅子に座り、両手を行儀よく膝に置き、切々と『気がかり』を訴える夕鈴を見ながら、黎翔は__________和んでいた。

「今までは余裕が無くて・・・気が回らなくて申し訳ありませんでした!」

「だいじょうぶだよー。そんな長距離じゃないし。すぐそこだよ?僕の部屋。」

「いいえ!そんなに『すぐ』じゃありませんよ・・・・」

「嬉しいなー、お嫁さんに心配してもらえて!」

「もうっ!茶化さないで下さい!」

「あはは」

「っ!とにかく!今日から私が陛下のお部屋に参ります!」

「ええっ?!なんで?!」

長椅子でゆったりと和んでいた黎翔は、驚きに目を瞠る。

「老師に聞いてみたんです。どうしたら良いか。・・・・・そしたら」

________夕鈴、尋ねる相手を間違えてるよ・・・

「普通は、妃が王の部屋に行くものだ、って。」

「あー・・・そうなの、かな?」

「そうなんです!だから、私が伺いますね?」

「でも、危ないよ?」

「陛下がお一人で歩かれる方が危ないです!臨時花嫁の代わりはいくらでもいますけど、陛下の代わりは__________」

夕鈴が言い終わるより前に、黎翔が動いた。

夕鈴の視界が反転し、天井が目に入る。

肩を抑えられ、体が動かせない。

「__________君の代わりが・・・・他にいる、と?」

狼陛下の紅い瞳が怒りの色を帯びる。

「だ、だって・・・・バイト妃・・・っ!」

ぎり、と黎翔が唇を噛み締めたのが分かり、夕鈴は口を噤んだ。

「・・・・・君以外の淹れる茶は、何の味もしない。」

「________へい、」

「・・・・・君の声以外は、聞きたくない。」

「・・・か・・・?」

「・・・・君のそば以外は、安らがない。」

「あ・・・」

「自分の代わりなどいくらでもいると、本気でそう思っているのか?」

「だって!」

「__________許さぬ。」

「陛下!何の演技ですか?!」

混乱した夕鈴は叫んだ。

「_______演技、か・・・そう思うなら、それでもよい・・・・だが。」

黎翔の真摯な瞳に、夕鈴は息を呑んだ。

「愛しい妻に、深夜の廊下を歩かせるなど・・・・できぬ相談だ。」

夕鈴の頬をそっと撫で、ふわりと黎翔が笑む。

「・・・なあ?妃よ。」

どこまでも綺麗な紅い瞳。
その美しさに吸い込まれそうになりながら、夕鈴はやっとの思いで口を開いた。

「・・・・私も!大事な夫に、深夜の廊下を歩かせるなんて・・・・いや、です・・・」



_________これは、演技?

_________これは、演技か?


互いの瞳を覗き込み、真実を探す。

その、薄茶の瞳に。
この、紅い瞳に。

宿る『想い』は。


________どこまでが・・・・本当?

________どこまでが・・・・真だ?


求めるものは、同じなのに。


王と妃を繋ぐ廊下は____________近くて、遠い。

C.O.M.M.E.N.T

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