2013_04
02
(Tue)11:08

欠片

SNSの我が家にて11111人目のお客さまになられたO様からのリクです。


【設定・臨時花嫁・原作沿い】
*明玉さんも、まだ独身です。


《欠片》


それは、夕鈴が久しぶりに休暇を貰い、下町へ帰っているときのことだった。

「・・・・そうなの。青慎の学問所の先生がね、力試しの意味も兼ねて、国試を受けてみたらどうか、って。」
「へぇ~、さすが青慎くんね!国試に挑戦だなんて!」
「ふふ、ありがとう、明玉。」

今は昼の忙しい時間帯も終わり、飯店も小休憩の時間だ。
周りに人がいないのを確認した明玉は、こほん、と咳払いをして夕鈴に改めて向き直った。

「・・・・あのね、私、あんたに紹介したい人がいるんだけど・・・」
「だれ?なんで?」

ぽっと明玉の頬が色づき、夕鈴は端と気付いた。

「まさか・・・」
「うん、実はお付き合いしてる人がいてね・・・」
「ちゃんとした人なの?お仕事は?ご家族は?」

急に世話焼きおばちゃんと化した夕鈴の迫力に、明玉はたじろいだ。

「だ、大丈夫!ちゃんとした人だから!」

両手をぱたぱた振りながら、首まで真っ赤になった明玉は、彼との馴れ初めから夕鈴に話し出した。

「・・・・で、おかみさんの代わりに私が届けることになったんだけど。」
「うんうん。」
「ほら、この店の一日分の売り上げ額って、結構なものでしょ?一人じゃ危ないからって、両替屋さんが手代さんを付けてくれてね。」
「・・・まさか。」
「そうなの。最初に彼を見たときは、なんだか怖そうな人だな、って思ったんだけど。」
「怖そう・・・」
「背も高くて、体つきもがっしりしてて、強そうだから。・・・でも、一緒に歩いてて、ぬかるみがあったりするとさりげなく避けてくれたり、人ごみでも守るように歩いてくれて。」
「・・・・」
「もちろん、護衛してくれてるだけだ、って思ってたのよ?初対面の人にのぼせるほど、子どもじゃないつもりだったし。」
「うん・・・」
「会うことも、もうないって思ってたの。」
「・・・・よね。」
「でも、それから時々、彼が夕食時にこの店に来るようになってね。・・・・私も柄にも無く嬉しくて。・・・ただ、お茶をお出しして、ご注文を伺って、っていうだけだったんだけど、なんだかとっても彼が来てくれるのが待ち遠しくて、嬉しくて。」
「待ち遠しくて、嬉しい・・・?」
「そう。でもほら!私ばっかり彼を気にしてるのって、なんだか恥ずかしいじゃない?ばれないように必死だったのよ~。」
「ばれない、よう・・・」
「そう!でもね、ある時、彼の隣の席のお客様がお茶をこぼしちゃって、彼の膝にかかったの。たまたま私がそばにいたから、すぐ拭ったんだけど、もう恥ずかしくて死ぬかと思ったわよ!真っ赤な顔を見られないように、すぐに下がろうとしたら、ぼそっと彼が「ありがとう」って言うから。思わず顔を上げちゃったの。」
「恥ずかしくて・・・死にそう・・・」
「そしたら彼も真っ赤になってて、思わず固まっちゃったの。・・・そしたら。」
「そしたら?」
「周り中のお客さんがみんな立ち上がって拍手するのよ?」
「拍手?!」
「そう。『よかったな!兄ちゃん!!!』とかいいながら。」
「_____まさか。」
「そうよ・・・彼は私に会いに通ってくれていて、私も彼が気になって・・・なんて、もう、この辺りのおじさんおばさん達には筒抜けだったわけよ。」
「うわー・・・。」
「でもね、そのおかげで、私も彼も変に勘ぐったり、誤解したりしないでお互いの気持ちが分かり合えたし・・・ほんとにありがたいと思ってるわ。」
「______よかったね、明玉。」
「ありがとう、夕鈴。」

式の日取りや花嫁衣裳。
幸せそうに嬉しそうに話す親友を見て、夕鈴も心が温かくなるのを感じた。








数日後、後宮。

初夏の新緑が目に優しく、色とりどりの花が咲き乱れる庭園を、王と妃が散策していた。

「陛下!ほら、あんなところにもお花がたくさん!可愛らしいですね~、冬の間は気付かなかったけど・・・」

キラキラと目を輝かせて話しかける夕鈴を、黎翔は眩しげに見つめた。

「ほんと、明るくてかわいい花だね。」
「そうですね!こういう愛らしい花も良いですよね~。」

(その花じゃないんだけどね)
心の声を飲み込んで、黎翔は夕鈴の後を付いていく。

「ああ、夕鈴、その先は少し足場が悪いから気をつけてね?」

黎翔は夕鈴を気遣い、その手をとる。

「あ、ありがとうございます、陛下。」

夕鈴は自分の頬が染まるのを感じた。
と同時に。

(・・・・あれ?)

ふと明玉の言葉が脳裏をよぎる。

『_______さりげなく避けてくれたり・・・・』

(ち、違う!今は演技中だからよ!勘違いしない!!)

急にぶんぶんと頭を振り出した夕鈴を、黎翔は「夕鈴って面白いなぁ」と、ニコニコ見つめるのであった。







夜。

夕鈴は一人で夕餉を終え、湯殿で手足をのばしていた。

「_______ふぅ・・・・」

夕鈴はゆっくりと息を吐くと、束の間の一人きりの時間を堪能し始めた。

『私ばっかり彼を気にしてるのって、なんだか恥ずかしいじゃない?ばれないように必死だったのよ~』

明玉の言葉が脳裏に浮かぶ。

「なんだか恥ずかしい、か・・・・」

親友の幸せそうな笑顔を思い出す。

「でも・・・私は違うもの。ばれたらお側にいられない・・・・」

夕鈴の独り言は湯煙に溶けていった。



「_________お妃ちゃんっ!!」

「え?!浩大っ?!」

湯殿の窓から、浩大の後頭部が見えた。

「湯浴み中にごめん!でも、とりあえず今は何か着てくれない?・・・っ!」

キンッと物騒な金属音が響き、浩大の鞭が撓る音が夕鈴の耳にも届く。

「っ!」

夕鈴は急いで湯から上がり、体を拭うのもそこそこに、夜着を纏う。

「着たわよ!」

「おっ、早いね、さすが。・・・・じゃ、あっ!」

「浩大!!」

「大丈夫だよー。数が多いだけ。じゃあ、お妃ちゃんは湯殿の隅に隠れててねー」

浩大は小窓をぱたんと閉め、刺客の数を数えた。

「ふーん・・・4人か。妃の湯殿を襲おうなんてなー・・・命が惜しくないのかね。」

浩大がぴうっと口笛を鳴らすと、闇が蠢く気配がした。

「・・・・お客様、4名追加~!!」

_______浩大の楽しげな声が響く。








「陛下、おかえりなさいませ。」

夕鈴はいつも通り礼をとって黎翔を出迎えた。

「ああ、今帰った_______下がれ」

黎翔は早々に侍女たちを下げ、夕鈴の手をとる。

「ごめんね、夕鈴。怖かったでしょう?」

夕鈴は黎翔を安心させようと、明るく振舞った。

「これもお仕事ですから!大丈夫です!浩大が守ってくれましたし!」


本当は、怖かった。
何度襲われても、慣れることなんてありえない。
・・・でも。
貴方のために。貴方のそばにいるために、私が出来る事はこれしかないから。

______夕鈴は殊更に明るい笑顔を浮かべて、お茶を淹れ始めた。






湯殿での襲撃は、今回が初めてだ。
庭園や回廊で襲われることはあったが、後宮の奥深くにまで賊が侵入したのは、今回が初めて。
誰か手引きしたものがいるのだろう。
そう察せられるが、まだ人物は特定できない。

・・・・・夕鈴を一人にするのは危ないな。
うん、危ない。とっても。

仕方ないから、僕が一緒に寝てあげないと!!
だって浩大を夕鈴の寝室に入れるわけにはいかないし!

うん、仕方ない。
・・・これなら夕鈴も断れないよね?

自分の考えをウキウキと纏めた黎翔は、パッと夕鈴に目を向け・・・・彼女の手が震えているのを見つけた。





(私は・・・・何をやっているんだ)

黎翔は自分の考えの浅さを呪う。

(怖かったよね、夕鈴。・・・・ごめんね。)

そっと立ち上がり、黎翔は夕鈴を背後から抱きしめた。

「ごめん・・・怖かったよね。守ってあげられなくて、ごめん。」

「だ、大丈夫ですってば!こ、浩大もいたし!」

「・・・・君を守るのは、私なのに。」

狼陛下の低い声。

「________ありがとうございます、陛下。」

夕鈴は、黎翔の手に自分の手をそっと重ねた。

「ふふ。まるで本物になったみたい。」

夕鈴は努めて明るく言葉を紡ぐ。

「陛下は本当にお優しくて・・・だめですよ、今は演技は必要ないですからね。ほら、バイト妃が勘違いしちゃう前に、演技をやめてください!」

上手く自分を誤魔化した、そんなつもりだった。

『ははは、わかったよー。』

そんな小犬陛下の返事が返ってくると思った。

なのに、黎翔から発せられた言葉は夕鈴の予想外で。

「________勘違い、って、何?」

狼とも小犬ともつかぬ、黎翔の声が夕鈴の頭上から降ってくる。

「あ・・・だから、バイト妃なのに、本物になったみたいだ、ってかんちが」

「聞き捨てならないな。」

「っ!」

夕鈴は目の前が真っ暗になるのを感じた。

だめ、もうだめなんだ。私、クビになる・・・・・!

身を固くした夕鈴に、黎翔は苛立った。
憤りすら感じ、歯止めが利かなくなるのを自覚したが、もう止められず。

「夕鈴、勘違いするな。」

「・・・・・は、い」

「私は君を偽者だと思ったことなど、ない。私は君が大切だ。君が私の妃だ、と、何度も伝えた。・・・・違うか?」

「・・・違いま、せん・・・でも、演技はいまはいらな」

「汀夕鈴!!!」

黎翔は本気で吠えた。

「演技では、ない!!!」

「・・・・あ・・・・」


ことん。


夕鈴の中で、何かが音を立てて組みあがる。

『演技では、ない』

その言葉が最後の欠片だったかのように、一つの想いが形を成す。


「陛下・・・・」

背後から抱きしめられたまま、夕鈴は問うた。

「狼も小犬も、陛下なんですね・・・」

「うん。そうだ。」

「じゃあ、今私を抱きしめてくれているのは・・・」

「うん。」

「陛下も、私が、好き?・・・・なの?」


夕鈴のその言葉は、紡がれることはなく。
互いの吐息の中に溶けていった。

C.O.M.M.E.N.T

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