2016_05
30
(Mon)11:50

因幡の白兎2


おや?
うっかり日焼けした夕鈴のお話を書くだけのはずが、まだ終わりません。
私は楽しいのですが、皆様にもお楽しみいただけているのかどうか。(笑)
気の向くままに日記感覚でSSを書く管理人です。
あまり期待せずにお進みくださいませ!

【設定 本物夫婦 お子様なし】
《因幡の白兎2》



王宮、執務室。

「陛下、失礼いたします。」

いつも通りのどんよりとした顔で現れたのは、周宰相。
ぎっしりと書物を詰め込んだ箱を抱えて現れた彼に、黎翔は意外そうに答えた。

「お前がここに来るとは珍しいな。李順はどうした?」
「李順殿は所用がおありとのことでしたので、私が。」

ごとん。
重たそうな音。
黎翔の眉間に皺が寄る。

「…いつもより多くないか?」
「気のせいかと。」

手際よく書簡を積み上げる周宰相の手元を恨めしそうに見つめ。

「ふぅ。仕方ない、やるとするか。」

黎翔は筆を取り上げた。





同じころ、後宮では。

「もっと氷を持ってこい、あとはほれ、あれじゃ。」
「あれ、とは何ですか老師。」
「先日蒼玉国から取り寄せた…あれじゃあれ、」
「葡萄の香油ですか。」
「それじゃ!」
「…物忘れもたいがいにして下さいよ、ったく。」
「なんか言ったかの。」

腕まくりをした李順と張元に加えて信用のおける侍女数名が夕鈴を取り囲んでいた。

「お妃様、布を替えさせていただきます。」
「はい。」

主の肌を日焼けさせてしまった侍女たちは、必死だ。
あまりにも心地よさげに眠っている妃を起こすに忍びなくてしばし時を過ごしてしまった結果が『これ』なのだから。

「痛くはございませんか?」
「はい、大丈夫です。」

妃はそう言うが、真っ赤に腫れ上がった肌が痛くないはずはない。
自分たちの迂闊さを呪いつつ、届いた香油の瓶を手に取った。

「惜しまずたっぷりと使うのじゃ。」
「承知いたしました。」

老師の指示通り、薄い黄金色の油を妃の肌にのせる。
日焼け後の処置は、赤みがひけば良いというものではない。
三日後。薄皮が剥がれたボロボロの顔や手で茶会に臨むわけにはいかないのだ。

「お妃様、失礼いたします。」

顔、首筋、手。
赤みを帯びている部分全てに油をのせ、その上から再び冷やし始めた。

「……気持ち、いいです。」

半泣きで手当てされていた妃から、ようやく。

「ふぅ……。」

安堵の息が漏れて。
皆の肩から力が抜ける。

「よいか、お妃。後のことは心配せずとにかく眠るのじゃ。」

張元から渡された薬椀を飲み干してからほどなくして、夕鈴は深い眠りに就いた。

「うむ、眠るのが一番の薬じゃな。お前たち、お妃様のお肌を冷やし続けるのを怠るでないぞ。」
「「「はいっ。」」」

あどけない顔で眠る妃。
侍女たちが彼女に取り縋るように手当てをし続ける様を少し離れたところで見守りながら、李順は考え続けていた。

―――あと三日。
さあ、どうする?

「健康的に日焼けした妃なんて、笑えませんよ…。」

うーん、と唸りつつ考える。
手は、隠せる。
指先まで優雅に覆う衣装を誂えればいいだけのことだ。
お妃様は、若い。
老師手配の美肌食と健康的な睡眠があれば、三日の後には肌の艶もお戻りになるだろう。

「こうなったら、持てる技術の全てを結集して…!」

少しくらいの日焼けなどものともせぬほど、見事な。
以前離宮で皆の目を瞠らせた時よりもっとずっと美しい『妃』を作り上げて見せましょう。

ですから、頼みますよ周宰相。
陛下を後宮に帰してはなりません。
あと三日ほど、は。


C.O.M.M.E.N.T

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