2016_04
14
(Thu)08:41

千里香


ついこの間、SNSにてちらりとアップさせて頂いたSSをこちらに移し忘れておりました。
…遅延中の通勤電車よりお届けします。

たくさんのコメントありがとうございます。
嬉しいです。
やり切った感からか、ちょっと気持ちがぺしょんとしておりまして。
もう少しお返事お待ち下さいませ。
お返事は、元気よくさせて頂きたいのです。

では、また。





【設定 本誌沿い 本物夫婦】
《千里香》


最近、少し困っていること。

「わあ、いい香り。」

それは、夕鈴が。
思いもよらぬ感情を連れてくること。

「ね?陛下。」

彼女の手のひらには、沈丁花。
日ごろ花を手折らぬ夕鈴には珍しい事だった。

「うん―――ほんと、千里香…だよね。」
「千里?」
「すごく遠くまで届くほどいい香り。まあ、そんな意味だよ。」
「遠くまで…。」

うーん、と。何事かを考える夕鈴。
春先の、少し冷たい。
だが、冬のそれとは違う優しい風が茶色の髪を撫でていく。

「あの、陛下。」
「うん?」

ぱっ、と顔を上げ。
夕鈴は黎翔の耳に唇を寄せた。

「っ。」

くすぐったいような、嬉しいような。
何とも身の置き所のない感情が黎翔を襲う。

「…夕鈴、それ、反則だから。」
「は?」

黎翔は熱くなった頬を手で覆い、呟く。

――――参ったな。

狼の耳までが赤く染まっていた。




その、翌日。

「おや、珍しいですね。」

王宮、執務室。
国王の机上には、小さな花器が置かれ。

「夕鈴、ゆうりーん。」

まったくもって官吏達には見せられない表情をした狼陛下が赤紫の花弁を指先で突いていた。

「―――――すべてをお伺いするのは遠慮しますが、陛下。」
「可愛いなぁ、可愛いなぁ。」

どさり。
いつもより大きな音を立て、書簡の山が築かれる。

「いずれにせよ。」
「……。」

ごろん。
置き切れなかった書簡がひとつ、転がり出て。
黎翔の手元にピタリと止まった。

「後宮に行かれるのは、これが終わった後、です!」
「ええ~、ヤダ。」
「陛下っ!」

ぶすっと頬を膨らます黎翔に、李順は頭を抱え。
あいも変わらず花弁を愛でながら、狼陛下は幸せを噛みしめる。

『じゃあ、この花は陛下の近くに置いて下さいね。そうしたら香を聞くたびに陛下が近くにいるような気がするから。』

馥郁たる香を惜しげもなく振り撒く、沈丁花。
無自覚なその甘さは、雪を溶かし氷を割る。

「―――さて、早く片付けて花を愛でるとするか。」
「よいお心がけです。」

白陽国の春は、甘い香で満ちている。

C.O.M.M.E.N.T

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