2016_03
12
(Sat)16:15

「おやすみ」

こんにちは。
あさ、です。

ちょっとPCを立ち上げたらSSを書いてしまいました。(笑)
起伏のないSSですが、もし宜しければ。



【設定 原作沿い】
《「おやすみ」》


星が瞬き月が輝く。
ああ、もうすっかり―――

「遅くなってしまった…。」

黎翔は辺りを憚ることなく足を速めた。

「くそっ、炎波国め。」

人には聞かせられない独り言。
新婚早々にやってきた招かれざる客のせいで、どれだけの蜜夜を取り逃がしたか。
歯噛みをしながら走るように後宮へ向かった。

「ったく、浮気対策とかなんとか。」

夕鈴が隠し事なんかし始めたのも、あいつらがきっかけだ。
正直で嘘のつけない真っ直ぐな夕鈴。
少しの睦言に頬を染め面白い行動を取る彼女にしては、嬉しいことをしてくれると思っていたんだ。

「くそっ!」

もう一度悪態をついた頃。
ようやく、目指す部屋の灯が見えてきた。

「妃は?」
「お休みにございます。」
「そうか…よい、顔を見に来ただけだ。」

恐縮し拱手する女官たちを下げ、室内に入る。
ぼんやりと灯りのともった居室はまだ暖かい。
ついさっきまで起きていたのだろう。

「惜しかったなあ。」

ぼそりと呟き奥へと進む。

「……。」

無言で帳を抜ければ。
しっとりと艶のある絹の寝具に埋もれて眠る夕鈴の姿を見つけた。

よかった、今夜もここに居てくれた。

ほっと吐息を漏らす。
知らぬ間に握りしめていた拳を緩め、彼女に手を伸ばし。
健やかな寝息の邪魔をせぬよう、指の背で頬に触れた。

「ん…。」
「おやすみ、夕鈴。」

少し眉を寄せた夕鈴に、そっと囁いて。
再び安らかな表情を浮かべた彼女を、飽きもせず見つめ続けた。

ねえ、夕鈴。
どうして僕に嘘をついたの?
隠し事なんて、君には似合わないのに。
僕の言葉より他のやつらの言葉を信じるの?
ねえ、どうして―――

「どう…して…」
「っ。」

眠っているはずの夕鈴から聞こえた呟き。
自分の胸の内を見透かされたようで絶句する。
でも。

「そうじゃ、な…」

再び寄せられる、眉。
ふるふると瞼が震える。

「はな、し…きい、て、」
「ゆ―――」

ぽろり、と。
零れ落ちた涙が狼の胸に沁み込んだ。

ああ、そうか。
分かっていたじゃないか、黎翔。
彼女は、夕鈴は。
僕の知っている『彼ら』とは違うんだ。
笑顔の裏で唾を吐き、贈り物に悪意を隠す。
夕鈴はそんな事、しない。

「ごめんね。」

僕は疲れているのかもしれない。
早く足場を固めようと、焦っていたのかもしれない。

ゆっくりで、いいんだ。
僕たちは始まったばかりなんだから。

するりと寝台に滑り込み、愛しい兎を抱きしめて。
狼陛下は眠りにつく。

「おやすみ、夕鈴。」

二人で重ねるひとつの夜がまた、更けていく。


御礼   
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