2016_02
08
(Mon)17:19

高嶺の花 5


最終話になります。

好き勝手に書き散らしましたが、お付き合いいただいてありがとうございました。



【設定 臨時花嫁】
《高嶺の花 5》


「夕鈴殿、ケガの具合は?」
「ありがとうございます、もうすっかり良くなりました。」

夕鈴が後宮に戻ってから、少し経ち。
傷が癒えた彼女は今日から仕事に復帰することになった。

「ひどい目に遭いましたね。」
「はい、でももう大丈夫です。」

なんとか軽傷で済んだとはいえ、黎翔の突入があと少し遅ければ取り返しのつかないことになっていたのだ。

「ちゃんと給料は支給しますから、もう少し休まれてはいかがですか?」

少し痩せた、夕鈴。
痛々しい姿の部下を、李順は珍しく労わった。

「陛下も貴女の身体を心配して――――」
「いいんです。」

パッと顔を上げる、夕鈴。
真剣な表情に、李順は口を噤んだ。

「私、今回の件でよく分かったんです。」

ぎゅっと手を握り締めて夕鈴は続ける。

「……妃らしくない、ですよね、私。」
「夕鈴殿。」

泣き笑いのようなその表情に、李順の胸がちくりと痛む。

「そりゃ、私は臨時ですし、偽物ですけれど。少しでも、本物のお妃様みたいになれたらいいなぁ、って。」

――――そんなの無理だ、って。分かってるんですけどね。

そう呟いた夕鈴の瞳からぽろりと涙が落ちて。
そっと目尻を拭う彼女の仕草を、李順は初めて美しいと思った。

「夕鈴殿、いい心がけです。」

努めて厳しい声を出す。

「今のところ陛下には、貴女以外の臨時花嫁を雇うお気持ちがないようです。」
「……え。」
「まあ、借金もまだまだ残ってますし、こちらとしても陛下の二面性を理解している貴女は貴重な人材です。」
「まだまだ……あるんですか。」
「ええ、たっぷりと。」

がくり、とうなだれる夕鈴。
彼女に悟られないように、李順はくすりと笑って。

「それでは本日よりお妃教育の課題を追加します。」
「は、はいっ!宜しくお願いします!」

どさり、と課題の山を積み上げた。







「お帰りなさいませ、陛下。」

夕鈴はお妃様らしい微笑みを浮かべ、黎翔を迎える。

「……今戻った、愛しい我が妃よ。」

ふっ、と優しい笑みを浮かべ。

「会いたかった。」

黎翔は万感の思いを込めてそう答えた。

「下がれ、妃と二人きりに。」

無言で辞儀をして退出する侍女たち。
彼女たちの気配が消えるのを待ちかねたように、黎翔は夕鈴を抱え上げた。

「きゃっ!」
「夕鈴、お帰り!」

少し軽くなった彼女。
まだうっすらと残る首の傷跡や、腕の矢傷。

「ごめんね、怖い思いをさせて。」
「いいえ、これも私の仕事ですから。」

にっこりと笑う、夕鈴。
だが黎翔は彼女の身体が一瞬強張ったのを見逃さなかった。

「――――無理を、するな。」
「っ、」

そうっと抱きしめる。
壊れてしまわないように、大切に。

「……辛い目に、遭わせた……すまない。」
「……っ、ぅ、」

あの日からずっと堪えていた感情が堰を切って溢れ出す。
嗚咽を止めることが、夕鈴にはできなかった。

「何をされたのか、言わなくていい。でも、これだけは分かってほしい。」
「ぅ、あ、ああ……こわ、怖かった、」

腕の中で咽び泣く夕鈴。
黎翔は歯を食い縛りながら、夕鈴が落ち着くのをじっと待った。

「う……ぐすっ。ごめんなさい、陛下。お召し物を濡らしちゃいました。」
「そんなこと。」

真っ赤な目をした兎に微笑みかけて。
狼はゆっくりと口を開く。

「これだけは覚えておいてね、夕鈴。」
「はい。」
「――――狼陛下の妃は、君だけだ。」
「はい、私、妃らしく見えるように頑張りますね。」
「……夕鈴はそのままがいいよ。」
「なんですか、バカにして!」
「違う違う、」
「もうっ!」

いつも通りの、偽物の夜。
その中に含まれる真実を、黎翔は愛おしむ。


『なあ、狼。あんたもこの女を落とせてないんだろ?』

頭を過る、あの男の言葉。

「――――高嶺の花、か。」

手折ることの叶わぬ、愛しい花。
見つめることしか許されぬ、僕の。

「本当に、その通りだな。」

この世のに唯一人だけの、大切なひと。



«  HOME  »

C.O.M.M.E.N.T

管理人のみ閲覧できます

このコメントは管理人のみ閲覧できます

2016/02/08 (Mon) 18:07 | # | | 編集 | 返信

タイフーン様へ

最初から!
最初から?!
恥ずかしいー!!
読んだら忘れて下さいね?!

昨年春に出した本、お届けできなくてごめんなさい。
いやー、去年はたくさん作りましたね。(笑)

2016/02/08 (Mon) 18:14 | あさ #- | URL | 編集 | 返信

管理人のみ閲覧できます

このコメントは管理人のみ閲覧できます

2016/02/09 (Tue) 14:06 | # | | 編集 | 返信

はぁ\(//∇//)\一気に読みました!
やっぱりあさ様のお話は心にしんみり来ます。
臨時花嫁設定おいしいです。
本物にしたいのに出来なくて、夕鈴も好きなのに素直に言えなくてのジレジレ感がたまりません。
どんな設定でも読みたいです。
あさ様のペースでこれからも書いていってくださいo(^▽^)o

2016/02/09 (Tue) 19:01 | まるねこ #- | URL | 編集 | 返信

かざね様へ

過分なお言葉、ありがとうございます~。
どうぞどうぞ、またいつでもお越しくださいませ。

2016/02/13 (Sat) 15:58 | あさ #- | URL | 編集 | 返信

まるねこ様へ

いやいや、なんだか中途半端なSSで申し訳ないです。
「うーん、いまひとつだけど、せっかく書いたからUPしちゃおう。」
そんな管理人でございます。
趣味ゆえの気楽さ。(笑)

でも、設定一つでSSも変わりますね。
不思議です。

2016/02/13 (Sat) 16:01 | あさ #- | URL | 編集 | 返信

あささまこんばんは(^^)

娘が眠ったので久しぶりにお邪魔したらこんな素敵なお話が!

臨時花嫁設定、大好きです。
届きそうで届かない、見えそうで見えないチラリズムのような(例えが悪いやも)面映ゆい感じがたまりません。うふ。

いつもときめきをありがとうございます。
春コミ、残念ながら私はなかなか行けそうにないですが、楽しいものになりますように(^^)v

2016/02/20 (Sat) 22:14 | saara #- | URL | 編集 | 返信

saara様へ

こんにちは。
このようなSSですが、育児の息抜きになりましたか?
私も二次小説を読み始めた時はそうでした。
いいですよね、ほんのちょっとの休憩時間にSSを読むのって。
「ママ」から「私」に戻れます。

私は子どもたちも大きくなってきて今はだいぶ自由時間を取れるようになりましたが、少し前の私と同じようにsaara様が息抜きをしてくださっていると思うと、なんだかとても嬉しいです。
どうぞまたお越しくださいませ。

春コミ、楽しんでまいりますね。
ありがとうございます。

2016/02/21 (Sun) 16:54 | あさ #- | URL | 編集 | 返信

コメントの投稿

非公開コメント