2016_02
05
(Fri)18:13

高嶺の花 1


こんばんは。
あさ、です。

今日、小学校で修了式の日の諸々を打ち合わせて参りました。
本当に一年ってあっという間ですね。

思いつくままに書いておりますので、皆さまもどうぞお気軽に覗いてやってくださいね。
では、どうぞ。

【設定 臨時花嫁】
《高嶺の花 1》


少し、空気がおかしい。
そう思った時にはもう遅かった。





「ねえ、浩大。」
「なに?」

――――昼過ぎに、いつもの四阿でね。

政務室から退がる時に、陛下とそう約束した。
それなのに、今はもう昼と呼ぶには少し遅い時刻だ。

「陛下、遅くないかしら。」
「お仕事忙しくて遅れてるだけじゃないの?」

ぷらん、と四阿の屋根からぶら下がり。
浩大は何気ない風を装い、いつも通りに笑って見せた。

「大丈夫だよ、すぐに来るって。きっと急ぎの書簡でも持ち込まれたんだじゃない?」
「……そう、ね。うん、きっとそうよね。」

少し俯いた、夕鈴。
色恋沙汰以外には妙に間の良いところがある彼女の様子を、隠密はじっと見つめる。

――――気付くなよ、お妃ちゃん。

風に乗って届くわずかな血のにおい。
微かに聞こえる金属がこすれる音。

「そうよね、大丈夫、よね……。」
「何心配してんだよ~、それより、ほら。湯が冷めてるよ?」
「あ、ほんとだわ。」

夕鈴の注意をそらすことに成功し、浩大は心の中でほっと溜息をついた。

「お水、もらってこなきゃ。」

すっと立ち上がる夕鈴。
臨時花嫁として過ごす期間が長くなるにつれ、その立ち居振る舞いもそれらしくなり。

「侍女さんにお願いしてくるわね。」
「ああ。」

水差しを持つ白い手も、もはや下町の頃のそれではなかった。

「あの、お水を――――」
「かしこまりました、お妃様。」

麗らかな陽ざしがさらりと靡く茶色の髪を艶めかせ。
しっとりとした色の衣装が、彼女の肌を際立たせる。

「綺麗に、なったよな。」

狼王が愛でる、一輪の花。
可憐な透明感に満ちた後ろ姿。

「唯一の妃、か……。」

ふっ、と。
浩大の頬に浮かびかけた笑みが掻き消えた。

「お妃ちゃん、逃げろっ!」

ひゅんっ、と物騒な音。
幾筋もの矢が尾を引いて彼女を狙う。

「お妃様っ!」

侍女たちが妃を庇い逃がそうとするが、矢の方が速い。
がしゃんっ、と物が割れる音がして。
浩大が見たものは、粉々になった水差し。

「お妃ちゃんっ!!」
「私は大丈夫、侍女さんたちを早く…っ!」

夕鈴はようやく回廊にたどり着き、柱の陰に身を潜める。
ガタガタと震える侍女たちに、

「大丈夫……皆さんはここから動かないで下さいね。」

そう言い置いて。
夕鈴は、ぱっと飛び出した。
ばらばらと矢が降り注ぐ、庭、へ。



「何やってんだよ!」
「……っ!」

ぎりっと歯を食いしばり駆け寄る浩大。

「だって、侍女さんたちが!」

彼女たちから離れるべく、夕鈴は走る。

「くそっ!」

ひゅんっ、と鞭を撓らせ矢を叩き落とす。
背後から嫌な気配が押し寄せ、隠密の頬に笑みが浮かんだ。

「千客万来――――」

ぶわっ、と襲い掛かる黒い影を最小の動きで仕留めていく。
数は多いが程度は低い客人たちをもてなしつつ、浩大は視界の隅に主の姿を認めた。

「夕鈴っ!!」

抜き身の剣もそのままに妃に駆け寄る狼陛下。

……ああ、あっちもあっちで大変だったんだな。

察しつつ、息を吐き。
浩大はくるりと振り返った。

「さあ、これであんたたちに集中できる。」
「っ。」

にっ、と嗤う隠密。
長い鞭が楽し気に踊る。





「夕鈴、私の後ろに。」
「は、はいっ。」

すらりと剣を構える黎翔。

――――綺麗。

不謹慎にもそんな感想を抱いてしまう自分を戒めながら、夕鈴は邪魔にならないように身を潜めた。

「さあ、少しは楽しませてくれ。」

鮮やかに微笑む狼陛下。
戦場の鬼神が発する殺気に呑まれ、刺客たちが退いていく。

「なんだ、つまらんな――――浩大。」
「はいよ。」
「な……っ!」

慌てる刺客たちの背後には、自分の割り当て分を捌き終えた隠密がいて。
ほどなく、彼らは『客間』に案内された。


「ごめんね、夕鈴……怖かったでしょ?」

ふうっ、と肩の力を抜いて。
黎翔は夕鈴を怖がらせないように、穏やかな笑顔を浮かべて振り返った。

「……夕鈴?」

だが、返事はなく。

「夕鈴、夕鈴――――?!」

彼女の気配も、ない。

「夕鈴――――っ!!!」

しん、と静まり返った後宮に。
狼陛下の叫び声が響く。


C.O.M.M.E.N.T

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