2015_04
20
(Mon)20:10

無音10

今日は雨のおかげで予定が吹っ飛びまして。
おかげで「無音」を終わらせることが出来ました。

途中で書くのを止めようかと思ったんですが、最後まで頑張ろうと踏ん張りました。
でも、色々すっ飛ばしたと思います。
ほんと、ごめんなさい。
途中で止めずに書き終わりたかっただけです。
あまりお勧めできない内容のSSとなっております。
ごめんなさい。

最終話です。
【設定 本誌ネタバレ 陛下の過去捏造 少しだけ未来 夕鈴の耳が聞こえなくなります】
《無音10》





初夏の太陽が余すことなく王宮を後宮を照らす。
夕鈴が音を失ってから、ひと月が過ぎようとしており。
黎翔は未だ、正妃冊立の件を言い出せないでいた。

「早くお伝えしないと、準備ばかりが進んでしまいますよ?」
「うん、そうなんだけど。」

耳が治ってからのほうがいいかなと思って、と口を濁す黎翔。
着々と進む正妃冊立の準備。
それなのに肝心の夕鈴がまだこの件を知らない。
李順はどこか解せないものを感じていた。

「お妃様の、ご容体なのですが……。」
「なんだ?」
「いえ、なんでもありあません。」

気のせいだ、考えすぎたと自分に言い聞かせて李順は口を噤んだ。

「さ、まだ書簡が残っております。お早く。」
「これでお終い?終わったら後宮に帰っていいの?」
「はい、そうなさってください。」

うん、頑張るね!
と筆を握る黎翔。

「早く夕鈴に会いたいな。」
「はいはい、そうですね。」

少し汗ばむような陽気。
季節はもうすぐ変わろうとしていた。







「どうじゃ、お妃。」
「あまり変わりません。」

ごめんなさい、と小さく呟いて俯く夕鈴。
あの日の出血以降、病状は好転しつつあったがまだ元通りには程遠い状況だった。
あれこれと手を尽くし少しでも聞こえるようにと治療に励むが、思うようにいかない。
歯がゆさと情けなさで、夕鈴の身体はさらに細くなっていた。

「まあ、気に病むことはないぞ?多少なりとも聞こえるようになっただけで僥倖なのじゃからな。」
「はい。」

ぽんぽん、と夕鈴の肩を叩き励ます張元。
全く回復の見込みがなかった頃とは違い、今は少しなりとも希望があるのだ。
それだけでも奇跡に近い。
どろりとした薬湯を夕鈴に手渡した。

「今回の薬は一味もふた味も違うぞ?」
「うっ、ほんとにすごい色と匂いですね。」

そうじゃろう、と胸を張る張元。
緑色の沼のような薬湯から立ち上る刺激的な香に、夕鈴は眉を顰めた。

「もうずっと、このままなのかな。」
「お妃……。」

ふっと俯いて。

「もともと治る見込みなんてなかったのに。少しでも聞こえるようになっただけでもありがたいのに。」
「……。」
「贅沢ですよね、私。」

あはは、と明るく笑って薬湯に口をつける。

「うっ、苦いっ、酸っぱいっ!なにこれっ!!」
「じゃから、一味もふた味も違うと、」
「違い過ぎますよーっ!」

騒がしい、妃の居間。
そこへ続く扉の前には、立ち尽くす黎翔の姿があった。

今のは、なんだ。
どういう事だ。

もともと治る見込みがなかった?

聞いてない。
知らない。
なぜ、言ってくれなかった。
僕たちは、夫婦なのに。

纏まらない思考のままに、扉を押す。
ぎいっ、と開くその先で、老師がぎくっと振り向くのが見える。
蒼白になる夕鈴。
そんな顔しないで。

「何故だ、夕鈴。」

くしゃり、と。
顔を歪めて笑う夕鈴。

「こんなの、なんてことないですから。大したことないから、気にしな」
「夕鈴っ!!」

そうじゃない、そんな顔をさせたいんじゃない。
強がって無理をしてほしいんじゃない。

「下がれ、老師。」
「陛下、お妃様は…っ!」
「お前に用はない、下がれっ!」
「っ!」

やり場のない怒りを老師にぶつけた。
八つ当たりだと分かっていても、止められなかった。

「陛下、老師のせいじゃないんです、私がっ。」

立ち上がり、老師と僕の間に割って入る夕鈴。

「私が、私が、『言わないで』ってお願いしたんです!」

そんな事は、分かってる。
君の事だ。
僕に心配をかけまいとしたんだろう?

でも、違うんだ。

「……昔、母は。」
「陛下?」

立ち尽くす夕鈴に、僕は初めて語った。
母の事を。
母を守れなかった父の事を。



母のせいで、後宮は荒れに荒れた。
父に見えないように、陰鬱に荒れ果てた。
母の食事には毒見役が付いていたが、彼らは三日も保たずに入れ替わり。
毎日のように呼ばれる茶会で、母は毒のような言葉を浴びせられ続けていた。
ほっそりした母の身体がより一層薄くなって、でも、それでも。

『お帰りなさい、陛下。』

幸せそうに笑って父を出迎える、母。
気付いてしまえば失う儚い幸せだと分かっていたのだろう。
母も父に不調を隠し、父も母の不調から目を背け。
ある日、母は倒れて。
父は永遠に母を失う事になった。


「――――だから、夕鈴。」

もっと自分を大切にしてくれ。
君の痛みを苦しみを哀しみを、隠さないで、僕に伝えて。

「耳が聞こえなくても、君が君でありさえすればいい。」
「っ、分かって、ます。」
「分かってないよ。」

全然分かってない。

「辛いのに笑わないでくれ。苦しいのに平気な振りをしないでくれ。」
「陛下。」
「今だって、きっとあまり聞こえてないんだろう?…僕の唇をじっと見てる。」
「っ、ごめんなさい。」
「…『あやまらないで』って言ったのは君だろう?」

悪いのは僕ではない、あの男だと。
そう言ったのも、君だ。

「君を正妃に迎えたい。」
「…っ!」

ただの妃ではなく、王の隣に並び立つ正妃に、君を。

「でも、私、」
「耳の代わりを務める者などいくらでもいる…なあ、浩大?」
「げっ、気付いてた?」

夕鈴を案じての事だろう。
天井裏の片隅で気配を殺していた隠密がとんっと降りてくる。

「言っておくけど、夕鈴。」
「は、い。」
「僕は君以外と夫婦になるつもりはないから。ここで君が断れば僕は一生独り身だ。」
「そんなっ!」
「僕の花嫁は君だけだからね?」
「あーあ、お妃ちゃん退路がないね。」

軽口を叩く浩大を軽く睨み付けると、首を竦めた。

「じゃ、俺、屋根にいるから。ごゆっくり!」
「さっさと行け。」

助けを求めるように浩大を目で追う夕鈴。
何その縋る様な目。
浩大は頼りになって、私はならないのか。
むっとして、顎に指をかけてこちらを向かせた。

「…夕鈴、君の夫は誰だ?」
「陛下に決まってるじゃないですか!」
「ほんとに分かってる?」

ぱちくりと瞬く、茶色の瞳。
どこまでも澄んだ暖かい色に、僕が映る。
微笑んだ、僕。
君が見ている僕は、こんなに幸せそうなのか。

「耳を治すのも大事だけどさ、夕鈴には早くしてもらわなきゃいけない事があるんだ。」
「なんでしょうか。」

ことん、と首を傾げる夕鈴。
部屋の隅に置かれた卓には、山と積まれた大臣達からの贈り物。

「…僕の子を、産んでくれる?」
「なっ、なっ、」

何を急にっ、と暴れ出す夕鈴。

「正妃の大切なお仕事だよ!」
「まだ承知してませんっ。」
「んー?聞こえないな。」
「陛下ぁっ!!」

声の限り叫ぶ夕鈴。
ジタバタともがく軽い身体を抱き上げて、黎翔は寝台へ向かう。

「少しでもよく聞こえるように、ずっと耳元で囁いてあげるから。安心して?」
「ち、ちっとも安心できませんっ。」

ぱくりと耳朶を食まれて夕鈴が真っ赤になる。

「まだ日も高いのにっ!」
「おかげで良く見えるよ、夕鈴のこことか…そことか。」
「きゃぁぁぁっ!」

元気に響く、兎の悲鳴。
高く低く注がれる狼の声が、兎の耳を愛しむ。

「ほら、聞こえる?すごい音。」
「きっ、聞こえませんっ、やっ、」
「じゃあ、もう少し大きく、」
「やっ、やだ、聞えてるから、やめてっ。」
「ほんとに?」
「ほんとですっ。」

抱き締めあって、温め合って。
目を閉じればそこは、音のない世界。
ふたりだけの、安らかな時間。
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C.O.M.M.E.N.T

・・・・・・( ̄∇ ̄) タノシソウデスネ。ヘーカ←
聞こえないふりも夕鈴襲ってるのもw

2015/04/20 (Mon) 20:49 | 桃月 #- | URL | 編集 | 返信

あさ様お疲れさまでーす(*^-^*)
例え耳が聞こえなかろーが、2人の世界に入ったら…言葉なんて必要ない?そーでしょへーか( ´艸`)ww

2015/04/20 (Mon) 21:49 | いち #- | URL | 編集 | 返信

連載おつかれさまでした!
老師のお薬はすばらしいですね笑
ハッピーエンドでよかったです(^^)
先日は体調のご心配ありがとうございました。
何とか今日から職場復帰し、そして早速早退してまいりました笑
疲れとつわりで儘ならない体にしょんぼりしていましたが、あささまの更新を見つけ、元気復活しました。
このままいい夢を見ます(^3^)/

2015/04/20 (Mon) 21:55 | saara #- | URL | 編集 | 返信

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2015/04/21 (Tue) 13:38 | # | | 編集 | 返信

桃月さまへ

陛下にとっては、聞こえる聞こえないより夕鈴であるか否かが問題で。
まったくいうこと聞いてくれませんでしたよ。
ははは。
…はぁ。

2015/04/22 (Wed) 15:39 | あさ #- | URL | 編集 | 返信

いち様へ

ありがとうございますー。
趣味で疲れてどうするんだ、ってくらい疲れながら書いてましたww
言葉なんていらないんですよ!
そうですよ!

2015/04/22 (Wed) 15:41 | あさ #- | URL | 編集 | 返信

saara様へ

しっかり休んでお出ででしょうか?
どうぞご自分を赤ちゃんを甘やかしてあげて下さいね。
ハッピーエンドにならなさそうで焦ったんですが、どうにかこうにか、無理やり。(笑)
コメントありがとうございます!

2015/04/22 (Wed) 15:42 | あさ #- | URL | 編集 | 返信

yukino.s様へ

ありがとうございます。
疲れました。←こら
陛下と夕鈴には、ずっとらぶらぶでいて欲しいですね!

2015/04/22 (Wed) 15:44 | あさ #- | URL | 編集 | 返信

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