2015_04
20
(Mon)16:15

無音9

このSSは。
本誌ネタバレ、少しだけ未来の設定。
夕鈴の耳が聞こえなくなりますのと、陛下の過去捏造。
です。
今回少し夕鈴が痛い、かも。

もう早く終わらせたくて(ノД`)・゜・。
辛くてたまりません。
なんでこんなの書き始めたんだろう。
後悔しきりですよ、ええ。
あと少しで終わりですので、お付き合い頂けると嬉しいです。
【設定 本誌ネタバレ 少しだけ未来 夕鈴の耳が聞こえなくなります】
《無音9》




どれほどそうしていたろう。
互いの体温が同じになるまで抱き締めあってから、黎翔はようやく夕鈴を解放して。
傍らの卓に置かれた紙と筆を手に取った。

「これからは警備をもっと厳重にするから、安心して。」
「はい。」
「夕餉までには戻るから、ゆっくり休んでね。」
「はい、お仕事がんばって下さい。」

黎翔の筆跡を目で追いながら、夕鈴が返事をする。
慣れてきたのか、囁くようだったその声は徐々にではあるが元の通りになり始めていた。
そんな彼女の様子に、黎翔は胸をなでおろす。
きっと、老師の言う通り。
遠からず聴力も戻るのだろう。
夕鈴が元通りの身体になるまでに、正妃冊立の下地を整えておかねば。

「じゃあ、いってくるね。」
「いってらっしゃいませ。」

ちゅっ、とまるい額に口付けてから、黎翔は部屋を後にした。
広い寝台に唯一人残された夕鈴。
夫の後ろ姿が消えるまで微笑み続けていたその頬から色が消えた。
ややあって。
喉に手を当てながら夕鈴は声を出す。

「こ、こう―――」
「ここにいるよ。」

ふわっと帳が揺れて、浩大が現れる。
慌てて筆を手に取り、夕鈴は懸命に書いた。

「老師を、呼んで欲しいの。」

不思議そうな顔の、隠密。
老師に用があるのなら侍女に頼めばいいだけの事なのに、なぜ?

「侍女さん達に気付かれない様に、お願い、浩大。」

必死に書き募る夕鈴の正面に立ってその目を覗き込み。
浩大の唇が動く。

「どうしてだ?へいかには、ひみつなのか?」

声を発することなく動く唇。
黎翔のそれとは違うあまりにも分かり易い動きに、夕鈴が驚く。

「おんみつ、は、こうやって、はなすんだ。」

そうだったのね。
納得した夕鈴は急いで続きを書き始めた。

「どうしても陛下には言いたくないの、だからお願い。」

書き終わり、思いの丈を込めて浩大を見つめる。

お願い分かって、浩大。
陛下が心配なの。
苦しめたくない。
ただそれだけなの。

「わかった、まってろ。」

いつも通り明るく笑った浩大の姿が、帳の奥に消えて。
夕鈴はぎゅっと掛け布を握りしめ、耳を澄ませた。
ほんの少しでいい、何でもいい。
音を探す。

「……。」

耳だけでなく頭の中までが塞がれたような、違和感。
みっしりと重い土を詰め込まれたような冷たい静寂。
目を瞑れば襲い来る、吐き気。
慌てて瞼を持ち上げると、景色がぐにゃぐにゃと踊っていた。

しっかりしろ、汀夕鈴。
自分を叱りつけて、吐き気を抑え込む。
倒れそうになる上体を腕で支える。
陛下を侮蔑したあんな男に、負けるな。
耳が聞こえなくても口がきけなくても、眼が見えなくても。
負けてたまるもんですか。
私は陛下のそばにいるって、決めたのよ。

身体中から汗が噴き出る。
視界がぐらぐらと揺れて、喉の奥から冷たい塊がこみ上げる。
頭が割れるように痛んで、耳の奥が熱を持つ。
どろりと溶けだした何かが耳朶から滴り落ち頬を濡らす。
なにこれ……血?

「っ、ぐっ、げほっ、」

先程よりも酷い吐き気に襲われ、身体が折れる。
耐え切れず突っ伏した夕鈴を、老師を伴い戻った浩大が抱き起した。

「大丈夫か、お妃ちゃん!」
「ろう、し、へいか、にほんとの事、」
「言うてはおらん、しっかりせい!」

必死に目を開き老師の唇を追う。
ああ、よかった。
安心した途端に、力が抜ける。
滴り落ちる血が、夜着に掛け布に、染みを作る。
梅の花弁のように小さな赤い血の雫が夕鈴を彩って。
蒼白になった肌に映えて。

「ほんとに、言ってませんね?」
「まことじゃ!じゃから、動くな!」

それでも必死に目を開けて張元の唇を追い、その袖に縋る夕鈴を、浩大が止めた。

「うごくな、おきさきちゃん。」

隠密のくせに温かな両手が、夕鈴の頭を支える。
ぐらぐら揺れ動く瞳に映る様に、こちらを向かせて。
唇が動く。

「あんしん、しろ。へいかには、いわない。」
「ほん、と?」
「ああ、ぜったい、いわない。」

もう聞こえないだろう耳の事も、こんな風に陛下を守ろうとしていることも。
報せないでいてやる、言わないから、だから。

「あんしん、しろ。おれを、しんじろ。」
「ありが、とう。」

ぽたっ、と落ちる血の雫。
ようやく落ち着いたのか、お妃ちゃんが慌てだした。

「なに?どうしたの?」

筆が走って紙片が突き出された。

「血、水で洗わないと染みになっちゃう、陛下の寝台なのに!」

お妃ちゃん。
今この状況で、それ?

がくっと力が抜けて、腹の底から笑いがこみ上げた。

きっと大丈夫、大丈夫だ。
お妃ちゃんなら、きっと乗り越えられる。

「なんで笑うのよ?!」
「早く洗わなきゃ!」
「絹よ?この寝具っ!」

腹を抱えて笑い続ける浩大に、紙片が飛ぶ。
はなびらのように。







「揃ってるな。」

もう少しで日暮れを迎える、王宮庭園。
見通しのよい四阿では、柳氾両大臣と周宰相が国王を待っていた。

「お呼びと伺いまして。」
「この様な場所でお話とは、何でございましょう。」

にこやかに礼を取る氾大臣と、難しい顔の柳大臣。

「……。」

黙ったまま辞儀をする周宰相の表情は、読めない。

「妃が襲われた。」
「!」

じっと動きを止める三人を見回して、続ける。

「今は臥せっているが、彼女の傷が治り次第、夕鈴を正妃に迎える。」

冷えはじめた風が通り抜ける、ほんの少しの間の沈黙。
最初に口を開いたのは、氾だった。

「わが娘・紅珠をはじめ、『正妃』の地位に相応しい令嬢は数多おります。それでも尚、お妃様を正妃になさると仰いますか。」
「口を慎め、氾大臣。」

ぴしりと柳の声が飛ぶ。
黎翔はそれを手で制した。

「構わん、意見を聞くために呼んだのだ。」
「……はい。」

では、と再び口を開く氾。

「お妃様が正妃にお成りになれば、ご苦労が絶えぬ事でしょう。陛下はまだお若く、お子もいらっしゃらない。後宮に複数の妃を迎え、国の安定を図らねばなりますまい。例えお妃様が正妃様なられご嫡子をあげられても、他の妃に侮られ苦しまれる事になりましょう―――」

いったん息を継ぎ、黎翔を見つめた氾大臣から、微笑が消えた。

「それとも、まさか。」
「ああ、妃は正妃一人。夕鈴だけで良い。」

ああ、やっぱり。
そう言いたげに苦笑する氾の言葉を柳が引き取る。

「失礼な事を申し上げねばなりません。」
「なんだ。」
「この先、お妃様にお子がない時には、」
「晏流公がいるだろう?」

にっと笑う狼陛下。
晏流公の母蘭瑶は、董家出身。
柳でも氾でも、周でもない。
つまり、この場の誰の利益にもならないのだ。

「ああ、言い忘れたが。」

明るい笑みを浮かべて、黎翔が続ける。

「例え夕鈴が死んでも、彼女以外の妃は迎えんからな。」

そうなれば早々に譲位するまでだ、と言ってのけて。
黎翔は三人を見つめる。

さあ、どう出る?

楽しげに輝く狼の瞳。

まずは、柳が膝をついた。

「おめでとうございます。あのお妃様ならば、陛下の助けにお成りでしょう。」
「ああ、そうだな。」

隠密顔負けの働きを見せる妃だ。
お前の息子たちも頭が上がるまい。

「娘が泣いて喜ぶことでしょう。おめでとうございます、陛下。」

あっさりと切り替えた氾大臣が、にこやかに跪拝する。

「嵐の日もあれば、晴れの日もあるのが世の定め。おめでとうございます陛下。」
「ああ。」

ふわり、と笑みをくれる狼陛下。
困ったような呆れた様な微笑みを返す大臣達。

「まあ、あのお妃様ならばどのような天気も晴れやかにお過ごしになるでしょう。」
「ええ、そうですね。」
「まったく、その通り。」

穏やかな風が四阿を包み込み、春を祝していた。

翌日から。
夕鈴の元には子宝に良いとされる食べ物飲み物薬草その他が山と届けられ始め。

「あいつら……。」

そのあからさまな贈り物に、黎翔はやる気を漲らせた。


夕鈴。
君を、正妃に。
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C.O.M.M.E.N.T

夕鈴が……………夕鈴らしかったw
陛下は周りを固めましたね。
でも………いつ夕鈴から「もうなにも聞こえない」と話してもらえるのかな………
∪´・ω・`∪

2015/04/20 (Mon) 20:05 | 桃月 #- | URL | 編集 | 返信

辛いお話だとは思いますが、陛下と夕鈴、お互い何が大事なのかがそれぞれにわかってきたんじゃないかと思うのでこれはこれで乗り越えるための試練だと思います。
お互い上辺だけの言葉じゃなくて心と心で会話するような。
大丈夫!夕鈴は強いです。
きっと乗り越えて幸せになれるはず(^ ^)

2015/04/20 (Mon) 20:08 | まるねこ #- | URL | 編集 | 返信

桃月さまへ

やっぱりほら、早く洗わないと落ちが悪いから。
乾いちゃうと厄介なんですよね。
特に絹なんて!ごしごしすればシワになるし!←

2015/04/22 (Wed) 15:37 | あさ #- | URL | 編集 | 返信

まるねこ様へ

ほんと、辛い話ですよね。
参った参った。(笑)
楽しい事ばかりじゃないけど、二人には幸せを作って欲しいと思います。

2015/04/22 (Wed) 15:39 | あさ #- | URL | 編集 | 返信

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