2015_03
07
(Sat)19:20

契りの日

こんばんは。
あさ、です。

このSSは、SNSにてキリ番を踏んで下さった桜さまにリクエスト頂いたものです。
素敵なリクをありがとうございました。

さて。
プチまでもう少し。

頑張るぞー!!


あさ
【設定 バイト終了後】
《契りの日》



唯一の妃が後宮から消えた後。
黎翔は荒れに荒れた。

「…陛下、いい加減に。」
「うるさい。」

死屍累々と積み重なる官吏達の屍。
いかに選良たる彼らとて、体力には限界があった。

「二十四時間連続勤務は労働基準法違反です。」
「そんな法、白陽国にはない。そもそも、それを言ったら私はどうなる。一生勤務し続けだぞ、二十四時間体制で。」
「王は法の適用外です。」
「都合がいいな。」

ふん、と不貞腐れて筆を置く黎翔。
李順は深々と溜息をついた。

「…手離されたのは、ご自分でしょう。」
「…。」

もう限界だった、『臨時花嫁』。
一時は鳴りを潜めていた刺客たちが、再び牙を剥き。
夕鈴が口にするもの肌に塗るもの、果ては湯殿の湯まで。
全てに毒が盛られるようになって。
ある月の夜、夕鈴はその任を解かれ下町に返された。

本当は、そばにいて欲しかった。
ずっとずっと、あの笑顔を自分だけのものにしていたかった。
別れの夜、月明かりの下で微笑んでくれた夕鈴。
震える手で君を抱き締めた僕を優しく受け止めてくれた君。
長かった冬がやっと終わり、春が来て。
君と迎える二度目の春を共に過ごそうと思っていたのに。

「喪いたく、なかったんだ。」

そう。
ただそれだけしか考えられないほどの状況だった。
分かり易すぎる的に群がる黒づくめの客。
湧いて出る蠅のように煩わしい彼ら全てを駆除する頃には、きっと。
夕鈴の命は、ない。

「…少し休憩する。」

しんと静まり返った政務室を後にして、黎翔は自室へ向かう。
李順もそれに続いた。

初夏を感じさせる風が廊下を抜ける。
若葉の香りと日の香り。
眩しいほどの陽射しが石床に反射して黎翔は一瞬足を止めた。

「陛下?」
「いや、なんでもない。」

夕鈴。
君に、会いたい。
声が、聞きたい。

移ろう季節も吹き抜ける風も。
温かな陽射しも煌めく景色も。

君がいないと、色を失う。

何も感じない。
何も、ない。

「…どこ?」

夕鈴。
どこにいるの?

鋭い光が紅瞳を射抜き、眩ませる。
身体が傾いだのを感じ、たたらを踏む。
膝に力が入らず崩れ落ちる。
硬い石床に肩を打ち付ける寸前、隠密が床と王の隙間に割って入った。

「あっぶねー…。陛下、どうしたの?」
「働き過ぎですっ!お運びします、手伝って下さい浩大。」
「…耳元で、どなる、な…」

よいしょ、と長身の黎翔を担ぎ上げる浩大。
予想よりも軽いその身体にため息をつく。

「ったく、こんなザマじゃお妃ちゃん盗られちまうぞ、陛下っ。」
「…どういう、事、だ。」

青褪め額に汗を浮かべた黎翔の瞳がギラリと光る。

「下町のおばちゃんたちは世話焼きだからな。嫁き遅れのお妃ちゃんに見合い話を持って来るの来ないのって、そりゃーもう毎日朝から晩まで。」
「み、あい?」
「そ。お見合い。お妃ちゃん、王宮勤めで箔が付いたらしくてさ。結構な良縁がゴロゴロ…って、ちょっと待って陛下。ナニソレ。」

だらりと垂れさがっていた黎翔の左手に、いつの間にか握られていた小刀。
その鋭い切っ先が浩大の眼前にあった。

「俺、隠密。護衛対象の定期報告をしただけなんだけど。」
「…。」
「あるがままを報告しろって言ったじゃん。だから正確に伝えてるだけ。」
「…あるが、まま。」
「そ。『このままじゃ遠からずお妃ちゃんは他の男のものになる』っていう事実を、ね?」
「こ、だ…っ!」

黎翔の小刀が浩大の頬に触れ。
赤い筋が伸びる。

「そんな身体で、どうすんだよ、陛下。」
「どうも、こうも…っ!夕鈴、はっ、」

そうだ。
夕鈴は。

「ただ、一人の…『狼陛下の花嫁』だ。」
「…だよなっ。」

にぱっと笑って。
浩大は黎翔を担いで走り出した。

「ほら、陛下。とりあえず一眠りしてからにしてくれよ。俺、見張っとくから。」
「ああ。二刻したら起こせ。」
「りょーかいっ。」

ずるずると引きずられながら自室に消えた国王。
その姿を見送りつつ、李順は苦笑する。

「さて、正妃様をお迎えする仕度を急がねば。」







「ここなら誰も来ない、わよね。」

汀家の裏手にある、丘。
この季節、一面の花畑と化すそこの頂には、夕鈴の母の墓標があった。

「ねえ、母さん…私。」

お嫁に行った方がいいのかな。
いくら考えても、答えが出ないの。

「好きな人が、いるんだけどね。」

その人は遠くにいて。
一緒には、なれないの。

「母さんは、父さんと一緒になって、幸せだった?」

互いを想い合っていた、父と母。
早くに逝ってしまった母に想いを残し続けている父は、後妻を迎えようとはしなかった。

「好きでもない人と、結婚、か…。」

そんなの普通の事だって、分かってる。
近所のおばさんたちが勧めてくれるお話は、どれも不足なんてなくて。
『夕鈴ちゃんは、幸せになれるんだから!』
そう言ってくれるし、その通りなんだ、って、思う。

「でもね、母さん。」

私、陛下が好きなの。
朝起きてから夜眠るまで。
ううん、眠っている間も、ずっと。
陛下が、好きなの。

「温かいご飯食べてるのかな、きちんと眠ってるのかな、とか。」

これは陛下が好きな料理だ、とか。
ここは陛下と歩いた道だ、とか。
この髪は陛下が触れてくれた髪だ、とか。
この身体は陛下が抱き締めてくれた身体だ、とか。

「どうしようもない事ばっかり、なんだけど。」

忘れられないの。

ざあっと吹き抜ける風が夕鈴の髪を散らし、花々を揺らす。
舞い上がる花弁を目で追った夕鈴の動きが止まった。

「あ…。」
「夕鈴、ここにいたのか。」

陛下。

幻覚?
両手で目をこすっても、陛下の姿は消えない。

じゃあ、夢?
頬を抓ろうと伸ばした指が、覚えのある感触に捕えられた。

「夢じゃないよ、夕鈴。」
「へいか?」

うん、と頷く黎翔。
少し痩せた頬が、朱く染まっている。

「会いたかった…。」
「っ、」

すっぽりと包み込まれるように抱かれて。
懐かしい香りと温もりに包まれた。

「陛下…っ!」

会いたかった。
とっても。

「そばにいて、夕鈴。」
「っ、」

そばに、いたいの。
ずっと、ずっと。

でも。

「わ、たし、」
「君じゃなきゃダメなんだっ、君がいないと、僕は…っ!」

私は庶民で、何にも持っていない。
あるのは、この心ひとつ。

「陛下、が…好き。」

ただこの想いひとつだけ。

「愛している、夕鈴。」
「…いい、の?」

私で。
私で、いいの?

「僕は君を幸せにできる男じゃない。きっと君を泣かせて苦しめる。」

抱擁が緩んで陛下の顔が良く見える。
少しうるんだ紅い瞳に、胸を射抜かれた。

「だが、それでも…君を愛している。傍にいて欲しい。」
「へい、」
「私の妻になってはくれないか。」
「っ。」

風が舞う。
花々を巻き上げて、寿ぐように。
覚えのある優しい手に背を押された気がした。

「陛下…。」

そう、私は。
狼陛下の花嫁。

「私は、陛下のためになる物を、ひとつも持たないけれど。」

持っていなければ、これから、それを。

「あなたを幸せに、したいと思います。」

作ればいい。
ただそれだけの事。

「この身ある限り、あなたの側で、あなたを想って、あなたの為に。」

ほら。
覚悟を決めれば、こんなに簡単。

「あなたの幸せは、私の幸せだから。」

だから、陛下。

「私を…お嫁さんにして下さい。」
「ありがとう。」

二人が迎えた二度目の春。
その特別な季節は二人にとって。
忘れられない愛の季節。
永久に続く、契りの日々。
春の花   
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C.O.M.M.E.N.T

花びらが見えます

二人の回りに舞う花びらが見えます\(^o^)/

2015/03/07 (Sat) 23:02 | 萌葱 #- | URL | 編集 | 返信

萌葱さまへ

よかった。成功(笑)
ありがとうございます!

2015/03/09 (Mon) 15:37 | あさ #- | URL | 編集 | 返信

No title

ああ、やっぱり夕鈴て恰好良い。
強くて、優しくて・・。
お互いに、お互いを幸せにして、そして二人で幸せになって欲しいです。

2015/03/13 (Fri) 07:26 | 狛キチ #- | URL | 編集 | 返信

狛キチさまへ

夕鈴の明るく芯のある強さが好きです。
さすが狼陛下の花嫁!ってなります。
陛下、夕鈴以外に陛下のお嫁さんは務まりませんよ?
と、いつも脳内で突っ込みながら書いております。

2015/03/14 (Sat) 00:44 | あさ #- | URL | 編集 | 返信

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