2014_12
17
(Wed)19:54

ひと時の夢

先日一瞬だけUPしたこのSS。
どうしても気に入らず、書き加えました。
荒い出来ですが、今の私にはこれが限界のようです(笑)

もし宜しければ。
【設定 臨時花嫁】
《ひと時の夢》

「お帰りなさい、陛下。」
君から発せられるその言葉は、僕の心に凪をくれて。
我知らず強張っていた肩の力を抜いてくれる。

「お疲れ様でした、どうぞ。」
君が淹れてくれるお茶は、不思議と甘くて。
僕に訪れるはずのない春の香を運んでくれる。

「夕鈴もお疲れ様。」
「今日は頑張ったんですよ、お妃教育!李順さんが厳しくて…」
君と交わす他愛のない会話は、閉ざした心を開いてくれて。
幸せすぎて、泣きそうになるんだ。

夕鈴。
君はどうして僕の前に現れたの?
狼陛下に春は似合わないのに。
冷たい冬しか必要ないのに。

「李順は仕事に厳しいやつだからなあ。大変だったね。」
「って、なんで膝の上?!」
「寒いから、かな。」
少し紅潮した君の頬をそっと撫でる自分の手。
絹の様な髪をさらりと救う自分の指。
抱き締めて捕えてしまえる距離にいる、君。
僕には不似合いな優しい兎。
私には手の届かぬ、無垢な。
欲する事さえも罪な、この世の春。

「おやすみなさい、陛下。」
「おやすみ、夕鈴。」
彼女の部屋から続くこの回廊は、僕にひと時の夢を運ぶ。
知らなければ苦しまずに済んだ、夢を。

狂おしくも愛おしい、夢を。
ひと時の夢を。





「李順を呼べ。」
「かしこまりました。」
回廊を渡りきり、王宮へ。
穏やかな夢の世界から現実へ戻った黎翔は、控えていた侍官に李順を呼ぶよう命じた。
黒々と続く廊下を足早に去っていく侍官。
それを睨み据える紅眼に浮かぶのは決意の色。
二度三度と、深く息をする。
冷たい空気で肺を満たし、いまだに残る温もりを振り払う。
ピクリとも動かぬ黎翔の身体の隅々までが冷え切った頃。
「陛下。お呼びと伺いましたが。」
まだ仕事をしていたのだろう側近が足早に近づいてきた。
「遅くに悪いな、李順。」
ふっ、と浮かんだ黎翔の哀しげな微笑に。
「…いいえ、起きておりましたので問題ございません。」
李順は何かを察する。
「陛下、私は。」
「なんだ。」
暗い廊下に点々と灯る光。
星明りの様にも見えるそれは、先の見えぬ闇を照らす唯一の道標。
「最終的には陛下の決定に従います。」
「…そうか。すまんな。」
耳が痛くなるような、身を切る風。
どこまで行こうが自分たちについて回る、北の風。
「夕鈴殿をご無事にお戻し致しましょう。彼女の本来の暮らしに。」
「頼む。」

翌日。
狼陛下の唯一の妃が後宮から消えた。





それから、数年。
章安区・汀家。

「青慎、明日の出仕も早いんでしょ?温かくして寝なさいね。」
「ありがとう、姉さんも早く休んで。」
晴れて官吏になった青慎は、労わる様に姉を見下ろし微笑んだ。
「僕の禄もあるんだから、日中は家でゆっくりしていればいいのに。」
「ダメよ、そんなの。自分の食い扶持くらい稼がないと!」
元気にそう言う夕鈴の頬は少し痩せて。
随分と伸びた髪がさらさらと揺れる。
「それに…もうすぐ青慎も一人前になるんだから。」
「姉さん…。」
ふっと寂しげに。
だが嬉しげに微笑む、夕鈴。
「上司の方が調えて下さった縁談でしょう?きっといいお相手に決まってるわ。」
「う、うん。」
政務室付きになった新人官吏の青慎に目をかけ、何くれとなく世話を焼いてくれたのは。
「方淵殿の仲立ちだから、そこは安心なんだけど。」
補佐官・柳方淵。
「ほんとよね。」
囁くようにそう言って、夕鈴はくすりと笑い。
「おやすみなさい、青慎。」
まだ何か言いたげな弟を自室へと追い立てた。

がらんとした居間。
少し俯き加減に夕鈴は湯を沸かす。
「…今日は明玉の赤ちゃんを抱っこさせてもらったんですよ、陛下。」
王宮を去る時に持たされた懐かしい茶器を温めて。
「ふわふわで、可愛くて。青慎が赤ちゃんだった頃のこと、思い出しちゃいました。」
庶民には少し高価な茶葉で、お茶を淹れる。
「あの頃はまだ母さんもいて…楽しかったな。」
桜色の茶杯から湯気が立ち。
香気が胸を満たし、涙に変わる。
「つまらない話して、勝手に泣いて…ごめんなさい、へい」
「夕鈴。」

かちゃん。
夕鈴の手から茶器が落ちた。

「…これは、夢、よね?」
「夕鈴、夕鈴…夕鈴っ!」
夢じゃ、ない?
痛いほどに抱き締めてくれる、この腕。
冷たい風を纏った大きな体。
私。
夢に見過ぎて現実との境がつかなくなったんだわ、きっと。
「夕鈴、髪が伸びた。」
さらりと一束を掬う指。
剣を握る武骨な手。
でも、優しくて大きな手。
「だ、だって、切ってない。」
「え?」
あの人が口付けてくれたこの髪を切る事なんて、どうしてもできなかったから、切ってない。
「陛下が触ってくれた髪、だから。」
「っ。」
抱擁が強まり、吐息が近づく。
ほらやっぱり、これは夢。
ありえないもの、こんなの。
これは朝になったら終わる、いつものひと時の夢。
「ふふ、今日の夢はなかなか覚めなくて嬉しい。」
少し頭を動かして、広い胸に頬ずりをして。
「花嫁は陛下に恋をしています…ずっと、ずっと。今までも、これからも。」
少し大胆に告白してみると。
「っ。」
陛下の動きが止まった。
そろそろ目が覚めるのかしら、私。


どうしよう、嬉しい。
染まる頬を隠す術を探しつつ、黎翔は天井を睨み上げた。
僅かに開いた隙間から覗いていた焦げ茶の髪と、笑いを含んだ金茶の瞳がするりと消える。
ほっとして、夕鈴を抱く腕に力をこめた。
愛の言葉は君だけに。
君にしか、聞かせたくない。
「夕鈴。」
跪き、君を見上げて。
驚きに見開かれた茶色の瞳に微笑みかけて。
「聞いてほしい事があるんだ。」
一生に一度の告白をしよう。
「どうしても諦めきれなかったんだ。忘れられなかったんだ、君が。」
恋い焦がれた、僕の春。
「僕は王様で、酷い男で、君を幸せにできないかもしれないけど。」
望ませてくれ、夕鈴。
君を。
「ずっとずっと君を想い続けるから。」
共に見たひと時の夢に、終わりを告げよう。
「どうかこの手を取ってはくれないか。」
ふたりで先へ進むために。
「永久に君だけを愛すると誓う。」


差し出された、黎翔の手。
視線が、絡まり。
「陛下っ!」
「夕鈴っ!」
指先が触れ合い、引き寄せ合う。
「や、やっと会えたっ。陛下、陛下っ、夢じゃ、ない?」
「待たせてごめんね、夕鈴。」
返事は?
と悪戯っぽく笑う黎翔に抱き付いて、夕鈴が笑う。
満開の花のように。
「貴方だけを愛しています。そばにいさせて…黎翔様。ずっと、離さないで。」
「ああ、誓う。」

ひと時の、長い夢。
その終わりから始まるのは。
ふたりの本当の物語。
先を紡ぐ日々。
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C.O.M.M.E.N.T

少しは落ち着かれましたでしょうか
御家族の体調、娘さんの受験、母親をしているとこの時期は本当に目が回る様に忙しいですよね
どうぞ御無理の無い様に二次を楽しまれてくださいませ

2014/12/17 (Wed) 21:41 | 名無しの読み手 #- | URL | 編集 | 返信

No title

あさ様
お久しぶりです。
日々忙しく、そして忘年会シーズンになり、ヨレていたのですが、素敵なお話で癒されました。
続きはありますよね。
待ってます。

2014/12/20 (Sat) 21:12 | 狛キチ #- | URL | 編集 | 返信

名無しの読み手様へ

ありがとうございます。
正直、まだまだ落ち着きません(笑)
今日も長女と長男が発熱したりして。
でも、私が余裕をなくしたら家が回りませんので笑顔で頑張ります。
いつもほっとするコメントをありがとうございます。

2014/12/21 (Sun) 19:32 | あさ #- | URL | 編集 | 返信

狛キチ様へ

こんばんは。
この時期は忙しいですよね。
ご無理なさいませんように。
このSS。
続きはあるのかしら(笑)
ぽろりと零れ落ちましたら、そのうちに!

2014/12/21 (Sun) 19:34 | あさ #- | URL | 編集 | 返信

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