2014_12
06
(Sat)10:43

奇跡

諸事情により下げましたが、復活。
【本誌ネタバレ】
《奇跡》


山積みの書簡から抜け出して、気に入りの木陰に座る。
軽く目を閉じ周囲の気配を伺うが、誰もいない。
この分なら半時ほどは休めるだろう。
軽く伸びをして柔らかな草の上に転がると、見慣れた枝ぶりの隙間からいつもの空が透けて見える。
高く澄んだ青空。
幼い頃も今も変わらずそこにある、空。
なぜだか少しほっとした黎翔は、ゆっくりと目を閉じ。
淡いまどろみに身を任せた。


「そんなにも私はここにいちゃダメですか。」
ああ、泣かないでくれ。
君に泣かれると、どうしていいか分からないんだ。
手の内に転がり込んできた、無垢な愛しい兎。
僕にないもの全てを持っている君。
眩しくて愛しくて、大切で。
早く帰してあげなきゃいけないと分かっていたけど、手放せなくて。
あともう少し、と自分に言い訳をしながら日を過ごした。
いつか来る別れの日。
それを決めるのは僕だってことも、分かっていた。
これが最後の口づけを交わす。
こぼれ落ちる涙さえ、愛おしい。
泣かないで、夕鈴。
「忘れてしまえ」
全部忘れてくれていいから。


「…陛下、ご無理は」
「していない。」
李順のため息が聞こえるが、気にせず書簡に目を落とす。
壬州からの書簡。
夕鈴の息災を伝える手紙。
未練がましい自分に呆れるが、愛しいものは仕方ない。
書簡を懐にしまい込み、立ち上がる。
「陛下、どちらへ?」
「少し風にあたって来る。」
日暮れた廊下に点々と灯る明かり。
後宮へと続くそれ。
少し前までは暖かに見えていた色が、今では寒々しい。
「冬、か。」
そう、冬なのだ。
彼女は春で僕は冬。
決して手の届かない夢。
忘れえぬ、愛しい春。
彼女を幸せにするためなら、どのような事でもしよう。
例えそれが自分の心を殺す事であっても、して見せよう。
心を凍らせることなど、慣れているのだから。


「へ、いか?」
「夕、鈴?」
やっかいな闇商人を始末するために赴いた妓館。
そこにいたのは夜の蝶ではなく、僕の愛しい兎だった。
見え隠れする浩大の気まずそうな顔。
青褪めて拱手する方淵と、その後ろに隠れた水月と。
苦笑いを浮かべた克右。
お前ら全員これを見たのか。
腹の底から湧き上がるどす黒いものを隠しもせず、夕鈴に上着を着せ掛け。
「…貴様ら、覚悟はいいな。」
処分は後だ、と告げ。
びくっと震える夕鈴を背に守り、敵を潰した。

「ごめんなさいっ、でもっ!」
全てが終わったその夜。
有無を言わさず夕鈴を王宮に連れ帰った。
「私が皆さんにっ、」
必死に皆を庇う夕鈴。
僕を見上げるその瞳は、強い。
君はすごいな、夕鈴。
僕が見せようとしなかったものを知っても、その白さは揺るがない。
どこにいても君は君。
僕の唯一人の愛しい人。
何も恐れることなどなかったのだ。
私の妃は、強い。
「ねえ、夕鈴。」
お願いがあるんだ。
僕に奇跡を齎した君に、ひとつだけ。
ひとつ、だけ。


「ふふっ。」
ふわりと触れる、柔らかな手。
「もう少しだけ、このままで…。」
浩大が見張ってくれてるから大丈夫ですよ、と言って。
君が笑う。
長く伸びた髪が僕を隠すように包み込んで。
あの頃より少し大人びた眼差しが僕を覗き込む。
「ゆ、」
「しいっ。子ども達に見つかっちゃいます。」
ころりと笑う茶色の瞳。
言われるがまま眼を閉じる瞬間。
あのころと変わらぬ空が目に入って。
この幸せは現実なんだと教えてくれる。

今あるこの奇跡に感謝を。
繋がる時に敬意を。

永久に。
不忘   
«  HOME  »

C.O.M.M.E.N.T

No title

はじめましてです。
どのお話も楽しんでますが、このSS大好きです。
しょっぱなから、穏やかな温かい雰囲気のする陛下。
「気に入りの木陰」というワードに、ぐっときました。
気に入りの場所があったの、できたの、よかったね、陛下!
と、おもわずつぶやいていました。
暖かい気持ちになるこのSSを、もういちど読めてよかったです。
(嬉しくて10回くらいよみました(^^))
ありがとうございました。

2014/12/08 (Mon) 13:23 | kai #- | URL | 編集 | 返信

kai様へ

初めまして。
あさ、と申します。
コメントありがとうございました。
読み返して下さって嬉しいです。
再UPしてよかった!
自己満足に過ぎるかと下げたのですが、少し勇気が出ました。
ありがとうございます。

2014/12/08 (Mon) 20:31 | あさ #- | URL | 編集 | 返信

コメントの投稿

非公開コメント

トラックバック