2014_11
06
(Thu)15:25

想月

「春の庭」書籍化への拍手ありがとうございます。
拍手数の多さに恐れおののいている、あさ、です。

この私が非公開にするほどの内容ですよ?
大丈夫でしょうか。(私が一番大丈夫じゃない)
つ、作って、みますね・・・?

羽梨さま、SS選んで!!(他力本願)

療養中の首。
大分マシになってまいりました。たぶん。
休み休み書いたら結構な長さのSSが書きあがりまして。
お暇つぶしにでも、どうぞ!
【設定 ネタバレ妄想過去捏造SS】
《想月》


望月。
東の空に浮かんだ琥珀色の蕩けるような月が、居を移し色を変え。
白銀に輝き西へと傾く。

「・・・美しいな。」

黄金色を模した甍に腰を下ろし、黎翔は酒瓶を傾けた。
今宵は、満月。

「陛下、飲み過ぎだって。」
「そうか?」

どれほど飲んでも酔えぬ酒。
白陽国王宮の甍の上では、望月を肴に夜通し飲み続ける月見の宴が催されていた。

「お妃ちゃん、どうしてるかな。」
「そうだな。『幸せ』だとよいのだが。」

そうでなくては困る。
そう言いたげに酒を煽る国王を、隠密は気の毒そうに見つめた。

なあ、陛下。
あんたの『幸せ』は?
全く、本当に・・・・難儀な人だ。

ため息交じりに酒を煽る。
上等できつい酒が胃の腑を焼くのが心地よくて。
浩大は月を見上げて「ははっ」と笑う。

全ては、明日。
しぶとく頼むよ、お妃ちゃん。









「眠れないのか?」
「・・・ええ。」

王宮にほど近い上流貴族の邸。
その奥まった一室に設けられた華やかな部屋の中。
夕鈴は窓辺に腰かけて月を見上げていた。

「冷えるぞ。早く寝ろ。」
「もう少しだけ。」

小さなため息が聞こえ。
きゅっ、と絹が擦れる音がして。
ふわりと衣が着せ掛けられる。

「・・・方淵?」
「女人の身体に冷えは良くないと聞いたことがある。」

ぶっきらぼうに呟く柳家の次男坊の頬は、少し赤くて。
乱暴に頭を撫でてくれた幼馴染の面影がよぎる。

「ありがと。」
「そう思うならさっさと窓を閉めろ。」

素直に頷き、ぱたん、と軽い音を立て。
夕鈴は窓を閉めた。

明日。
明日、陛下にお会いする。



闇商人の韋良と蘭瑶様との繋がりは、断った。
柳経倬殿は父である大臣に命じられ、遥か遠い国へ遊学に出された。
今回の件の責任を息子に擦り付けた形だ。
『見聞を広め柳家の跡取りに相応しい人脈を作れという事だな!』
恐らくはもう王都に戻れぬであろうに、意気揚々と船に乗る経倬。
清々しいまでに愚かしい笑顔を思い出すたび、夕鈴の胸は少し痛む。
仕方のない犠牲。いや。
狼陛下の失脚を目論んだ経倬が生きているだけで僥倖なのだ。
これで、よかった。
夕鈴は自らに言い聞かせ、遥か東の地へ思いを馳せる。

――――瑛風様。
もうすぐ兄上にお会いできますよ。
よかったですね。

近く蓉州から呼び戻されるはずの王弟殿下。
ただ純粋に兄を慕う晏流公・瑛風。
彼なら黎翔に家族の温かさをほんの少しなりとも与えてくれるかもしれない。
仲の良い兄弟に、これからきっとなれる。
そんな確信が心を軽くする。
夕鈴は冴え冴えとした満月に別れを告げ、窓を閉めた。


柳家が宛がった彼女の部屋は邸の最奥にある。
その部屋に入ることを許されたのは、柳大臣の奥方のみ。
あくまで夕鈴を『妃』として扱う柳一族は、彼女を氾紅珠に抗しうる唯一の存在として極秘裏に、丁重に、扱っていた。
だから、今。

「方淵、お茶は?」
「いいから早く寝ろ。明日に障るぞ。」

当家の次男坊が『妃』の私室にいることは。
邸の者にも、秘密。

「寝不足の顔で陛下にお会いする気か?」
「うっ。」
「貴女が眠るのを見届けてから部屋に戻る。」
「くっ・・・信用無いわね。」

寝台から離れた卓に陣取った方淵は、すごすごと布団に潜り込む妃を睨み付けた。

『――――――間違っても、俺の花に触んなよ?』

王宮に繋ぎを付けにいった隠密の言葉が、ふっと脳裏を過る。
壬州にいることになっている「元妃」が柳家に身を寄せていることを黎翔は知らない。
それを知るのは妃本人と、柳の当主と自分。あとは壬州長官と隠密及び軍人約一名、だけ。

全ては、明日。
方淵は軽く目を閉じ沈思する。
明日。
名家の娘たちが一斉に入宮する、明日。
内政が落ち着きを取り戻した白陽国に今必要なものは、未来への布石。
国王の血を直に引く世継ぎが、要る。
出自不明の寵姫を手離して以来、後宮に関して触れることは禁忌にも近かった。
だが、いよいよ狼陛下の後宮が開かれる。

柳家には、氾家ほどの娘がいない。
方淵は元妃を匿うに当たって鷹揚だった父の考えを推察し、眉を顰めた。
正妃の第一候補、氾紅珠。
容姿、教養、家柄。
何をとっても正妃に不足はない彼女。
息女のおらぬ柳家は後宮に勢力を広げる術がない。
だが、「元妃」なら。
陛下の寵愛を一身に集めた・・・いや、きっと今も陛下のお心をつかんで離さぬこの妃なら。
少なくとも氾家に後宮を牛耳られる事態だけは避けられるかもしれない。
例え元妃が後宮で謀殺されようが柳家に影響はなく。
仮に彼女が世継ぎでもあげれば、これに越したことはないのだ。
全てにおいて都合のよい、駒。
父大臣の腹黒さを知っていながら頼らざるを得ない己の非力さに、方淵は唇を噛んだ。

美々しく装った貴族の子女の中にまぎれ、「元妃」は後宮入りし。
柳家の遠縁の娘としてほどほどの位を与えられる予定だ。
噂では五十を超える娘たちが入宮するという。
彼女たちが国王の目に留まるか否かは、運次第。
かつての後宮においても、一生を不遇に過ごす妃などざらだった。
だが、方淵には確信がある。
狼陛下、珀黎翔。
内乱を瞬く間に鎮圧し、腐りきっていた内政を粛清した、若き王。
陛下ならば、必ず見出される。
唯一の『花』を。
御身に相応しき、強き『花』を。

どれほどの時間、思いに耽っていたのか。
ふと顔を上げ帳の向こうの気配を伺うと、健やかな寝息が聞こえた。

「・・・陛下を、頼むぞ。お妃。」

眠る夕鈴に跪拝し、方淵は静かに下がって行った。



雲ひとつない、望月の夜。
夕鈴が寝入った頃、黎翔はまだじっと月を見つめていた。

「浩大、酒が切れた。」
「え、まだ飲むの?」
「明日からは見知らぬ女を抱かねばならんのだ。今日くらい好きにさせろ。」
「・・・わかった。酒、取って来る。」

甍の上から浩大が消えるのを見届けて、黎翔は懐に手を入れる。
取り出したのは、花飾り。

「夕鈴・・・」

薄桃色の愛らしい花弁に口付ける黎翔の頬に、一筋の涙が伝う。

愛しいのは、君ひとり。
何人の女を抱こうが、僕の花嫁は君ひとり。
明日から僕は、僕じゃなくなる。
ただの「珀黎翔」は、今宵で終い。
僕の心は、君に。
君だけに。

「夕鈴。」

君に、会いたい。

月を見上げる狼。
その涙を知るは、玲瓏たる月のみ。







「お仕度は宜しいですか、陛下。」
「ああ。」

政務を済ませ、日が傾いたころ。
黎翔は衣服を整え後宮へと足を運ぶ。
付き随う諸大臣並びに高官たちは口々に慶事を寿ぎ、腹の内を隠して笑みを浮かべる。
軽く吐き気を覚えながら、李順は主の横顔を盗み見た。

―――――くだらん。

そう言いたげな、その表情は。
冷酷非情の狼陛下そのもので。
どこか哀しげな色を帯びた紅眼に、李順の胸がちくりと痛む。

・・・・夕鈴殿。

思わず口を開いた。

「陛下・・・まだ、間に合います。」

戸惑う、李順の瞳。
珍しく揺れ動くその表情。
黎翔はそんな側近を労わる様に見つめ、ゆっくりと歩き出す。

「案ずるな、李順。」
「っ、陛下。」

ふわりとした黎翔の微笑み。
昔一度だけ同じ微笑みを見た事がある。
あれは、そう。
舞姫様が亡くなられた時。

『母上は、お幸せだったのだろうか。』

まだ幼い黎翔殿下は動かなくなった母君の手を取り、そう言われて。
儚く微笑まれた。

我が主は。
哀しい時に笑う。
美しく儚げに、優しく。
全てを諦めたように、微笑まれる。

何をしている、李順。

自分を叱りつけて。
いついかなる時も冷静沈着な狼陛下の側近が、声を上げた。

「陛下っ!!本当に――――っ!」

その悲痛な呼びかけに一瞬閉じた、黎翔の瞳。
だがその足はゆっくりと後宮へ向かう。

「参る。」

後宮と王宮の境。
無言で王の背を見つめる臣下。
その向こうには王の訪れを待つ花々が首を垂れる。
しん、と静まった空気を意に介さず歩き続ける国王。

突然、その歩みが止まった。

「・・・・ゆう、」




華やかに着飾ったお妃様方。
場違いな自分を隠すように、後ろの方で礼を取る。
陛下に会いに来たのに、何やってるのよ、私。
方淵が作ってくれた身分。
浩大や荷長官や克右さんを巻き込んで、ようやくここまで来られたのに。
情けなくて、涙がでそう。

たくさんの本物のお妃様。
美しくて賢くて身分も財力もある、本物のお妃様。
『貴女、そんなお姿で陛下の御前に?』
『まさか貴女も、妃?』
浴びせられる嘲笑と侮蔑。
入宮したその瞬間から始まる貶め合い。
二重三重に陛下を取り囲む彼女たち。
陛下と言葉を交わすなんて、どうやったらいいの?
玉砕なんて、できっこない。
こうして遠くから陛下を見るだけで精いっぱい。
想いを伝えるなんて、そんな―――――

ぽろり、と涙が零れて床に落ちる。
周りから音が消えて、頭が真っ白になる。

私、馬鹿だった。
陛下は王様で、私は庶民で。
こんな所まで来て、みんなに迷惑かけて。

涙が止まらない。
苦しい。

「うっ・・・くっ・・・へい、か・・・」

必死に嗚咽を堪える夕鈴の目の前に、誰かが屈みこんだ。

「夕鈴。」
「っ?!」

ざわっ、と空気が動く。

「泣かないで。」
「陛、下。」



後宮で王を待つ、毒々しく咲き乱れる花々。
何の感慨も覚えずそこを見回す。
・・・昔見た光景。
父王の訪れを待ち侘びる妃達のそれ。
私は父王の様にはならない。
機械のように規則正しく順番に彼女らを抱くだけだ。
僕の心は月に託した。
いつか彼女の元へと届くだろう。

かつん、と後宮へ足を踏み入れたその時。
花が香り、撫でる様な風が僕の視線を誘った。
美々しく着飾った娘たちの一番後ろ。
ちらりと見えたそれは、僕の大好きな薄茶の髪。
兎のように結い上げられた愛らしいそれを飾るのは、清楚な桃色の花。
幻覚でもいい。
もう他は見えなかった。


「っ、へい、かっ。」

泣き止まぬ夕鈴を抱き上げ、口づけを贈る。
ざわつく娘たちを、氾紅珠が抑え込む。

「皆様、これこそが愛ですわっ!!」

紙と筆を手に涙を流さんばかりに感動する彼女を取り囲む娘達。

「私たちは今、愛を目の当たりに・・・・!」
「ええ、まさにこれこそが!」

この際なんでもいい。
よくやった氾紅珠。
褒美に夕鈴と茶を喫する機会をやるとしよう。

ちらりと王宮側に目をやると、早くも李順が動いていた。

「今の内ですよ、皆様方。ご息女の幸せを願われるのなら日が暮れるまでに退宮なさることです。一夜を後宮で過ごせば出して差し上げられなくなりますから。」

娘たちの命の保証はないと言外に匂わせる李順。
怖いやつだ。
お前が味方で良かった。

しゃくり上げながら僕の胸に顔を埋める夕鈴が、何よりも愛しい。
もう、戻れない。
戻らない。
私は父の様にはならない。
夕鈴を母の様にはしない。
愛しさを隠さず、この身ある限り彼女と共に。

「陛下が、好きですっ!」

不意に夕鈴から声が上がった。
きっぱりとした大きな声に、目が丸くなる。
真っ赤な頬で涙を流し、必死に繰り返す夕鈴。

「私、陛下に恋をしています。陛下が、好きです。」

どよめく観衆。
黄色い歓声が沸き上がる。

夕鈴。
君って本当に・・・・

「可愛すぎるよ。」

花嫁の肩に顔を埋めた冷酷非情の狼陛下の頬が少し染まって。

「愛している、夕鈴。」
「っ!」

花嫁の頬も、朱に染まる。

幸せそうに微笑みあう二人はもう、離れない。

C.O.M.M.E.N.T

No title

首の療養には萌えパワーですかね。
私はおつむの具合が良くないので、リハビリの仕様がありません。
どこかに明晰な頭脳が落ちてませんかね。

2014/11/06 (Thu) 16:23 | ますたぬ #XTEfMpaM | URL | 編集 | 返信

夕鈴素敵

あさ様
お久しぶりです。
仕事がシーズン←何の? に入りヨレヨレになっていましたが、久しぶりの訪問で幸せを貰いました。
陛下の悲しい覚悟は胸が締め付けられる様で切なくて、でも方淵や李順さんの努力のもと、夕鈴が陛下の元に帰って来れましたね。
そして夕鈴の決意と、陛下に見つけて貰えるまでの悲しさは辛かった。抱きしめて上げたい。
でも流石、陛下。夕鈴を見つけてくれて、そし鈴の告白。何だか可笑しくてでも幸せな場面でしたね。
紅珠も最高。
是非これからも、夕鈴と仲良くして陛下を妬かせて下さいね。
ああ幸せです。
今日は良い夢が見られそう。ありがとうございました。

2014/11/06 (Thu) 23:25 | 狛キチ #- | URL | 編集 | 返信

やったあ

夕鈴の告白に、私も赤面して喜びました\(^o^)/

2014/11/07 (Fri) 13:52 | 萌葱 #- | URL | 編集 | 返信

ますたぬ様へ

明晰な頭脳、落ちてましたか?
どこに落ちてるのか教えて下さい。
飛行機に乗ってでも拾いに行きたいです。
脳を揉みほぐしたいっ!!

2014/11/07 (Fri) 14:44 | あさ #- | URL | 編集 | 返信

Re

狛キチ様へ
お仕事、ハイシーズンなんですね。
お身体に気を付けて乗り切って下さいっ。
夕鈴からの告白。
なぜかあんなことに!もっと色っぽく告白させてあげたかったのに。
ごめんね夕鈴。
なかなかお休みになれないかもしれませんが、
しっかり睡眠取って下さいね?

2014/11/07 (Fri) 14:47 | あさ #- | URL | 編集 | 返信

Re

萌葱さまへ
ありがとうございます!
せっかくの告白なのに色気がなさ過ぎたかと、ちょっとだけ反省(笑)

2014/11/07 (Fri) 14:51 | あさ #- | URL | 編集 | 返信

こんばんは

あさ 様
こんばんは。体調が戻られてきているようで、よかったです。
方淵と紅珠のナイスプレーですね。
プチコミ用の御本も、サプライズ?本があるようですが、
無理はなさいませんように…。
(首の牽引は面倒臭いですよ〜)

2014/11/07 (Fri) 17:52 | ぶんた #- | URL | 編集 | 返信

Re

ぶんた様へ
ありがとうございます。
もともと丈夫な造りのはずの身体なんですが、ね・・・
経年劣化でしょうか(笑)
「想月」。
書きたいシーンを重視して書いてみました。
ストーリーに齟齬があるのですが、気にしないで下さい(笑)
首の牽引。
痛そうですよね。
経験がおありなんですね、ぶんた様。
私は牽引はダメみたいです。
無念。

2014/11/07 (Fri) 22:35 | あさ #- | URL | 編集 | 返信

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