2013_07
19
(Fri)10:22

避暑 7




最終話です。


設定・未来・捏造の塊もいいところ】
【オリキャラがいっぱいです!!】

*オリキャラ説明*←

李芙蓉・・・李順の奥さん。李・本家の息女。
李玉華・・・李順と芙蓉の長女。太子(清翔)がロックオン済み。
李正・・・・李順と芙蓉の長男。太子・清翔の一歳下。
李章・・・・李順と芙蓉の次男。明翔と同い年。
李玲華・・・李順の実母。芙蓉の継母。黎翔の乳母。ややこしい。←

もう、李家、勢ぞろい。笑


《避暑 7》




ガタゴトと揺れる馬車の中。

明翔と桜花の安らかな寝顔を守りながら、浩大は離宮を目指していた。


「・・・・ほんと、とんだ避暑旅行だよ。」


苦笑いしながら、鞭を繰り。

軽快な音を立てて、馬車は離宮の門を潜った。


その、瞬間。


「__________っ!」


御者席に、何か黒い塊が舞い降り。

ギンッ、と鋭い音が響き。

眠っていたはずの明翔が、黒ずくめの男に襲いかかる、寸前。


「皇子、待てっ!!」


浩大が声を投げ。

明翔の剣が、男の喉もとで停止する。


「・・・・こいつ、李家のやつだ。」


男の面を剥ぎながら、浩大は言い。


「おい。乳母様に伝えろよ。浩大が来た、って。・・・あと、」


どさりと男を投げ捨て、馬車の扉を開け。


「皇子、皇女。ついたよ。」


何事もなかったかのように、桜花に手を差し伸べ。


「お二方もご一緒に、ってな。」


じろりと男を睨み付けた。






「・・・・・どうして、明翔と桜花が、先に?陛下と一緒の予定じゃなかったの?」


ぴきぴきと青筋を立てながら、夕鈴は二人にお茶を勧め。


「_________説明して、浩大。」


にっこりと、微笑む。


「・・・ハイ。」


冷や汗をダラダラ流しながらも、浩大は事情を説明し始めた。


曰く。


要するに。


つまりは。


陛下の子だから、『待て』ができなかった、と。



夕鈴は、嘆息し。


さすがに、この状況はまずい、と、痛感する。



ここは、離宮。

警備は手薄で、周囲に軍の駐屯地などはない。


正妃と、皇子、皇女。


黎翔以外の王族が打ち揃って・・・・『離宮』に。


こんな好機は、滅多にあるものではない。


「__________浩大。すぐに太子を王宮に戻します。太子の警護を最優先に。」


正妃の顔で、夕鈴は命じ。


御意、と、浩大は姿を消した。



「お見事でございます。正妃様。」

「玲華さん。」


にこやかに、玲華は跪拝し。

玉華も、それに倣い。

ゆっくりと、口を開く。


「・・・正妃様。私、これより『北』へ戻ります。せ・・・いえ、太子様にはお会い致しません。」

「・・・・玉華ちゃん。」

「畏れ多いことではございますが・・・・太子様に、お伝え頂けますでしょうか?正妃様。」


玉華の頬に、涙の粒が、伝い。


「_____________お待ち、申し上げます、と。」

「玉華っ!」


咎める玲華をものともせず、玉華は続けた。


「李家にて、成すべき事を成し。太子様を、お待ち申し上げて、おります。」

「不敬ですよ、玉華!」


玲華の手が動く寸前に、夕鈴が動いた。

跪き、玉華の手を取り。

花のように微笑みながら、夕鈴は玉華の頬に触れ。


囁く。


「___________貴女以外に、あの子をお願いできる方なんて、おりませんもの。」

「正妃様。」

「ごめんなさいね、玉華ちゃん。あの子がもう少し、大人になるまで・・・・待っていて、下さいね?」




夕鈴の胸に顔を埋める玉華の、背を。

衝立の陰から見つめていた、清翔は。


ぎゅっ、と、唇を噛み締め、踵を返す。


王宮へ。


自分の愚かさを。

浅はかさを。


_______________思い知りながら。





王宮へ、戻ろう。

すぐに。


王族という身分以外、何も持たぬ自分が。

腹黒い狸や狢が蠢く王宮を御す、力を。

どのような縁談をも、跳ね除けるだけの、力を。


李家の息女を、手に入れる。

その力を、得るために。


王宮へ。


「_____________待っていろ、玉華。」


必ず、迎えに。


そう呟いて、護衛と共に離宮を後にする清翔の姿は、父に良く似ていて。


見送った玲華は、懐かしげに目を細めた。


「・・・そう簡単には、渡しませんわ。」


楽しげに、呟きながら。







「__________お祖母さま!」


朗らかに声をかけてきた、李正と李章に、玲華はにっこりと微笑んだ。


「・・・太子様の護衛、ご苦労様でした。異常は?」

「特にありません。『掃除』しておいた甲斐があったか、『客』もほんの数名程度でしたから。」

「それは何よりだわ。」


少し躊躇い、李正は祖母の顔を見上げた。


「あの・・・お祖母様。」

「なんですか?」

「お祖母様は、お姉様を・・・」

「ええ、渡しませんよ?誰が、可愛い孫娘を後宮なぞに上げるものですか。」

「っ!」

「全力を挙げて、阻止致します。」

「ええっ?!」

「_________何か、不服でも?」

「い、いえ・・・」


怖い。

やっぱり、お祖母様が一番、怖い。


李正と李章は、顔を見合わせ。


「「・・・・太子、ごめん・・・・」」


同時に、呟いた。





数日後。



王宮。

執務室では。


「・・・李順。これ、終わらないぞ?」

「・・・・陛下が途中で逃亡なさいましたからね。その分が加算されているのです。」


山積みの書簡と格闘する、清翔と。

芙蓉と母に翻弄され、いつもよりも疲労の色が濃い、李順の姿があった。


「あのさー・・・李順。」

「なんですか?太子。」

「今頃、玉華は・・・」

「・・・・。」

「いや、なんでもない。」

「________太子。『避暑』ですよ。」

「え?」

「娘は、少々長期間の『避暑』に出向いているだけ、です。」

「そう、か。」

「そうです。大丈夫、ですよ。いずれ、夏は・・・・」

「・・・・終わる、か。」



気を取り直し、清翔は書簡を広げ。

筆を走らせ始めた。






同じ頃、離宮では。


「陛下っ!陛下はもう帰って下さい!!」

「えー・・・やだ。」

「もうっ!!私、芙蓉さんとご一緒に、もう少しこちらで玉華ちゃんの様子を見守ってから帰りますから!」

「僕も残る。」

「ダメですっ!明翔、桜花!!貴方達も、何とか言って!」

「父上。帰りなさい。」

「帰りなさい。」

「ええええっ?!」



強制送還される、黎翔の。

寂しげな背が、哀愁を誘っていた。










遥か遠く、異国の空の下。

玉華は、雲を見ていた。



_____________清翔、さま。



男装し、剣を携え。

従者もろくに連れずに、玉華は東西南北を巡る。


各地へ飛ばした李家の僕たちに、当主の交代を伝えるために。

『眼』を養うために。



____________『これ』が終われば。



数年かけて行われる、李家の当主継承。

それさえ、終われば。


ほんのひと時の、『蜜月』を。

貴方との、本当の別れが来る前の。

僅かな、幸せな『休暇』を。

過ごす事が、できるから。



私は、『正妃』にはなれないから。

せめて、貴方のためになる事を。

李家の当主として。

今この時にできる事を。



玉華は真っ直ぐに前を向き。

馬を、走らせた。
2013_07
19
(Fri)10:20

避暑 6 




【設定・未来・捏造の塊もいいところ】
【オリキャラがいっぱいです!!】

*オリキャラ説明*←

李芙蓉・・・李順の奥さん。李・本家の息女。
李玉華・・・李順と芙蓉の長女。太子(清翔)がロックオン済み。
李正・・・・李順と芙蓉の長男。太子・清翔の一歳下。
李章・・・・李順と芙蓉の次男。明翔と同い年。
李玲華・・・李順の実母。芙蓉の継母。黎翔の乳母。ややこしい。←

もう、李家、勢ぞろい。笑

《避暑 6》




予定より随分と早くに訪れた正妃を、離宮の者たちは喜びと共に出迎えた。


「急に来てしまって、お世話をおかけします。」


優しく声をかける正妃に、離宮の女官達は頬を染めて礼を取り。

心を込めて、もてなす。


「・・・・あ、それと。」

「なんでしょう?正妃様。」


荷を解く侍女に、夕鈴はにっこりと笑いかけ。


「もうすぐ、客人が見えます。少し人数が多いのですが、おもてなしをお願いします。」


言った矢先に。


「___________母上っ!!」


バタン、と扉が開き、見慣れた我が子の姿が現れた。


「清翔・・・あなた、一人で来たの・・・?」


さすが陛下の子だわ。

夕鈴は、ふぅ、とため息をついた。




「・・・あれ?玉華、は?」


きょろきょろと部屋を見回す清翔に、夕鈴は茶を勧め、落ち着くように促し。

清翔も、決まり悪げに、椅子に座る。


「清翔?」

「はい、母上。」

「玉華ちゃんはね、貴方の事が好きだと思いますよ?_______とても。」

「・・・・」

「そして。貴方も、玉華ちゃんをとても大切に想っている。・・・そうよね?」

「はい。」


でも。

と言い置いて、夕鈴は清翔の手に自分の手を重ね。

諭すように、言い聞かせる。


「今はまだ、その時ではないの。_________清翔。貴方に、玉華ちゃんを待つ、自信はある?」

「・・・・待つ?」


怪訝な顔をした清翔が、何か言おうと口を開きかけたとき。


どさどさ、と、庭から大きな音がして。


「・・・あたたっ・・・・あーあ、見つかっちゃった・・・・」

「お前が無理に動くからだ。章。」

「兄上の方こそ、距離を取り過ぎなんですよっ!」


李正と李章が、樹上から降ってきた。


「__________お前たちまで、いるのか・・・・・」


うんざりとした、清翔の声に。


「お久しぶりです、太子っ!」

「お元気そうで何よりです。」


李正と李章、二人は揃って、にっこりと笑った。






「・・・・だーかーらー、お祖母様が動き出すまえに、姉に手をつけちゃえば良かったんですよー。」


李章は、茶菓に手をつけながら、事も無げに言い放つ。


「おまえ、凄い事言うな・・・」


呆れ顔の清翔。

それを見やる李正は、いつも通り飄々とした表情だ。。



しばし後。


「________それで、どうしてここへ?」


不機嫌そうに問いかけた清翔に、李正はあっさりと白状した。


「お祖母さまの眼を盗んできたんですよ。だって、僕らがいないと、太子、負けますよ?」

「そうそう、あのお祖母さまが相手ですからね。無理無理、絶対、むり。お父様でも敵わないのに。太子じゃ、無理。」

「お前たち・・・少しは遠慮というものをだな・・・・」

「してますよー。」

「ええ。しておりますが?」

「・・・・もう、いい・・・・」


仲が良いのか悪いのか。

いずれにせよ、二対一で圧倒的に分が悪い、清翔は。


「___________それで、何かいい案があるのか?」


冷ややかに、二人を見つめ。


李正と李章は。


「___________もちろん。」


自信ありげに、答えた。











「お祖母さま。」


北の離宮が見え始めた頃。

玉華は、祖母に向き直った。


「おそらく、離宮には」

「太子がお出ででしょうね。正妃様も。おいおい、芙蓉も来るでしょう。」


それから、李正と李章もね。

玉華の言葉を引き取った玲華は、淡々と語る。


「人には、役割があります。玉華。貴女は、李・本家の跡取りです。今のうちにやらねばならぬことが、山ほどあります。」

「はい、お祖母さま。_________今のうちに。」

「そうですよ・・・・今。今しか出来ぬ事が、貴女にはあるの。」

「__________はい。」

「それはいずれ、貴女の力になりましょう・・・。」


玉華は、ぎゅっと手を握り。

力強く、頷いた。



馬車が離宮に到着し。

玉華は、静かに馬車から降り立ち。

玲華も、続く。


李正と李章が、にこやかに出迎え。


「お久しぶりでございます、姉上っ!」

「お姉様、お久しゅうございます。」


さも当然とばかりに、玉華の手を引き。


「太子がお待ちですよ。」


と、歩みだす。


が。


「___________李正、李章。私は、お祖母様の付き添いです。太子様には、お会い致しません。」


きっぱりと言い放った玉華に、弟達から笑顔が消え。


「参りましょう?お祖母様。」


そんな二人を一顧だにせず、玉華は玲華の手を引き、歩き出した。


「・・・こ、怖い・・・」

「ああ・・・・無茶苦茶、こわいな・・・」


凍りつく弟達を、置き去りにして。





「____________全くもう!一国の太子ともあろう方が!!何を・・・・・!!」


怒り心頭の玉華。


「まあまあ、玉華。そう怒らずに・・・」


宥める玲華の顔は、笑っていたが。

眼は、玉華同様、冷たく澄んでいて。


「_________でも・・・本当に。正妃様と太子様が同時に、警備が手薄な離宮にお出でとは・・・・」


ちらりと、周囲に眼をやり。

玲華の意を受けた李家の隠密が、警護に回る。


「少し、自覚をお持ち頂かねばなりませんわね。」


ため息と共に、呟いた。




2013_07
19
(Fri)10:19

避暑 5



【設定・未来・捏造の塊もいいところ】
【オリキャラがいっぱいです!!】

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李芙蓉・・・李順の奥さん。李・本家の息女。
李玉華・・・李順と芙蓉の長女。太子(清翔)がロックオン済み。
李正・・・・李順と芙蓉の長男。太子・清翔の一歳下。
李章・・・・李順と芙蓉の次男。明翔と同い年。
李玲華・・・李順の実母。芙蓉の継母。黎翔の乳母。ややこしい。←

もう、李家、勢ぞろい。笑

・・・あ。本家の当主を忘れていました。どうしよう。笑


《避暑 5》




「___________夕、鈴?」


後宮へ戻った黎翔を出迎えたのは、愛しい妻の背で。

そこから漂う怒気に、黎翔は戸惑う。


「あの・・・・、僕、何かした?」


躊躇いがちに声をかけた黎翔の手が、妻の背に触れる、寸前。

くるり、と、振り向いた夕鈴の手が、黎翔の衣装をガシッと掴んだ。


「・・・・陛下。」

「・・・は、はい。」

「どうして、教えてくれなかったんですか!!」

「え、えっと・・・なに、を?」

「玉華ちゃんが、本家の跡取りだって言う事を、ですっ!!」

「え、それは、ぼくもしら」

「騙されませんよ?!」

「はいっ!」

「____________私、一足お先に参ります。」

「へ?」

「北の、離宮へっ!あっちで、待ち合わせしてるんですっ!玲華さんと!!」

「うそっ?!」




翌朝、早くに。

正妃の馬車は、北へ向って出発し。



「_________太子様?!」

「何処においでですか?太子様っ!」


太子の姿も、消えていた。










「____________お祖母さま。」


北へ向う馬車の中、少しくせのある、艶やかな髪を押さえながら、玉華は祖母を呼んだ。


「なあに?玉華。」


微笑を浮かべ、玲華は孫娘を見やる。

_________目に入れても痛くないほど、かわいい、孫娘。

大切な友人の忘れ形見である芙蓉が、自分に託した、大事な娘。

そして。

玉華の瞳は、息子によく似て、涼やかに澄んでいる。


「あの・・・・この馬車、北の領地へ向うのではないのですわね。水の匂いが、致しません。」

「_________よく気付きました、と、褒めておきましょうか。」


悪戯っぽく玲華は笑い。


「・・・どちらへ向かっているのか・・・察しはつく?玉華。」

「_________王家の、北の離宮ですわね。」


天を仰ぎ、事も無げに答える玉華を、嬉しげに見つめ。


「芙蓉は、きちんと教育していたようですね。」


誰にともなく、呟いた。











そのころ、王宮では。


「_________あーあ、行っちゃったね。」

「ええ・・・兄上ったら、もう少しお待ちになれば宜しいのに。」

「桜花、それ、無理。だって父上の子だよ?僕たち。」

「・・・・私は、待てましてよ?おじさまに相応しくなるためなら、いくらでも待てますわ!」

「いやそれ、待たされるのは桜花じゃなくて、几のおじさまの方だと思うんだけど。」

「何かおっしゃいました?明翔お兄様。」

「いや、なんでもありません・・・・」


くるくると手の中の小刀を弄びながら、明翔は遠く北の空を見つめ。


「さて、と・・・それじゃ。」

よっ、と、腰をあげ。

「僕たちも、行こうか!」

「はいっ!」


準備、できたよー、と朗らかに声をかけた浩大と共に、皇子と皇女は馬車に乗り込んだ。







その日の、昼下がり。

書簡の山を崩し終え、誰もいない後宮に戻ってきた、国王陛下は。


「・・・・・もう、僕も行っていいよね・・・」


尻尾を下げて、悲しげに呟いたという。



2013_07
17
(Wed)10:31

避暑 4



【設定・未来・捏造の塊もいいところ】
【オリキャラがいっぱいです!!】

*オリキャラ説明*←

李芙蓉・・・李順の奥さん。李・本家の息女。
李玉華・・・李順と芙蓉の長女。太子(清翔)がロックオン済み。
李正・・・・李順と芙蓉の長男。太子・清翔の一歳下。
李章・・・・李順と芙蓉の次男。明翔と同い年。
李玲華・・・李順の実母。芙蓉の継母。黎翔の乳母。ややこしい。←

もう、李家、勢ぞろい。笑




《避暑 4》





「正妃様、李芙蓉殿がお見えです。」

「お通しして下さい。」



後宮を訪れた芙蓉を、夕鈴はにこやかに出迎えた。


「お久しぶりですね、芙蓉さん!」


茶菓を整え、二人で楽しくお茶を選び。

ゆっくりと、おしゃべりに花を咲かせる。


王都の様子。

夫の事。

子どもの事。


気の置けない友人との語らいを、二人は心ゆくまで楽しみ。


ようやく、芙蓉は本題に入った。


「_________実は、母が。」

「玲華さん、が?」


久しぶりに聞く懐かしい名に、夕鈴の顔に驚きが浮かぶ。


「ええ。母が・・・・玉華に、会いたいと。」

「・・・ええ、そうでしょうね。もう随分お会いになっていらっしゃらないでしょうし・・・。」


うんうん、と頷く夕鈴に、芙蓉は困った顔で続ける。


「それが・・・恐らくは。」

「?」

「母の事です。ただ会いたいだけではございませんわ。__________玉華も、もう大人ですから・・・」

「・・・・?」

「本家を継がせるために、呼び戻したいのだと思います。」

「________え?」

「李の本家には、私以外の子はおりませんでしたの。ですから、本来でしたら、私が継がねばならなかったのですが・・・」


芙蓉は、やはり、困ったように笑い。


「正妃様。玉華のお役を。『太子様のお話し相手』というお役を・・・そろそろ、解いて頂くわけには参りませんでしょうか?」


優雅に、跪拝し。


「太子様が玉華をお気に召して下さっているのは、重々承知でございます。ですが。」


すっ、と、美しい顔を上げ。


「太子様の正妃になられるお方は・・・李家の娘では、いけません。」


きっぱりと、言い切り。


「ですから。玉華を・・・今のうちに、あの子を北へやることを、お許し願いたく・・・」


太子様の、御為にも。と、小さく呟き。

芙蓉は、深々と、頭を下げた。



__________遠くから自分を見つめる、玉華の視線を感じながら。







母が後宮に来ていると聞いて、太子に断りを入れて、四阿に足を運んだ玉華が目にしたのは。

正妃様に跪拝し、何事かを願う、母の姿。

真っ直ぐに正妃様を見つめて語る、母の姿は、いつもとは違う気がして。


「________お母様。」


玉華は、躊躇いがちに、声をかけた。


「玉華。」

「玉華ちゃん。」


二人の母は、歳若い娘に茶を勧め。

ゆっくりと、口を開き。


「____________さあ、どうしますか?玉華。」


戸惑う玉華に、微笑みかける。






そして。その日を持って。


李玉華の『太子付き』のお役目は、解かれる事となった。






その夜。



「________父上っ!李順っ!!」


清翔は、父の執務室に駆け込んだ。


「なんだ。騒々しい。」

「太子様、廊下は走らないっ!」


書簡の山に埋もれ、不機嫌を隠さぬ父と側近にひるまず、清翔は詰め寄る。


「玉華、玉華は?!どうして、家に帰したのですか?!」


ぴたりと李順の手が止まり。


「____________玉華が、どうしたのですか?太子。」


清翔に向き直る。


「だから、玉華が後宮を辞したんだよ!今日!僕の知らないうちに!李順は知ってるだろう?!」

「知りません。」


冷静に、李順は切り返した。


「っ!」

「・・・・後宮の女官その他に関する采配は、正妃管轄だからな。李順が知らずとも、無理はない。」


黎翔が口を挟み、清翔は黙り。

少しの沈黙の後、李順は。


「・・・・なるほど。『これ』ですか・・・・返せ、と。」


小さく、呟いて。


__________潮時、でしょう。


納得したように、頷き。

太子の顔を見つめ、膝をつき、礼を取る。



「__________我が娘、玉華が、長きに渡りお仕えさせて頂き、これに勝る栄誉はございません。」

「・・・李順、なにを・・・」

「娘も、もう良い歳でございます。そろそろ、本家を継がすため、北に遣らねばなりません。」

「・・・ちょっと、まて・・・」

「太子様も、もう十五にお成りです。どうぞ、娘が北で良縁に恵まれますよう、祝してやっては」

「黙れ!!」


怒気を発する清翔に、李順は顔を上げ、続ける。


「________黙りません。玉華は恐らくはもう北へ向かった事でしょう。今頃は、河を渡る頃かと。」


走り出そうとした清翔を、黎翔の腕が阻む。


「_______清翔。相手は、李家だぞ?そう容易く手に入ると思ったか?」

「っ・・・。だって、玉華は・・・」

「お前のものでは、ない。玉華は、李家の人間だ。」

「でもっ!」

「清翔。」


清翔を抱きとめた黎翔の腕に、力が籠もり。


「_______李の本家は、北を領し。その『眼』は、白陽国全土にあまねく及ぶ、と言っても過言ではない。その、長子が、玉華だ。」

「は、い・・・」

「李正と李章は、いずれ、王宮に戻ってもらわねばならぬ。が、李家の本拠地は、北。・・・意味は、分かるな?清翔。」

「_________。」

「おまえに『立場』があるように、玉華にも『立場』があるのだ。」


清翔の身体から、ゆっくりと、力が抜けた。


2013_07
16
(Tue)20:38

避暑 3


ちょびっとだけ、続きを。

このお話しも、迷走気味です。←





【設定・未来・捏造の塊もいいところ】
【オリキャラがいっぱいです!!】

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李芙蓉・・・李順の奥さん。李・本家の息女。
李玉華・・・李順と芙蓉の長女。太子(清翔)がロックオン済み。
李正・・・・李順と芙蓉の長男。太子・清翔の一歳下。
李章・・・・李順と芙蓉の次男。明翔と同い年。
李玲華・・・李順の実母。芙蓉の継母。黎翔の乳母。ややこしい。←

もう、李家、勢ぞろい。笑




《避暑 3》




「________ねえ、夕鈴。」


早朝、朝議へ向う仕度を終えた黎翔は、愛しい后の手を取り、懇願していた。


「今日はお仕事おやす」

「ダメです。」

「・・・まだ最後まで言ってないのに・・・・」

「再来週、北へ視察に行かれるのでしょう?そのために政務が詰まっているのでしょう?!」

「・・・李順め・・・しゃべったな・・・」

「もうっ!それくらい、李順さんに言われなくても私だって分かりますよ!・・・それに!」

「・・・それに?」


するりと耳元へ唇を寄せてきた黎翔に、夕鈴はうろたえながらも答える。


「そ、それにっ!き、北には・・・・私も連れて行ってくださるのでしょう?」

「うん。」


ちゅ、と耳元で響く音に、腰が抜けそうになりながらも、夕鈴は続けた。


「・・・ん・・・わ、わたし・・・北の離宮に連れて行っていただくの・・・・っぁ・・・・た、楽しみ、で・・・・っんぁっ!」


夕鈴の反応に気を良くした黎翔の唇は、耳朶から首筋に移り、彷徨う。


「・・・楽しみ、なのか?」


そして、再び、耳に低音が注ぎ込まれ。

夕鈴は崩れ落ちた。


「________もうっ!朝から、いじわる、しないで・・・」


深まっていく口付けと、衣擦れの音に。


次の間で控えていた侍女たちは、顔を見合わせ、そっと退室した。







「陛下・・・・遅刻ですよ?」


朝議場へと続く回廊に、やや遅れて現れた黎翔を咎める李順の声は、生気がなく。


「________どうした?」


珍しく、黎翔が李順を気遣った。


「・・・・大丈夫です・・・・どうも、致しませんよ・・・・」


母からの、得体の知れない手紙。

芙蓉の、あの態度。

________久しぶりに、芙蓉に負けました。




「大丈夫、という顔ではないぞ?」


怪訝な顔をする黎翔に、李順はため息をつき。


「・・・李の、本家の______『義母』から手紙が参りまして。」

「・・・ちょっと、まて。玲華から、手紙?」

「ええ。」

「なんと?」

「分かりません。」

「なんで?!」

「見せて貰えなかったからですっ!」

「え?なんで?李順宛てじゃ、ないの?!」


小犬が出始めた黎翔に構うことなく、李順は続ける。


「芙蓉宛てだったんですよ。」

「なーんだ。それじゃ、べつにたいしたこと」

「ありますっ!あの料紙は、急な用がある時に使うものなんですよ・・・」

「_______急用、か。」

「ええ。芙蓉宛で、『急用』となると・・・おそらくは李家の内部のことでしょうが・・・」

「李家、内部ね・・・」


心当たりが、ないと呟く李順に、黎翔は不思議そうな目を向け。



「__________ねえ、李順。それって・・・」


「はい?なんでしょう?」


「・・・いや、なんでもない。」



取り越し苦労である事を祈りつつ、黎翔は朝議場に足を運んだのだった。





2013_07
15
(Mon)15:47

避暑 2


【設定・未来・捏造の塊もいいところ】
【オリキャラがいっぱいです!!】

*オリキャラ説明*←

李芙蓉・・・李順の奥さん。李・本家の息女。
李玉華・・・李順と芙蓉の長女。太子(清翔)がロックオン済み。
李正・・・・李順と芙蓉の長男。太子・清翔の一歳下。
李章・・・・李順と芙蓉の次男。明翔と同い年。
李玲華・・・李順の実母。芙蓉の継母。黎翔の乳母。ややこしい。←

もう、李家、勢ぞろい。笑




《避暑 2》


王都。

李家。




「________おや、芙蓉。その筆跡は・・・」


妻の文机に何気なく置かれた一通の手紙に、李順は目を留めた。

見間違えるはずなどない見慣れた筆跡は、いつ見ても小憎らしいほどに美しく。


「ええ、お兄様。お母様からのお手紙ですわ。今朝方届きましたの。」


にっこりと笑みを湛える芙蓉につられる様に、李順の頬にも笑みが浮かぶ。


「・・・・で、なんと?」

「ふふ。ないしょ、ですわ。」


優雅に口元を覆い隠し、芙蓉はさらりと衣擦れをさせながら立ち上がり。

手紙を懐にしまうと、呼び鈴を鳴らした。


「奥方様、いかがなさいました?」


すぐさまやってきた使用人に、芙蓉はゆったりと命じる。


「・・・正妃様の元へ参ります。仕度を。」


「かしこまりました。」


身支度を整える芙蓉を、李順は訝しげに見つめ。


「・・・・芙蓉?私に隠し事とは・・・」


穏やかではありませんね。と、呟き。

李順は、音もなく芙蓉に近づき、顎を捉え、上を向かせる。

いつもなら、逆らわずにされるがままになるはずの、芙蓉は。

李順の手を優しく外し、指先に口付けを贈り。


「うふふ・・・こればかりは、私もお譲りしかねますの・・・ご容赦くださいませ、ね?」


お兄様?と、耳元で囁き。

予想以上に甘く響く芙蓉の声に、思わず耳を押さえた李順の頬が、朱に染まる。

そんな夫を、愛しげに見やり。

芙蓉は、くすりと笑った。






そのころ。王宮。

太子の勉強部屋。



「_________ねえ、玉華。」

「はい、太子様。お勉強の手が止まっていらっしゃいますよ?」

「・・・・口付けしてくれたら、続ける。」

「青慎様にお願いして、課題を増やして差し上げても宜しゅうございましてよ?」

「むぅ。それはヤダ。」

「では、早く課題を。詩の一つや二つ、すぐにお詠みになれるでしょう?!」

「めんどくさい。」

「算術はすぐになさるではありませんか?!」

「あれは楽しいから。」

「楽だって、きちんとなさるのに・・・」

「だって、玉華が一緒に演奏してくれるから・・・」


もうっ!と、呆れながら席を立った玉華は、茶器の準備をはじめ。


「・・・せっかく、正妃様に作り方を教わって、白玉を仕度しておいたのですが・・・無駄になりそうですわね。」


小さく、呟く。


「わーっ!!すぐ、すぐ終わらせるから!!ちょっと待って?!」

「・・・きちんと仕上げないと、差し上げませんわよ?」

「玉華の、いじわるっ!」

「お褒めに預かり光栄ですわ。」



いつもの光景が展開されていた。




2013_07
15
(Mon)13:36

避暑 1




【設定・未来・捏造の塊もいいところ】
【オリキャラがいっぱいです!!】

*オリキャラ説明*←

李芙蓉・・・李順の奥さん。李・本家の息女。
李玉華・・・李順と芙蓉の長女。太子(清翔)がロックオン済み。
李正・・・・李順と芙蓉の長男。太子・清翔の一歳下。
李章・・・・李順と芙蓉の次男。明翔と同い年。
李玲華・・・李順の実母。芙蓉の継母。黎翔の乳母。ややこしい。←

もう、李家、勢ぞろい。笑




《避暑 1》




李家には、暗黙の了解がいくつかある。

深夜、いくつもの気配が動いても、殺気がなければ気づかぬ振りをすること。

いつの間にか使用人が入れ替わっていても、気にせぬこと。

母が幾日か帰邸せずとも、気にしてはならぬこと。

父が日中屋敷にいるときは、子供達は迎えの馬車に速やかに乗り込み、王宮に『遊びに』行くこと。


そして。

十を越えた子は、本家に預けられること。



李の本家は、白陽国の北方が領地だ。

緑豊かで冷涼な土地は、避暑地としては優秀だが、実りはさほど多くはなく。

先代の王の時代には、特に気にかけられることもない、いわば見捨てられたような土地だった。


そこを領する、李家は。


華美を避け、贅を嫌い。

土地の実りは、領民に。

自らは商家と結び、白陽国中に、『目』を張り巡らせ。

薄く、広く、潤沢に。

利を集め、それを次の布石に使う。


そのようにして代を重ねてきた一族で。


黎翔の父王の信頼は、厚く。

黎翔とその母を託されたのは、李の分家。

王の密命を受けた李家は、黎翔を大切に育てた。

李順の父母の元。

李順と、ともに。


________王に飽きられ、捨てられた、卑しい身分の妃と皇子。


そう思わせるに相応しく、質素に。

慎ましく。

・・・幾重にも重ねた紗のあちら側を窺い知ることが叶わぬのと、同じように。

慎重に、ひそやかに。

充分に、時をかけ。

我が手に託された、聡明な皇子が。

国を導き、生かす・・・その時の、ために。







「ああ、本当に愛らしい・・・」


木登りに苦戦する李正を見つめながら、玲華は呟き。


「あの子も、木登りが苦手で苦労していたわね。」


遠い昔に、思いを馳せる。

なんでも卒なくこなすくせに、なぜか、木登りは苦手で。


『高いところは、足がすくみます。』


少し泣きそうになって、自分を見上げた息子を思い出す。




「お祖母様!登れました!」


兄を置いて、さっさと高い枝に腰掛けた、李章が嬉しげに祖母を呼ぶ。


・・・この子は、芙蓉に似て木登りは得意ね。


玲華は苦笑し、木を見上げ。


かつての、黎翔と李順を見るような気持ちで、孫達を見遣った。




「________玉華姉様は、どうしてこちらにいらっしゃらないのですか?」


昼餉を摂りながら、李章は祖母に尋ねた。

いくら女子とは言え、玉華は李家の長子。

本家に預けられてもおかしくない。

にっこりと笑んだ玲華は、答えを口にする。


「太子さまが、お離しにならないのですって。」


「・・・お姉様も、大変ですね…」


と、李正。


「あー…なるほど。強引に呼び寄せたら、太子もついて来ちゃうよね、絶対。」


うんうん、と頷く、李章。


「…まあ、芙蓉がきちんと『教育』しているでしょうから、心配はないと思うのだけれど・・・」


一度、玉華の様子を見に行かないと。

玲華は、密かに決心した。