2013_03
19
(Tue)19:50

薬効①

見切り発車のお話しです。

まだラストがどうなるのか、決まっておりません・・・(おい)

さあ、風邪薬で朦朧とした脳みそで、どこまで書けるか。


今日は、温かくして早めにやすみます。




【設定・原作沿い・臨時花嫁】

*夕鈴が少し痛い思いをします。


《薬効①》



「気をつけていたのに・・・。」

昨日から感じていた喉の違和感。

悪化させないように、と、塩を入れたお水で嗽をさせてもらい、昨晩は温かくして早くやすんだのに。

今朝起きてみると、喉の「違和感」は「痛み」へと、順調に悪化していた。

「毎年この季節は弱いのよね・・・」

冬から春へと三寒四温を繰り返す、この季節が夕鈴は苦手だった。

微妙に乾燥した強い風が吹き荒れ、肌も髪もがさがさになるし、何より家中が砂埃でざらつく気がしてならない。

毎朝の拭き掃除を念入りに仕上げても、昼過ぎには元の木阿弥。

徒労感に苛まれつつも、臨時妃になる前の夕鈴は、毎朝しっかりと家中を磨き上げたものだった。


「実家に比べたら、後宮は手入れも行き届いて、快適なはずなのに。風邪を引くなんて、気合が足りないのかしら。・・・・とりあえず、早く治さないと!!」

夕鈴は寝台から降りるとすぐに嗽をし、少し喉の痛みが治まったのを確認してほっと胸を撫で下ろした。

「・・・大丈夫。たいした事なさそうだわ。」

ちょうどその時、朝の仕度のために侍女たちが入室してきた。

「お妃様、おはようございます。今朝もご機嫌麗しく・・・・」

「おはようございます。今日も宜しくお願いしますね。」

夕鈴は自分の声が掠れていないことに安堵しつつ、侍女達に朝の挨拶をした。






夕鈴はいつも通り朝餉を終え、今日の予定を確認する。

(・・・ちょっと、汁物が喉にしみたかな・・・)

少しそんなことを考えながら、李順が本日の『妃』の予定を説明するのを、夕鈴は真面目に聞く。

「・・・承知いたしました。それでは、後ほど政務室へ参ります・・・」

妃らしく優雅に微笑み返答する夕鈴の姿を、李順は満足げに眺め、退室していった。


____しばらくして。

政務室へ赴く仕度をしてくれていた侍女が、ふと思いついたように夕鈴に提案した。

「お妃様、本日は陽気は宜しいのですが、少々風が強うございます。御髪をおまとめになられたほうが宜しいのでは、と・・・」

言われて、夕鈴が窓の外を見ると、なるほど、確かに風が強いようだ。

「・・・そうですね、回廊は風が通りますから・・・では、お願いします。」

「はい、失礼致します・・・」

滅多に髪型を変えさせてくれない妃が、珍しく了承したことに侍女たちは気を良くし、あれこれと相談しあいながら嬉々として夕鈴の項の髪をあげ始め。

日ごろ欲求不満の彼女達は、あれよあれよという間に、妃の衣装まで替えさせることに成功したのだった________




(・・・・・さ、寒いかも・・・・)

後宮から王宮へと続く回廊を渡り、李順に日ごろからみっちりと仕込まれている通りの、優雅な「お妃歩き」を披露しながら、夕鈴は後悔することしきりだった。

まだ少し肌寒い風が、夕鈴に容赦なく吹きつけ、着慣れない薄い絹の服を浚う。
侍女たちの手によって上品に纏め上げられた髪は、強風にも動じないかわりに、夕鈴の首まわりには遠慮なく風がまとわり付く。

政務室へ付く頃には、夕鈴ははっきりと風邪の悪化を自覚していた。

背筋がゾクゾクする。
耳鳴りがして、頭がキーンとする。
立ち居振舞いが億劫で、背筋を伸ばして座るのすら辛い。

(・・・・これは、だめだわ・・・)

敗北を悟った夕鈴は、休憩に入るタイミングで、陛下へ後宮へ下がる許しを得、そのまま老師の下へ渡った。


「少し、こちらのお部屋で待っていて下さいね?」

いつもなら、老師の部屋の外で侍女たちを待たすが、今日は風が強く、彼女達を吹きさらしの中待たすのは忍びないと、夕鈴は隣室で待つよう、侍女たちに告げた。

「はい、ありがとうございます。」

侍女たちも、妃の優しい気遣いに感謝し、そのまま隣室で主の帰りを待つことにした。



「老師、お願いがあるんですが・・・」

突然の妃の訪問に、老師は驚いた表情で答えた。

「なんじゃ、今日は来る予定ではなかったじゃろう?どうした?」

何事かを書き記していた手を休め、ぴょんっと椅子から降りる老師を、

(老師もちゃんとお仕事なさるのね・・・)

などと、失礼なことを考えながら、ぼうっとした瞳で夕鈴は眺めていた。

「・・・・ほれ、どうした?・・・うむ。風邪じゃの。」

夕鈴の呆けた様子を見た老師は、夕鈴を椅子に座らせ、たくさんの棚から薬材を取り出してゴリゴリと薬研でつぶし始めた。

「・・・咽喉の痛みから来る発熱と、耳鳴りと頭痛____典型的な風邪じゃの。」

椅子に座るのも辛い、と夕鈴が感じ始めた頃。

老師特製の薬湯がようやく完成し、夕鈴はその苦さに半泣きになりながらもどうにか飲み干した。

「まったく、おぬしは。・・・少しでも体調に違和感を感じたら、すぐに侍医を呼ぶのが常識じゃ!いらぬ我慢をしおって・・・」

「・・・うぐっ・・・にがっ・・・ごめんなさい・・・」

どうやったらこんな味になるのかしら、と夕鈴が真剣に悩みたくなるほどに不味い薬湯を、

「日に三度飲むのじゃ!」

と言い置いて、急いでいたらしい老師は、部屋を出て行った。


「・・・・う。一日に三回も・・・・。うん、早く治そう。」

取り残された夕鈴は、激しく後悔しながら、隣室で自分を待っているはずの侍女たちの下へ歩き出したが。

(さっきより、熱が上がったのかしら。雲の上を歩いているような・・・)

自分の足を目で確認しながらでないと歩けない。

(ええと・・・右足、左足・・・あと、もう、少し。)

壁に手をつき、よろよろと歩く夕鈴は、まったく気付かなかった。


________風が、止んだ。

と思ったときにはすでに遅く。

夕鈴は背後から口を塞がれ、胴を浚われて横抱きに抱え込まれ。

ただでさえ意識が朦朧としていた夕鈴は、悲鳴すら上げることも叶わず、そのまま連れ去られた。



薬効②へ
2013_03
20
(Wed)15:45

薬効②

【設定・臨時花嫁・原作沿い】

*夕鈴が痛い思いをします!苦手な方は無理なさらずに。


《薬効②》


妃が下がった後の政務室では、機嫌を急降下させた黎翔が、周囲を威嚇しながら、高速で政務を処理していた。

(・・・この分なら、夕刻には今日の政務をお終いに出来そうですね・・・)

李順がそんな予測を立てて、窓の外にふと視線を投げたとき。

_______バタンッ

大きな音を立てて、政務室の窓が煽られた。

風の強い日には、そう珍しいことでもないため、官吏達の大半は一瞬動きを止めたものの、そのまま手を休めることなく政務に勤しむ。

ピクリと李順の頬が動き、書簡の上を走っていた黎翔の視線が李順を捕らえ。


「______今から、半刻ほど休憩と致します。」


おもむろに李順は休憩を告げた。






「陛下、まずい!」

人払いされた政務室で、右肩から血を流した浩大が、跪いて報告を始めた。

「・・・お妃ちゃんが、攫われた!!」

蒼白な顔の浩大に、黎翔は無言で続きを促す。

「政務室から、じいちゃんの部屋に渡ったお妃ちゃんは、風邪薬を飲んで、自室へ帰ろうとしたんだ。・・・ふらふらの足取りでじいちゃんの部屋を出て、隣室で待機していた侍女たちのところまでのほんの少しの間に、三人組のお客が襲ってきた。」

「・・・・それで。」

問う黎翔の声は冷静だが、指が真っ白になるほどに握り締められた拳は、かすかに震えている。

「・・・一人は捕縛。一人は虫の息。_____もう一人が、お妃ちゃんを攫って行くのを、確認、し、た。」

浩大の右手の先からは、絶え間なく鮮血が伝う。

徐々に床に広がる赤い染みを、まったく気にも留めず、浩大は続ける。

「部下にすぐ指示を出したし、場所が、じいちゃんの部屋、の、すぐ近くだったから、きっと、まだ、お妃ちゃんは、後宮内に、いる。・・・ごめ、へいか、ど、く、まわっ・・・」

浅い呼吸で必死に言葉を紡いだ浩大だったが、毒を流すために瀉血し続けたせいか、それとも毒そのもののせいか、その場に崩れ落ち、意識を失った。

「_____李順。浩大の手当てを急げ。」

「はい、陛下。」

李順が答えるより先に、黎翔は回廊を走り出していた。

(_____っ!調子が悪そうだ、と気付いていたのに、なぜ私は彼女をひとりにした!)

やり場のない怒りを自分自身に向け、黎翔は疾駆する。






_______あたま、が、おもい。ガンガンする。

手も足も、重くて動かない________熱い。ひどい風邪_____


夕鈴は刺客の一人に横抱きにされ、朦朧とした意識のまま、暗い部屋に運び込まれた。

黴臭い、古びた臭いが鼻に付く。

「・・・・・う・・・・」

声を出したいのに、呻く事しか出来ず、夕鈴はぐらぐらと回る頭を必死に働かそうと試みるも、出るのはか細いうめき声だけ。


ドサッと、自分が床に投げられた感覚を覚え、しばらくして、体を冷たい床に打ち付けた鈍い痛みが夕鈴を襲う。

「・・・・・いっ・・・」

何とか体を起こそうと手を動かすと、強い力で押さえ込まれた。

「静かにしろ。」

知らない男の冷たい声に、夕鈴の意識が少し覚醒する。

「・・・刺客・・・・?」

呟いた途端、口を手で塞がれ、頭が床に押し付けられる。

「だまれ・・・・そんなふらふらの状態で抵抗しても無駄だぞ。」

覆面から目だけを覗かせ、男は夕鈴の耳に囁きかけた。

「くくくっ・・・・運が悪かったな。なるべく楽に送ってやるよ。」

男は夕鈴の耳に口を近づけたまま、懐から鈍く光るものを取り出し、夕鈴の首筋にぴたりと宛がい、そのまま首に刃を埋めようとした。

・・・が。

熱と老師の薬湯のせいで、いつもよりずっと体温が高い夕鈴から、濃く香油の香りが漂い、刺客の手が止まる。

清楚な、花の香り。

熱に浮かされ、熱い吐息を吐く、まだ少女のような妃。

乱暴に扱われ、はだけた裾からは、真っ白な脚が艶かしく覗く。

「・・・・・狼陛下の、唯一の妃、か・・・・」

刺客の声があやしく掠れ、舐めまわすように夕鈴を見つめ。

「どうせ夜まで逃げられないんだ。・・・・楽しませて、もらおうか。」

男の手が夕鈴の首筋から・・・懐に入り込んだ。





知らない男の冷たい手が、するり、と肌をなぞる。

身の毛のよだつ感触に、夕鈴の体はビクリと跳ね、悲鳴が上がる。

「うるさい。」

男は覆面をはずし、黒い布を夕鈴の口に押し込んだ。

「・・・ぐぅっ!」

息苦しさと、悔しさに涙がこぼれる。

男は下卑た哂いを浮かべ、夕鈴に跨ったまま彼女を見下ろし。

ぺろり、と唇を舐めると_____夕鈴の熱い首筋に顔を埋めた。



________やだ、やだ!!陛下っ!!!陛下ぁっ!!


夕鈴は必死に力の入らぬ体で抵抗する。

身を捩り、手で男の体を押しやる。

・・・が、男は抵抗を楽しむかのように、夕鈴の耳に唇を寄せ、囁く。

「・・・・大人しくしないと、痛い目を見るぞ?」

くくくっと哂い、男の手が夕鈴の合わせにかけられ______

真っ白なふくらみが、男の眼前に晒された。


「んんんんーーーーーーっ!!!」


涙を流し、夕鈴が声にならない悲鳴を上げた、その時。

バタン!と扉が開く音とともに、旋風の様な衝撃が男を襲い、跳ね飛ばし。

夕鈴は反射的に転がり、衣装を掻き合わせ、よろよろと立ち上がり・・・・・黎翔の胸に、倒れこんだ。




薬効③へ
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(Wed)15:47

薬効③

【設定・臨時花嫁・原作沿い】


《薬効③》


「・・・・狼陛下、か。」

暗がりで、体勢を立て直した刺客が、すらりと剣を抜いた。

自信に満ちた刺客の姿に、黎翔の眉根が少し寄せられる。


「・・・・我が妃に、何をした。」

腕に抱いた夕鈴を一層強く抱きしめ、静かに怒りをみなぎらせる黎翔に、刺客は余裕の笑みを向ける。

「くくくっ。いい味だったぞ。あっちこっちから、花の匂いがして、真っ白で、柔らかくて、な。」

黎翔の腕の中、夕鈴がビクッと震え、それを感じた黎翔の腕の力が強まる。

「・・・・狼陛下の唯一の妃の肌が、どんな味だったか。・・・雇い主に、報告しといてやるよ。」

唇を歪めて哂う男に、黎翔は静かに告げた。

「・・・なにがあろうと、我が妃は彼女一人。・・・その妃を傷つけたお前を、私が逃がすとでも・・・?」


黎翔の唇が、緩く弧を描き、夕鈴の耳朶に口付け、囁く。

「少しだけ、待ってて?・・・・すぐ済むから。」

そっと夕鈴から手を離した黎翔は、刺客に向き直り。

場の空気が、一瞬で・・・・変わった。




「少しだけ、待ってて?」

そう言った貴方の瞳は、まちがいなく優しい、「小犬」の貴方だったのに。

私から顔を背け、刺客に向けた瞳は、間違いなく「狼陛下」のもの。


_________ああ、そうなんだ・・・・。

熱で浮かされた頭で、私は妙に冷静に考えていた。

________どちらも、陛下なんだわ。優しい「小犬」も、恐ろしい「狼」も。

「強い王様」を演じる陛下。

自分の優しい部分を隠して、強さだけを見せ付ける陛下。

誰も信じず、寄せ付けない、孤高の王。

・・・・バイト妃を守ってくれる、優しい王。

どちらも、「陛下」。

なんで・・・どうして今まで気付けなかったのかしら・・・・


ああ、くらくらする。

やっぱり、風邪は引き始めが肝心だわ・・・・

________夕鈴は、壁に凭れ掛り、ずるずると座り込むと、意識が途絶えた。




ほの暗い部屋の中、狼の瞳と刺客の瞳が火花を散らす。


「_____戦場の鬼神、か。なるほどな。」

刺客の顔から笑みが消え、黒い喜びで目が光を帯びる。

「あの妙な飛び道具を使ったヤツも、かなりの腕だったが・・・・さすがは狼陛下、というところか。」

________だが、逃げられる。

そう踏んだ刺客は、懐から取り出した小刀を、壁際でしゃがみ込んでいる夕鈴に向けて放った。

黎翔の注意が妃に向けられるその瞬間、窓を蹴破って飛び出そうと______

が。刺客の足が動くより先に、鋭い金属音が響く。

「______へ、いか。おきさき、ちゃんは、無事。」

浩大が身を屈めて、夕鈴を守っていた。

刹那。

黎翔が流れるように動き、刺客の間合いに踏み込み・・・・胸に刃を付きたてた。


「・・・ぐっ・・・・くそっ!」

刺客の手から刃が落ちた音がし、刺客は大きく目を開いて、苦しげに哂う。

「・・・「花」に惑わされたのが、運のつき、か・・・・」

くくくっと哂い声がこぼれる唇からは、どす黒い血が流れ落ち、刺客の命が尽きかけていることを知らせていた。

黎翔はなんの感情も見せずに、刺客の胸から愛刀を引き抜き、血を拭う。

「言え。妃に何をした。」

硬質な声で問う王に、刺客はさも可笑しそうに口を開く。

「・・・・・はははっ。余裕ねぇなぁ・・・なんにもしてねぇよ。安心しろ・・・・」

黒い染みが部屋に広がり、生臭い臭気が広がる。


黎翔は身を翻して血で汚れた上衣を脱ぎ、夕鈴を抱き上げた。

「______浩大。休め。」

「・・・はいよー。」





_________ゆらゆら、いい気持ち。温かくて、安心する、いい匂い。

ああ、くらくらする。ここは、どこ・・・?



「・・・う・・・ここ、どこ・・・?」

夕鈴がゆっくりと目を開けると、黎翔の心配そうな瞳が飛び込んできた。

「大丈夫?夕鈴。今寝室に連れて行ってあげるから、ちょっと大人しくしててね?」

優しい口調で、あやすように心配してくれる陛下は、今は「小犬」。

「・・・ごめんなさい・・・」

私が思わず発した言葉に、陛下は歩みを止めた。



「・・・・夕鈴。なんで謝るの?」

困惑した顔の黎翔に、夕鈴はゆっくりと語りだす。

「・・・今、熱があるので、ちょっとおかしいことを言っちゃうかもしれませんけど・・・」

「うん、かなり高いね、熱。」

「だから、うわ言だと思って聞いてください、ね?」

「・・・うん。」

「・・・・私、ずっと「狼陛下」は演技だと思ってて。」

「・・・・」

「・・・・でも、そうじゃないんだなぁ、って気付いたんです。」

「え?」

「陛下は、どちらも、陛下ですよね?『狼』も、優しい小犬みたいな陛下、も。」

「______うん。黙ってて、ごめん。」

夕鈴を抱く手に力を込め、黎翔は動きを止め。

「______黙ってて、ごめん、夕鈴。・・・・僕を嫌いになった?」

困り果てた声で、問いかける。

ふふふっと優しく笑んだ夕鈴の手が、そっと黎翔の頬に触れ。

「_______嫌いになんて、なりませんよ?私こそ、気付けなくて、ごめんなさい。」

そういうと、ゆっくりと目を閉じ、再び意識を失った。




「・・・・かなり熱が高いな・・・・」

安心したように意識を手放した夕鈴の額に唇を寄せた黎翔は、眉根を寄せて呟き、歩みを速めた。

驚くほど熱くなった夕鈴の身体から、汗と香油の香りが立ち上り、歩を早めた黎翔にまとわり付くのがわかる。

「・・・・花に惑わされた、か・・・」

発汗作用のある、老師の薬と、夕鈴の肌にすり込まれた、花の香油。

「とんだ『薬効』だな。」

苦笑した黎翔は、早く花嫁を休ませるべく、自室へと急いだのだった。




薬効④へ
2013_03
20
(Wed)21:00

薬効④

長々とお付き合いいただきありがとうございました。

これでお終いです。きっと。(おい)



【設定・臨時花嫁・原作沿い】



《薬効④》



自室の寝台に夕鈴をそっと寝かせ、黎翔は待機していた老師に夕鈴を診せた。

「・・・・わしが肩掛けを取りに行っている間に、こんなことに・・・」

あの時、老師は部屋を去ったのではなく、珍しく胸の開いた衣装を着ている夕鈴のために、肩掛けを取りに隣室へ行ったのだ。

ぼうっとしていた夕鈴は、それを勘違いし、ふらふらと廊下へでた。

「・・・・わしがもう少し注意を払っておれば、こんなことには・・・」

老師は歯噛みをしながら、夕鈴の脈をとり、閉じられた下瞼の血色を確認し、体の傷の有無を調べた。

そして、一通りの診察が終わると、侍女に湯を持ってこさせ、妃の体を拭うように命じる。

しばらくして、命じられたように仕度をした侍女達が部屋に入ってくると、黎翔が声を掛けた。

「・・・あとは私がやる。おまえ達は下がれ。」

侍女たちは無言のまま拱手し、下がる。

「陛下。お手ずからそのようなことをせずとも・・・」

咎めるような老師の口調に、黎翔は無言を通し。

異常を感じた老師は、黙って廊下へと下がっていった。



広い王の寝台に、赤い顔で横たわる夕鈴を、黎翔は心配そうに見つめた。

「・・・今から、君に触るけど・・・いやだったら、言って?」

意識のない夕鈴にそっと囁き、黎翔はそうっと夕鈴の帯を解き、衣装を剥いでいった・・・




_______陛下、陛下。

やっと陛下を探し当て、しがみつく。

(・・・どうしたの?夕鈴)

よかった!陛下ですね!

(・・・・・・)

怖い夢を見たんです。知らない男の人が、私に覆いかぶさってきて・・・気持ちが悪くてやめて欲しいのに、暴れても全然だめで・・・

(・・・・・)

でも、夢ですよね、よかった。

(・・・くくくっ・・・・)

え?

(・・・くくくっ・・・・夢じゃ、ねえよ・・・)

恐る恐る顔を上げると、そこにあったのは_____黒い、男の顔。

男は哂い声を上げながら、私の体を撫で回す______

____っ!いやっ!!やめてっ!!


「たすけっ・・・・!へいか・・・!」

黎翔が体を清め始めると、すぐに夕鈴がうなされ始めた。

予想通りの反応に、黎翔は歯を食い縛って怒りを堪える。

震える手で、夕鈴の汗を拭い、必死に「小犬」の声を出す。

「・・・大丈夫、僕だよ、夕鈴。黎翔、だよ。」

・・・・拭ってしまえたらよいのに。君の忌まわしい記憶も。

自分の無力さに歯噛みしながら、黎翔は必死に囁き続けた。

「夕鈴、夕鈴。大丈夫だから。僕だよ、黎翔だよ・・・目を覚まして・・・」

うなされ続ける夕鈴の目から、涙が伝う。

泣きながら自分を呼ぶ夕鈴を抱きしめて、黎翔は必死に呼びかけ続けた。


_______しばらくして。

あまりに室内が静なのに気付き、控えめに声を掛けて寝室を覗いた老師が見たものは。

安らいだ表情で、王の胸に頬を寄せて眠る妃と。

自分の胸にしっかりと妃を抱きしめ、目じりに光るものを滲ませながら眠る黎翔の姿。

一瞬、絶句した老師だったが。

次の瞬間には、柔和な老人の笑みを浮かべ、そうっと退室したのだった。



_________翌朝。

王宮、政務室。

「おはようございます、陛下。今日のご予定はこの様になっておりまして・・・」

李順はいつも通り、本日の予定をずらずらと並べ立て始めた。

「・・・・・げほっ・・・・」

頭上から聞こえた、不穏な咳払いに、李順の眉がぴくりと上がる。

「・・・ごほっ・・・・りじゅん・・・・」

「陛下・・・・・」

少し目を潤ませ、頬を染め、掠れた声の黎翔は、決まり悪そうに窓の外に視線を移す。

そんな主を恨めしげに見やり、李順はボソッと呟いた。

「今回の老師特製の薬湯は、それはそれは苦いそうです・・・・が。夕鈴殿が飲まれるんですから、陛下も当然召し上がられますよね・・・?」

「げっ!」

逃げ出そうとする黎翔を、李順の目配せで浩大が捕獲した。

「ほらほら、陛下。手負いの俺に捕まるくらい弱ってるんだからさー。おとなしく薬、飲も?」

「・・・・元気だな、浩大。」

「李順さんの手当てがよかったからさー。」

カラカラと笑う浩大。

額に青筋を浮かべ、微笑む李順。

「・・・・薬効は証明済みだし、大人しく飲むとするか・・・・」

夕鈴に口移しで飲ませてもらおう、などと物騒なことを考えながら、黎翔は大人しく自室へ向ったのだった。



☆おしまい♪
2013_03
21
(Thu)08:53

薬効・夕鈴

「薬効」の、陛下の寝室で何があったのか、を書き足してみました。

すこーし、大人の香りがしますので、苦手な方はご無理なさいませんよう・・・。



【設定・臨時花嫁】

《薬効・夕鈴》

部屋から下がる前に、老師は黎翔に夕鈴の容態を説明した。

「・・・高熱を伴う風邪、には違いないのですが・・・お妃様に差し上げた薬湯。あれには、眠りを誘う成分が多く入っております。発汗を促し、熱を下げる効能の、副作用と申しましょうか。常ならば何の問題もなく、安らかな眠りをもたらすだけ、ですがの・・・此度は・・・」

老師は皆まで語らず、黎翔を見上げる。

「______わかった。」

察した黎翔は、人払いを徹底するよう命じ、寝室へ向う。



_________いやぁぁぁっ!!陛下たすけてっ!!

水に漬かっているときみたいに、重くて動かない手足。

(・・・くくくっ・・・・狼陛下の、唯一の妃、か・・・・)

_________やめてっ!!陛下、陛下!!!

(・・・大人しくしないと・・・)

知らない男の遠慮のない手。

這い回る唇。

「い、やぁぁぁぁぁぁっ!!!!助けて!!!へいかぁぁぁっ!!!」

私は、叫ぶ。




夕鈴の全身を、汗が濡らす。

清めるたび、君から上がる悲鳴とこぼれる涙が僕を苛む。

「夕鈴!目を開けて!大丈夫だから、僕だよ、黎翔だよ!!」

奥歯をかみ締め、君を抱きしめるが、目は覚めない。

「・・・・う・・・・いやぁ・・・たすけっ・・・へいかぁっ・・・!」

何度目かの君の悲鳴に、僕は耐え切れず。

気付けば、君の唇を塞いでいた。


・・・・息ができない。

何か温かくて甘いもので口が塞がれる。

「・・・・ん・・・・ん・・・」

苦しいのに、甘くて。

・・・・・これは、なに?

ゆっくりと、夕鈴は目を開けた。



君の悲痛な叫びに耐え切れず、唇を塞いだ。

______目覚めて。僕を見て。

そんな思いで塞いだはずだったのに。

熱で熱くなった、夕鈴の口内は、想像以上に甘くて。

かわいらしい、熱い蕩けるような・・・・

_______これも、老師の薬湯の「薬効」か?

ちらりとそんな考えが頭をかすめた時。

・・・君がうっすらと目を開けてくれた。




ちゅっ、と小さく音を立てて、黎翔は夕鈴の上唇に吸い付き、少し離れて目を覗き込んだ。

「おはよう、夕鈴。」

「・・・・陛下・・・っ!」

夕鈴はぎゅうっと陛下に抱きつき、嗚咽を漏らす。

「こわっ、こわかった・・・・!!・・・・きもちわるく、て、い、いやって、言ってもやめてくれなくって・・・・っ!」

熱にうかされ、まだ夢と現の境にいるような夕鈴は、赤子のように泣きじゃくり、黎翔の衣装を握り締め、訴えた。

そんな彼女を優しく包み、黎翔は苦しげな声で「大丈夫」を繰り返し。

「・・・・もう大丈夫、大丈夫だから。あの男が触れたところは、全部僕がきれいにしたから・・・」

「・・・手、も?」

「うん。」

「足、も?」

「うん。」

「・・・く、首も?」

「・・・・うん。」

「・・・・・」

黙り込んでしまった夕鈴に、黎翔はことさら優しく告げる。

「・・・大丈夫。腕も脚も、首筋も・・・・・それから、ここも。全部きれいだから。」

そっと夕鈴の胸に手を差し入れ、黎翔は囁き。

夕鈴は、安心したように頷くと、そのまま安らかな眠りに落ちていった_____



あとに残された、黎翔は。

「・・・・ゆーりん、寝ちゃったの?」

少し残念そうに呟き、愛しい兎を抱き寄せる。


「ごめんね、怖い目にあわせて。・・・僕、もっと強くなるから。本当に、ごめん。」

ついさっきまで夕鈴が囚われていた悪夢を想う。

自分が彼女を手放しさえすれば、味わうことのなかった苦痛を想う。

奥歯をかみ締めた黎翔の目から、つぅっと涙が伝い。

「・・・・ごめん。夕鈴。絶対、守るから。そばにいて?」


______深い眠りに落ちている夕鈴が、かすかに微笑んだように見えた。
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(Thu)11:16

薬効・浩大&李順

【ご注意! 陛下と夕鈴は出てきません!浩大と李順さんがメインです!】


《薬効・浩大&李順》


_______まずい。

そう気付いたときには、すでに遅い。

それくらいはわかっていたつもりだったのに、やっぱり最初に口から出た言葉は、

「まずい」

その一言だった。








調子が悪そうなお妃ちゃんが、じいちゃんの部屋からふらふらと出てきて、俺はすぐに駆け寄ろうとした。

でも、俺より早く、お妃ちゃんに襲い掛かる「お客さん」がいて。

三人のうち、二人はすぐに方がついた。

「普通」の腕だったから。

だが、残る一人が放つ気は尋常じゃなかった。

気合を入れて放った鞭が、ヤツの足首を捕らえた________はずだったのに。

一瞬で間合いに入ってきた刺客の刀が、俺の右肩を掠めた。

「ちっ!」

熱い痛みと、ぴりっとした刺激。

_________毒か。・・・なら、動けなくなる前に__________

くるっと体を入れ替え、ヤツの胴に鞭を巻きつけて、捕縛する。

そのまま地面に押し倒し、押さえつけるはずが、逆を取られ。

「っぐっ!!」

捕縛することにこだわったのが俺の失策。

さっき切られたのと同じ場所を、今度は小刀で貫かれた。

肩から小刀を引き抜き、すぐさま体を起こした俺が見たのは、お妃ちゃんを横抱きに抱えて、後宮の奥へ駆け込む、刺客の姿だった______


「______まずい。」

俺はじいちゃんの部屋に駆け込み、「お妃ちゃんが攫われた!」とじいちゃんに告げると、そのまま天井裏から王宮を目指した。

後宮管理人の部屋は、いくつもの隠し通路の中継点になっている。

俺がやられるほどの腕を持つ刺客だ。

隠れ場所を見つけ次第、すぐにでもお妃ちゃんの命を絶つだろう。

こちらにとっての幸いは、襲撃場所がじいちゃんの部屋付近だったこと。

ヤツが迷路のような後宮の回廊に、手間取っていることを願いつつ、俺は政務室の窓を激しく鳴らした。


人払いするまでのわずかな時間も無駄には出来ない。

傷を確認すると、血が止まりかけていた。

毒を出さなきゃな・・・・。

自分で自分の傷を抉り、どす黒い血を絞り出す。

____あー・・・思ったより血が流れちまった・・・

陛下に報告しながら、俺の意識は遠のいた。






陛下の従える隠密の中でも、もっとも優秀な者の一人。浩大。

その浩大が後れを取るほどの刺客、ですか・・・・。

旋風のように部屋を出て行った陛下が残した一言。

「浩大の手当てを急げ」

・・・・驚きを禁じえませんね。陛下が道具に気遣いを見せるなど。


さて、傷を見せてもらいましょう。

少し手荒いかもしれませんが、処置には自信がありますからね。


李順が浩大の上半身の衣装を脱がせ、毒を洗い流し、傷口を縫い始めた頃、老師が飛び込んできた。

「眼鏡っ!陛下は!」

「もう夕鈴殿救出に向われました。」

「・・・・間に合えばよいが・・・。こっちの様子はどうじゃ。」

「失血による意識障害、ですね。脈は安定してますから、毒はあらかた流れ出たようです。」

「よし。処置はバッチリじゃの。・・・では、目を覚まさせるとするか。」

老師は懐から小瓶と手拭を取り出した。

李順は嫌そうに老師を見ながら呟く。

「・・・・口移しで薬をのませろ、とかおっしゃいませんよね・・・?」

ぎっ!と振り向いた老師は、大声で怒鳴った。

「当たり前じゃ!わしだって願い下げじゃ!!」

老師は小瓶から垂らした液体を手拭に染み込ませると、浩大の鼻先に持っていった・・・。


ほんの少しの間をおき、浩大の目が開く。

「・・・・あ、寝てた?」

にやりと笑い、起き上がった浩大の様子に、老師は呆れたように言う。

「寝てた、どころではないぞ・・・?ほれ、掃除娘はどこに連れて行かれた?」

「陛下がお一人で向われました。浩大殿も、気がつかれましたなら、すぐに向ってください。」

容赦なく李順が告げる。

「言われなくても!!」

今の今まで、青ざめた顔で横たわっていた怪我人とは思えぬ動きで、浩大は走り出した。


その後姿を見送りつつ、李順は老師に質問する。

「・・・あの嗅ぎ薬、いったいなんなのですか・・・?」

「・・・・拷問で気を失ったものを強引に覚醒させるものでの・・・ちと、作り方は教えられん。」

胡散臭そうな視線を老師に投げかけ、李順は部屋の後始末に向うのだった。



☆結局、浩大に気遣いを見せたのは、陛下一人だけでした・・・。大ちゃん、かわいそう。