2013_03
22
(Fri)19:49

慶事・上

SNSでの我が家にて、10000Hitを踏んでくださった、U様に。


【設定・未来夫婦・お子さまなし】

*ご注意!李順さんがメインです。オリキャラの奥様でます。

苦手な方は、どうぞご無理をなさらないようお願いしますね。



《慶事・上》


「それではお兄様、いってらっしゃいませ。」

今年無事に式を挙げたばかりの李順は、今朝も大切な妻に見送られて出仕する。

それは毎日の習慣で、傍からみればどうということのない日常風景なのだが。

今朝の李順は、なかなか出仕の足を踏み出せずにいた。

芙蓉に背を向け、出仕しようと足を踏み出しかけたまま、固まる李順。

その顔は心痛に青ざめており。

「・・・・芙蓉。一人で大丈夫ですか?」

耐え切れず振り向いて、李順は妻の肩をしっかり掴んだ。









李順の妻、芙蓉は今、臨月を迎えている。

式を挙げてすぐに、芙蓉は身ごもったのだ。

それを知った夕鈴は手放しで喜び、芙蓉とともに数々の赤子用の品々を準備するのに余念がなく。

黎翔もにやりと笑いながら祝福し、さりげなく気を使って、李順を早く屋敷に帰してくれる。

老師にいたっては、「何という早業じゃ!その技を陛下にご伝授申し上げろ!!」などと、訳の分からぬことを言う始末。

皆が皆、李順と芙蓉の慶事を喜び、何の心配もない_____ように見えた。

ただ一人、李順を除いては。



芙蓉は李順にとって、掌中の玉のごとく大切な者である。

芙蓉がまだ少女の頃から、自分が愛しんで手塩に掛けて育ててきた、大切な、玉。

自分が持てる知識のすべてを与え、考えうる最高の女性になれるよう、大切に育ててきた。

その芙蓉が、自分がどうしても伺い知ることの出来ぬ『妊娠・出産』という大事業に、一人で挑まねばならないとは!!

李順は、芙蓉が身ごもった直後から、人知れず懊悩していたのだった・・・・・。




「芙蓉。」

「はい?」

李順は妻の肩を掴んだまま、真剣な表情だ。

「宜しいですね?絶対に、一人きりにはならないこと。何か少しでも異変を感じたら、躊躇わず、医師と産婆をお呼びしなさい。・・・ああ、それともこちらに医師を常駐させましょうか・・・」

いつも冷静な李順には珍しく、あわてた様子で考えを巡らす。

そんな夫を嬉しげに見やり、芙蓉はそっと手を夫の頬に当てた。

「大丈夫です・・・旦那様。旦那様のお子を、大切にお守りしておりますから、どうぞお心置きなくご出仕下さいませ・・・・ね?」

いつも通りの笑顔を見せる芙蓉に、李順はようやく安堵の表情を浮かべ、

そして、そっと芙蓉の大きくなった腹を撫で_______馬車に乗り込んだ。







王宮。政務室。


「________おはようございます、李順殿。」

「今日の陛下の御予定ですが______」

「正午から軍の視察と_______

「午前に終わるはずの大広間での謁見が_____」


今朝も様々な案件が、李順に飛び込んでくる。

李順は眼鏡をきちんとかけなおして、すっと顔を上げ。

いつも通り、てきぱきと迅速に処理を始めた。



今日の午前中の予定は、王宮大広間での謁見である。

相手は、東西南北及び中央、それぞれの軍の将軍。

普段は文官が主たる王宮の大広間が、今日は異様に物々しい空気に包まれている。

そんな、将軍達が醸し出す空気を圧倒するほどの威圧感ともに、「狼陛下」が現れ・・・。

_______半年に一度の、全将軍謁見が始まった。


東西南北及び中央の将軍達は、この謁見で、各々の功績を称えあい、そして、張り合う。

より多くの軍備や兵糧を割り当ててもらうためには、この謁見でいかに自軍の優秀さを印象付けるかが重要であり、勢い、普段の王宮にはない、荒々しい空気が醸し出される。


(・・・・この程度で怯えているようでは、まだまだ・・・・)

謁見場で青ざめている官吏達を、李順は冷静に検分する。

(陛下の威嚇はこんなものではありませんからね・・・・政務室付きに出来るほどの胆力がありそうなものは・・・・ああ、やはり、あの方くらいでしょうかね・・・)

李順の視線が、色素の薄い髪色を持つ、まだ若い官吏_____青慎に向けられる。

(やはり、来期から、青慎殿には政務室付きをお願いしましょう。)

ひっそりと李順がそんなことを考えていると、黎翔付きの侍官が一人、李順にそっと文を二通渡しながら、耳打ちしてきた。

「お取り込み中、申し訳ございません、李順様。こちらは奥方様からのお文でございます。そして、こちらのもう一通は、李家がお使いの医者よりのもので・・・」

聞くが早いか、李順はその場で文を引ったくり。
慌てて陛下に一礼すると、場を離れた。



(・・・嫌な予感がしていたんです・・・)

芙蓉からの文を読みながら、李順は後悔していた。

「ようやく、旦那様のお子の顔を見る日がやってまいりました。私、頑張りますから。旦那様も、どうか陛下や正妃様の御為に、しっかりとお勤め下さい。」

そして、医師からの文には。

「奥方様は、難産になるやもしれません。お子の向きに少々不都合がございます。産婆と共に最善を尽くしておりますが・・・。万一、危うい場合、お子をお救いするか、奥方様をお救いするか。今のうちにお考えをお決め下さい。」

と、あった。



「慶事 下」へ

2013_03
22
(Fri)19:50

慶事・下

【設定・未来夫婦・お子さまなし】

*ご注意!李順さんがメインです。オリキャラの奥様でます。

苦手な方は、どうぞご無理をなさらないようお願いしますね。



《慶事・下》



「_______李順・・・李順!!」

黎翔の厳しい声音に、李順は一瞬飛んでいた意識を引き戻された。

「申し訳ございません。続きを・・・・」

李順は、居並ぶ将軍達に向き直り、各軍の実績と功労者を読み上げ始めた・・・・



二刻後。

ようやく将軍達との謁見が終了し、黎翔は自室へ引き上げ、李順もそれに続く。

ばさっと謁見用の上着を長椅子に放り投げ、黎翔は小犬の表情で李順に話しかけた。

「あー、疲れたね、李順。肩が凝るよねー。将軍達と話すのってさ。」

「・・・・」

「まぁ、大臣達と話すのよりかは、少しはましだけどさー。あ、そうだ。西の将軍が帰っちゃう前に、手合わせしてもらいたいなー。ねえ、李順、いいかな?」

「・・・・」

「ねえ、李順・・・・李順ってば!!きいてるの?」

じっと床を見つめたまま凝固している李順に、黎翔はようやく異変を悟る。

「______何があった?」

真面目な声で問うと、李順がゆっくりと顔を上げ、問いかけた・・・・

「・・・陛下。陛下なら、どちらを選ばれますか・・・・我が子と、妻と。」

「?!」

一瞬で状況を悟った黎翔は、すぐに、王宮の医官とともに李順を帰邸させ。

自分は即刻夕鈴とともに王宮を抜け出し、李家へと向った。







「陛下!ほら急いで!!」

「ちょっと、夕鈴待って!早すぎ!!」

夕鈴は、勝手知ったる下町の裏通りをするすると走り、李家を目指す。

一方の黎翔は、「え?!これって道なの?!」と、戸惑いながら夕鈴の後姿を必死に追う。

(・・・・・ああ、これじゃぁ、夕鈴が本気で家出したら僕の手にはおえないかも・・・)

この場に相応しくないことを考えながら。




一方、その頃、李順は。

「_______芙蓉っ!!!」

妻の産室に入ろうとして、几鍔に羽交い絞めにされていた。

「男のアンタが入っていっても、何の役にも立たねぇんだよ!おとなしくしてろ!!」

几鍔の一喝に、膝から力が抜けた李順は、その場にへたり込んだ。

「・・・・アイツからの頼みで、王都で一番腕のいい産婆を連れてきてやったんだ。大丈夫だ。落ち着け。」

「・・・・だいじょう、ぶ、なのですか・・・?」

茫然自失した李順が呟く。

ふぅっと息をつき、几鍔が明るく答えた。

「ああ!大丈夫なんだよ!!赤子の位置も、ちゃんと戻った。もうすぐ無事に産まれるから・・・・」

几鍔は最後まで言いきる前に________李順にがばりと抱きつかれた。

「ありがとうございます!!!」

「うわぁぁぁっ!やめろ!!」

なんとも異様な光景が繰り広げられる中。


「おぎゃぁぁぁっ~!」

と、元気な産声が李家に響き渡った________




「うわぁ~、本当に、玉のような赤ちゃんですね、芙蓉さん!ふふっ、青慎を思い出すわ。」

慣れた手つきで赤子を抱く夕鈴に、芙蓉はしきりに恐縮していた。

「・・・正妃様に抱いていただくなんて、この子は幸せものですわ。」

にっこりと笑みを浮かべる芙蓉の頬には、さすがに疲労の色が濃い。

夕鈴はそうっと赤子を芙蓉の傍らに寝かせると、

「それでは、私が今からとっておきのお料理をお作りしますからね!芙蓉さんが一日も早く回復されるように、産婆さんから色々伺ったんです。楽しみにしていて下さいね!!」

腕まくりをして、意気揚々と厨房へと姿を消した・・・・




「芙蓉・・・・」

そっと芙蓉の傍らに、李順が立つ。

「・・・私、頑張りましたわ。お兄様。」

「ええ、本当に。本当によくやりました・・・ありがとう、芙蓉。」

「・・・・ありがとうございます。お兄様。」

「え?」

「私、幸せですわ。お兄様に大切にして頂いて。この子まで授かることができて。」

「_______芙蓉。」

穏やかに、幸せそうに微笑みあう二人の間で、ふにゃふにゃと赤子が泣き声をあげた・・・・。




その頃、李家厨房では。

「ほらっ!几鍔!!ちゃんとかき混ぜてよ、焦げちゃう!!・・・・ちっがーう!!潰さないように、なべ底から優しく・・・・ああっ!そうじゃない!!」

「・・・・へいへい、うるせーな・・・あいかわらず・・・正妃様が・・・」

「なんか言った?!」

「いーや、なーんにも。」



「陛下っ!そんなに細かく刻まないで下さい!!ああっ!お魚はもっと優しく丁寧に・・・!・・・・もう、いいです。私がやります・・・・」

「ええっ?!そんな事言わないで、何か手伝わせて?!お願いだから、夕鈴!!」

「・・・わかりました。では、こちらの林檎の皮を剥いてください・・・」

「うんっ!10個くらい?」

「そんなに食べられません!!」



賑々しくも騒々しい調理風景が繰り広げられていたのだった_______