2013_07
02
(Tue)13:35

ものやおもふと 1

「ものやおもふと」「ものやおもふと 続」

こちらを、羽梨さまに。

捧げます。


【設定・臨時花嫁】
【バイト終了を妄想してみました】
【オリキャラでます(まだ先の話しですが)】


《ものやおもふと 1》




もう、夏。

短期の住み込みアルバイト。

そう言われて応募したのは、春もまだ浅い頃。


ぎらぎらと照りつける太陽。

むせ返るような熱気。

後宮独特の白い石畳が、目を射るように、陽射しを照り返し。



__________ここは、おまえの居場所じゃ、ない。



そう言っている様に、見えて。



私は、決めた。


______心、を。









「・・・・お邪魔致します、李順様。」


その日の早朝。

李順の自室を訪ねたのは、妃付きの、控えめで美しい、女官。


・・・ああ、いつか酌をしてくれた・・・・


思い出した李順は、にっこりと微笑み。


「邪魔ではありませんよ?ご用件を。」


怯えさせぬよう、柔らかく尋ねる。


その笑顔に安心したのか、ふわりと笑った女官は。


「・・・・お妃様が、折り入ってご相談があると仰られております。」


優雅に礼をとり、音もなく、静かに退室していく。






夕鈴から李順に話しがあるときは、自ら李順のもとに赴くのが常だ。。

なのに、今回は・・・・

やけに、改まっている。


「__________夕鈴殿。」


王宮独特の、熱気を伴った纏わりつくような空気に。


李順は、季節が変った事を、感じ。


「・・・そうですね。短期、と呼ぶには、少々・・・・」


寂しげな微笑を、浮かべた。









夜が明けきらぬうちに、目覚め。

黎翔は、剣を振るう。


「・・・・・ふっ!」


暁闇に銀光が舞い。

少し長い前髪から、汗が飛び散る。


いつもの、鍛錬の時間。


早くも白み始めた空を見つめた、黎翔は。


「・・・・・もう、夏か。」


季節が変った事を、悟り。


昨年の夏、自分が何をしていたのかを、思い出す。


「うーん・・・・・自分でも、余裕ないなー、って思うくらい、仕事漬けだったよなぁ・・・。」


離宮に出向く事も出来ぬほどの急務と、魑魅魍魎の跋扈する、王宮。


「あの頃に比べたら・・・・今は穏やかなものだな。」


___________夕鈴も、いるし。


まだ眠っているであろう、愛しい妃の姿を脳裏に描き。


黎翔は、汗を流すために、湯殿へ向った。





この日が『最後』だとは、思いもせずに。



ものやおもふと 2へ
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2013_07
02
(Tue)17:41

ものやおもふと 2

【設定・臨時花嫁】
【バイト終了を妄想してみました】
【オリキャラでます(まだ先の話しですが)】



《ものやおもふと 2》




柔らかい、絹の靴も。

ぴかぴかに磨かれた、指先も。





「_________『期間』の、件ですね?」




もう、おしまい。





ちりん、と鳴る耳飾も。

ふわり、と風に乗る衣装も。




「__________もう、殆ど残っていません。」




やっぱり、もう、おしまい。




「お世話に、なりました。」




これで、おしまい。


この恋も、おしまい。


自分で決めたから、大丈夫。


この想いを消さずに、生きていける。


この想いが・・・・私の中で、いつまでも生き続けるように。


綺麗な思い出が、悲しい色に染まる前に。


自分で決めたんだもの。


__________きっと、大丈夫。





「宜しいのですか?」


「はい。・・・・私は、『ここ』に相応しくありませんから。」




精一杯の笑顔を、浮かべた。






「・・・・私は、『ここ』にふさわしくありませんから。」




その言葉が、これほど胸に刺さろうとは。




何事にも動じず、いついかなるときも、冷静。


その自負だけは、あったのに。


手塩にかけた、陛下のための『花』が。


自ら、去ろうとしている。


その事実が、これほどに胸に刺さろうとは。


_____________計算外、です。




泣き笑いを浮かべる、仮の妃を。


自分がどんな表情で見つめていたのか。


李順は、知らない。











「お妃様っ!」

「お妃様?!」



『今日で、ここを、去ります。』


そう告げた私に、侍女さんたちが取りすがって、泣いてくれる。


でも。


「・・・もうじき、『ここ』にお出でになる、本来ここにいらっしゃるべき方の、ために。」


「・・・・っ!」


「私にしてくれたように、心を込めて・・・・お仕え申し上げて、下さいね?」


「いやです!」

「お妃様っ!私共も、お連れ下さいませ!!」


__________下町、へ?


思わず苦笑してしまった私を見つめる侍女さんたちに、お別れを、言う。


「本当に、ありがとうございました。________忘れません。」


心を込めて、手を握り。


夕鈴は、廊下で跪拝して自分を待つ李順のもとへ、向った。






「___________夕鈴殿。」


ガタゴトと揺れる馬車の中で、李順はようやく口を開いた。


「貴女さえ、宜しければ・・・・このまま陛下の為に後宮に残る道も・・・・」


夕鈴の答えは分かっているのに、李順は問わずにはいられなかった。


「ふふっ。李順さんらしくありませんね。」


・・・ああ、やはり。そう来ましたか・・・


「私は『偽者』です。何も持たない、ただの下町の、『汀夕鈴』です。・・・陛下のためには、なりません。」


潔いほどの笑顔を浮かべる、夕鈴に。


李順は、ぎゅっ、と、唇を噛む。


「____________貴女がいなくなれば、陛下は探されるでしょう。それこそ、草の根を掻き分けて。」


「・・・・・そんな、ことは。」


「いえ。探されます。必ず。」


「李順さん・・・・・」


「ですから、夕鈴殿。」


「・・・・は、い。」


「もし、陛下の目の届かぬところへ行く覚悟がおありなら・・・・ご案内、致しましょう。」


__________そうだ。


この娘は、ただの娘では、ない。

陛下のお心を捕らえた、稀有な女性。

・・・もし、もしも。

夕鈴殿が誰かの手に落ちたら、陛下は全てを捨てるかもしれない。

彼女を盾にとられたとしたら・・・・陛下は、どうなさるか。

夕鈴殿のお命を、ご自分の命より優先なさるかも、しれない。



_________長くお側に置き過ぎた。



自嘲気味に、笑い。


_________申し訳ございません、夕鈴殿。


李順は、覚悟を決めた。



ものやおほふと 3 へ

 
2013_07
02
(Tue)22:44

ものやおもふと 3

このお話し。

実は、「喪失」とすこーし被っております。


「喪失」はこちら


少し、違いますが。



【設定・臨時花嫁】
【バイト終了を妄想してみました】
【オリキャラでます(まだ先の話しですが)】



《ものやおもふと 3》





ゆう、りん?


眩しいほどの陽の光に照らされた、夕鈴の部屋。


片付けられた、室内。

空の花瓶。

一通の、手紙。


『どこにいても、味方です。たくさんの素敵な思い出を、ありがとうございました。』


___________え?


『陛下、大好きです。怖い陛下も、優しい陛下も、ずっと、大好きでした。忘れません。』


__________なんだ、これは?


『さようなら』


真っ白い室内が、暗闇に変り。


全身から冷たい汗が噴出す。



気がついたら、走りだしていた。



どこだ。

どこにいる?



立ち入り禁止区域。

老師の庵。

李順の部屋。

下町。

実家。

飯店。

学問所。

几商店。


どこだ?

夕鈴。



_____________どこにいる?



夕日に染まり、立ち尽くす僕の影が、長く伸び。


我に返る。



___________そうだ。



李順。



あいつは、どこだ。


黎翔の瞳が、紅い光を帯びた。


獰猛なほど、鮮やかに。










「_________お帰りなさいませ、陛下。」


ここで譲ってはならない。


そう自分に言い聞かせ、李順は腹に力を込めて、殺気を隠そうともしない主に相対する。


「・・・・ほう。逃げぬとは、感心だ。」


くくっ、と哂う黎翔からは、危ういほどの殺気が漂い。


「・・・・っ!へーか!!まずいって!!」


様子を伺っていた浩大が、窓から飛び込んで来る。


「________なんだ、浩大。お前も死にたいか?」


にやりと笑う黎翔は、もう、限界を迎えていて。


「なあ・・・・李順?」


音も立てずに、剣を抜き。

ちりっ、と、赤い線が、李順の白い喉に引かれる。


「ちょ、陛下っ!李順さんを殺す気?!」


浩大が本気で顔色を失う。


「・・・・・我が妃を、どこに隠した?」


黎翔は、妖しいほどに美しい笑みを浮かべ。


「言わねば・・・・壊すぞ?」


李順の首もとから刃を収め。

そのまま、それを、自分に当てる。


「っ!陛下っ!!!」

「浩大!お止めしなさい!!」


李順と浩大が、叫ぶ。


「______________言わぬ、のか・・・・」


すっ、と刃が引かれ。

黎翔の首から、血が伝う。


「っ!お待ち下さい、陛下っ!!」

「言うか?」



黎翔の瞳は、静かに澄んでいて。




_______本気だ。


陛下は、本気で『壊そう』としている。



浩大の背に、嫌な汗が伝う。



「・・・・そのようなお姿を、夕鈴殿がご覧になったら・・・どう思われるか。」


握り締めた手を、そうっと開き。

ゆっくりと、李順が黎翔に近づく。

指先で、浩大に指示を出しながら。


「陛下。・・・もう、限界、だったのですよ。お分かりでしょう?」


「だまれ。」


「いつまでも終わらぬ借金。いつまでも懐妊せぬ『寵妃』。『短期』のはずの、バイト。」


「うるさい。」


「本当は、もうお分かりでしょう?陛下。________もう、臨時花嫁は・・・」


李順の身体が作り出した死角に、浩大はじりじりと身を移し。

努めてゆっくりと話す李順に、黎翔の気が向けられた、一瞬の隙をつき。


キンッ


硬質な音をたて、浩大の放った鞭の穂先が、黎翔の刀を弾き飛ばした。


と、同時に。


ダンッ、と大きな音を立て、李順が黎翔を押し倒し、押さえ込み。

早くも小刀を握っていた黎翔の右手を、浩大が捕らえる。



「____________ねえ、李順。」



くったりと脱力し、頬を床にぺたりとつけ。


「僕・・・・どうしたら、いいのかなぁ・・・・」


呆然と、視線を宙に彷徨わす黎翔を、李順は荒い息のまま、見下ろし。


「・・・・・・成すべき、ことを。成さねばなりません。陛下。」


苦渋に満ちた表情で、呟いた。




2013_07
03
(Wed)09:36

ものやおもふと 4

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《ものやおもふと 4》




「おはようございます、陛下。」


「________ああ。」


「今日の政務のご予定を申し上げます・・・・」



後宮から唯一の妃が消えて、二ヶ月。


その不在に、王宮も後宮も、徐々に慣れつつあった。


黎翔は、常と変らず政務に励み、官吏たちも、李順も、女官達も、粛々と業務を進め、日を送る。



一見、以前と変らぬ、平穏な日々。



だが。



「・・・じいちゃん。」


火の消えたような後宮で、浩大はぽつりと呟く。


「なんじゃ、小僧。」


「あのさ・・・・陛下のことなんだけど。」




お妃ちゃんが消えてから、陛下が、笑わない。



もともと笑顔の少ない人だったけどさ。

くすりとも、にやりとも、しないんだ。

いつも無表情で。

冷たい、凍えたような瞳でさ。


食事は摂るんだけど。

毒見とか、いい加減でさ。

この間は、毒入りの食事を平気な顔して口に運んで、あとで吐いてた。

脂汗流してるのに、やっぱり平気な顔して。

解毒薬を渡すと、何の薬か確かめもせず、飲み込んで。


_________へーか、それが毒だったらどうすんだよ?


軽口を叩いた俺を、目に映すこともしないで。

凍えた目のまま、震える手で書簡を開いて、署名を始めてさ。




なぁ、じいちゃん。



俺、思うんだけどさ。


このままじゃ。


へーか、壊れちまうんじゃねえの?




張元は、青ざめた顔で、浩大を見つめ。

浩大は、強く光る目で、張元を見つめる。



しばしの沈黙の、後。



浩大は、姿を消した。
 

王宮からも、後宮からも。


王都、からも。




ものやおもふと5 へ
2013_07
03
(Wed)12:10

ものやおもふと 5

オリキャラが出ます。

我ながらすごいオリキャラを作ってしまいました・・・。

ちょっと後悔してますが、もう引っ込みがつきません!!笑

オリキャラ苦手な方は、ご注意下さい。



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【オリキャラでます】



《ものやおもふと 5》





「お嬢様、どうかなさいまして?」


声をかけられ、夕鈴は我に返った。


「あ・・・玲華さん。ちょっと、ぼうっとしてしまって・・・。」


風に乗って届く、深い森の匂い。


________陛下の香りと、似ている。


そう思っていたとは言えず、少し頬を染めた夕鈴を。


玲華と呼ばれた女性は、慈愛に満ちた目で見つめ、冷たい茶を満たした杯を夕鈴に勧める。





この地に来て、もう2ヶ月。

李家の避暑地であるこの邸宅の主は、李玲華さん。

李順さんの遠縁に当たる方の、奥様で。

艶やかな栗色の、優雅に弧を描く髪と。

抜けるように白い肌。切れ長の上品な瞳。

まだお若いのに、私より少し年上のお嬢様がいらっしゃるらしい、玲華さん。

そのお嬢様は、ご親族のお屋敷に行儀見習いに行かれていて、ここ数年、お会いしていらっしゃらないらしく。

私のことを、娘同様に大切にして下さる。

息子さんも、いらっしゃったらしいの、だけれど。

「いた」と、過去形で仰られた玲華さんのお顔が、とても悲しそうだったから。

それ以上は、聞けなかった。



でも。


玲華さんは、本当に、お優しい。

いつも微笑を湛えていて、物腰も柔らかで。


____________李順さんが、私のことをどう説明したのかは、知らないけれど。



「李順からの頼み事など、かつてない事で、嬉しゅうございますのよ。」


細やかに気を使い、私が退屈せぬよう、あれこれと世話をして下さる。





「・・・・お嬢様は、なにかをお思いですのね。」


いけない。

またぼうっとしていた。


「・・・・差し出がましい事とは存じますが・・・・誰かに話すだけで、心が軽くなる事も、ございましてよ?」


玲華さんの優しい手が、私をそうっと包み込むように、抱き締めてくれる。



・・・・母さん、みたい。



そう思ってしまったら、もう止まらなくて。


あとからあとから、涙が溢れ出す。



「・・・・・大丈夫って、思ったの。」



________そう。


大丈夫、だって。

自分で決めたから、大丈夫。

そう、思ったの。

あの人の笑顔を、背中を、腕を、肩を、温もりを、香りを、声を。

胸に刻んだまま、生きていける。

そう、思ったの。


でも。


目が覚めると、待ってしまう。

『夕鈴、おはよう!』



あの、声を。



食事を見ると、思い出してしまう。

『夕鈴の作ったご飯、美味しいね。』



幸せそうな、笑顔を。



思い出してしまう。

『_____危ないっ!』

手摺が外れて落ちかけたときの、怒った陛下の顔を。




『君が私の妃だ』

あの切ない表情を。



温かい手。怖い顔。優しい顔。


そして。


______________柔らかな、唇の、感触。






ばか。


私の、ばか。


逃げちゃ、だめだったんだ。


どんなに苦しくても、どんなに場違いでも、辛くて寂しくて悲しくても。




「・・・・私、間違え、ました・・・・」



優しい貴方の、力になりたい。


そう思っていた、はずなのに。



「___________逃げちゃ、ダメ、だったんです。」





泣きじゃくる夕鈴の髪を、玲華は、そうっと撫で続けた。






深夜。


寝室の扉が、音もなく開き。

澄んだ夜気が、室内に流れ込む。



「・・・・みつけた。」


ほうっ、と息を吐き、寝台に近寄り。

そうっと、寝顔を伺と、そこには。


「・・・・ごめ・・・・へいか・・・ごめんなさい・・・」


涙を流して、うなされる夕鈴。



____________痩せた。


ズキン、と、胸が痛む。


____________なにやってんだよ、陛下。


怒りが湧く。


____________こんなになるまで、お妃ちゃんを追い詰めて。


無表情に毒を口に運ぶ黎翔の姿が脳裏に浮かぶ。


____________自分を、苛めて。



「くそっ。」


握り締めた手を、そっと開き。

壊れ物に触れるように、夕鈴の頬に手を当てる。


「・・・・なあ、お妃ちゃん。」


夜気に溶けるような、浩大の囁き。


「・・・・俺と、来てくれよ。」


懐から小さな薬瓶を取り出し、封を切り。

薬瓶を、夕鈴の口元に持っていこうとした、浩大の手を。

ぐっ、と誰かが掴んだ。


「っ!」


「・・・・夕鈴様に害をなす方を、見逃すわけには参りません。」


にっこりと優雅に、玲華が浩大を見下ろす。


「あの子に頼まれておりますもの。この方の身に万一の事があれば、私の面目が立ちませんわ。」


「・・・・おまえ、何者だ。」


掴まれた手は、ぴくりとも動かせない。

襟元に、針が当てられているのが分かる。


気配なんて、感じなかった。

夜気も乱れなかった。


「_________まさか、最初から」


「ええ、こちらにおりましてよ?お気づきになりませんでしたか?」


微笑を浮かべる玲華を、浩大は睨み付けた。




「・・・・え?こう、だい?」


枕元で交わされる物騒な会話に、夕鈴の目が開く。


「・・・申し訳ございません、お嬢様。起こしてしまいましたわね。」


いつも通り、にこやかな玲華。


「・・・・お妃ちゃん・・・この人、何とかしてよ・・・」


困り果てた顔の、浩大。




ものやおもふと 6へ
2013_07
03
(Wed)22:15

ものやおもふと 6

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《ものやおもふと 6》




優雅に微笑む、玲華。

困り顔の、浩大。


両者を見比べ、夕鈴は目を瞬かせる。


「・・・・え?・・・・え?」


「お嬢様、こちらの方は、お知り合いですの?」


くすっと笑う玲華に、夕鈴は頷く。


「は、はいっ!李順さんもよくご存知の、」


「浩大、ですわね?」


「っ!」


「・・・・俺を知ってんのか?」


「・・・・貴方こそ、私をお忘れ?」


「?!」


漸く浩大を開放した玲華が、明かりを灯し。


浩大は、まじまじと玲華を見つめる。


「__________っ!!・・・あんたは、李のっ」


「浩大。」


一瞬厳しい表情になった玲華が、目線で浩大の口を塞ぐ。


「・・・・ごめんなさい。大変失礼致しました。」


浩大は頭巾を取り。

玲華に深々と、頭を下げた。



そんな浩大を、悪戯っ子を見るような目で眺め。

玲華は深く息を吐き、夕鈴に向き直る。


「__________お嬢様。いえ。夕鈴様。」


「は、はいっ!」


「昨日、『間違えた』と仰せでしたわね?」


「・・・・は、い。」


「お聞かせ、願えますか?」


「・・・・ええ。」



夕鈴は、背筋を伸ばし、玲華と目を合わせ、口を開く。



「___________どれほど苦しくとも。どれほど、寂しくとも。悲しくとも。辛くとも。・・・・場違い、でも。」


「・・・・お妃ちゃ」


「力に、なりたい。」


「・・・・」


「私は、何も持たないけれど。」


「__________ゆうりん、さ」


「それを理由に、逃げちゃ、ダメ。」


「_________愛しいあの方の、力になりたい。」



夕鈴は、花が咲いたような笑みを浮かべ。


「私、もう、逃げません。」


浩大に、手を差し伸べる。


「・・・・連れて行って、浩大。陛下のところへ。」


「___________仰せのままに。」


跪拝した浩大は、にぱっと笑い。


玲華は、一通の手紙を、浩大に差し出した。


「さ、浩大。これを李順へ。・・・・整った、と。そう伝えなさい。」


「うん、わかった。・・・・・『お母様』。」

「お黙りなさい、浩大っ!!」


玲華の叱責を背に受けて、浩大は楽しげに笑い。


まだ暗い屋外に、飛び出していった。




ものやおもふと7 へ
2013_07
04
(Thu)08:32

ものやおもふと 7

ようやく、陛下が動きます。おそいよ!陛下!!


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《ものやおもふと 7》




目覚めたら、口を漱いで顔を洗い。

外に出て、鍛錬の型をこなし、湯殿へ行く。

朝餉を決められた量だけ摂り、朝議へ向い。

奏上を受け、大臣どもに仕事を振り分け。

政務室へ向い、日常業務をこなし。

山と積まれた書簡を捌き、案件を精査する。

昼餉を定量摂り、執務室へ向い。

懸念事項の検討や軍関係の事案を詰める。

廊下を歩いて、自室へ戻り。

夕餉を規定の分量、摂取する。





手足は反射的に刺客に対応し。


毒に慣れた身体は、容易には壊れず。




日々、粛々と、『成すべきこと』をこなす。




「・・・・頑丈なのも、考え物だな・・・・」



ぼそりと呟いた黎翔は、無表情な瞳で、卓に活けられた花を眺め。


一日の終わりに、そうっと花弁に口付ける。



「・・・・ただいま、夕鈴。」



『明日は、妃候補の女性と会って頂きます。主だった家々から立てられた、正妃及び妃候補の娘御たちです。お心に留まる者があれば_________』


宰相の言葉が甦る。


夕鈴以外を、娶れと。

そう言うのか。

これも、成すべき事、か?

王家の血筋の存続。



「・・・・成すべき事、か・・・・」



_______________このまま、目が覚めなければいいのに。



そう、願いながら。


黎翔は、花びらをそっと掌に包み込み、目を閉じた。







・・・ああ。

また、夢だ。



他愛のない睦言に染まる頬。

生き生きとした、瞳。


『陛下の敵が減らないでしょう?!』


どんな時も僕を思いやる、君。


『陛下。』

少し怒ったように僕を呼ぶ声。


『陛下?』

心配そうに、僕を覗き込む君。


『・・・・陛下!』

純真無垢な笑顔で僕に駆け寄ってくる、君。



『どこにいても、味方です。』

『さようなら』


いやだ。


『さようなら』


やめてくれ。




____________無様なことだな。『狼陛下』。


自分が自分を嘲り笑う。


うるさい。お前に何が分かる。


__________欲しかったんだろう?あの娘が。


違う。彼女は。


__________手折ればよかったものを。


逃がすのが、彼女のためだ。


__________臆病な・・・母の二の舞を恐れたか?


僕は、彼女を不幸にする。


__________手を出すのを躊躇って、逃がして・・・・このザマか?


・・・・っ。


__________欲しかった、のだろう?


・・・・・。


___________なあ。そうだろう?


・・・・・ああ。


___________閉じ込めて、手元に置いて。昼も、夜も。壊すほどに、抱きたい。と、思ったか?


・・・・・そう、思った。


__________なぜ、しなかった?


笑顔、を、見たかったから。


__________ほう。ようやくまともな返事ができるようになったか。


・・・・。


__________では、そろそろ・・・・決めろ。


・・・ああ。そうだな。




決めねば、ならない。

彼女なしで、生きるかどうか、を。



暁闇の中、黎翔は目を開き。


「・・・もう、答えは出ている。」


王宮を、抜け出した。









「ああ・・・・・まったく、どうして、このタイミングで正気に・・・・」


もぬけの殻の、黎翔の自室。


「・・・・まったく、本当に・・・あの方らしい・・・・」


脱ぎ散らかされた夜着。

整然と積まれた、処理済の書簡。

空の花瓶。


それらを見渡し、李順は懐から一通の書簡を取り出す。


「・・・・さて、と。忙しくなりますね。」


中身にざっと目を通し、間違いがないことを確認して、大切に懐へ戻し。


「老師に、会場の最終確認をお願いしなくては。」


足早に、後宮へと向った。




ものやおもふと8 へ
2013_07
04
(Thu)10:50

ものやおもふと 8

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《ものやおもふと 8》




夕鈴の足取りを、追う。


隠密を動員して、二月前に王都から城門外へ発した馬車を全て確認させる。

乗車人数と年齢、性別で絞り込ませる。

東西南北。どちらだ?



_________李家の北の別邸がある土地へ向った馬車に、目がとまる。




「・・・・簡単だな。」


迷いさえしなければ、すぐにでも探し当てられたものを。


「・・・・二ヶ月も、何をしていたんだ。私は。」


自分の馬鹿さ加減に、もう笑うことしか出来ず。


「くくくっ・・・・はははっ・・・・」


お腹を抱えて笑う黎翔を目撃した、隠密たちは。


顔を見合わせ。


互いに頬を抓りあった。











「________それでは、老師。宜しくお願いしますよ?」


「おお!あとはこの後宮管理人に任せよ!」


どん、と、胸を叩く老師は、この上なく張り切っており。


「ようやく、ようやく・・・・!」


嬉しげに呟きながら、次々と侍女たちに指示を飛ばし。


侍女たちも、慌しく動き始める。


嬉々として。







急に賑やかになった後宮を後にした李順は、廊下を早足で渡りながら、部下を呼ぶ。


「________陛下は。」


「お妃様の足取りを追われております。」


「首尾は?」


「今のところ、順調です。」


「・・・・あとは、浩大の報告待ち、ですね。」



今日も、暑くなりそうです。



李順は、北の空を見上げ。


笑みを深めた。












「・・・・玲華様。ご迷惑をおかけして、ごめんなさい。」


李家の紋が入った、華美ではないが上質で重厚な設えの馬車に揺られているのは、夕鈴と玲華。


「お気になさらないで下さいませ、夕鈴様。私も、久しぶりに娘に会いとうございますの。」


にこやかに笑む玲華は、いつもより華やいで見え。

その言葉が、口先だけのものではないと分かる。


「お嬢様にお会いするのは、何年ぶりですか?」


特にすることもない馬車の中。

おしゃべりに花が咲く。


「そうですわね・・・・もう、三年ほど会っておりませんわ・・・・」


「え?三年も?!」


「ええ。先方のお屋敷の方が、娘を大変気に入って下さって・・・・返して下さらないんですのよ。・・・・・まったく、いくつになっても素直じゃないのだから・・・・・ほんっとに、手のかかる息子だわ。」


ガタン、と馬車が大きく揺れる。


「え?ごめんなさい、轍の音でよく聞こえなくて・・・」


「ほほ。大したことではございませんわ。・・・・あら、もう河を渡りましたのね。良い風ですこと。」


玲華は、風になびく夕鈴の髪を撫で付けながら、南の空を見上げ。


笑みを深めた。



ものやおもふと9 へ
2013_07
04
(Thu)11:55

ものやおもふと 9

羽梨さまの鍵部屋読みたさに、連続UP!!

ささ、羽梨さま。

さくっと読んで、鍵!鍵!!←



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《ものやおもふと 9》




「_____________あ、来た。」


王都と北を隔てる河を、李家の馬車が渡る。


「すげー、時間通り。さすがは陛下の乳母様。」


くすっと笑った浩大は、馬上から鳥を飛ばす。



李順のもとへ。



そして。



「___________こっちも、やっと来た。」


土煙を上げて近づいてくる、単騎。


「手のかかる王様だね、ほんとに。」



お互いに、自分よりも大切なくせして。



大切すぎて、距離を置いて。

守りすぎて、擦れ違って。

大事にしすぎて、離れちゃって。





_____________お二人に足りぬものは、なんだと思いますか?浩大。




李順さん。あんた、すげえよ。


その気に、させた。




陛下は、お妃ちゃんが。

お妃ちゃんは、陛下が。


『欲しい』



____________そう、それです。



『欲』。



何をおいても、これだけは譲れぬ、という、強い『欲』。



___________例え、相手が傷つこうが、嫌われようが。



ああ、そうだよな。



___________それでも、共にある事を望む。



二人には、それが、足りない。



追い詰められて、壊れそうになって、それでも残る最後の一つ。



陛下だって、お妃ちゃんだって、欲しいはず、だろ?



・・・・互いが、さ。



手に入れろよ。



なぁ、陛下。


なぁ、お妃ちゃん。




「さて、と________。」



浩大は、馬の腹を蹴り、黎翔のもとへ向う。


「おーい!へいかー!そっちじゃないよー!!」


朗らかに、笑いながら。









王都郊外にある、王家所有の、離宮。


雅やかな庭園あることで有名なそこには、美しく着飾った貴族の子女が集っていた。


___________妃選びの、宴。


公然とそう告げられ、集められた娘達は。

各々の家の思惑のもと、表面上だけは和やかに会話を交わす。



あの方より私のほうが上だわ。

この方より我が家のほうが格上ね。

品のない飾りだこと。

貧相な髪型だこと。



和やかで張り詰めた空気が場を覆う。



「・・・・いやー・・・何度見ても、凄まじいの。」


張元は、女達の華やかな勢力争いを、楽しげに見やり。


「毒花、じゃな。」


くすくすと、笑う。







「夕鈴様、こちらのお屋敷で少し休憩いたしましょう?」


うつらうつらとしていた夕鈴を、玲華は優しく揺り起こした。


「・・・・あ、眠ってしまいました・・・・」


照れ笑いを浮かべた夕鈴は、素直に玲華の手をとり。


誘われるまま__________湯殿へ向った。



「え?湯殿?」



目をぱちくりさせる夕鈴に、玲華はにっこりと微笑みかけ。


「お屋敷の主が『旅の疲れを落とすように』と、ご準備下さいましたの。さ、ご一緒に。」


有無を言わさぬスピードで、身包み剥がされた夕鈴は。


玲華になされるがまま。


肌を磨かれ、香油を刷り込まれ、髪を梳かれ。

衣装を着せられ、化粧をされる。


_________なんか、この手つき・・・!覚えが!!!


既視感を覚えた夕鈴が、驚き慌てるうちに、なにやら身支度が整ってゆく。


「・・・・うそ・・・・だれ?これ。」


全てを終え、会心の笑みを浮かべた玲華が持つ鏡に、映るのは。

見たこともないほど、綺麗に飾られた自分。


「えええええっ?!」


驚いて固まる夕鈴を、玲華は優しく抱き締め、囁く。


「________この場の誰よりも、お美しいですわ。」


夕鈴の手を、握り。


「この私が、保障いたします。」


自信に満ちた目で、夕鈴を見つめ。


「さあ、お戻りなさいませ。_________あのお方の、下へ。」


玲華は、庭へ続く扉を開けた。



ものやおもふと10 へ
2013_07
04
(Thu)22:20

ものやおもふと 10

ようやく、本編終了です!お付き合い頂き、ありがとうございました!


【設定・臨時花嫁】
【バイト終了を妄想してみました】
【オリキャラでます】



《ものやおもふと 10》





「陛下、遅いよ!」


満面の笑顔で案内する浩大が僕を連れてきたのは・・・・あの、宰相が言っていた見合い会場の、離宮。


「・・・・浩大・・・・ちょっと待て。」


ここじゃない、と言おうとした僕に、浩大が笑顔を向ける。


「いーや、ここで、あってる。」


「そんな、はずは。」


「木を隠すなら森、って言うだろ?なら、花を隠すなら花園、ってことじゃん?」


折り良く戻ってきた鳥が浩大の肩にとまり。


その足から文を外し、浩大は黎翔に渡した。


「陛下に、手紙だよ。」


『__________諸事万端ぬかりなく整えてございます。』


表に、一行。

裏に、一行。


『お心の、ままに。』


几帳面な、覚えがありすぎるほどある、その筆跡は。


「・・・・・・李順。やってくれたな。」


黎翔は、朗らかな声で、笑い。


王宮の方角を見つめた。











衣装を改め、老師を従え。


黎翔は、花を一輪、携える。


王の目に留まった者に渡す、花を。





「陛下の、御成り!」


老師の大音声が、場を制し。

咲き乱れる花々が、一斉に礼をとる。



ゆっくりと扉が開かれ、狼陛下が姿を現す。



___________花を隠すなら、か。



李順にしては珍しい遊び心だな。



感心しながら、黎翔は迷わず歩を進める。



________夕鈴。



今、行く。





咲き誇る花々には目もくれずに、スタスタと花園を通り過ぎていく王に、会場がざわつく。



付き従う張元が、より一層、声を張り上げ。


「本日は、ご苦労じゃった!お目に留まることの叶わなかった者は、速やかに退出せよ!」


有無を言わさぬ、後宮管理人の居丈高な物言いと眼光に、並み居る毒花たちは、静まり返る。



が。


どこからともなく、声が上がった。


「・・・陛下は、どなたの所へ?!」


「そうですわ、どの方のもとへ向われましたの?」


「陛下の『御花』を賜ったのは、どなた?!」


「お教え下さいませ!」


「そうですわ、お教え下さいませ!」



娘達の視線を一身に受けた張元は、柔和な笑みを浮かべ、口を開く。


「_________陛下の信頼厚いご令嬢、とだけ、申しておこうかの。」



ざわり、と動揺が走る。


「_________言っておくが。」


張元から笑みが消える。


「己の力量のなさを、かの御方を貶める事で補おうとするような、不心得者は・・・・」


じろり、と、睨み据え。


「陛下に代わり、わしがお相手をして差し上げるつもり故・・・・覚悟せよ。と、家のものに伝えるが良い。」


言い放った。












___________夕鈴。



扉が開いた瞬間、庭の向こうの四阿に、君が見えた。


いつになく、美しく着飾り。


いつものように、お茶の仕度をして。


僕に向って、ふわりと笑む、君が見えた。


この花は、君だけのもの。


僕の心は、君だけに。


夕鈴。


__________今、行く。








___________陛下。



扉が開いた瞬間、陛下と目が合った。


少し痩せた陛下は、それでも堂々として見えて。


私を見て、ふわりと笑う。


近寄ってくる。陛下が。


どうしよう。涙が。


視界が曇る。お顔がよく見えない。


謝りたいのに。


大好き、って、言いたいのに。


いっぱい、言いたいことが、あったのに。


口をついて出た言葉は、自分でも笑っちゃうような言葉。




「_________お帰りなさい、陛下。」

「_________ただいま、夕鈴。」




泣き笑いを浮かべた夕鈴の頬に、黎翔の指が触れ。



「・・・・好きです、陛下。」

「愛してる。夕鈴。」



言葉と想いが、通じる。







四阿で重なる、二人の姿を。


李順、浩大、張元。


三人は、遠目に眺め、安堵したように呟いた。



「・・・・・いやはや、ようやく、」


「ほんと、やっと、だねー。」


「まったく、手のかかる・・・・」




陛下も、夕鈴殿も。

離れられないほど、互いを想い合っているのに。



「・・・・傍から見れば、想い合っているのは一目瞭然、でしたよ?」



________本当に、手を焼きました。




「そうじゃの。互いに想い合っておるのは、もう分かっておったに・・・・」


「ほーんと。知らぬは当人達ばかり、だよねー。」


「あれでなぜ通じ合わなかったのか、不思議ですよ・・・・」





「ああ、疲れたー・・・・・」



誰からともなく、ため息が漏れ。


穏やかな笑い声が、花を揺らした。



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