2013_08
26
(Mon)14:44

宝花 1

いつもなんですが、今回も見切り発車です。

何話まで続くのか、続かないのか(おい)、私にも分かりません。←

もし宜しければ、お付き合い下さいませ。





【設定・原作沿い】
【コミックス未収録のネタバレが少々あります。ご注意ください。】
【捏造があります(いつもですね・笑)】



《宝花 1》





間違えちゃいけない。

私はバイトで、あの人は、国王。



踏み越えちゃいけない。

本物と偽者の__________境を。



そう。


絶対、に。











王宮、政務室。



「__________君に会えぬ時間は何故にこうも長く感じるのだろうな、妃よ。」

「わ、私も・・・・寂しゅうございましたわ・・・」


きっと、耳まで赤くなってる。

恥ずかしいっ!!


夕鈴は、いつもより少し大きめの扇で、顔を隠し。


「へ、陛下・・・ご政務が・・・」


背後でどす黒いオーラを撒き散らす李順を、ちらりと見た。


「陛下。周宰相より、急ぎの書簡です。」


山と積まれたそれらを、ちらりと見やった黎翔は。

夕鈴の耳に唇を寄せ。


「_____________その愛らしい瞳が赤い訳を、是非とも聞かせてくれ。」

「っ!」


びくっと震えた夕鈴に、妖艶に微笑むと。

李順に向かい、口を開いた。


「妃を後宮に送」

「私がお送り致しますので陛下はすぐに書簡を開いてくださいっ!!」


有無を言わさぬ李順の殺気混じりの怒気に。

黎翔は渋々、机に座った。






「・・・・少々、宜しい出しょうか、お妃様。」

「はい、なんでしょうか。」


優雅に微笑んだ夕鈴は、李順に誘われるがまま、池の畔の四阿に向かい。

侍女たちを「大丈夫だから」と少し離れたところで待たせて、椅子に座った。


「・・・夕鈴殿。」

「はいっ!」


ぴしっと背筋を伸ばして優雅に微笑む夕鈴を、李順は困ったように見つめ。


「そんなに畏まらなくとも、宜しいですよ。」


少し躊躇った後。


「・・・実は、折り入ってお願いが・・・」


姿勢を正して、話し出した。













「_____________遅かったな、李順。」


政務室に戻った私を、鋭く睨みつける、主に。

李順は拱手し、小さく囁いた。


「・・・・折り入ってお話しがございます。陛下。」


ぴくりと眉を動かした陛下は、開いていた書簡に最後まで目を通し、朱を入れ。


「半刻ほど、休憩だ。」


低い声で言い放ち、席を立った。








「・・・・で、話しとは何だ。」

「夕鈴殿のことにございます。」


黎翔は居室の長椅子にどかっと腰を下ろし、李順を睨みつけ。


「借金がなくなろうと、夕鈴は手放さんぞ。」


厳然と言い放つ。


「分かっております。・・・・ですから、蒼玉国にて開かれる立太子の式典に夕鈴殿も随行なさっては如何かと存じまして。」

「え?夕鈴も連れて行っていいの?!」


ぱあっと小犬の笑顔になった黎翔に、軽い頭痛を覚えながらも。

李順は続けた。


「立太子の式典には、各国より正妃もしくは妃が招かれております。」

「そうなんだー。」

「ええ。もし、陛下が夕鈴殿をお手元に引き留めるおつもりなら、連れするのが宜しいかと。_______彼女の今後のためにも。」

「うん、そうだね!僕のお嫁さんは夕鈴だけだ、って、みんなに教えてあげた方が都合いいよねっ!」


浮き立つような笑顔の黎翔に、李順は深々とため息をつき。


「____________つきましては、陛下。一つ問題がございます。」


それは鮮やかな笑顔を浮かべ。

嬉しそうに、黎翔に告げた。


そう。

まるで、難題を与える教師のような、笑顔で。











その頃、後宮。


夕鈴は人払いを済ませた自室の長椅子に、膝を抱えて座り込んでいた。



『_________各国の妃や正妃が招かれております。夕鈴殿もそのおつもりで・・・』

『はいっ!精一杯頑張りますっ!』



ああは、答えたものの。



『あの方が、お妃様?』
『しっ、お声が高いですわよ?』

『まあ・・・・どれほど妖艶な美女かと思えば・・・』
『普通の方、ですのね。』


昨日偶然耳にした、女官達の、陰口。

気色ばむ侍女たちを、笑顔で嗜めて。

気にしない、気にしない、って呪文のように繰り返して。

_____________やっと、忘れかけたところだったのに。



私は偽者、で。

正真正銘、本物のお妃様が山ほどいる、そんな場所に。

私なんかが、いたら。



きっと、みっともないに決まってる。

瑠霞姫様のピクニックでも、充分浮いていたのに。

そんな本物のお妃様が勢ぞろいしている所に、私なんかが・・・・



蔑み、見下す視線。

珍獣を見るような態度。


__________そんな、ことより。


もし、もしも。


私のせいで、陛下が馬鹿にされるようなことがあったら・・・・


「どうしよう・・・・」


夕鈴は、なお一層身を縮こまらせて。

込み上げてくる涙を拭う事もせずに。

蹲り続けた。





宝花2へ
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2013_08
26
(Mon)20:37

宝花 2

ようやく、2話を書き終わりました。

まだ終わる気配が全く感じられません。

始まってもいないような。笑


宜しければお付き合いくださいませ♪




【設定・原作沿い】
【コミックス未収録のネタバレが少々あります。ご注意ください。】
【捏造があります(いつもですね・笑)】



《宝花 2》



この「山」が、第一関門か。


休憩を終えて政務室に戻り、執務机の両袖にそびえる書簡の山を見。

やる気に満ちた黎翔は、瞳を輝かせた。



『・・・この際、手段は問いません。夕鈴殿を説得して下さい、陛下。』

『___________ご自分の容姿に、まったくと言っていいほど自信がないようですので・・・』

『必ず、蒼玉国行きを渋るはずです。________それを説得するのは、夫たる陛下の勤めでしょう?』




手段は問わない、のだな?



一つ目の書簡を手に取った、黎翔は。

傍らに控える李順を見やる。




ええ。どのような手を使っても構いません。_______夕鈴殿を蒼玉国に。正妃に迎えるための第一歩、ですよ、陛下。



主従のアイコンタクトは、一瞬で。




方淵は、書簡の山を相手に不敵に笑う黎翔の勇士に、感動の涙を流し。

水月は、早退するタイミングを失った。










「・・・・お妃様?失礼致します・・・」


夕鈴の側近くに使える侍女たちは、心から主を慕っており。

昨日耳にした女官の陰口を笑って聞き流した主人の心中も、痛いほどに察していた。


今朝、顔を洗う時に見てしまった、美しい頬に残る涙の跡と。

隠しても隠し切れぬ、赤い目。


主人の気を病ませぬよう、そっと目配せをした、侍女たちは。

昨日の女官達を懲らしめるべく。

老師の下へと走ったのだった。



そして、つい今しがた老師から連絡があり。

件の女官達は、この件が陛下の耳に届かぬうちに、実家へ帰されたと知らされ。

侍女たちも、これで一安心、と喜んだのだが。



「・・・・お妃、さま?」


なかなか部屋から出てこぬ夕鈴を心配した侍女たちが、無礼を承知で入室したときには。


____________もう、妃の部屋には誰もいなかった。












_____________本当に、普段からそれくらい本気を出してくださいよ。


呆れるほどのスピードで政務を片付けてゆく黎翔の傍らで、李順は書簡の整理を続けていた。

夕闇が濃くなり、月がその存在を主張し始める頃。

李順は、いつもの癖で空を見上げ。

・・・窓枠に置かれた、白い小石が目に留まった。



浩大ですね。


手元の書簡を逆さに捧げ持ち、黎翔に手渡し。

あらかた片付いた書簡の山を宰相の元に運ぶ態を装って、政務室を出。

書庫の裏手に作られた、小さな隠し部屋で、隠密と落ち合った。


程なくして、黎翔も現れ。

浩大は、決まり悪げに口を開く。



「あのさ・・・・お妃ちゃんが、さ・・・・」


「「__________合宿?!」」


黎翔と李順が、同時に叫び。


浩大は、「しーっ!静かにっ!!」慌てて二人の口を押さえた。



宝花 3へ
2013_08
27
(Tue)11:29

宝花 3

とても気楽に書いている、このSS。

陛下の心が決まっていると、こうも心が軽いのか!!驚きです。笑



もし宜しければ、お付き合い下さいませ。





【設定・原作沿い】
【コミックス未収録のネタバレが少々あります。ご注意ください。】
【捏造があります(いつもですね・笑)】



《宝花 3》




「お願いします、老師っ!!」

「任せておけ!今こそ後宮管理人の底力を見せる時じゃ!」



山と積まれた美容に関する書物と。

色とりどりの、衣装。

目が潰れそうに光り輝く、宝飾品に。

ずらりと並べられた、怪しげな小瓶。



ぽかんと口を開けた夕鈴を、促し。

張元は手近な書物を開かせ。

ごそごそと小瓶を漁り、「これじゃっ!」と薄い緑色の薬瓶を手に取った。



「・・・・なんですか?これ。」


警戒気味に問いかけた夕鈴に、張元はにっこりと笑いかけ。


「媚薬ではないぞ?」


これは、な。

言葉を隠し、安心させる。


「蒼玉国へ赴くまで、まだ一月以上あるでな。この薬・・・いや、香油、はな。朝晩肌に刷り込むことで、肌の艶を増し、香りを染み込ませる効果があるのじゃ。」


「へえ・・・・」


「衣装もじゃな。お前さんの質素倹約好きなところは、美徳じゃが・・・。今度ばかりは飾らねばの。」


「私、衣装に負けちゃうんですよ・・・・。そりゃ、綺麗な衣装を見れば心も躍りますし、着てみたいな、って思いますよ?_________でも。」


「なんじゃ。」


「鏡に映る自分が、情けなくて・・・・」


肩を落とす夕鈴の後姿は。

痛々しいほどで。







「・・・・なんだ、立ち入り禁止区域での『合宿』か。」


安堵したように呟いた黎翔は。

しょんぼりとした夕鈴の後姿に胸を痛め。


「____________お前が夕鈴を日頃から苛めすぎるからだぞ?」


李順を睨みつける。


「そんなことありませんよ。最初からご自分の容姿には自信がなかったようですよ?」

「お妃ちゃん、飛びぬけて美人じゃないけど、絶対可愛い方だよね?なんでそんなに自信ないの?」

「・・・・・アイツか。」

「陛下、お心当たりが?」

「・・・・ああ。ある。」

「陛下、ひょっとして、あの幼馴染君?」

「そうだ。アイツのおかげで夕鈴に虫がつかなかった功績は認めるが・・・」

「_________なるほど。几の孫息子ですね。」



物陰から夕鈴の様子を見守っていた、三人は。

同時に、立ち上がり。

李順が指示を出した。


「_________浩大。彼をお連れして下さい。」

「はいよっ!面白くなりそうだね。」


浩大はあっという間に姿を消し。


「_________陛下。政務へお戻りを。」

「ええっ?!なんでっ?!」

「蒼玉国からの帰路、離宮に滞在なさりたいのでしょう?このままでは離宮に滞在どころか、日帰りになりかねませんよ?」

「えー・・・・それはやだ。」

「でしたら、政務を。」

「・・・・仕方ない。_________彼が到着したら、私も呼べ。」


黎翔は二つ目の書簡の山を踏破するために、政務室へ戻った。



「_________李順のやつ、離宮を餌に政務を詰め込んだな。・・・こうなったら、夕鈴と同室にしてもらわねば、割に合わないぞ・・・」



ぶつぶつと、呟きながら。




宝花4へ
2013_08
28
(Wed)09:54

宝花 4

「宝花」。

長くなりそうな予感がして参りました。

久しぶりに兄貴を登場させたら、楽しくてつい。←


お付き合い頂ければ幸いです♪



【設定・原作沿い】
【コミックス未収録のネタバレが少々あります。ご注意ください。】
【捏造があります(いつもですね・笑)】



《宝花 4》




「___________どうぞこちらへ。」


ついて来い、と、隙のない笑顔で。

やたらと綺麗な男が、ゆったりとした身のこなしで促す。



『鍔。ちょっと王宮に行っとくれ。』

『_________ああ?王宮?』

『なんでも、珍しい品物が献上されたらしくてね。品定めに人を集めているらしい。』

『・・・・なんで俺が。めんどくせえ。』

『うるさいね。あたしゃ忙しいんだよ。お前しかいないだろう?!』 

『俺も忙しいんだよっ!!』

『ったく、口の減らない孫だね!いいから行っといで!!!』



あー・・・・やっぱり、無理にでも断りゃよかった。

王宮ってのは、面倒にも程がある。

やたらと待たされる上、何の説明もなく連れ回される。



___________一体、どんな品物を見せられるのやら。




目の前を行く男は、迷路の様な回廊を確かな足取りで進む。

奥へ、奥へ、と。


____________おかしい。


人気のなさに、几鍔は伏せていた目線を上げ。


「ここ」が普通の場所ではない事を察知し。


「___________おい。止まれよ。」


李順に声を投げた。




「・・・・・感の宜しい事で。」


ぼそっと呟き、李順は歩みを止め。


「_____________汀夕鈴殿を、ご存知ですね?」


几鍔に向き直る。


「・・・・・」


一瞬動きを止めた几鍔の隻眼に、物騒な色が宿り。


「・・・どういう、事だ。」


右足を少し引き。いつでも拳を繰り出せるよう、身構えた。

李順は、回廊を渡る風の涼やかさを楽しむように、少しだけ微笑むと。

目の前の『品』に目を凝らす。



真っ直ぐな気性と、物怖じしない胆力。

身のこなしは荒いが、不快というよりは清々しさを感じさせる。

勘の良さと、澄んだ瞳。



_______________これなら大丈夫、でしょう。



一人頷いた、李順は。



「失礼致しました。どうしても自分の目で確かめたかったもので・・・・。」


静かに頭を下げ。


「汀夕鈴殿の件について、貴方にお願いしたいことがあるのです。」


にっこりと、微笑んだ。











その頃。


「浩大、浩大~!!」

「どうしたの?おきさきちゃ・・・・・っ!!」


立ち入り禁止区域に臨時に作られた、夕鈴の部屋。

窓はあるが、基本的に老師の部屋からしか出入の出来ない、その部屋は。

衣装と化粧道具で埋め尽くされており。


「ごめんね、浩大。ちょっと姿見を支えていて欲しいんだけど・・・・って、どうかした?」


唖然とする浩大の様子に気付いた夕鈴は、ことりと首を傾げた。


「・・・いや・・・えっと・・・・」



_________やべえ。

_________絶対、やべえ。



普段は背に流している髪は、全て結い上げられ。

胸元はそうでもないのに背は開いた衣装が、その項の艶やかさを強調し。

しっとりと輝く真珠のような、背。

後れ毛。

胸高に結ばれた帯が、胸元の豊かさを強調し。

柳腰から裾長に広がる衣装は、薄紫の紗。

長い睫が優美な翳りを演出し。

衣装にあしらわれた金糸と華奢な手首を彩る飾りが肌の白さを際立たせ。

桃色に色づく耳には、琥珀色の玉が。

蜜蝋で輝く唇には、鮮やかな紅が。



思わず口元を手で覆った浩大は、慌てて視線を逸らした。


「あの・・・・お妃ちゃん?上手に着こなしていますので、陛下をお呼びしても宜しいでしょうか?」

「だ、だめっ!まだ老師と李順さんに採点してもらってないもの!」

「___________いや、それはやめたほうが」

「ええ?そんなに酷い?おかしいなぁ、頑張ったんだけど・・・」


しょぼんと肩を落とした夕鈴の姿は、夢のように儚げで。


____________うわ、まじでやべえ。


小刀で串刺しにされる自分を想像した、浩大は。


「・・・・ちょ、ちょっと待ってて!!衣装、脱がないで待ってて!!」


我が身を守るべく、執務室へと走った。











「・・・・それで、お妃様の代役が務まる娘が他におらず・・・」

「いくらでもいるじゃねえか!ここは後宮だろ?!」

「年恰好や、髪色。瞳の色。条件が当てはまる娘は、夕鈴殿だけです。」

「くっ・・・・だからって・・・・あいつは、庶民だ!!」

「そんなことは先刻承知です。夕鈴殿も承諾して下さいました。」

「う・・・。危ない事は、ないんだろうな。」

「その点につきましては、陛下が直々に護衛を手配なさいました。」

「国王陛下、が?直々、に?」


几鍔の背に、嫌な汗が伝い。

血の気が引くのが自分でも良く分かった。



____________やはり、物分りも宜しいですね。


李順は自分の目が狂っていなかった事を確信し。


「大方、貴方のご想像の通りでしょう。」


にっこりと、笑い。


「__________さて。『お妃様』にお目通り願いましょうか。」


青ざめたままの几鍔を、老師の部屋へと案内した。




宝花5へ
2013_08
29
(Thu)11:04

宝花 5

だらだらと続いてしまっております、「宝花」。

ごめんなさい、まだ続きます。

今回は陛下と浩大です。

陛下、語ってます。笑

お付き合い頂ければ幸いです♪





【設定・原作沿い】
【コミックス未収録のネタバレが少々あります。ご注意ください。】
【捏造があります(いつもですね・笑)】



《宝花 5》




書簡の山に埋もれ、官吏たちを威嚇し。

黎翔は手を休めることなく筆を走らせ、書簡を開く。




蒼玉国の、立太子式典。

隣国の公式な式典に夕鈴を連れて行くという事は、彼女の立場を強化し、国の内外に夕鈴を認めさせることにも繫がる。

少しずつ少しずつ。

慎重に狭めてきた、兎を囲む『罠』。



自制心を試すような、夕鈴との『演技』。

超えてはいけない、君との一線は。

ほんの少し手を伸ばすだけで消え失せてしまう、危ういもので。


僕が少しでも「それ」に触れそうになると、君は素早く逃げてしまう。


_____________泣きそうな、顔で。



私と僕の二面性を演技と信じて疑わない君は。

敏感に私の「本気」を察し、僕の「笑顔」に気を許し。

いとも容易く、私の心を虜にし。

僕の心に、根を張った。



たかがバイトにそのように思い入れを持たれては_________

_________彼女はいずれ帰る人



無駄とは知りながらも忠告をし続ける、側近に。

僕は、曖昧な返事を返し続け。

自分の心を、探り続けた。


手放せる、のか?


浮かんだ疑問に、苦笑が浮かぶ。


手放せるか、どうか。


そんなことを自問する時点で、答えは決まっているだろう?


______________なあ、そうだろう?



自分を嘲る黎翔の微笑は、冷ややかで。

水月は顔色を失い、方淵の眉間には深いしわが刻まれた。


「・・・陛下、如何なさいましたか?何か不備が・・・」

「___________私が戻るまでに、南からの報告書を揃えておけ。」


言い置いて、カタン、と筆を置き。

黎翔は、窓の外の樹上で自分を待つ隠密に、目線を投げた。








「___________怒らないでね?陛下。」


逃げる態勢を崩さず、浩大は口を開く。



見なくても分かる。

この人、もう小刀持ってるよ。

しかも、最低三本。


なあ、陛下。

その早業、どこで身につけたんだ?

隠密顔負けだよ。

まあ、急所を外す自信はあるけど、さ。


「・・・例の『合宿』。お妃ちゃん、頑張ってるみたいでさー。」

「・・・・そうか。」

「今日は頭のてっぺんから爪先まで、しっかりおめかしする、ってのが課題だったらしくて。」

「__________ほう。」


ああ、もう死ぬかも。

お願いだから、そんなに綺麗に微笑まないでくれないかな。

その笑顔、戦場でよく見かけたんだけど。


「すごーく綺麗に仕上がってる『らしい』からさあ・・・陛下、見に行ってあげたら?」


後ろに回した手を、窓枠にかける。

半歩下がれば、勢いで外に逃げられるはず___________だったんだけど。


「・・・・浩大?」


音もなく間合いを詰められ。

極上の笑顔が鼻先まで寄って来た。

・・・・・・相変わらず、綺麗なお顔ですね。


現実逃避しそうなる自分を、どうにか押し留め。


「____________早く行かないと、先を越されるよ?陛下。」


皆まで言わずに、言葉を紡いだ。



李順さんに「絶対言うな」って口止めされてるけどさ。

これくらいなら、問題ねえよな。

俺、陛下の隠密だから、あんたの指示に従う義務もないし、さ。



__________ああ、とりあえず、死なずに済んだ。


お妃ちゃん、後は任せた。


浩大は、隠密以上に素早く抜け道の扉を潜り抜ける黎翔を、笑いながら見送った。



宝花6へ
2013_08
29
(Thu)16:09

宝花 6

まだ、終わりません・・・。笑




【設定・原作沿い】
【コミックス未収録のネタバレが少々あります。ご注意ください。】
【捏造があります(いつもですね・笑)】



《宝花 6》




「・・・・・ええと・・・・・この帯、複雑なのよね・・・・」


身体を捻って、帯を直し。

よいしょ、と掛け声をかけて飾り紐を回す。


りん、と可愛らしい鈴の音が響き、夕鈴から笑い声が零れる。


「この飾り紐、ほんとに可愛いわ。綺麗な鈴の音・・・た、高いんだろうな・・・・」


うう、と呻きながら指先で鈴を弾くと、りりん、と愛らしい音がして。

ふふ、と再度夕鈴から笑みが漏れた。



一生懸命磨いてぴかぴかにした、爪の先で。

黄金色に光る鈴を、ちりんと爪弾く。


____________綺麗。


本物のお妃様なら、もっとずっと綺麗なはず。

どんなに取り繕っても、磨いても。

私はただの石ころで。

ぴかぴか光る玉には、なり得ない。

陛下の側にいられるような身分じゃ、ない。



積み上げられた、豪華な衣装も。

たくさんの装飾品も。

見知らぬ化粧道具も。


全部を使いこなせたとしても、私は、偽者。


立ち上がり、姿身に自分を映す。


「・・・・うん、ちゃんと、出来てる。」


でも、偽者。


「__________李順さんと老師に、採点してもらわなきゃ。」


苦笑して、夕鈴は老師の部屋へと続く扉を開けた。










「__________おい、ちょっと待て。」

「なんでしょう?」


老師の部屋へ続く廊下で、几鍔は歩みを止めた。


「さっきは動転してて、気付かなかったんだが・・・・」

「・・・・」


李順は苦笑し、几鍔に先を促す。


「_________俺は、何をすればいいんだ?」

「ですから、お妃様に会って頂くのですよ。」

「いや、それは分かってる。その後だよ。アイツが『お妃様』の身代わりになるってのは、分かった。でもよ、それが俺にどう関わってくるんだ?」

「・・・・?聞いていらっしゃらないのですか?」

「え?」

「几の女主人殿には、お伝えしたのですが・・・」

「何を、だよ?!」


李順は、はぁ、とため息を吐き。

まったくもう、と小さく愚痴ると。

几鍔に告げた。


「_________几鍔殿。貴方はお妃様の護衛として蒼玉国に随行なさるのですよ。」

「_________はあっ?!」





几鍔の大声が、静かな後宮に響き渡り、ゆっくりと消え。


____________カツン。


硬質な靴の音が響き、李順はすかさず礼を取った。


「___________随分と、騒がしいな。」

「陛下。こちらにお越しとは・・・」

「妃に会いに行くよう、忠告があってな。」

「・・・・浩大ですね・・・」


背に嫌な汗が伝うのを感じつつ。

李順は自分越しに黎翔を睨みつける几鍔に向き直った。


「几鍔殿。国王陛下の御前ですよ・・・礼を。」

「うるせえ。」


ゆっくりと、几鍔は歩を進め。

微苦笑を浮かべる黎翔に詰め寄る。


「____________おい、李翔。」

「あー・・・・うん。ごめん、騙して。」

「・・・もう、それはどうでもいい。_______でもな。」

「・・・・ああ。」

「_________返せ。あいつの居場所は、下町だ。お前の世界に引きずり込むな。」


がしっと、黎翔の襟元を掴み上げ。

几鍔は必死に言い募る。


「借金があるなら、俺が払う。頼むから、あいつを返してくれ。妃の身代わりなんて、本物じゃ危ねえから、身代わりが必要なんだろ?やめてくれ。あいつじゃなくても、良いはずだ。」


黎翔は、几鍔にされるがまま、立ち尽くし。

目を瞑り。

ゆっくりと、口を開く。


「___________ごめん。夕鈴じゃなきゃ、ダメなんだ。」


几鍔の瞳に、怒気が宿り。


「____________ふざけんなっ!!」


拳が黎翔に向った、その時。


「几鍔っ?!」


バタンと扉が開き、聞きなれた声と共に、見慣れぬ姿の幼馴染が自分の目の前に飛び出してきて。

几鍔は、ガツンと、鈍い手応えを感じた。


「へ、陛下っ!大丈夫ですか?」

「あたた・・・・夕鈴、無茶しないでよ・・・・」

「なんで国王がバイトを庇うんですかっ!大人しく庇われて下さいっ!」

「・・・・夕鈴、ものすごくかっこいいけど、それ、無理だから。それに、とっても綺麗だね!すごいね、全部自分でしたの?惚れ直しちゃうなー。」

「っ!こ、こんな時に何を・・・っ!」


黎翔は、頬の辺りを擦りながら、にこにこと微笑み。


「__________さて、と。夕鈴、お茶淹れてくれる?あ、几鍔君も一緒に飲もうね?・・・色々話さなきゃいけないこと、あるし。」


夕鈴の膝裏に手を入れ、さっさと抱き上げ。


「__________几鍔。私を殴った礼は、今後の働きで返してもらうとしよう。」


言い置いた黎翔の、人の悪い微笑に。

几鍔は、自分の短気を呪った。




宝花7へ
2013_08
30
(Fri)10:21

宝花 7

遅々としてお話しが進みません。

几鍔が楽しいのが悪いんです。

責任転嫁してみました。←





【設定・原作沿い】
【コミックス未収録のネタバレが少々あります。ご注意ください。】
【捏造があります(いつもですね・笑)】



《宝花 7》



「・・・・その髪はどうにかならんのかのう・・・」

「うるせえな、他にやりようがねえんだよ。」

「せめてもう少し伸ばして結うなり、なんなり・・・・」

「・・・ぷっ・・・・」

「笑うなっ!!」

「ご、ごめ・・・・几鍔、に、似合うわよ・・・」

「おまえっ!人のこと笑ってる暇があったら、何か上着を羽織れっ!!」

「なんで?」

「そんな薄着でふらふらすんなっ!みっともねえ!」

「・・・・みっとも、ない?やっぱり・・・」

「背中が開きすぎだっ!」

「こういう衣装なのよっ!!」

「うるせえっ!とっとと着替えろっ!」

「いやよ、まだ採点してもらってないもの!!」



____________ぎゃあぎゃあと、五月蝿いのう。


几鍔に官服を着付けながら、張元は楽しみつつも、ため息をつき。


「これこれ、ここは後宮じゃ。そんなに大騒ぎしては、客を呼び寄せるようなもんじゃぞ?」


軽く嗜める。


「・・・客?」


訝しげな几鍔に、張元はさも当然のように。


「刺客、のことじゃよ。」


言ってのけ。

言葉を失って固まる几鍔の髪を、梳かしつけた。





「・・・・そんなに、おかしいかしら。」


ぶつぶつと呟きながら、夕鈴はいつもより多い茶杯に茶を注ぐ。

りん、と鈴の音が響き、花の香りが漂い。

蝶の様に優雅に、袖が舞う。

それを見つめる黎翔の頬は、緩んだままだ。


「夕鈴、本当に綺麗だよ。」

「はいはい、ありがとうございます。」

「・・・信じてないでしょ。」

「だって陛下はいつも・・・っ!!」


いつの間にか立ち上がっていた黎翔に、背後から覆いかぶさるように抱き締められ。

夕鈴の肩に拗ねたような黎翔の顔が埋まる。


「・・・本当なのに。」

「っ!へ、陛下、お茶が!」

「僕よりお茶が大事なの?」

「何でそうなるんですかっ?!」


いつまでも妃を放さぬ国王に、痺れを切らした側近は。


「___________夕鈴殿、採点して差し上げますから、こちらへ。」


うんざりと、声をかけた。



「・・・・うむ、なかなかの出来じゃの。」

「そうですね。少し紅の色が淡いですが・・・まあ、宜しいでしょう。」

「ありがとうございますっ!」


喜ぶ夕鈴の頬は、桜色に染まり。

侍官姿の几鍔と、小犬のままの黎翔は、二人揃って口元を手で覆った。


____________か、可愛い。

____________馬子にも衣装、だな。


互いに、目を逸らしながら。



しばらくして。



少し冷めてしまった茶と共に、几鍔は夕鈴のバイトが臨時妃であること、掃除婦も兼ねている事などを、飲み込み。

だがやはり納得がいかず、もう一度李順に尋ねた。


「状況は、良く分かった。だが、やっぱり納得いかねえ。どうして俺が呼ばれた?」

「・・・理由は申し上げられません。ですが、これが無事に終われば、几商店は王宮に出入り出来るようになります。お祖母様は喜んで請けて下さいましたが?」

「__________ばあさん・・・・孫を売ったな・・・」


がっくりと肩を落とした几鍔は、全てを諦めて茶を飲み干した。









数日後。

ようやく合宿を終えた夕鈴は、大量の衣装と宝飾品、化粧道具と共に自室へ戻った。

侍女たちは目を輝かせ、夕鈴を飾り。

夕鈴もまた、きらびやかな衣装に負けまいと、努力を惜しまず。

日々、美しさを増し。

妃を見つめる官吏たちの視線に、黎翔の心労も、増していた。



「__________お妃様、お時間にございます。」


蒼玉国に向けて出発する日が近づく中、黎翔の政務は多忙を極め。

地獄のような様相を呈する政務室に自分が行くのは邪魔ではないのかと思いつつも、縋るような官吏たちの視線と李順の命令には逆らえず。

夕鈴は今日も回廊を渡っていた。


「・・・・参りましょう。」


侍女たちと共に、優雅に歩を進め。

夕鈴の少し先を、侍官姿の几鍔が辺りの気配に気を配りながら歩む。

すらりと高い背に、広い肩。

頼りがいのある後姿に、侍女たちからため息が漏れ。


「今日も凛々しいお姿ですわね・・・」

「ええ、本当に・・・」


微笑ましい囁きを聞きつけた、夕鈴は。


___________几鍔に教えてあげようかしら。


悪戯っぽく、笑うのだった。




宝花8へ
2013_08
30
(Fri)20:40

宝花 8

長引いております、「宝花」。

まだ続きます。ごめんなさい。

今回は、陛下のターンです。

ああ、兄貴が書きたいっ!!←本筋からどんどん離れていくからやめなさい


もし宜しければ、お付き合い下さいませ♪





【設定・原作沿い】
【コミックス未収録のネタバレが少々あります。ご注意ください。】
【捏造があります(いつもですね・笑)】



《宝花 8》




蒼玉国へ出発する、前夜。


「・・・・それで、几鍔が素敵だって、侍女さんたちが仰るのがもう可笑しくて!」


くすくすと楽しそうに笑いながら今日あったことを話してくれる夕鈴に、癒される。


「荷造りを終えた行李を几鍔が運んでくれたんですけど、一度に二つも担いだものだから、侍女さんたちが驚かれて・・・」


・・・うん。癒される。

癒されるんだけど。


几鍔の事ばかりを話す夕鈴に、狼が頭を擡げる。


「陛下、お茶のおかわりはいかがですか?あ、お茶菓子も新しいのが・・・」


手にした茶杯に視線を移した黎翔の様子に、夕鈴は立ち上がり。

茶杯を受け取ろうと、手を伸ばした。

が。

ぐいっと手首を掴まれ、強い力で引き寄せられ。


「・・・君は、誰の妃だ?」


狼陛下の怒りを含んだ低い声が、夕鈴の耳に注ぎ込まれた。


「夫以外の名を紡ぐ唇は・・・・塞いでしまおうか?」


妖しく光る紅い瞳が、夕鈴を捕らえる。


「_________え?」


ぷっくりと愛らしい下唇の感触を楽しむように、ゆっくりと。

黎翔の指先が、夕鈴の小さな唇をなぞり。


「・・・・夫の名を、呼んではくれぬのか?」


あと少しで触れてしまいそうな距離で、黎翔の薄い唇が小さく言葉を紡ぐ。


「へ、いか?」

「____________夕鈴。君は几鍔君の事ばかり口にする。私の事など・・・もう、飽きてしまったのか?」


黎翔の両手が、夕鈴の頬をそうっと包み込み。

揺れる紅い瞳が、戸惑う夕鈴の瞳を映した。


「・・・・私が本心を口にしても、信じてはくれぬのに・・・あの男の言葉なら、君は信じるのか?」

「・・・え?陛下、何を・・・」

「___________足りぬなら、何千回でも繰り返そう。言葉で伝わらぬなら、この身体で伝えよう・・・妃よ。」

「__________っ!!」



夕鈴は、困惑していた。



陛下の仰っている事が、良く分からない。

信じない?私が?陛下の言葉を?

几鍔の言葉なら、信じる?


唇が触れてしまいそうなほど近くにいる、陛下の瞳は、真剣で。

これは演技じゃないって、演技のはずがないって、本能が告げる。


何か、言わなきゃ。


焦っても、言葉はぐるぐると頭を巡るばかりで、ちっとも要領を得なくて。

涙で視界が曇るのが分かった。






突然狼に変った私に戸惑う夕鈴に、無茶を言っているのは分かっていた。

___________でも。それでも。

私の言葉を、信じて欲しくて。

無駄とは知りながら、口にする。


「___________君は、綺麗だ。」


必死に。


「私などが触れてはならぬほど・・・・気高く、美しい。」


お願いだ。

信じてくれ。

あの男の言葉ではなく、私の言葉を。





夕鈴の頬を包み込む黎翔の手が、微かに震え。

茶色の瞳から零れた涙が、大きな手を濡らし。

にっこりと花が咲くように笑んだ夕鈴は、黎翔の手に自分の手をあて、そっと囁いた。


「・・・・ありがとうございます、陛下。嬉しいです。」

「夕鈴。」

「陛下にそう仰って頂けると・・・・なんだか自信が湧いてきました!」

「ほんと?!」

「はい!老師と李順さんに合宿で鍛えて貰ったし、陛下にも褒めて頂けて!これで本物のお妃様の中に紛れ込んでも偽者だってばれない気がしてきました!!」

「・・・・・あのさ、その事なんだけど」

「御心配には及びません!完璧に『お妃様』を演じて見せますっ!!」


ぐっと拳を握り締め、至近距離で叫ぶ夕鈴の勇ましさに、思わず破顔した黎翔は。

ぎゅぅっと、愛しい兎を抱き締め。


「・・・・本物になればいいのに。」


ぼそっと呟いた。


「何か仰いましたか?」


きょとんとした顔の妃に、苦笑しながら。




宝花9へ
2013_08
31
(Sat)11:36

宝花 9

なかなか、出発できません。

短いですが、兄貴のターンです。


もし宜しければお付き合い下さいませ。





【設定・原作沿い】
【コミックス未収録のネタバレが少々あります。ご注意ください。】
【捏造があります(いつもですね・笑)】



《宝花 9》




「_________いよいよ出発、か。」


老師の部屋の、隣。

広々とした一室で、几鍔は無駄に大きな寝台にごろりと転がっていた。


蒼玉国行きに当たって配された妃の護衛という立場上、後宮に部屋を与えられても不審がられることも無く。

几鍔の身の回りの世話は、女官達が嬉々として行っていた。


「・・・だから、自分でやるって言ってんのに・・・」


綺麗に掃除された室内と、焚き染められた香と。

火熨斗まであてられた肌着は、きっちりと畳まれ。

几鍔が部屋に戻るのを見計らったかの様に、女官達が茶を淹れてくれる。


至れり尽くせりで、居心地が悪い事この上ない。


「あいつも大変だよな・・・・」


四六時中、人の目に晒され、『演技』を要求される。


蕩けそうに甘い顔で夕鈴を見下ろす、国王。

夕鈴の耳元に唇を寄せ、何事かを囁き。

夕鈴の真っ赤な頬に、さも当然のように、触れ。

自分の目の前でこれ見よがしに夕鈴を抱き上げる。




胃の辺りが、焼けるように熱くなった。


_____________触んな。


そう言えたら、どれほど楽か。

自分がそんな事を言えば、困るのは、夕鈴だ。


「・・・くそっ。」


気が強いくせに、涙もろくて。

強がって、無理をして。

正義感が強くて、無鉄砲で。



放っておけない。

そう思い始めたのは、もう憶えてないほど昔の事。




簡単に人を信じる、お人好し。

皆に向ける、明るい笑顔を。


___________独り占め、したい。


そう思い始めたのは、いつだった?



気付かれないように、気付かせないように。

あいつに気を使わせないように。

ずっと守ってきたのは、俺だ。



「_____________触んな。」


几鍔の呟いた言葉は、暗闇に吸い込まれていった。



宝花10へ
2013_09
01
(Sun)15:59

宝花 10

ようやく、出発しました。

出発しただけです。

お話しが一向に進みません。今日が日曜日なのが悪いんだと思います。←





【設定・原作沿い】
【コミックス未収録のネタバレが少々あります。ご注意ください。】
【捏造があります(いつもですね・笑)】



《宝花 10》



付き随う官吏の数も、侍官と女官の数も、離宮に行った時とは比べ物にならない程多く。

壮麗な行列が設えられ、厳粛な雰囲気の中、王は臣下の見送りを受けていた。



「周宰相。王宮のことは頼むぞ。」

「御意。」


見送りを受ける黎翔の姿は、まさに狼陛下そのもので。

にこにこと穏やかに笑う小犬の面影は、どこにも感じられない。



____________やっぱり、おかしい。



自分の中に生まれた、違和感を。

誰にも悟らせぬよう、几鍔は胸の奥に隠した。



「妃よ。こちらへ。」

「・・・はい、陛下。」


当然のように、夕鈴の手を取り。

ごく自然に抱き上げ、馬車に乗り込む黎翔は。

扉を閉める几鍔に、優越感に満ちた視線を投げる。


「・・・・っ。」


ぴくっと眉が動きそうになるのを、几鍔は必死に押さえ込み。


「_________馬車の中では、『演技』とやらは要らねえよな?」


小さな声で、呟いた。




ゴトゴトと、揺れながら、馬車は順調に進む。

御者は浩大で、すぐ後ろには騎乗の几鍔と李順が続き。

黎翔と夕鈴は、車窓の光景をゆっくりと楽しんでいた。



「・・・・気づかれたか。」

「何か仰いましたか?陛下。」



心配そうに顔を覗き込んでくる夕鈴に、「なんでもないよ」と答えながら。

黎翔は先ほどの几鍔の顔を思い出していた。


____________本気で、睨まれてしまったな。


『演技』が嘘だとばれたか。

まあ、隠す気もなかったが。


「・・・私のものだ、と、思い知らせておかねばな・・・」


小さな小さな、黎翔の囁きは。

向かいの席で窓の外の景色にはしゃぐ夕鈴の耳に届くことなく、消えた。









南への旅は、予定通りの行程を辿り。

夕鈴たちは、三日後に蒼玉国に入るべく、南の離宮で仕度を整えていた。

そんな中でも、周宰相からの定時連絡の使いは、毎日決まった時刻に到着し。

黎翔は王宮にいる時とさして変わらぬ量の政務に追われ。

同じ離宮にいながら、妃と会えぬ日々が続いていた。


「・・・・こんなはずじゃ、なかったのに。」

「予定通りです!離宮でのご休養は、帰路!帰り道ですっ!」

「ええー。せっかく夕鈴との旅行なのに・・・」

「公務!公務です!」

「・・・お前は本当に真面目だな、李順・・・」

「お褒めに預かり光栄ですっ!」


額に青筋を立てた李順と駄々を捏ねる黎翔の、いつものやり取りに。


「・・・報告です~。」


浩大は決まり悪げに割り込み。

部屋の外から、小声で状況報告を始めた。


「___________国境沿いに、異常はなし。瑠霞姫がお妃ちゃんと会うのを異様に楽しみにしてるみたいだけど・・・・まあそのおかげで、お妃ちゃんに対する風当たりは予想より弱そうだよ。」

「そうか。」

「以上です。じゃ、俺もど」

「待て。まだあるだろう。」

「・・・いいえ、何にも。」

「__________あの男はどうしている。」

「・・・・幼馴染くんのこと?」


にっこりといい笑顔で、黎翔は浩大に迫り。

浩大は目を泳がせて、逃げ道を探す。


「__________浩大。報告を。」


凄みのある笑顔に、浩大は重い口を開いた。


「・・・・・ずっと、お妃ちゃんの側で『護衛』してるよ。」

「ほう。」

「侍女たちが喜んでる。旅先で心細いから、安心だって。」

「・・・夕鈴は?」

「お妃ちゃんも嬉しそうだよ。」

「・・・・嬉しそう・・・」

「気楽に話せる相手がいて、楽しいんじゃないかな?」

「嬉しそう・・・・楽しい・・・・」


どんどん沈んで行く黎翔の様子を、気の毒そうに見つめ。


「・・・でも、ちょっとだけ・・・」


浩大はとんっと反動をつけ、屋根に上がり。


「___________元気がない、かな?」


逃げ出した。




宝花11へ
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