2013_05
28
(Tue)18:02

皇子の願い①

【設定・未来・お子様あり】
【ご注意!オリキャラ(お子さま三人・李順さんの奥さん・その他)でまくりです。】
【捏造の塊でございます】
【ほぼ、お子さま世代がメインの話しです】


☆人物説明

珀清翔(長男にして、李順の長女と夫婦。李家に居候中。)
珀明翔(次男にして、時期国王・・・なのは、まだ内緒。)
珀桜花(三人兄弟の末子。長女にして、女王。几鍔の嫁になることが決まっている。)

李芙蓉(李順さんの奥様。)
李玉華(李順さんの長女。清翔の妻。姉さん女房。)


この他にも、オリキャラさんが出てくる予定です。


苦手な方は、ご無理なさらず!!





《皇子の願い1》




一目惚れ。

まさに、そうなんだろうな。



風になびくふわりとした髪。

こげ茶色の、力強い瞳。

真っ直ぐな、心からの、笑顔。



僕は、珀明翔。

君は・・・・・誰?









妹の桜花が玉座についてから、もう三年が経つ。

だから、あと二年。


あと二年で、桜花は『崩御』する。

そして、下町に『夕花』が生まれ。

僕の可愛い妹は、人並みの幸せを手に入れる。



この世に生を受ける以前から、刺客に狙われ続けた、兄・清翔。

母の心を守るため、小さい頃から毒の食事を摂り続けた、兄。

_________誰よりも強くなる。

そう覚悟を決め、ずっとずっと、僕と桜花を守ってくれた、大好きな、兄上。



大切な兄と妹。

大好きな、父上と母上。


みんなの為に僕ができる事は・・・・・二年後に、この国に身を捧げる事。


____________国王に、なる。


わかっていた。

そのつもりだった。



だけど・・・・・。










「清翔お兄様!もう!遅いですわ!!」


女王・桜花は頬を膨らませて兄を出迎えた。


「もう随分と早い時間に使いを出しましたでしょう?!何をなさってらしたの?」

「・・・・ええと。なんだろうねー・・・・」


今朝方の妻の艶姿を思い出した清翔の頬が、少しだけ染まったのを、桜花は見逃さず。


「・・・・・父上そっくりですわね・・・・」

ぼそっと呟いた。






「・・・・・で、何の用だ?」

侍女が淹れてくれた茶に口を付け、清翔は促した。

「実は・・・・」

桜花の前にも、ことり、と茶が置かれ、桜色の茶器に桜花の手が触れた。


_______刹那。


ぱんっ、と茶器が弾き飛ばされ、同時に侍女の肩に小刀が突き刺さり。


「・・・・・この私の前で王に毒を盛るとは・・・・なるほどな。私が王座を狙い、女王を毒殺したと見せたかった、か?」


世間話をするかのように、清翔が侍女の腕を捻り上げる。

「くぅ・・・・っ!な、ぜ、わかった!」

ガツン、と侍女の首筋に剣の柄をくらわせ、清翔は面倒くさそうに答えた。

「毒の事なら、父上よりも私のほうが詳しいぞ・・・・ああ、もう聞こえぬか。」


ぴぅっ、と口笛を吹き、賊の後始末をさせ。



「_________さて、と。桜花、話しの続きを。」



優雅な所作で、清翔は茶を淹れ始めた。


「・・・お兄様。ですから、お茶は私が。」

「・・・だめ。玉華においしいお茶を淹れてあげたいから、練習台になって?桜花。」

「・・・・はいはい。玉華さんに怒られても知りませんからねー・・・・」



兄と妹の『内緒話』が始まった。




皇子の願い②へ
2013_05
29
(Wed)16:45

皇子の願い②

【設定・未来・お子様あり】
【ご注意!オリキャラ(お子さま三人・李順さんの奥さん・その他)でまくりです。】
【捏造の塊でございます】
【ほぼ、お子さま世代がメインの話しです】


☆人物説明

珀清翔(長男にして、李順の長女と夫婦。李家に居候中。)
珀明翔(次男にして、時期国王・・・なのは、まだ内緒。)
珀桜花(三人兄弟の末子。長女にして、女王。几鍔の嫁になることが決まっている。)

李芙蓉(李順さんの奥様。)
李玉華(李順さんの長女。清翔の妻。姉さん女房。)


この他にも、オリキャラさんが出てくる予定です。


苦手な方は、ご無理なさらず!!





《皇子の願い2》




李家の居間では、出仕した夫を見送った芙蓉が手紙を書いていた。


いくつになっても、芙蓉の美しさは変らず。

優美な所作も教養も、深まるばかり。

『李家の奥方様に行儀作法を教授された』

というのは、貴族子女の一種のブランドと化していた。


「・・・また、入門願いへのお返事ですの?」

くすくすと笑いながら、玉華は母に話しかけ。

「いいえ、こちらは違うのですよ。」

にっこりと微笑みながら、芙蓉は書きかけの手紙にそっと料紙を被せ、答える。

「皇太后様への、お手紙ですから・・・失礼のないようにしなくては、ね。」

「まあ・・・お邪魔してしまいましたわね。」

肩を落とした玉華に、芙蓉はお茶を勧めた。

「_________玉華。」

「はい、お母様。」

「・・・『大切な方のために』、という思いは・・・とても大事です。」

「お母様?」

「ですが。」

芙蓉は優しげな眼差しを娘に向ける。

「・・・・その方が、何を望まれているのか。よく考えてみて差し上げて?」

「________何を、望んでいらっしゃるのか・・・」

「ええ、そうですよ。玉華。」

「________でも。」

「いいえ。『何がその方にとって必要か』なのではなく。」

芙蓉の瞳に、光が宿る。

「何を、欲していらっしゃるのか、ですよ。」

「っ!」

「・・・本当に、貴女のそういう所はお父様そっくり。______難しく考えなくとも、よろしいのですよ?」

俯いたままの娘の肩に、芙蓉はそっと手を置く。

「__________ね?」


少しの逡巡の後、玉華は口を開いた。

「・・・・でも。それでも、私は・・・・あの方の『枷』にだけは・・・・」

父譲りの柔らかくうねる髪を、ふるふると震わせて、玉華は両手で耳を塞いだ。

「______頑固なところも、お父様譲りですね。」

ふぅっ、と芙蓉はため息をついた。












王宮、庭園。


明翔はふらふらと庭園を彷徨っていた。

「________浩大、いる?」

「・・・・いるよー・・・・大丈夫?皇子サマ?」

「_____________だめ。全然、だめ。」

「あー・・・・・ほんと、正直ですね。ぷぷぷっ。」


とすん、と明翔は木陰に座り込んだ。


「あのさ、浩大。」

「なに?」

「どうしても欲しいものがあるんだけどさ。」

「うんうん。」

「でも、絶対手に入らないって、わかってるんだよ。」

「あー・・・・・うん。そういうことって、あるよね。」

「諦められないんだ。」

「うんうん。昔、おんなじ悩みを抱えてる人がいたなぁ。うん。」

「__________どうしたら、いいのかな?」

樹上の浩大が笑う気配がして、明るい声が降ってくる。

「・・・・諦められないなら、諦めちゃダメなんだよ?皇子様?」

「・・・?」

訝しげな明翔に、浩大の声が少し低くなる。

「どうしても、手に入れたい・・・手に入れなきゃ、いけないものが、あるなら。」

「こうだ・・・」

「何をおいても、奪え。」

「_________っ!」

「・・・・でないと、一生後悔するよ?」


浩大はにっこりと笑って、姿を消した。



皇子の願い③へ
2013_05
29
(Wed)19:45

皇子の願い③

【設定・未来・お子様あり】
【ご注意!オリキャラ(お子さま三人・李順さんの奥さん・その他)でまくりです。】
【捏造の塊でございます】
【ほぼ、お子さま世代がメインの話しです】


☆人物説明

珀清翔(長男にして、李順の長女と夫婦。李家に居候中。)
珀明翔(次男にして、時期国王・・・なのは、まだ内緒。)
珀桜花(三人兄弟の末子。長女にして、女王。几鍔の嫁になることが決まっている。)

李芙蓉(李順さんの奥様。)
李玉華(李順さんの長女。清翔の妻。姉さん女房。)


この他にも、オリキャラさんが出てくる予定です。


苦手な方は、ご無理なさらず!!





《皇子の願い3》





王都の少し外れにある瀟洒な離宮。


以前、李順が腕を振るって新築したその離宮では、上皇となった黎翔と、皇太后となった夕鈴が、それはそれは仲睦まじく暮らしている。



「陛下!陛下!!朝です、起きてください!」


退位してからこの方、黎翔は朝寝を楽しむようになった。

・・・・それが、元来働き者の夕鈴には、許せず。


「__________もうっ!!」


焦れた夕鈴は、夫の上掛けを引き剥がす。


「・・・寒いよー、夕鈴・・・・」


くるんと丸まって小犬の顔で自分を見上げる夫に、夕鈴の頬が少し染まる。


「・・・そ、そんなに可愛らしいお顔をなさっても!もう朝、です!起きてください!」


若干うろたえた夕鈴の口調が丸くなったのを、黎翔は見逃さず。


「_____________いやだ。」


にっこりと笑みを浮かべ、妻の腰を捕らえる。


「っ!もうっ!離してください!」


本格的に真っ赤になった夕鈴の抵抗を、ものともせず。


「・・・・夕鈴は、僕とくっつくの、いや?」


ニコニコと小犬の笑顔で、黎翔は愛しい兎を見上げる。


「・・・・・い・・・・いやじゃ、な・・・」


かあっ、と音がしそうな勢いで首まで真っ赤になった夕鈴は、思わず夫から目を背けた。



寝乱れた胸元が開いて、滑らかで逞しい肌が間近に見え。

さらさらの髪から、清やかで深い、夫の香りが漂う。

寝起きの紅い瞳は、すこしぼうっとしているようで。



「あ、あの・・・陛下、朝のお仕度を・・・」

熱が上がりそうになる自分を、無理に押さえ込んだ。


そんな夕鈴を蕩ける様な表情で見つめていた黎翔は。


「ああ。__________これが済んだら、な。」


紅い瞳を光らせて、ぐいっ、と夕鈴を寝台へ引き込んだ。






「_______________ほんと、いつまでも仲良しだよね・・・・」

離宮の中庭、見事な桜の大樹の上で、隠密は独りごちた。










王宮、庭園。



「___________正直に、申し上げて宜しいのですか?お兄様?」


茶を一口含み、桜花はにっこりと兄を見上げた。


「ああ、頼む。」


少し緊張した面持ちで、清翔は桜花を見つめる。


「・・・・では、遠慮なく。」


ことん、と白磁の茶器を置き、桜花はにっこりと笑った。


「湯温も、薫りも、申し分ございませんわ。・・・ですが。」


「・・・が?」


「少し雑味がございますわね。なんと申しましょうか・・・・下心?」


「し、したっ?!・・・・おまえ、さらっと凄いこと言うな・・・・」


「お兄様。___________玉華さんと、何かございまして?」


「何か、って・・・・」


「お兄様。正直に。」


「________分かったよ。」


清翔は観念したように瞳を閉じた。







「_________清翔、お兄様。・・・いいえ、兄上。」


清翔の話を聞き終わった桜花は、姿勢を正した。


「・・・本当に、宜しいのですか?本来の居場所に、お戻り頂けるのですか?」


「__________ああ。」


「結局、私や明翔兄様の為に、兄上は・・・・・」

苦しげに顔をゆがませる桜花の頬に、清翔は優しく手を沿わせる。


「そんな顔をするな。」


「兄上・・・」


「お前たちのおかげで、私は思いもよらぬ夢のような日々を得た。________もう、充分・・・・だ。」




紅い瞳。

血のような色のはずのそれに、どこか優しい色が混ざる。

見る物を竦ませる様な、厳しい眼差しのはずなのに・・・どこか安らぐ、不思議な瞳。




吸い込まれるような兄の瞳を見上げる桜花の頬に、涙が一筋、伝った。


皇子の願い④へ
2013_05
30
(Thu)20:07

皇子の願い④

【設定・未来・お子様あり】
【ご注意!オリキャラ(お子さま三人・李順さんの奥さん・その他)でまくりです。】
【捏造の塊でございます】
【ほぼ、お子さま世代がメインの話しです】


☆人物説明

珀清翔(長男にして、李順の長女と夫婦。李家に居候中。)
珀明翔(次男にして、時期国王・・・なのは、まだ内緒。)
珀桜花(三人兄弟の末子。長女にして、女王。几鍔の嫁になることが決まっている。)

李芙蓉(李順さんの奥様。)
李玉華(李順さんの長女。清翔の妻。姉さん女房。)


この他にも、オリキャラさんが出てくる予定です。


苦手な方は、ご無理なさらず!!



奪還をお読み頂いてからのほうが、分かりやすいかと思われます。



《皇子の願い4》




明翔はふらふらと下町を歩いていた。


大好きな、市場の賑わい。

心浮き立つ、人々の活気溢れる笑顔。


_________でも、だめだ。



ふわりとしたこげ茶色の髪。

同じ色の、澄んだ瞳。

翳りのない、笑顔。



『彼女』の面影ばかりが浮かぶ。












数週間前、明翔はお忍びで東の国境に視察に赴いた。


東の隣国・翠と白陽国との間には、未だにある種の緊張感がある。

もう随分と前の事になるが、翠国の前国王・玉禮が、夕鈴欲しさに白陽国に侵攻した過去があるからだ。

今の国王・玉環は、前王とは違い、極めてまともな神経の持ち主であるため、狼陛下の正妃に手を出すなどという自殺行為は、しない。


ここ数年は、両国間の交易も盛んになり、一時ほどの緊張状態は脱したが・・・・。


黎翔が在位中は、『翠国』という言葉を口にする事は、ある意味、禁忌ですらあった。

狼陛下の機嫌を急降下させる禁句。

それが『翠国』だったのだ。




桜花が即位して三年が経過した今では、清翔たちの狙い通り、『白陽国は文治路線に舵を切った』と近隣諸国は考えているようだ。

それに伴い、交易や文化交流も盛んになり、李順の手腕も遺憾なく発揮され、白陽国の国庫は潤沢に潤い始めている。


そんな中でも、この東の国境への視察だけは、欠かさない。

白陽国王家の、翠国への怒りの程が、その一事だけでも窺い知る事ができた。




「_________この河が国境、か。」


随分と前、兄・清翔とともに、翠国王宮を占拠するためにこの河を渡ったときのことが思い出される。


「あの時ほど腹が立った事はなかったなぁ・・・・」


普段は明るい明翔の瞳に、一瞬、翳がよぎる。


「__________ふぅ。」


少しの間冷たい水と戯れ、そろそろ移動するか、と腰を上げた時・・・明翔は『その人』に気付いた。


「・・・・・あ。」


河の向こう岸。

栗毛の駿馬を労わりながら朗らかに笑う、すらりとした長身の・・・・男、か?

そう、明翔が思った瞬間。

すっ、と髪に手をやり、その人は長い髪を解き放った。


「___________っ!」


ふわりと広がる、豊かな髪。

遠目でも分かる、明るい笑顔。


・・・・・あれ?女の人、かな?


明翔の心の声が聞こえたのか、その人がこちら岸を見た。


「・・・・あのっ!!!」


明翔は、我知らず大声を上げ。


「そちらに伺っても、宜しいですか?」


___________何を言っているんだ、私は。


我に返った明翔が自分に突っ込みを入れたとき、向こう岸の『彼女』が・・・にっこりと笑い、手招きを、した。


___________行くしかない。


明翔は躊躇なく、馬を河に乗り入れた。







「こんにちは。」

「こんにちは。」


「遠乗り、ですか?」

「・・・ええ。そうです。」


「________良い馬ですね。」

明翔は傍らの馬に目をやり。

馬を褒められたその女性は、にこっと笑った。


「ふふ、ありがとうございます。綺麗な子でしょう?」

「______ええ、とても美しいですね。まるで、貴女の様です。」

「・・・・は?」


邪気のない笑みで、明翔は素直な気持ちを口にする。


「この美しい栗毛の馬同様、貴女もお美しい、と、申し上げたのですが・・・お気に触りましたか?」


女性にしては長身だが、明翔よりは低い位置にある美しい顔を、覗き込んだ。


その、澄んだ紅い瞳で。


ぴくっ、と『彼女』の体が強張ったのを、明翔は見逃さず、問いかける。


「・・・なにか、気になることでも?」


ことん、と首をかしげて『彼女』を見つめた明翔に、はっとした様子で『彼女』は言葉を継ぐ。


「いいえ、失礼を・・・・。美しいのは、貴方のその紅い瞳ですわ。」


衒いのないその言葉に、明翔の頬が染まる。


「・・・ありがとう、ございます。」


「・・・・ふふっ」

「・・・・ぷっ」


二人は、微笑を交し合った。


少しの間、二人で馬を走らせ、当たり障りのない、だが、心安らぐ会話を交わし。

いよいよ夕刻が迫ってきた頃。



「_________また、一月後に、ここでお会いできますか?」

「ええ、喜んで。」


よかった、と、明翔が安堵のため息をつくと、『彼女』は朗らかに笑った。


「・・・・僕は、珀明翔。貴女の名、は・・・・」

「____________それは、今度お会いしたときに・・・・」


急に硬い表情になった『彼女』は、少し悲しげに微笑み、去っていった。











「______________まさか、翠国の皇女だったなんて・・・」


夕日に包まれていく王都の喧騒を眺めながら、明翔は立ち尽くしていた。


迷子のように。


皇子の願い⑤へ
2013_05
31
(Fri)13:21

皇子の願い⑤

珀清翔(長男にして、李順の長女と夫婦。李家に居候中。)
珀明翔(次男にして、時期国王・・・なのは、まだ内緒。)
珀桜花(三人兄弟の末子。長女にして、女王。几鍔の嫁になることが決まっている。)

李芙蓉(李順さんの奥様。)
李玉華(李順さんの長女。清翔の妻。姉さん女房。)


この他にも、オリキャラさんが出てくる予定です。


苦手な方は、ご無理なさらず!!




《皇子の願い5》





どれほど立ち尽くしていたのだろう。


「・・・・ほら、帰るぞ」


背後からぽんと肩を叩かれるまで、明翔は夕日を浴び続けていた。


「几鍔おじさん。」


「・・・桜花から連絡が来た。心配してたぞ?」


「あ・・・もう、夕暮れですか。」


子どものような明翔に、几鍔はやれやれとため息をついた。






三人兄弟の真ん中の明翔は、手がかからなくて、よく気が利く子だった。

いつも兄や妹を気遣い、両親が笑顔でいられる様に、手を回し。



まだ子どもだった清翔が、毒の食事のせいで『病弱』と囁かれていた頃も。

逆臣に攫われた桜花が、歯を食い縛って辱めに耐えた時も。


___________気付かぬ振りをし。痛みを隠し。怒りを押し殺し。声を飲み込み。


晴れやかな笑顔だけを、家族に見せ続け。


「守りたい」ただそれだけが、コイツの望みで。


コイツは___________よく、似ている。記憶の中の、俺の幼馴染と。




初めて見る明翔の表情。

どこに行ったらよいのか分からず途方に暮れる、迷子の顔。


「__________難しく、考えすぎなんじゃねぇか?」


自分と同じくらいの背丈の明翔の肩に、几鍔は手を回した。












離宮。



「・・・・それで、太子は今王宮だよ。なんか桜花ちゃんと内緒話ししてる。」

「内容は。」

「聞かせてもらえると思う?あんたの子だよ?陛下。」


浩大の報告は続く。


「それで・・・浩大、明翔の様子はどうなの?」

「あー・・・だめ。全然ダメだって、本人が言ってた。」

「何があったのかしら・・・」

「えーっと、それはー・・・ねぇ、陛下。」


浩大は、黎翔に助け舟を求めた。


「・・・・・あのさ、夕鈴。」

「はい、陛下。」

「明翔も年頃の男の子なんだから・・・ほら、悩みの一つくらいは、ね?」

「・・・・あ、そういうことですか。・・・どちらのお嬢さんなのかしら。あの子、粗相してないといいけど・・・」

「あー、その辺は大丈夫。手は早いけど、粗相はしない人の息子だから________って、陛下!なんで小刀投げるの?!」

「うるさい。」

「_______________手が、早い?誰が、誰に?」

「ちょ、夕鈴誤解!!誤解だって!!夕鈴にしか、僕は手を出してないから!!ね?!」


報告は、なかなか進まない。










王宮。



「________玉華が、どうしても首を縦に振らないんだよ・・・」


清翔は心底困っていた。


「白陽国に必要なのは、臣下出身の正妃じゃなくて、交易で巨利をもたらす異国の皇女だ、って言うんだ。」


「・・・・・」


桜花は、無言だ。


「毎日毎日、『君しか要らない』って言葉を尽くして行動にも表してるのに・・・・絶対、うん、と言わない。」


「・・・・・それは、李順さんの娘ですもの・・・ある意味お父様より手強いですわね。」


「それで、泣くんだよ。玉華。」


「え?玉華さんが、泣くのですか?!」


桜花は心底驚いた。


「私、玉華さんが泣いたところ、一度も見たことありません!」


「____________泣くんだ。抱かれながら、すごく、哀しそうに。」


「あ・・・・・」


「ねえ、桜花。どうしたらいい?」


「・・・・・・・」



どちらからともなく、ため息が漏れた。












日も暮れ、夜の帳が下りる頃。


離宮の中庭で、黎翔は月を見上げて立ち尽くしていた。




_____________やっぱり、許せない。


自国に侵攻し、妻と娘を奪おうとした、翠国の前国王。

今の国王・玉環は、温厚で勤勉。前国王の甥に当たるが、血は、遠い。


____________明翔が翠国の皇女を娶る。


外交的には、これ以上ない縁談かもしれない。


もう何年も前の、全てが終わっている事を蒸し返すのは、狭量だ。

明翔が心から想うのなら、良いではないか。

明翔が想う相手なら、きっと気立ての良い皇女なのだろう。



だが。



『・・・・へい、か・・・・黎翔様・・・』



翠国の離宮に夕鈴と桜花を奪還しに行った、あの時の。

自分の姿を認めた妻の、あの表情と、震える身体。


思い出すだけで、身が焼けるようで。


「______________すまん、明翔・・・」


やっぱり、いやだ。


黎翔は、自分の狭量さを呪った。


皇子願い⑥へ
2013_05
31
(Fri)18:43

皇子の願い⑥

【設定・未来・お子様あり】
【ご注意!オリキャラ(お子さま三人・李順さんの奥さん・その他)でまくりです。】
【捏造の塊でございます】
【ほぼ、お子さま世代がメインの話しです】


☆人物説明

珀清翔(長男にして、李順の長女と夫婦。李家に居候中。)
珀明翔(次男にして、時期国王・・・なのは、まだ内緒。)
珀桜花(三人兄弟の末子。長女にして、女王。几鍔の嫁になることが決まっている。)

李芙蓉(李順さんの奥様。)
李玉華(李順さんの長女。清翔の妻。姉さん女房。)


この他にも、オリキャラさんが出てくる予定です。


苦手な方は、ご無理なさらず!!





《皇子の願い6》




李家。


「お帰りなさいませ、お兄様。」


芙蓉は今日も心から嬉しそうに微笑み、李順を出迎える。


「今帰りました、芙蓉。・・・・玉華は?」


最近の李順は、帰邸時に必ず娘の様子を尋ねる。


なにかある、と察しはするが、芙蓉は夫を問い詰めるような事はしない。


____________話さない理由がおありなのね。


夫の微細な表情の変化から、芙蓉はその心情を推し量る。


「・・・今日は特に外出もせず、ゆっくりと書画を楽しんでいたようですわ。」


おっとりと、芙蓉は答え。


「・・・・そう、ですか。」


李順は、ほっとため息をついた。





___________夜半。



明翔を待つために王宮に泊まることになった清翔が、冴え冴えとした月を見上げていた頃。


「・・・・・ごめんなさい・・・・」


蒼く美しい夜空に浮かぶ月を見上げ、声を震わせて、呟き。


李家から、玉華の姿が・・・・消えた。












翌日、早朝。


王宮では。


「清翔様っ!!」


王宮の自室で、着替えを済ませたばかりの清翔のもとに、李順が駆け込んできた。

異変を察し、清翔の気が尖る。


「玉華、がっ!」


「っ!」


清翔は、飛び出した。

_________王宮の、外へ。





王宮の外門には、すでに浩大が待機していて。


「足取りは。」


久方ぶりの清翔の怒気交じりの声音に、浩大ですら一瞬口ごもる。


「・・・わからない。」


「っ!」


ぴたりと清翔の足が止まり、浩大が静かに報告する。


「玉華ちゃんが持ち出した路銀は、かなりまとまった額だ。足が付かないよう、馬車を借り切ってどこか遠くまで行くつもりだと思う。馬車を長期間借りた女性を捜索中。でも、金で口止めしている可能性もあるから・・・そうなると、捜索に時間がかかって、足取りはますます追い辛くなるね。さすがは李順さんの娘だ。簡単には探せない、かな。」


感心した口ぶりの浩大を、清翔は睨みつけた。


「李家に、なにか書置きは。」


「探すな、と一言。」


「________『探すな』だと・・・・?」


清翔の冷たい声音に、浩大の背筋を懐かしい感覚が這い登る。

____________さすが陛下の息子だ。怒気だけで人を殺せるよ。


清翔の紅い瞳が濃く色を変え。

口元には、鮮やかな笑みが浮かぶ。

本気で怒ったときにだけ見せる・・・・極上の、笑み。


「・・・・絶対に、見つける。」


清翔は、李家に向って走り出した。











同時刻。几商店。



「なんだって?!荷馬車が足りねえ、だと?」


朝から几鍔の大声が響き渡る。


「すいません、アニキ。なんでも急に荷馬車を数台買い上げたいってやつがいたらしくて。」


「だからって、『足りねえ』じゃぁ・・・・こっちが困るんだがな。」


うーん、と考え込んだ几鍔の後ろから、遠慮がちに明翔が声をかけた。


「あのー・・・泊めてもらってありがとう。僕、帰るね。」


「おお、気をつけてな!・・・あんまり、考えすぎるんじゃねえぞ?お前が思うより、世の中もっと単純にできてんだ。」


「うん、ありがとう、おじさん。」


明翔は、王宮に向って歩き出した。




早起きが常の下町だが、さすがにまだこの時間は人通りもほとんど無く。

明翔は、まっすぐに王宮を目指す。



__________世の中、もっと単純、か。


人を安心させる、几鍔のおおらかな笑顔が浮かぶ。


__________悩まずに、『彼女』に伝えてみようかな。




僕の、『願い』を。



昨日とは打って変わった足取りで、明翔は歩き続け。


「・・・・・?」


異変を、感じ取った。


早朝の空気をかき乱すように走る、あれは・・・兄上、か?


「兄上?!」

「明翔!お前も来いっ!!」


有無を言わさず、腕を引っ張られ。

玉華が身を隠した経緯を聞かされながら、明翔は李家に連れ込まれた。










離宮。


「________陛下っ!」


最近の朝寝のおかげで、黎翔はまだ寝室にいた。


「なんだ、朝から。」


不機嫌そうに返事をする黎翔に、浩大は苛ついた声を投げる。


「起きろよ!アンタがいつまでもぐずぐずしてるから、玉華ちゃんが消えたんだよ!!」


「っ?!玉華が、消えた?!」


「少し考えれば、分かる事だったろ?!玉華ちゃんが、太子が即位後に自分が正妃になるのは得策じゃない、って考えてたの、あんた知ってたよな?あの李順さんの娘だぞ?こっちが先手打っておかなきゃ、って・・・・さんざん、言ったぞ?俺は!!」


「・・・・ちょ、浩大、陛下、なんの話し?」


騒ぎを聞きつけ、寝室に戻ってきた夕鈴にかまわず、浩大は吠える。


「あんなに!!あんなに太子が大切にしてたのに!いつまでも昔の事にこだわってるあんたのせいで!どうすんだよ!陛下!!」

ぜえぜえと、肩を上下させて、浩大は黎翔を怒鳴りつける。

初めて見る浩大の形相に絶句していた夕鈴が、ようやく口を開いた。


「___________陛下、浩大。きちんと、教えて。」




・・・黎翔は、うなだれて説明を始めた。



曰く。



明翔が数週間前に翠国の皇女を見初め、妃に望んでいること。
その皇女・玉水蘭は、第一皇女にして国王唯一の、直系長子であること。
それを知った明翔が、思い悩んでいる事。


そして。


明翔の悩みを察した清翔が、『太子』に戻る覚悟を決めた事。
玉華が、自分には『正妃』の価値がない、と、譲らぬ事。


そして。


「明翔が、翠国に入る。」


それで、全てが解決する、こと。


そして。


どうしても、自分がそれを許せない、こと。




手早く、だがしっかりと全てを語り終えた黎翔は、力なく寝台に座り込み。


「_____________私の、せいだ・・・・」


低く、呻く。


そして。


「行くぞ、浩大。」


「ちょっと待って、私も行きます!」


李家に、向った。



皇子の願い⑦へ
2013_05
31
(Fri)20:21

皇子の願い⑦

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珀清翔(長男にして、李順の長女と夫婦。李家に居候中。)
珀明翔(次男にして、時期国王・・・なのは、まだ内緒。)
珀桜花(三人兄弟の末子。長女にして、女王。几鍔の嫁になることが決まっている。)

李芙蓉(李順さんの奥様。)
李玉華(李順さんの長女。清翔の妻。姉さん女房。)


この他にも、オリキャラさんが出てくる予定です。


苦手な方は、ご無理なさらず!!





《皇子の願い7》



王宮。朝議の間。


今朝の女王陛下は、不機嫌極まりない。

居並ぶ大臣高官を威圧し、睨みつけ、怯ませる。


「_____________それでは、本日はこれまでと致します。」


女王に負けず劣らず不機嫌そうな側近は、さっさと朝議を終わらせ。


「では、陛下。私は帰らせていただきます。」


おもむろに帰り支度を始めた。


「ちょ、ちょっと、私も!」


「・・・・陛下には、別のお願いがございます。」


真剣な口調に怯んだ桜花に、李順は続ける。


「実は、つい今しがた思い至ったのですが・・・後宮及び王宮の庭園全てに、老師の手のものをお回し下さい。そして、井戸を塞いで下さい。お願い申し上げます。」


李順の顔は青ざめ、指先が震えている。


「私が玉華なら、と。・・・もし、私が・・・と、考えてみたのですよ。」


「李、順?」


「玉華は、あの子は・・・『枷』になりたくない、と・・・・」


「っ!」


「そして、どこへ逃げても逃げ切れぬことも、知っています。」


「あ・・・」


「あとは・・・・その『場所』です。」


「い、や・・・・」


「あの子にとって、一番『それ』に相応しい場所。愛しい方の側。幸せな思い出が詰まった、場所。___________それは、ひょっとして。」


「__________っ!行くわよ、李順!!」


長い裾をものともせず、桜花が走り出した。

全力で。




まだ小さい頃、よく清翔と玉華が仲良く腰を下ろしていた、あの場所。

幼い自分が遠慮してしまうほど、二人は絵のようにお似合いで。

日毎に美しくなっていく玉華を、清翔は包み込むように抱きしめて。


『もうっ!おやめ下さい!』

『・・・じゃあ、僕とずっと一緒にいてくれる?』


幸せそうな二人の会話が、耳に甦る。


「__________っ!!!」


桜花の視界が、涙で滲む。









その少し前、李家では。


黎翔が夕鈴にこってりと絞られ、うなだれていた。



「__________陛下。よろしいですわね?」


夕鈴が黎翔を睨みつけ。


「・・・はい。もう、我儘言いません。」


黎翔は反省し、縮こまる。



ちょうど、その時。


明翔から『荷馬車を数台買い上げた者がいる』との情報を聞き、確認に出ていた浩大が戻ってきた。


「・・・どうだった?」


清翔の声は、完全に狼だ。


「・・・たぶん、玉華ちゃんだね。荷馬車を数台、御者ごと買い上げ、東西南北に三日間走らせる手配をしたらしい。そのうちのどれかに、自分が乗ったんじゃないかな、きっと・・・」


「・・・・手が込んでるな・・・」


ぼそっと呟いた黎翔を、夕鈴が睨みつける。


「だから、李順さんの娘さん、ですよ?玉華さんは!そう簡単に捕まるわけないでしょう?!」


大声で夫を叱り付ける夕鈴の言葉を、清翔が遮った。


「・・・母上。李順と玉華は、似てます、よね?」

「え、ええ・・・とても。」


「_______芙蓉殿。」

「はい。」


「玉華は、『枷』になりたくない、と・・・?」

「ええ。」


しばし、清翔は考え込み。


黎翔が、すっと立ち上がる。


「___________行くぞ、清翔。」

「・・・・父、上・・・まさ、か」


「認めたくはないが・・・・やりかねん。」

「っ!」


清翔の顔が青白く変じ、唇が戦慄き。


「行くぞっ!!」


父に叱咤され、ようやく、我に返る。


「遅いよ!陛下!太子!!」


二人の遥か先を、浩大が駆けていった。











______________ここは、いつも居心地がよくて。


さわさわと耳に優しい葉擦れの音。

ちらちらと漏れる、木漏れ日。


『ねえ、僕が大きくなったら、結婚してくれる?』

『ふふ、太子様が、大きくお強くなられましたら。』


その約束の通り、私の太子様は誰よりも強くなられた。


『_________我が母のように、私に寄り添え。』


身震いするほど、嬉しかった。


何も考えず、腕に飛び込みたかったのに。


__________私じゃ、足りない。正妃には、不足。


どんな時も感情に溺れられない自分が、嫌い。




何も言わずに、ただ私を抱きしめてくれる愛しい腕。


・・・私はその抱擁に溺れられない。


その腕に、自分ではない誰かが抱かれるのを見る覚悟も、ない。


だから。



ごめん、なさい。


「・・・・・・『ここ』からなら、いつも、貴方を・・・・」


後宮を、血で穢すわけにはいかないから。

眠るように、ここで逝こう。


懐から小さな丸薬を取り出し。

躊躇わず、玉華がそれを口に含んだ、その時。



ようやく、清翔が玉華を見つけた。



「玉華っ!!」


清翔は玉華の口を手でこじ開け、口内を舌で探り。

口中に広がり始めた『毒』の味に、顔をしかめる。


__________この『毒』は・・・まずいっ!!


玉華に毒の耐性は、ほとんど、ない。

清翔は必死に口内の丸薬を探り出し、吐き出し。

毒の味がする唾液を自分が飲み込む。


不意に、玉華の身体から、力が抜け。

駆けつけた老師が、診察を始める。


「・・・・大丈夫、この様子なら、数日で回復いたします。」


清翔は、その場にへたりこんだ。





皇子の願い⑧へ
2013_06
01
(Sat)00:39

皇子の願い⑧

【設定・未来・お子様あり】
【ご注意!オリキャラ(お子さま三人・李順さんの奥さん・その他)でまくりです。】
【捏造の塊でございます】
【ほぼ、お子さま世代がメインの話しです】


☆人物説明

珀清翔(長男にして、李順の長女と夫婦。李家に居候中。)
珀明翔(次男にして、時期国王・・・なのは、まだ内緒。)
珀桜花(三人兄弟の末子。長女にして、女王。几鍔の嫁になることが決まっている。)

李芙蓉(李順さんの奥様。)
李玉華(李順さんの長女。清翔の妻。姉さん女房。)


この他にも、オリキャラさんが出てきます。


苦手な方は、ご無理なさらず!!



一応、これで最終回です。






《皇子の願い8》




清翔が解毒の薬湯を口移しに飲ませ、その影響で玉華は高熱を出した。


「おそらく、明日の朝になれば熱は下がります。」


老師はそう言って、下がり。

清翔は終始無言で、玉華をじっと見つめていた。



『いまだけは・・・・』


背に縋り付き、玉華がそう言ったとき。


__________なぜ、もっときちんと向き合わなかった?


哀しげに泣きながら、僕に縋り付く、君。


__________どうして、もっと伝えなかった?


ここまで君を追い詰めたのは・・・・僕、だ。





玉華が飲もうとした『毒』。


あの毒は、眠るように、だが、確実に死へと誘う、猛毒。


___________あの樹の下で、眠るように逝くつもりだったのか?


苦しげな息遣いで横たわる妻の頬に、清翔はそっと触れ。


「・・・・一人で、なんて、逝かさない。」


ぎりっ、と唇を噛み締め。


「玉華・・・・・」


額に、口付けた。


すると、ぴくりと玉華の瞼が震え、ゆっくりと、目が開き。


「・・・・・太子さ、まは・・・・きちゃ、だめ、です・・・」


切れ切れに紡がれた言葉に、清翔の中で何かが切れた。


高熱で熱くなった玉華の唇に、噛み付くように口付け。


燃える様な紅い瞳が、怒りの程を表す。


「・・・・せいしょ・・・さま・・・・」


息も絶え絶えな玉華に、清翔は覆いかぶさり。


「君以外は、要らない。君が逝くのなら、私も逝く。『太子』を殺したくなくば、自分を生かせ。玉華。」


両手で顔を挟み込み、真っ直ぐに、伝える。


「わ、たし・・・・あなたが、ほかのひとと・・・・たえられ、な」


「耐えられずとも、生きよ。私を置いて死ぬな。何があろうと、生きよ。__________そして、何度言わせれば、分かる?」


清翔の笑みが深まり、本気の怒りが玉華を襲う。


「私の妻は、君だけだ。・・・・分かるまで、分からせる。もう手加減などせぬ。覚悟しろ、玉華。」


夫から与えられる激しい熱と、身の内で荒れ狂う、『解毒』の熱。


明け方まで抗い続けた玉華は、気を失う寸前に、ようやく、頷き。



翌朝、清翔は、桜花にすごい勢いで怒られた。











それから、二週間後。


明翔は、『彼女』と再会の約束を果たすため、国境の河辺に佇んでいた。



「・・・・来てくれる、かな・・・」


明翔は向こう岸を見つめながら、先日のやり取りを思い出していた。









約束の日の、一週間前。


「__________李順。準備は進んでいるのか。」

「はい、陛下。」

「説明しろ。」


黎翔の指示で、李順が話し始めた。


「明翔殿下。ただ今白陽国は、翠国に縁談を申し込んでおります。」

「は?」

「翠国皇女・玉水蘭様と、珀明翔殿下の縁談です。」

「え?だ、だって!」

「明翔様。・・・・翠国へ、お入りになる覚悟はございますか?」

「僕が、翠国へ・・・」

「はい。過去のしがらみを水に流し、両国の新たな関係を築く、よい楔となりましょう。」

「・・・・・」

「話しは変わりますが。数年前より、我が家の長男・李正と、次男・李章が遊学に出ておりますのを、ご存知ですか?」

「ああ、知っている。」

「そろそろ、李正を呼び戻す事にしました。」

「そうか。」

「そして・・・・李章は、数年前に翠国で官吏登用試験に合格し、現在は王宮政務室にて勤めております。」

「え?!」

「これは、上皇陛下もご存知の事です。」

「え?え?」

「・・・・もう何年も前から、です。目的は『友好』ではなく、『侵攻』でしたがね。」

「侵攻・・・・」

「ですが、事情が変りました。上皇陛下も、過去の事は水に流すと仰った事ですし!ね?陛下?!」



ぶぅ、と頬を膨らませて、黎翔は嫌そうに返事をする。


「・・・・水に、流す。・・・流さないと、夕鈴が寝室に入れてくれない。」


ふぅ、と李順はため息をつき。


「ですから、殿下。心置きなく、翠国皇女にお会い下さい。」


にっこりと、笑った。










遠くに栗毛の駿馬が見える。

ぱっ、と明翔は立ち上がり。

徐々に近づいてくる皇女を、待つ。



翠国と白陽国を分かつ河の、こちらとあちら。

そこにあるのは、見えない壁のような、何か。


・・・・でも。



__________きっと、世の中はもっと単純なんだ。


明翔は、几鍔の言葉を思い出す。


こちらとあちらの違いなんて、きっと、とても微々たる物で。


どちらにも『人』が住んでいて。


どちらにも、大切な人が、いる。


ならば、僕のする事は・・・・






ざぶん、と河に乗り入れ、向こう岸に渡り。

皇女の手をとり、笑顔で告げる。


「私の妻に、なって下さい。」


心からの『願い』を、伝えること。


他の誰でもなく、僕の心からの『願い』を。


_________君に、伝えること。







微笑みあいながら、見詰め合う、翠国皇女と明翔のお話しは、また、別の機会に。