2013_09
10
(Tue)12:47

護花 1

こんにちは。
あさ、です。


今回は、少しシリアスになるかもしれません。
ゆっくりした更新になるかと思いますが、お付き合い頂ければ幸いです。







【設定・未来・夕鈴正妃です。】
「漆黒」の続編となります。】
【捏造の塊です。東西の国々等を捏造しまくっております。】
【オリキャラ出ます。】



《護花 1》




我が唯一の花を苦しめた者に、相応の罰を。








白陽国の遥か西方の国、黄繍国。

髪の色も、瞳の色も、肌の色も。

まるで異なる国から押しかけてきた、異国の皇女。


正妃気取りで好き勝手に後宮を荒らし。

交易を盾に、夕鈴を苦しめた。


そして、私は。

愚かな女に相応しい罰を、与えた。


殺しはしなかった。

殺してくれと、泣き叫んではいたが。


思い知るといい。

私に仇をなした者の、末路を。


思い知らせてやろう。

______________さあ。

出て来い。


狩りの時間だ。










黄繍国の皇女が後宮から追い出されて、三月ほど後。

白陽国の西国・朱国に、黄繍国が侵攻した。

王都を占領され、黄繍国の属国と化した、朱国は。

白陽国に、使いを寄こした。


要求は、白陽国・正妃の身柄。


使者は即刻斬り殺され、骸は黄繍国に戻され。


白陽国と黄繍国の戦が、幕を開けた。








「夕鈴。君が気に病む必要などない。」

「でも、私のせいで・・・・・っ!」


開戦が決まってから後、夕鈴は目に見えて痩せ細り。

笑顔を見せることも稀になっていた。


「私のせいで、陛下が危ない目に遭ったらと思うと!」

「だから、君のせいではない。」

「兵達も、その家族も、相手の国にだって・・・・きっと、たくさんの死者が・・・」


ボロボロと、夕鈴の目から涙が零れ。

黎翔の心は締め付けられるように痛む。


「____________私の浅慮が、このような事態を招いたのだ。」

「ち、違っ!陛下は悪くないです!・・・あの時、私が毅然と対応していれば・・・」


目を強く瞑り、涙を振り払い。

夕鈴は黎翔に跪き、礼を取り。


「夕鈴、何をっ!」


慌てて膝をつこうとした黎翔を、押しとどめ。

しっかりとした口調で願い出た。


「陛下。私を黄繍国へ。」


黎翔の握り締めた拳からは、血が伝い。

噛み締めた唇は、真っ白に変り。

肩が小さく震えた。


「______________夕鈴。それだけはダメだ。」

「でも!」


怒りで視界が赤く染まる。

黄繍国の王が、捕らえた正妃をどの様に扱うか。

想像しただけでも、怒りに身体が震え、血が煮えたぎる。


「私のせいで!!」

「駄目だっ!!!君のせいではないと、何度言えば分かるのだ?!」


狼陛下の咆哮が、回廊にまで響き渡り。


「浩大っ!!正妃を部屋から出すな!!」

「了解。」


珍しく怒気を纏った浩大が、夕鈴を睨み付けた。



「・・・お妃ちゃん。絶対、逃がさねえからな?一歩も部屋から出るなよ?」

「わかったな?夕鈴。」

「浩大!陛下っ!!!」

「・・・駄目だ。絶対に、それだけはできん。」

「俺も、それだけはさせねえ。」


呆然と立ち尽くす夕鈴を残し。

黎翔は王宮へと姿を消した。



スポンサーサイト
2013_09
11
(Wed)15:13

護花 2

こんにちは。
あさ、です。

そう。毎日長々と書くから、ダメなんです。
そう。時間制限をかければ、よいのです。

読んでくださる皆様には、大変ご迷惑かと存じます。ごめんなさい。
書かない・書けないのも、ストレスが溜まって。(病気)

ちまちまと、ゆっくりと、楽しく書こうと思います。


「護花」の続きです。
捏造の東の隣国・翠が出てまいります。夕鈴をストーキングする王様もご登場です。

もし宜しければ♪




【設定・未来・夕鈴正妃です。】
「漆黒」の続編となります。】
【捏造の塊です。東西の国々等を捏造しまくっております。】
【オリキャラ出ます。】



《護花 2》




白陽国軍が国境へ向けて、発した。

黎翔も武具に身を包み、王宮を出る。


「____________陛下。」

王宮殿前の大門で。

夕鈴は正妃として国王を見送る。

「____________こちらのことは、任せたぞ。正妃。」

「はい。お心安らかに、お発ち下さいませ。・・・御武運、を。」

蒼白な顔で。

それでもしっかりと夕鈴は言い切った。


____________行かない、で。


消し去ったはずの想いが浮かぶ。

もし、もしも。陛下に何かあったら。

そんな不吉な考えが、どうしても消えない。


「っ・・・陛下!」


小さく、小さく。

囁くように悲痛な声を上げた夕鈴の後姿に、侍女たちはそっと涙を拭い。

黎翔は夕鈴に駆け寄り、乱暴とも言える激しさでその身を抱き締めた。


「案ずるな。かならず戻る。・・・・夕鈴。待っていてくれ。」


自分の胸に縋りつきながら頷く夕鈴の額に口付けを落とし。


「________________行くぞ!」


黎翔は馬上の人となった。








その頃。

白陽国の東・翠では。


「_________逆恨みの矛先を、夕鈴様に向けるとは・・・」


温和な瞳に獰猛な光を宿し、国王・玉禮が自室で酒盃をあおいでいた。

その足下に跪く隠密は、落ち着いて報告を続ける。。


「自らを差し出すように、正妃様はお申し出になり・・・」

「もちろん狼は止めたのだろうな?」

「はい。かなりお怒りのご様子で。」

「・・・・夕鈴様。さぞかしお辛い事でしょうな・・・」


何も出来ぬ自分に、腹を立て。

玉禮は酒盃を握りつぶした。

酒盃の欠片がその手に食い込み、紅い雫が床に綺麗な模様を作り。

どこから手に入れたのか、夕鈴の耳飾が玉禮の耳元で揺れ。

りん、と涼やかな音を立てた。

玉禮は、それにそうっと触れ、柔らかな笑みを浮かべ。


「・・・御身にかかる災いは、私が・・・」

愛しげに、呟く。


そんな主を見つめた、隠密は。

そっと口を開いた。


「・・・・我が君。白陽国に、お出ましになられるおつもりはございますか?」

「っ?!」


玉禮の目に、驚きが浮かんだ。




翌朝。

翠国国王の執務室では。


「・・・・・叔父上・・・・このツケは、必ずお支払い頂きますからね・・・」


諦めたような顔で、玉環が執務に望み。

隠密全てを引き連れて白陽国に向った叔父に、呪いの言葉を呟いていた。



2013_09
12
(Thu)08:27

護花 3

玉禮さんのストーキング日記(うそです)の続きです。

楽しんで書いております。すいません!


【設定・未来・夕鈴正妃です。】
「漆黒」の続編となります。】
【捏造の塊です。東西の国々等を捏造しまくっております。】
【オリキャラ出ます。】



《護花 3》




「・・・・ここは、どこだ?」

無駄な事は百も承知で、問いかけた。

にこやかな笑みを浮かべ、美女が無言で礼を取る。

答える気は全くない・・・・らしいな。

そりゃそうだ。




薄日の差し込む、立派な部屋。

藍色を基調とした、趣味の良い貴族の邸・・・ってとこか。

ゆったりとした、絹の衣装。

上物の香の香り。

香りに混ざる、神経性の毒の匂い。

豪華な食事。

食事に混ざる、睡眠薬と少しの媚薬。



この部屋で過ごせば過ごすだけ感覚を麻痺させるよう仕組まれた、豪奢な牢獄。


「あー・・・・この鎖、なんとかなんねえかな。」


重たくて長くてやたらと立派な鎖を両手足からじゃらじゃらとぶら下げて。

浩大は今日も快適な監禁生活を送る。


「・・・ったく。こんなトコでのんびりしてらんねえのに・・・」


早く、助けに来い。


南の方角を睨みつけ。

浩大はただひたすらに、じりじりと腸が焼けるような時間を過ごす。










白陽国・王宮。


「正妃様、こちらの書簡にお目を。」

「はい。」


黎翔の執務机に座るのは、白陽国・正妃。

しゃんと背筋を伸ばし、威厳に溢れた姿で。

夕鈴は粛々と政務をこなし続けていた。


「・・・周宰相。蒼玉国からの、この援軍の申し出は・・・・」


ふっと眉を顰めた正妃に、宰相の後ろから氾大臣が進み出て。


「恐れながら、この件は私めにお任せ下さいませんでしょうか?」

柔和な笑みを浮かべ、答えた。

すると、その脇から、

「__________いいえ。この件は私が。」


柳大臣が、氾を遮るように口を出し。


「おやおや、外交は氾の預かりだと思うのだが?」

「陛下のご不在を狙い、何を企んでいるのか・・・」


両大臣の息詰まる睨み合いが始まり、緊張に包まれた執務室に。


「ふふっ。」


正妃の春風のような微笑が通り抜け。

空気が一変する。

「氾大臣にも、柳大臣にも・・・・まだまだお願いしたい事がたくさんございますの。」

「正妃様の仰る通りにございますな。」


二人の大臣の目に、宰相が指し示した書簡の山が映り。

二人は諦めたように顔を見合わせた。


「__________それでは、水月さん。」


夕鈴は後方へと、声を投げ。

「蒼玉国に、丁重に御礼を申し上げて・・・・あとは、お願いしますね?」


言い置くと、何事もなかったかのように次の書簡に手を伸ばした。












夜。

白陽国・後宮管理人の自室。



「老師、浩大はまだ戻らないんですか?」


ゆっくりと茶を口に運びながら、夕鈴は美しい柳眉を顰めた。

ぴくっ、と張元の指先が震えたが、夕鈴はそれに気付かず。


「まだ、じゃのう。此度の戦場は、遠いからの。もう少しかかるじゃろ。」

「そうですか・・・。浩大でもこんなに日数がかかるなんて・・・本当に遠いんですね。」


背に冷や汗が伝うのを感じながら、張元は正妃に茶菓を勧め。

後宮全体を包み込む、見知らぬ気配に耳を澄ませた。







「_____________お部屋の仕度にぬかりはないか?」

「ございません。」

「夜着も、湯殿の花湯も、香油も?!」

「・・・・はい。」

「ああっ!お疲れの夕鈴様を癒して差し上げるには、他に何を・・・・!!」

「我が君・・・」


正妃の寝所の、屋根裏では。

今夜も玉禮が心を砕いていた。


「国王の政務を肩代わりされ、さぞかしご心労が耐えぬであろうに・・・夕鈴様・・・」


幾重にも警護の網を張り巡らし。

邪魔な隠密を排除し。

花を、護る。


黄繍国から差し向けられる刺客は、後を絶たず。

程度の低さから、かの国の腐敗ぶりが手に取るように分かった。

しつけのなっていない皇女。

私怨の為に国を疲弊させる国王。


「_________夕鈴様を、よこせ、だと・・・?」


闇の中。

玉禮の目は、炯炯と光り。


侍女たちを労いながら寝台に向う夕鈴の姿を、追い続けた。





2013_09
14
(Sat)08:03

護花 4

ちょっとだけ更新です。

懲りずに玉禮さんのストーキング日記、続きます。←



【設定・未来・夕鈴正妃です。】
「漆黒」の続編となります。】
【捏造の塊です。東西の国々等を捏造しまくっております。】
【オリキャラ出ます。】



《護花 4》




静かに静かに夜が、更ける。

闇が正妃の寝所を覆い尽くす、圧倒的な圧迫感に。

張元は寝台の中で冷や汗を流した。


____________そろそろ、限界じゃろう。


頭まですっぽりと掛け布に包まり。

自分と同じ大きさの空洞を作り上げ。

するりと寝台から滑り落ちるように、抜け出して。


張元は監視の目を潜り抜けた。





正妃の寝台は、広い。

恥ずかしがる夕鈴を押し切り、黎翔が勝手に設置したのだ。

天蓋は、高く。

寝台を覆い隠す垂れ布は幾重にも重なり合い、初々しい正妃を隠す。



_______________これでは、良く見えないな。


ゆっくりと天井から降りた玉禮の傍らに立つ隠密が、正妃を隠す垂れ布を一枚ずつ取り除き。

徐々に強くなる花の香りが、玉禮の脳髄を痺れさせ。

身体中に悦びが漲り。

笑みが、深まる。


しゃらん。

最後の一枚の薄布に取り付けられた飾りが、微かな音を立て。


愛らしい頬を桜色に染め。

軽く開いた唇から甘い寝息を漏らしながら、眠る。

狂うほどに求めてやまぬ、最愛の女性の姿を玉禮の眼前に晒す。


「____________。」


震える手が、伸ばされ。

微かに寝台を軋ませて、玉禮は帳の内に消え。


ゆっくりと上下する夕鈴の、胸に。

柔らかそうな、頬に。

艶やかな唇に。


黒い影が、覆いかぶさった。




2013_09
15
(Sun)14:39

護花 5

!!ご注意下さい!!

こちらのSSは、BL要素を多大に含みます。

その上、李順さんが酷い目に遭います。

こちらを読まずとも、「護花」を読むに支障はない・・・ように、書きます。(まだ続き書いてない)


ですので。

「BL」や「無理矢理」と言ったワードに危険を感じた方。

どうか、どうか。

ご無理なさらず、この先に進むのはお止め下さい。



この先をお読みになった後の、ご意見や苦情は受け付けません。

宜しいですか?






本当に宜しいですか?












最後にもう一回。

本当に、大丈夫ですね?







始めます。








【設定・未来・夕鈴正妃です。】
【「漆黒」の続編となります。】
【捏造の塊です。東西の国々等を捏造しまくっております。】
【オリキャラ出ます。】




《護花 5》



夕鈴を黒い影が侵食し始めた、同じ頃。

白陽国と黄繍国及び朱国は、息詰まる緊張感の中にあった。


兵力では白陽国が圧倒的に、有利。

だが、被る被害は侮れず、失う人命は多い。


_____________朱、ですか。


薄暗い天幕の中、李順は拳を握り締め。

意を決して、黎翔の元へ向った。




「陛下、お願いがございます。」

「どうした。」

「・・・黄繍との衝突は、早くても明後日の暁闇になりましょう。」

「そうだな。」

「ですので・・・・明日の、夕方。明日の夕刻まで、私に時間を。」


跪き、請う李順を。

黎翔は紅い瞳で射すくめる。


「_________何を考えている。」

「最善を。白陽国と陛下にとっての、『最善』を考えております。」

「・・・・無茶は、するな。」


眉を顰めた黎翔に、微笑を向け。

李順は単騎、闇に紛れて朱国へと向った。











「・・・ご尊顔を拝し」

「堅苦しい挨拶は抜きにせよ、李順。」


朱国・王宮。

国王の居室に。


李順は唯一人で立っていた。


「久方ぶりだな・・・・相変わらず・・・・美しい。」


朱の国王・珠昌。

白陽国と国交のある朱国は、李順にとって初めての地ではなく。

また、国王と顔をあわせるのも、初めてでは、ない。

珠昌の顔に浮かぶ、嬉しげな笑みを見て。

李順は、自分の推測が正しいことを悟った。


「____________国王陛下。何故・・・・」

「____________何故、黄繍ごときに易々と占領されたか、と?」

「・・・・はい。」


カツン、と靴音が響き。

珠昌の影が、李順を覆い。

くいっ、と頤を掴まれる。


「私は、無駄が嫌いだ。」

「存じております。」

「あのような国をまともに相手にするより、いっそ」

「白陽国という魅力的な余禄が手に入るよう、画策なさいましたか?」

「その通り。ここは、朱だぞ?李順。どこにも出かけることなく、両国を潰せるとは、天恵としか言い様がないな。」

「それでは、朱の国土が荒れましょう。」

「それほどの傷であれば、すぐに元に戻る。それに傷が癒えた後は、さらなる繁栄を民に与えられるぞ?私なら、な。」

「__________相変わらず、ですね。」



苦しげに眉を顰める李順の顔を、長身の珠昌は嬉しげに見下ろし。

歌う様に、囁く。


「だが・・・・白陽国に恩を売る、という選択肢もあるな。」

「・・・・黄繍を、背後から・・・」

「そうだ。__________白陽国は、最少の被害で最大の成果を得よう。」

「・・・・。見返り、は・・・」

「・・・李順。訊かずとも察しておるはずだ。」


珠昌の唇が、李順のそれを塞ぎ。

手が、肩を押さえ込む。


「___________っ!」


李順は手を握り締めてひたすらに、耐え。

そんな李順を、珠昌は獰猛に見下ろして。


「____________さあ、どうする?」


悪魔の様に、囁いた。









翌日、夕刻。


「・・・・ただいま、戻りました。陛下・・・」


青白い顔の李順を、じっと見つめ。

黎翔は続く言葉を待った。


「____________明日、未明。朱が黄繍の背後を・・・我が軍は、それに、乗じ・・・・・て・・・・一、斉に・・・」

「李順っ!!!」


崩れ落ちた李順の手首に残る、痛々しい痣と擦り傷に。

血が滲むほどに吸われた、首筋に。

その身に残る、異国の香りに。

黎翔の頭に、血が上る。


「____________李順!李順!!」

「・・・・だいじょう、ぶですので・・・・少し、休ませて、いただき・・・」

「あいつか?!」

「・・・・・宜しい、です、か?へいか・・・。被害は、最少に・・・・白陽国は、まだ長期戦に耐えられる国力、が・・・・」

「答えよ!」

「・・・・・自ら望んだこと、ですので・・・どうか、陛下・・・」

「________っ!」


意識を手放した李順の疲れ切った身体を、そっと寝台に横たえた、黎翔は。


「・・・・許せ・・・・」


呻くように、呟いた。





2013_09
17
(Tue)08:07

護花 6

ストーキング日記の続きです。

この王様が可愛くなってきました。笑




【設定・未来・夕鈴正妃です。】
「漆黒」の続編となります。】
【捏造の塊です。東西の国々等を捏造しまくっております。】
【オリキャラ出ます。】



《護花 6》




ぎしり。

微かに軋む、寝台。

正妃の甘やかな寝息が零れ出る、唇に。

触れるか触れないかの距離を、保ち。

胸いっぱいに、芳しい吐息を閉じ込め。

小刻みに震える身体を、押さえ込み。


玉禮は、耐える。



世にも稀なる、麗しくも可憐な、花。

無理に手折れば自ら散る、潔く、強い、花。


手に入れたいのは、花の全て。

その花弁のみならず、心も、全て。


____________我が、手中に。


薬を使えば、容易く奪える。

武力に訴えれば、直ぐにでも手に入る。


この頬も。
この手も。
この首筋も。
この柔らかな身体も。

・・・・艶やかな、唇も。


視界が赤く染まる。

「今すぐ奪え」と、もう一人の自分が暴れる。

意思に反して、手が動き。

抜けるように白い首筋に、かかろうとした、その時。



「___________ご容赦、下さいませんかのう・・・」



低い声と共に。

玉禮の首筋に長い針が当てられた。



ざわり、と闇が動き。

寝台の周囲を埋め尽くす。

だが、老師は動じない。


「正妃様のお眠りを妨げるでない。」


小さく呟き。

まるで世間話でもするかのように、玉禮に続ける。


「__________この御方は、ただの美花ではございませぬ。」

「・・・存じておる。それ故・・・」

「手をお出しにならず、今日までお守り下さったのですな?」

「ああ。」

「_________今、後宮は、手薄。」

「そのようだな。」

「正妃様を狙う輩は、後を絶たず・・・。正直、助かりましたぞ?」

「・・・・。」

「翠国国王陛下。どうぞ、このまま・・・お引取りを。」

「それでは、夕鈴様の護衛が!」

「御心配には及びませぬ。__________もう、到着致しました。」


刹那。

寝所を包む気配が、凶暴なものに取って代わり。

玉禮の背に、嫌な汗が伝い。

翠国隠密に、焦りが走り。


「・・・・・目立たぬように移動させましたゆえ・・・少々、時がかかりましてな。」


南の風が、寝所に満ちた。




2013_09
17
(Tue)14:07

護花 7

私の未来設定では、浩大には幼馴染がおります。
彼女も隠密で、蒼玉国で瑠霞姫に仕えております。

上記をご理解の上、今回の「護花」をお読み下さると、少しは分かりやすい・・・かな??←こら


【設定・未来・夕鈴正妃です。】
「漆黒」の続編となります。】
【捏造の塊です。東西の国々等を捏造しまくっております。】
【オリキャラ出ます。】


*今回は浩大救出シーンです。浩大、密かに酷い目に遭ってます。浩大の幼馴染(オリキャラ)が出ます。






《護花 7》





蒼玉国から呼び寄せられた老師の配下が、ひっそりと白陽国に到着した頃。

浩大は、相も変らず、豪華な牢獄の中にいた。



香に仕込まれた神経性の毒と、食事に混ざる睡眠薬と媚薬。

それらは正気を徐々に失わせ、手足の自由を奪い。

美しく着飾られた人形の如くに表情を失った、浩大は。

重苦しい鎖で両手足をつながれ、ただひたすらに助けを待ち続けていた。



____________南、だ。


ぼやけた頭で、必死に考える。

自分を保つために。


____________蒼玉国、だ。


あそこには、じいちゃんの配下が山ほどいて。

あそこには、あいつが、いて。

そう。

俺は・・・・捕まる直前、鳥を飛ばしたじゃねえか。

いつものヤツじゃなくて。

あいつと俺のためだけの鳥を、飛ばした・・・・はず、だ。


だから。

頼む。

早く、来い。

俺、そろそろ、限界だ。

この毒、性質が悪くてさ。

上手く解毒できねえんだ。


歯の裏側に仕込んだ解毒剤を、今日も一粒飲み下し。

浩大は、ゆっくりと目を閉じた。




深夜。


カタン


いつものように扉が開き、香が薄まる。


___________また、今日も、か。


夜毎にやってくる、『客』は。

自由を奪われた浩大を弄び、疲弊させ。

その気力を奪い続けていた。


上手く開かぬ目を、必死に見開き。

出来る限りの力を込めて、今日の『客』を睨みつけ。


「・・・・・よく、飽きねえな・・・」


言葉を発した浩大の唇を、柔らかな感触が覆い。

憶えのある香りが、浩大を覚醒させた。


「_________っ!」

「しっ。・・・って、何でこんなに弱ってるのよ。らしくないわね。」


厳しい口調とは裏腹に、瞳を心配げに曇らせ。

だが、手は休まずに浩大の鎖の錠を外し。

黒衣の女は、懐から薬瓶を取り出し、浩大に嚥下させた。


「・・・ぐっ、ごほっ・・・苦っ!苦すぎ!!」

「気付けも兼ねてるから。・・・ほら、行くわよ?」


久しぶりに会う幼馴染は、美しく微笑み。

浩大は苦笑いを浮かべ、その手を取った。


「・・・・かっこ悪い・・・」

「何言ってるのよ。浩大はいつも」


言いかけた幼馴染の唇を、そっと塞ぎ。


「___________ありがとな、風花。」


浩大は、ようやく自由を得た。





翌朝。


「風花。頭が遅刻とは、何事じゃ!」


老師の怒声が響き渡り、風花は低頭した。


「申し訳ございません。」

「・・・何をしておった。」


殊勝な風花に、老師の口調が幾分か和らぐ。


「__________陛下の『道具』を御許へお戻し申し上げておりました。」

「・・・・そう、か。」

「どうかご存分に、処罰を。」


膝をついた風花を、しばらく見つめ。

老師は。


「もう、よいわ。」


楽しげに、笑った。




護花8へ
2013_09
20
(Fri)11:17

護花 8

ようやく終わりが見えてまいりました。
もう少しだけ、お付き合い下さると嬉しいです。

戦のシーンが書けなくて、四苦八苦。
大目に見てやって下さいませ・・・。





*ご注意下さい!!*

今回は戦のシーンという事もあり、少々暴力的な表現がございます。
そういったものが苦手な方はご無理なさらないで下さい。



【設定・未来・夕鈴正妃です。】
「漆黒」の続編となります。】
【捏造の塊です。東西の国々等を捏造しまくっております。】
【オリキャラ出ます。】



《護花 8》




深夜。

奇襲を翌朝に控え、黎翔は束の間の休息を取っていた。


兵士達は見張りを残して休ませ、白陽国軍は完全に沈黙している。

そんな中。


「・・・・浩大、どこへ行っていた・・・」


黎翔は目を閉じたまま、問いかけた。


「すいません、捕まってました。」

「・・・・。」

「いや、お妃ちゃんは無事だから!絶対大丈夫だから!」

「・・・・ほう。なぜ言い切れる?」

「だって、じいちゃんが_________って!ちょっと、怖いって!!」


すらりと剣を抜き、紅い瞳を光らせて。

黎翔は浩大を睨みつけ。


後宮の状況を、察する。


「・・・・野放しに、したのか?後宮に、他国の隠密を入れた、と?」

「・・・・・・多分。」

「___________ほう。良い覚悟だ。」


狼は綺麗に微笑み。

その牙で隠密の喉笛を狙う。


「・・・この戦が終わったら、始末をつけてやる。」


楽しげな黎翔の囁きが、闇に溶けた頃。

帳がふわりと揺れ、李順が姿を現した。


「・・・陛下、その件に関しては、老師ばかりを責める訳には・・・」

「李順。寝ていろ。」

「御心配には及びません。」


大丈夫です、といつも通りの表情で答え。


「後宮には、黄繍からの刺客が押し寄せております。使えるものは何でも使わねば、正妃様の御身が危うくなります。」

「・・・だからと言って、翠の隠密をのさばらせる気か?!」


怒気を膨らませる黎翔に、ため息をつき。


「いえ。浩大がここに居るという事は、蒼玉国から・・・」

「あー、うん。山ほど戻ったみたいだから、もう大丈夫。」

「ご安心下さい、陛下。」



まだ怒りがおさまらぬ、黎翔に。

李順は、にっこりと、微笑んだ。











暁闇。


「_________いくぞ。」


狼陛下の声が、地を這うように兵士達に届き。

粛々と、白陽軍は陣を構える。


眼下に見える、黄繍軍と、朱軍。

あきらかに手を抜いた構えの朱軍にも劣る、黄繍の軍備に。

浩大は必死に笑いを噛み殺した。





______________馬鹿な奴ら。


心底、そう思う。


身の程を、知れよ。

黄繍の王様も、朱の王様も、さ。


狼陛下を、分かってねえ。


おい、朱の王様。

李順さんと約定を交わして、安心してねえか?


破るためにあるんだろ?

「約定」なんてさ。


ばっかじゃねえの?



それから、黄繍の王様。


あんた、もうダメだぜ?

最悪の死に方を、想像しろ。

その上を行ってやるよ。


楽しみだな。



_____________さあ、覚悟は、いいか?



浩大の笑みが、深まった。






李順と朱国王・珠昌の交わした「約定」。

『黄繍の背後を、朱が衝く。』

その約定が果たされる暇も、無く。


白陽国軍は、黄繍と朱を飲み込み、噛み砕いた。


__________まるで、飢えた狼が久々の獲物を貪るかの様に。










日も高くなった頃、黄繍国王はその惨めな骸を晒し。

朱国王は_________まだ、生きていた。



「・・・久しぶりだな、珠昌殿。」


跪き、悔しげに顔を歪める珠昌は、叫ぶ。


「卑怯者!約定は、約定は、どうした!!」


にやりと笑い、振り返り。

黎翔は李順を見やる。


「・・・・李順。約定とは、なんだ?」

「さあ、なんの事でしょうか・・・私にも、さっぱり。」


青ざめた珠昌が、李順を睨みつけ。


「忘れたとは、言わさぬぞ!!あれほど_________っ!!」


叫んだ、瞬間。

珠昌の口内に、黎翔の剣が滑り込んだ。


「_________っ!!」


ガタガタと震え出した珠昌を冷たく見下ろし、黎翔は剣を引き抜き。

口の端から血を流す珠昌の耳に、剣を当て。

ゆっくりと、引く。

流れる血と、苦悶の声に。

笑みを深めた、狼陛下は。


「・・・私のものに、二度と、触れるな。」


低い声で、囁き。


珠昌は必死に頷きながら、己の愚かさを呪った。




2013_09
23
(Mon)18:42

護花 9

こんばんは。
あさ、です。

怒涛の三連休でした。
楽しかったです。


「護花」。本編はこれで最終話です。
おまけとか、増えていく予定です。


お付き合い頂き、ありがとうございました!






【設定・未来・夕鈴正妃です。】
「漆黒」の続編となります。】
【捏造の塊です。東西の国々等を捏造しまくっております。】
【オリキャラ出ます。】



《護花 9》





白陽国軍に占拠された朱国の王宮では。

戦の後片付けが行われていた。


「・・・・珠昌殿。玉印を。」

「・・・・・ああ。」


玉璽を手に取った朱国王・珠昌の。

辛うじて保たれている正気が、その手を震わせる。


「___________何を躊躇う事が?」


微笑を湛えて押印を促す、李順に。

珠昌は縋るような目を向け。

震える手を、伸ばす。


「李、順・・・・すまなかった・・・・頼む・・・謝罪を、謝罪をする、から・・・」


這うように、跪き。

李順の衣装の裾を掴み、必死に手繰り寄せ。

ガタガタと震えながら、立ったままの李順の両脚を抱きかかえる様に、縋りつく。


「珠昌殿、お止め下さい。」


李順の眉が、不愉快そうに顰められた時。


「______________触れるな、と・・・・申したはずだが?」


カツン。

硬質な靴音を響かせ、朱国・玉座の間に現れた黎翔の冷たい怒気が。

背筋を凍らせるような、低い声音が。

珠昌の最後の気力を奪い取った。




「____________これで宜しいかと。」


政務室にいるときと全く同じ調子で、李順は書面を確認し。

黎翔は玉座にゆったりと腰掛け、「そうか」と短く答え。

朱国は、白陽国の属国と化した。










白陽国・王宮。


「おはようございます、皆さん。今日も宜しくお願いしますね。」


今朝も恙無く始まる、朝議。

大臣達は笑みを浮かべてそれぞれの奏上をし。

正妃は穏やかにそれらに耳を傾け、率直に質問をし、議論を重ね。


「__________畏れながら、正妃様・・・・」

「なんでしょう?氾大臣。」


「正妃様、先日の水害の件で・・・」

「はい、柳大臣。」


流れるように政務は進み、刻限通りに王宮の一日が過ぎてゆく。





「正妃様。」

「あ・・・・周宰相。」


昼過ぎ。

池の畔の四阿で茶を淹れようとしていた夕鈴は、慌てて茶器を隠した。


「陛下へのお茶にございますか?」


表情も変えずにさらりと言い当てられ、赤面した夕鈴は、こくりと頷き。


「・・・私がして差し上げられる事は、これくらいしかありませんから・・・」


宰相に茶を勧めた。


「____________良い香りの花茶にございますな、正妃様。」


四阿の内には入らず、周宰相は、立ったまま。

漂う茶の香りを楽しむ。


「・・・・周宰相?お茶が冷めて・・・」


「正妃様。お気持ちは大変にありがたく・・・・私も、今少し命が惜しいもので・・・」


「え?」


「束の間の『春』にございましたな・・・・」


「え?え?」



西から吹く、強くて清々しい風が。

夕鈴の髪を撫でる様ににすり抜けた。










王都が、近づく。

陽を反射する王宮の甍が温かい光を放つ様が目に映り。

兵士達の間から、押さえきれぬ喜びの声が上がる。



__________夕鈴。


今すぐ馬を疾駆させたい衝動を押さえ込み。

黎翔は自分を迎えてくれるであろう妻の姿を思い浮かべた。


無事、だろうか。

翠の隠密に占拠された後宮で。

君の身に何が起こったのか。


最悪の想像が頭をよぎる。


老師の事だ。

忌まわしい記憶を夕鈴に残すような失敗はしないだろう。


恐らく、全ては闇の中。

君が深い眠りにいるうちに___________



薔薇のような頬と。

闇の中で白く輝く肌と。

甘い寝息。

緩やかに上下する柔らかな胸。


『夕鈴様』


聞こえぬはずのあの男の声が、脳内に響き渡る。


『・・・夕鈴様』


あの男の手が君に伸ばされる光景が脳裏に浮かぶ。




頼む。

夕鈴。


無事でいてくれ。



黎翔は祈る様に、じっと王宮を見つめた。













陛下が、帰ってくる。

徐々に近づいて来る、軍旗と。

遠目にもそれと分かる、夫の姿。



陛下。

何も出来なくて、ごめんなさい。

私、これでも頑張ったんですよ?

少しでもお役に立ちたかったから。


「私のせいで」なんて、もう、言わない。


そう決めたから。

だって、私は。

『狼陛下の花嫁』だから。



貴方に護ってもらうだけなんて__________嫌だから。









「今、帰った。」


王宮の大門を潜り抜け。

黎翔は愛しい后にゆっくりと歩み寄る。


「お帰りなさいませ、陛下。」


宮殿の階を降り。

夕鈴は逸る心を押さえ込んで、足を運ぶ。




跪き礼をとる、宰相が。

大臣達が。

穏やかな笑顔で、正妃を見守り。

心からの敬意を示す。


_____________夕鈴、凄い。手懐けた・・・



黎翔が嘆息した時。





「陛下・・・・陛下・・・・っ!!」


堪えきれなくなった夕鈴が、走り出した。



君の頬に涙が伝うのが、見える。

長い裳裾に足を取られそうになりながら、必死に走ってくるのが、見える。

君を見守る臣下達の眼差しの温かさを、感じる。



僕の留守中、後宮で。

君の身に何が起こったのかなんて、もう知らなくてもいい。


何があろうが、君は僕の唯一の花で。

かけがえのない、この国の正妃。



ただ護られるだけの花じゃ、ない。


この国を。

僕を。

全てを護る、神聖なる花。


春を呼ぶ、優しい、守護の花。

僕の、私の。

__________護花。
2013_09
24
(Tue)16:44

護花 禊 表

【設定・未来・夕鈴正妃です。】
【「漆黒」の続編となります。】
【捏造の塊です。東西の国々等を捏造しまくっております。】
【オリキャラ出ます。】



《護花 禊》



白陽国に戻った、日常。


吹き荒ぶ極寒の、冷気。

それは王宮の季節を春から冬に変え。

大臣達は過ぎ去った春を懐かしんでいた。


そんな、ある日の朝。



李順が、倒れた。






「・・・・李順さん・・・・」


夕鈴は、その衰え様に驚愕する。

一回り細くなった身体。

生気の無い頬と、落ち窪んだ目。

指まで細くなってしまったかつての上司の額に浮かぶ汗の量は、尋常ではなく。

傍らで脈を測る老師の顔は、真剣だ。

そんな二人の背後で。

黎翔は苦渋に満ちた表情で側近を見つめていた。












『___________このままでは、死にますぞ?』

診察を終えた張元の言葉が、胸に刺さる。


『__________え?老師、今、なんて・・・』

蒼白になった夕鈴の顔が浮かぶ。



知っていた。

気づいていた。

そして。


甘えて、いた。





『__________命ある限り、お仕え申し上げます。』


生まれて、初めて。

父と母以外の人間を、素直に信じられた、あの日。


『名は?』

『李順、と申します。』


父王と母が信頼する乳母の、息子。

三つ年上の、すらりとした姿の大人びた少年。



『殿下、それは我儘と言う物です。』

『うるさい、李順。黙れ。』

『黙りません。それでは殿下の為になりません。』

『・・・・ちっ。』

『・・・・何か?』

『・・・っ!何でもない!』



______________私の、せいだ。



『ですから!殿下は真っ直ぐ走って下さいっ!』

『やだ。』

『お黙り下さいっ!足手纏いだ、と、申し上げているんですっ!!』

『っ!』


私の衣装を奪い取り、自分に着せ掛けて。

降り注ぐ矢の隙間を縫う様に駆け抜けて。

私の身代わりになって、何度も死にかけた。


『お上手になられましたね。』

初めて剣で打ち負かしたときの、嬉しそうな顔。


『_________っ!この程度の毒で、死ぬおつもりですか?!』

自分の方が死にそうなのに、僕に解毒剤を飲ませた時も。


『・・・・・自ら望んだこと、ですので・・・どうか、陛下・・・』

珠昌の元に自ら赴いた時も。


___________甘えて、いた。



「・・・・く、うっ・・・・」


堪えきれぬ呻き声と共に。

黎翔は、顔を覆った。












「身体ではなく、心の問題じゃな。」


老師は難しい顔で話し始めた。


「・・・心?」

「そうじゃ。女官に尋ねたところ、凱旋してより此の方、一度も帰邸していないらしい。」

「え?!帰って来られてから、もう一月近く経ちますよ?!」

「・・・じゃな。おまけに、日に日に食が細くなり、寝台を使った形跡もないらしい。」

「・・・どう、して?」

「戦地で何か強い衝撃を受けたのじゃろう。・・・ままあること、じゃ。」


張元は黙り込み。

夕鈴は唇を噛み締め、寝台に横たわる李順を見つめ。

ぱっと、立ち上がった。









_____________拭えない。


いくら拭っても拭いきれぬ、『穢れ』。


芙蓉。


お前に、会いたいのに。

この身に染み付いた穢れが、それを阻む。



『お兄様』


芙蓉。


『どうして、こんな・・・・』


するりと滑る様に、懐かしい手が頬をなぞる。


「・・・触れては・・・なりません・・・・」


芙蓉。

お前に触れさせるわけには、いかない。


「穢れ、ます・・・」


目が、開かない。

手も、動かない。


一体、いつの間に、これほど弱っていたのか。

自嘲する。



ガタン、と軽い衝撃が身体に響き。

揺れるような感覚と共に、空気が変ったのを感じた。



焚き染められた、香は。

求めて止まぬ、妻の香り。


ゆっくりと身体を拭う手は。

夢にまで見た、妻の温もり。


「__________お帰りなさいませ、お兄様。」


求め続けた、懐かしい声音に。

李順は、深く息を吐いて。

安らかな眠りに、落ち。


芙蓉は祈るように、その身を清め続けた。




夕刻。


李家の庭に、人影は無く。

ただ気配だけが、満ちる



夫の身体に未だに残る傷跡が、脳裏に甦り。

芙蓉は。

生まれて初めて、心の底からの憎悪を感じた。



自分にこんな感情があったとは。

冷たく冴え渡った微笑が清らかな頬に浮かぶ。

邸内に満ちる、『手足』の気配が。

抑えきれぬ、怒りが。

芙蓉を満たし。



李家の本気が、牙を剥く。






その夜の、月明かりは。

眩しいほどで。

その白さは、怖いほどで。

冷たく清らかに、世界を照らした。



身じろぎもせずに月を仰いでいた、黎翔は。

僅かに変った空気に、目を細め。

懐かしい記憶を手繰り寄せる。

北での、生き残るための日々の記憶。

憶えのある隠密の気配。


「・・・終わったか?」

「はい。」


短いやり取りが、交わされ。



翌日。

朱国王の死去が、白陽国内に知らされた。
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。